段差なき館

電柱サンダー

文字の大きさ
5 / 11
2章

3階

しおりを挟む
ふと気がつくと、展示されている絵が変わっていた。

壁の配置も、床の模様も、天井の形も先ほどとまったく同じだった。
だが、そこに掛かっている絵画のすべてが――たった今まで見ていたものとは違っていた。

「……また、変わったのか」

佐々木は、ほんのわずかに震える声で呟いた。

壁の一枚一枚を確認していく。
朝比奈の絵であることには変わりない。
だが、それはさきほどの並び順で意味を結んでいた作品群とは異なる“新たな系列”だった。

色調が深まっている。
構図がわずかに狂い、影が長く、人物たちの表情に翳りが差している。
さっきまでの「始まり」から、「何かの進行」へと移っているような印象だった。

展示空間そのものに変化はなかった。
階段もなく、扉もなかった。
それなのに、まるで無意識のうちに三階に移動したかのようだった。

決定的だったのは、光だった。
床に差し込む光の角度が、明らかに高い。
一階や二階にいた時の、差し込むような斜光ではない。
この高さは、建物の上層――三階、あるいはもっと上から注がれるものであるはずだった。

そして、何よりも不可解だったのは――

足元に、再び招待状が落ちていたことだ。

ほんの数分前、たしかに姿を消していたはずのあの封筒が、今、佐々木の足元に音もなく戻っていた。

佐々木は無言でそれを拾い上げた。
紙の手触りに変化はない。
裏返すと、例の幾何学模様のデザイン――その中心に、前とは異なる色の封蝋の紋章が、はっきりと押されていた。

オレンジ色。

先ほどの赤とは異なる、やや柔らかく、けれども異質な色合い。
日差しの色とも、炎の色ともつかない曖昧なオレンジが、鈍く光っていた。

スタンプラリーのような裏面に、二つ目の印が追加されていた。

佐々木は、右手に招待状を持ったまま、しばらくそれを凝視していた。
言いようのない焦燥と、ゆっくりと形を成す恐怖が、胸の内を静かに満たしていく。

なぜ戻ってくる?
誰が、いつ、どこで、どうやって?

だが、問いかける相手などここにはいない。
あるのはただ、絵画と、光と、無音だけだった。

佐々木は、もう一度あたりを見回し、深く息を吐いた。

「……次は、“この部屋”を見ろ、ということか」

その言葉に応えるように、どこかで木材が軋むような微かな音が聞こえた。
彼は再び、絵画たちと向き合うことを決意し、ゆっくりと歩を進めた。

佐々木は再び、壁に掛けられた絵画たちの前に立った。

これまでの経験が、彼に次に取るべき行動を迷わせなかった。
まずは「違和感のある絵」を見つける。
この館では、正しい順序も、次の導線も――“違和感”のなかにこそ隠されている。

一見すると、どれも朝比奈の筆による傑作だった。
だが、佐々木の目は騙されなかった。
構図に歪みがあるわけではない。彩度が不自然に高いわけでもない。
それでも、わずかな紙質のざらつきや、塗料の乾き方、影の輪郭の柔らかさなどから、彼は確信を持ってそれらを“本物ではない”と見抜いた。

「……ここだな」

佐々木は無言のまま、ひとつ、またひとつと額縁に手を伸ばし、慎重に壁から取り外していった。

手元に現れる冷たい空白。
前の階層では、そこに数字が記されていた。
あの数字の順序が、彼に“真の絵の並び”を教えてくれた。

だが――今回は、何もなかった。

壁には、ただ白く無機質な面が広がっているだけだった。
「3」「1」「2」「6」……あれほど鮮やかに刻まれていた鉛筆の痕跡は、今回のどの絵の裏にも見つからなかった。

佐々木は眉をひそめた。

「……どういうことだ?」

思わず、外した絵をひっくり返して裏まで確かめてみたが、そこにも何も書かれていない。
額の縁や裏紙の内側も丁寧に確認してみたが、やはり何もない。

それどころか、壁の表面からも、あの薄い鉛筆の掠れた筆跡すらまったく見当たらなかった。

慎重に見極めて外した“偽物”に、今回は何の手がかりも存在しない。
それは、まるで――「見抜けたこと」に対する無言の拒絶のようでもあった。

佐々木は静かに立ち尽くした。

前回と同じではない。
この階層は、違うルールで構成されている。

まるで館そのものが、彼の行動を観察し、学習し、別の出題をしてきたかのように感じられた。

重く、湿った沈黙が部屋を満たしている。
外した絵を一旦床に並べ、佐々木は今度は「残された絵」に目を向けた。

先ほどと同じように、「本物」だけが並ぶ空間になったはずだった。
しかし、その中に何か、奇妙な気配がある気がしてならなかった。

そして――再び、足元に気配を感じた。

見ると、そこにはまたあの招待状が落ちていた。
まるで何事もなかったかのように、封をされたまま静かに佇んでいた。

佐々木は拾い上げて、そっと裏を返す。

そこには、オレンジ色の封蝋と同じ紋章が、濃く押し直されていた。
赤のスタンプの横に、2つ目のスタンプが並んでいる。
まるで誰かが、着実に彼の行動を記録しているかのようだった。

佐々木は息をのんだ。
これは、明らかに誘導だ。

「次は……どうやって、“見ろ”というつもりだ……?」

静かな問いかけが空気に溶け、しかし返事はどこからも返ってこなかった。

佐々木は椅子を求めて部屋を見回したが、やはりそんな都合のよいものはどこにもなかった。
仕方なく、壁際に立ったまま、ポケットからノートを取り出した。
表紙の角は幾度となく折れ曲がり、黒いカバーには指の脂と埃が染みついている。

ペンのノック音が、無音の空間に小さく響いた。
次の瞬間、彼の眼差しは一つ目の絵に向けられていた。

それは、夏の海を描いた作品だった。
波は静かに引いていく瞬間を捉えており、太陽はまだ高く、海面にきらきらと金の斑点を浮かべている。
砂浜の中央には、貝殻を拾う子どもがひとり。
顔は描かれていないのに、なぜか笑っているように思える。
佐々木はその光の表現に驚嘆しながら、こう記した。

「砂の粒子のひとつひとつに至るまで緻密。光源が高く、正午近くか。輪郭を強調せずにここまで陽射しを描くとは……やはり彼の光の捉え方は狂気の域だ。」

次は、森を抜ける小道の絵。
木々は青緑に沈み、空気は湿り、絵の中にさえ匂いを感じさせる。

「空気の密度をここまで感じさせる絵を、他に私は知らない。左右対称をわずかに崩し、視線を強制的に奥へと導いている。技術的にも美術史的にも一級品。」

次に見たのは、薄明かりの中で佇む老女の肖像だった。
背筋を伸ばし、うっすらと笑っているが、その瞳にはどこか諦念のようなものが宿っていた。

「顔の皺ではなく、眼の焦点で年齢と人生を描いている。陰影の処理がわざとらしくない。モデルが誰であったか、朝比奈本人しか知らないだろうが、これは実在していた目だ。」

……そんな調子で佐々木は順番の確信もないまま、目の前の絵を、時系列的な連続性を想定しながら見ていった。
淡い春、濃密な夏、物憂げな秋、沈黙の冬。
いくつかの風景と人物が、移ろう季節とともに語られていた。

だが――

すべてを見終えた時、佐々木はわずかに顔をしかめた。

確かにどれも本物だった。技術も魂も宿っていた。
だが、なぜだろう。前階層で得たような“手応え”がない。
一枚一枚は非の打ち所がないのに、全体として何かが足りない。

「……違う。これでは、まだ“正解”じゃない……」

小さく呟き、ペン先を止めた。

ノートを閉じて、彼は床に目を向けた。
そこには、さきほど「偽物」として取り外した絵が並んでいる。
それぞれを順に眺めていく。

模写としては極めて高い完成度。
だがやはり、どこかが違う。
視線の導線、人物の立ち方、光の混ざり方――いずれも、朝比奈の筆致ではない。

佐々木は、その中の一枚の前で足を止めた。

「あれ……?」

今までと違う何かが視界に引っかかった。

その一枚の絵を見つめたとき、佐々木の中で小さな違和感が芽を出した。
理由はすぐにはわからなかったが、無視できる感覚ではなかった。

絵に近づき、慎重にしゃがみ込む。
額縁と紙の端に視線を落とすと、ようやくその原因に思い当たる。

「……ああ、そうか。大きさが……合っていない」

絵そのもののサイズが、わずかに額縁と一致していなかった。
ほんの数ミリ。下部にやや広めの余白ができている。
初見では気づかないような微細なズレだが、佐々木の目はそうした狂いに非常に敏感だった。

この紙は、朝比奈の絵にしては珍しく、寸法が微妙に不自然なのだ。

その瞬間、彼の中でひとつの疑念が浮かんだ。

他の“偽物”も……同じではないか?

佐々木はすぐに他の床に並んだ絵に目を向けた。
一枚ずつ、端にしゃがみ込み、視線を走らせる。

そして確信する。

「全部だ……全部、少しずつ、サイズが違う」

上下がわずかにずれているもの。
左右の余白が微妙に不均等なもの。
紙そのものが額に対して少しだけ歪んでいるもの。

どれも、きわめて精巧に描かれてはいる。
遠目には完璧な模写に見える。
しかし、どの絵も寸法が額にぴったりとは合っていなかった。

意図的にわずかに縮小されたのか、紙そのものが異なる規格なのか、あるいは印刷であればスキャン時の誤差か――
いずれにせよ、額縁に対して不自然な“遊び”が存在している。

佐々木は一枚の絵を両手で持ち上げた。
まるで額の中の絵を抜き取るように、慎重に。

すると、絵の裏面には何の印もない。
だが、彼の目には、こうした**形のズレこそが“本物と偽物の最も本質的な差”**だと映った。

「なるほど……お前たちは、入れ物に合わせるしかなかった、ということか」

ぼそりと独りごちる。
その声は、不思議と絵たちに聞かせるような口調だった。

佐々木は目を細め、床にずらりと並んだ“偽物”の絵を再び見回した。
それぞれのわずかなズレ。その傾向や、ずれ方のパターンを確認しようとする。
すると、そのズレに法則性があるような気がしてきた。

「……これは順路ではない。測量だ」

絵のサイズの誤差が、何かの図形――あるいは空間的な指示になっているのではないか。
そんな新たな仮説が、佐々木の中に浮かび上がっていく。

佐々木は、ずらりと床に並べられた“偽物”の絵を一つひとつ見直していた。
それぞれの額と絵の紙の間に生じている、微妙な隙間――それが、なぜか不規則であるように見えながら、ある種の対称性を含んでいることに気がついた。

たとえば、ある絵は下部に5ミリの余白があり、別の絵は上部に同じだけの隙間がある。
また、左側に2ミリずれた絵と、右側に2ミリ寄った絵。
ずれの方向と大きさが一致している。

「……これは、対になっている」

佐々木はすぐに、すべての“偽物”をずれ方によって分類し始めた。
精密に見ると、それぞれの絵には対になる“補完関係”がある。
空間的な歪みのようなものを、互いに埋め合うようなペア構造。

8枚の絵。4組のペア。

「こんなこと……偶然でなるわけがない」

佐々木は、その“ペア”の組み合わせに従って絵を並べ直した。
ただ額を並べるだけでなく、今回は一歩踏み込んで額縁から絵を取り出してみる。

絵の裏面は、これまで何も書かれていないと思っていた。
だが――

「……ある」

そこには、小さく、鉛筆で題名のようなものが記されていた。

1組目:「ヒカリ」/「ダメ」
2組目:「ヨル」/「ダケ」
3組目:「アケルナ」/「マド」
4組目:「ミルナ」/「テ」

佐々木はメモを見ながら、唇を噛んだ。

「光、だめ……夜、だけ……開けるな、窓……見るな、手……?」

ひとつひとつの言葉は短い。しかし、それぞれのペアを繋げて読むと意味が立ち上がってくる。

 ヒカリ/ダメ →「ヒカリダメ」
 ヨル/ダケ  →「ヨルダケ」
 アケルナ/マド→「マドアケルナ」
 ミルナ/テ  →「テミルナ」

佐々木は声に出さず、それらを頭の中で並べ替えていった。
指先が無意識に震えているのに気づく。

「……これは、“この部屋での行動指針”……いや、“制約”か……?」

彼はそう考えながら、ゆっくりとまとめるようにノートに記した。

ヒカリダメ
ヨルダケ
マドアケルナ
テミルナ

“光はダメ、夜だけ”
“窓を開けるな”
“手を見るな”

絵の構成だけでなく、題名にまでこのような行動への指示や制限が仕込まれているとは思いもよらなかった。
それはまるで、この「段差なき館」が意思を持って佐々木を導こうとしているようだった。

「……ならば、“ヒカリダメ”に従うなら……」

佐々木は昼間の光を強く描いた絵に目を向けた。
そのひとつは、夏の浜辺を明るく照らす太陽の絵。
もうひとつは、午後の校庭で遊ぶ子どもたちが描かれていた。

「これだな」

彼は慎重に、浜辺の絵に手を伸ばした。

額を外し、壁からゆっくりと引き離す。
その瞬間、部屋全体がわずかに“呼吸”したような感覚があった。

絵を取り外した壁の裏には何も書かれていなかった。
しかし空気が、微かに変わった気がした。光の温度、空間の湿度、床を伝わる感触――
それらが、わずかに夜へと傾いたように感じられた。

佐々木は次に、もう一枚の「昼」を描いた絵――午後の校庭の絵にも手をかけた。
それを外すと、絵の裏にはなにもなかったが、空間はさらに静寂を深めた。

「マドアケルナ」
「テミルナ」

ノートに記されたその言葉を、佐々木はもう一度読み返した。
今までは、自分の行動への“制約”だと思い込んでいた。だが、もしそれも違っていたとしたら?

「いや……これも“絵”に対するものだったのか」

そう考えながら、佐々木は展示されている“本物”の絵をもう一度見渡した。

その中に、窓を大きく開けて外の風を取り込む室内の絵があった。
白いカーテンが風にふわりと舞い、花瓶の水面が揺れている。
絵の中に描かれた空気の流れが、まるでこの部屋にも吹き込んできそうな錯覚すら与えていた。

そして、もう一枚。
三人の子どもが、じゃんけんをしている光景。
特に中央の子の“手”が異様に丁寧に描かれている。
指先のしわ、手の甲に浮かぶ血管、その一つひとつが過剰なほど写実的だった。

佐々木は確信する。
「マドアケルナ」は“開いた窓の絵”を、
「テミルナ」は“手の強調された絵”を、
それぞれ指していたのだと。

「暗号じゃなかった。指示じゃなかった。
 これは、鍵だったんだ……絵そのものを指す、名札だったんだ」

佐々木は静かに、まずは窓の絵に手を伸ばした。
額縁を外し、壁から慎重に剥がす。
そして次に、じゃんけんの絵も取り外す。

すると――

館が、息を潜めた。

何の機械音もなかった。
軋む音も、振動も。何も。

ただ、次の瞬間。
展示された残りの絵がすべて、静かに上下逆になっていた。

ごく自然に。
最初からそう掲示されていたかのように。
誰も動かしていないのに、全ての絵が天地を反転させている。

佐々木は絶句した。
喉が動いたが、声は出なかった。

数秒後、彼は重たい足取りでその絵のひとつに近づき、しゃがみ込んだ。
上下が逆になった絵は、まったく異なる印象を与えていた。

「……すべての意味が……変わっている」

夕暮れの影だと思っていた黒い形は、逆さになることで人物の影となり、
波だと思っていたうねりは、反転することで天井から垂れ下がる布のようなものへと変わる。

佐々木は再びノートを取り出し、
一枚一枚の評価を書き直していく。

語彙に迷うこともあった。
今までの評価軸が通用しない何かが、この絵にはある。
それでも、ひとつひとつ丁寧に、丁寧に。

すべてを書き終え、ノートを閉じたその瞬間だった。

ふと横を見た佐々木の目に、異変が映った。

さっきまで手元に置いていたはずの招待状が、またしても消えていた。

テーブルの上にも、床にも、椅子の隙間にも――どこにもない。

その不在が、次の何かの“合図”であることを、佐々木は直感した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

こじらせ女子の恋愛事情

あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26) そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26) いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。 なんて自らまたこじらせる残念な私。 「俺はずっと好きだけど?」 「仁科の返事を待ってるんだよね」 宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。 これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。 ******************* この作品は、他のサイトにも掲載しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...