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闘技大会の街 コロセウム
第25話 守る力
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用を足し、慌ててリオンを追った僕が見たのはとんでもない光景だった。
逃げ惑う観客、必死に応戦する参加者たち。
そして襲いかかっているのは無数の鳥型の魔物、人食い鳥だ。
しかし、確かに危険な魔物であるもののそれほど強い生物ではない。
闘技大会に出るような腕に自信のある人にとってはさほど苦労しないと思うのだが……。
「なんだこれ……」
ただ今回はその数が尋常ではなかった。
赤い目をギラギラさせて、次々に襲いかかるそれは、空を覆い尽くさんばかりに羽ばたいている。
「リヒトさん! どこ行ってたんですか! 」
声をかけてきたのはあのイケメン魔法使いのマリウスだった。しかしその表情に余裕はなく、玉のような汗がびっしりと張り付いている。
「ど、どうなってるんだ!? これは」
「分かんないですよ……突然この魔物の群れが襲い掛かってきて辺りは滅茶苦茶です」
なるほど、確かに辺りには血が飛び散り、焼け焦げたような臭いが鼻をつく。
そして会話をしている間にも人食い鳥は僕たちめがけて弾丸のように飛んでくる。
「話をしている暇はありません、リヒトさんも加勢して下さい」
「分かった。そ、そうだ。小さい女の子を見なかったか? フードを被った子なんだが……」
「女の子? ……あ、そういえば奥の方に走っていったような」
「そうかありがとう! 」
「ちょ、ちょっとリヒトさーん!!! 置いてかないで下さいよー!! 」
頑張れマリウス。君ならここは一人で大丈夫だ。
リオンが気になって仕方がない僕は大慌てで彼女を探し始めたのだった。
◇◇◇
度々襲い掛かってくる人食い鳥どもを蹴散らすと、一際大きい個体がいるのが見えた。他のと比べても羽毛は血のように赤く染まり、額の辺りにはもう一つ爛々と光る目が獲物を見据えていた。
そしてその獲物は……。
「リオン……!!! 」
巨鳥の目の前にへたり込んでいるリオンと、それを庇うように大きな盾を掲げている誰か。
「ノア……!! 」
僕に気がついたリオンが珍しく慌てたように声を荒げた。
「エリザベスさんが……! 私を庇って……」
その盾を掲げている人物とはエリザベスだった。
死神貴族の大盾、確かにその守備力が並みの盾よりも優れているだろう。
しかし、呪いを受けてひどく意識が朦朧としている。
「エリザベス!! 」
僕は慌てて彼女の体を支える。
それに気付いてか、エリザベスはうわ言のようにこう呟いた。
「私は……カーチィス家の誇り高き騎士……少女一人守れなくて……何が騎士だ……」
「もう大丈夫だ! リオンは無事だし、助けに来たんだ。だから盾を放すんだ! 」
しかし彼女はその大盾を離そうとしない。よく見ると持ち手の部分から黒々とした闇が広がり彼女の腕を浸食しつつあった。
これが何なのかは僕には分からないが、少なくとも良いことは起こらなそうである。
「エリザベス!! 盾を放せ!! 」
「お父様……お母様……私は……立派な騎士になって……… 」
もう僕の声は届いていないようだ。まるで大盾に取り付かれたようにがっちりと掴んで放さない。
おそらくこれがこの盾の呪いの効果なのかもしれない、一度触れた者を死ぬまで離さない呪い。
こうしている間にも巨鳥は獲物を仕留めようと間合いを詰めていた。しかし呪いを恐れてか飛びかかっては来ない。
やむを得ないと思った僕は意を決してエリザベスの手を包むように大盾の持ち手に手をかけた。
その途端、確かに僕のものではない不思議な記憶がまるでフラッシュのようにぱっと浮かび上がった。
「オークレイ……!! 死なないで……」
泣き叫ぶ一人の少女。
「……様。貴女だけでも生き延びて下さいませ」
「嫌だ嫌だ……皆いなくなっちゃったら私どうやって生きていけば良いの……」
優しく少女を撫でる誰かがオークレイという名の人物だろうか。
「大丈夫、必ず我らは生まれ変わり、再び貴女と立ち向かうことを誓います」
……
「ノア!! 危ない」
リオンの声で現実に引き戻された。夢から醒めたようなふわふわとした感覚。
あれは一体誰の記憶………?
目の前を見ると巨鳥が痺れを切らしたのか炎の魔法を撃とうと力を溜めている最中だった。
この盾はあれだけの魔法に耐えきれるだろうか……? そんな不安が胸を掠めたそのとき、ぱあっと大盾が光り輝き始めた。
「何だ……!? 」
死神貴族の大盾、おどろおどろしい死神が描かれた盾の絵柄がみるみる内に一匹の龍に変わっていく。
くすんだ灰色だったそれは輝く金色の見事な盾へと姿を変えた。
「何だこれ……」
僕は思わず呟いた。
呪いの装備品が別の装備品に変わるなんて聞いたこともない。
風を切る音がして火の玉が盾に直撃した。しかし、それは盾に傷一つつけること出来ない。
それどころか盾に跳ね返された魔法は詠唱者目掛けて飛んでいった。
「凄い……!」
魔法すら跳ね返す規格外の盾。
燃え盛る火炎と灰に包まれる巨鳥がけたたましく鳴いた。
今しかない、そう確信した僕は勢いよく巨鳥に斬撃を浴びせる。
ーーそうして巨鳥はそのまま動かなくなった。
逃げ惑う観客、必死に応戦する参加者たち。
そして襲いかかっているのは無数の鳥型の魔物、人食い鳥だ。
しかし、確かに危険な魔物であるもののそれほど強い生物ではない。
闘技大会に出るような腕に自信のある人にとってはさほど苦労しないと思うのだが……。
「なんだこれ……」
ただ今回はその数が尋常ではなかった。
赤い目をギラギラさせて、次々に襲いかかるそれは、空を覆い尽くさんばかりに羽ばたいている。
「リヒトさん! どこ行ってたんですか! 」
声をかけてきたのはあのイケメン魔法使いのマリウスだった。しかしその表情に余裕はなく、玉のような汗がびっしりと張り付いている。
「ど、どうなってるんだ!? これは」
「分かんないですよ……突然この魔物の群れが襲い掛かってきて辺りは滅茶苦茶です」
なるほど、確かに辺りには血が飛び散り、焼け焦げたような臭いが鼻をつく。
そして会話をしている間にも人食い鳥は僕たちめがけて弾丸のように飛んでくる。
「話をしている暇はありません、リヒトさんも加勢して下さい」
「分かった。そ、そうだ。小さい女の子を見なかったか? フードを被った子なんだが……」
「女の子? ……あ、そういえば奥の方に走っていったような」
「そうかありがとう! 」
「ちょ、ちょっとリヒトさーん!!! 置いてかないで下さいよー!! 」
頑張れマリウス。君ならここは一人で大丈夫だ。
リオンが気になって仕方がない僕は大慌てで彼女を探し始めたのだった。
◇◇◇
度々襲い掛かってくる人食い鳥どもを蹴散らすと、一際大きい個体がいるのが見えた。他のと比べても羽毛は血のように赤く染まり、額の辺りにはもう一つ爛々と光る目が獲物を見据えていた。
そしてその獲物は……。
「リオン……!!! 」
巨鳥の目の前にへたり込んでいるリオンと、それを庇うように大きな盾を掲げている誰か。
「ノア……!! 」
僕に気がついたリオンが珍しく慌てたように声を荒げた。
「エリザベスさんが……! 私を庇って……」
その盾を掲げている人物とはエリザベスだった。
死神貴族の大盾、確かにその守備力が並みの盾よりも優れているだろう。
しかし、呪いを受けてひどく意識が朦朧としている。
「エリザベス!! 」
僕は慌てて彼女の体を支える。
それに気付いてか、エリザベスはうわ言のようにこう呟いた。
「私は……カーチィス家の誇り高き騎士……少女一人守れなくて……何が騎士だ……」
「もう大丈夫だ! リオンは無事だし、助けに来たんだ。だから盾を放すんだ! 」
しかし彼女はその大盾を離そうとしない。よく見ると持ち手の部分から黒々とした闇が広がり彼女の腕を浸食しつつあった。
これが何なのかは僕には分からないが、少なくとも良いことは起こらなそうである。
「エリザベス!! 盾を放せ!! 」
「お父様……お母様……私は……立派な騎士になって……… 」
もう僕の声は届いていないようだ。まるで大盾に取り付かれたようにがっちりと掴んで放さない。
おそらくこれがこの盾の呪いの効果なのかもしれない、一度触れた者を死ぬまで離さない呪い。
こうしている間にも巨鳥は獲物を仕留めようと間合いを詰めていた。しかし呪いを恐れてか飛びかかっては来ない。
やむを得ないと思った僕は意を決してエリザベスの手を包むように大盾の持ち手に手をかけた。
その途端、確かに僕のものではない不思議な記憶がまるでフラッシュのようにぱっと浮かび上がった。
「オークレイ……!! 死なないで……」
泣き叫ぶ一人の少女。
「……様。貴女だけでも生き延びて下さいませ」
「嫌だ嫌だ……皆いなくなっちゃったら私どうやって生きていけば良いの……」
優しく少女を撫でる誰かがオークレイという名の人物だろうか。
「大丈夫、必ず我らは生まれ変わり、再び貴女と立ち向かうことを誓います」
……
「ノア!! 危ない」
リオンの声で現実に引き戻された。夢から醒めたようなふわふわとした感覚。
あれは一体誰の記憶………?
目の前を見ると巨鳥が痺れを切らしたのか炎の魔法を撃とうと力を溜めている最中だった。
この盾はあれだけの魔法に耐えきれるだろうか……? そんな不安が胸を掠めたそのとき、ぱあっと大盾が光り輝き始めた。
「何だ……!? 」
死神貴族の大盾、おどろおどろしい死神が描かれた盾の絵柄がみるみる内に一匹の龍に変わっていく。
くすんだ灰色だったそれは輝く金色の見事な盾へと姿を変えた。
「何だこれ……」
僕は思わず呟いた。
呪いの装備品が別の装備品に変わるなんて聞いたこともない。
風を切る音がして火の玉が盾に直撃した。しかし、それは盾に傷一つつけること出来ない。
それどころか盾に跳ね返された魔法は詠唱者目掛けて飛んでいった。
「凄い……!」
魔法すら跳ね返す規格外の盾。
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