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第十六話 奪ってやる
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屋上に辿り着いた私はすぐに自分の選択を後悔してしまいました。
どうしよう、これ以上逃げ道がありません。飛び降りようにも、この高さから落ちれば無事では済まないでしょう。
すると、多数の兵士たちが濁流のように雪崩れ込んできました。
「絶対に殺すんじゃないわよ! 生け捕りにしなさい! 」
「はっ! 」
ミリア様の声を合図に、兵士たちが私に襲いかかります。
こんなところで捕まるわけにはいきません、私は心の中でごめんなさい、と謝罪すると、魔法を唱え始めました。
すると、兵士たちの足元に凍てつく氷が現れ、動きを拘束します。慌てた彼らは何とかその氷を砕こうともがきますがそう簡単にはここからは抜け出すことは出来ないのです。
「まさか……魔法? 」
驚愕した顔のミリア様を尻目に、私は必死で心の中でアルたちに呼び掛けます。
カイウスの首は取り戻しました。早く撤退しましょう! と。
しかし、依然として彼等の姿は見えないのです。
「ふん、まああんたが魔法使えるようになったからってどうなるってのよ、魔法ってのはね、こう使うのよ!! 」
ミリア様の手から放たれた火の玉が私に向かって吸い込まれていきます。しかし私はそれよりも一回り大きい火球で向かい打ちます。
「きゃっ……!! 」
爆風に吹き飛ばされたミリア様が尻餅をつきました。アルとの特訓は無駄ではなかったのです、きちんと私は魔法を使えています。
「嘘でしょ……こんなやつに負けるはずない……」
信じられないと言った表情で歯ぎしりするミリア様の頬には汗が滲み始めていました。
「ミリア様、もうこんなことはやめましょう。貴女は罪を償うべきです」
「うるさいうるさいうるさい!!! あたしに指図するな!! 」
ミリア様が打ち出した雷矢、しかしそれも私が張った魔法壁に弾かれ、煙のように消えてしまいました。
そんな様子をミリア様はまるで狐に化かされたような顔をして呆然と見ています。
「……嘘だ」
ぽつりと不意に彼女が呟きました。
「嘘だ嘘だ嘘だ!! あたしは魔法学校を主席で卒業して、勇者のパーティにも選ばれた天才なのよ!! こんな、のろまなお姫様なんかに負けるはずない……」
やけになったのか連続で魔法を私にぶつけますが、そのどれも私に傷一つつけることは出来ませんでした。
「ミリア様、私は貴女と戦うつもりはありません。貴女が罪を認め、国民にかけられている魔法を解いて償ってくれれば……」
「そういう偽善者ぶってるとこが気に入らないんだよ!! 自分だけ優しいお姫様面して、ほんとはあたしのこと、殺してやりたいと思ってるんだろ? 」
「そんなことは……」
思っていない、と言ったら嘘になるのかもしれません。
「そう言えよ!! あたしが憎いって、死んで欲しいって!! 」
「私は、そんなこと思ってません……」
絞り出した声は悲しいぐらい震えています。
ミリア様が強く舌打ちをしました。
「つまんない女! おい! 」
彼女の合図につられて、誰かが躍り出てきました。
その良く見知った顔は……。
「お父様! 」
私は思わず悲鳴をあげてしまいました。痩せ細り、瞳に光りはないもののその人は確かにお父様でした。
生きていらしたのですね、と私はほっと胸を撫で下ろしました。
しかしそんな希望もつかの間、ミリア様はお父様を羽交い締めにすると、その首にナイフを押し当てます。
「ミリア様一体何を……! 」
「もう飽きた。良い? 今からする私の攻撃を避けたらこのおじさん、殺すから」
私はえっ、と言葉に詰まります。
「"お父様"を助けたいならあんたが死になさい。簡単でしょ? ただ何もせずに耐えてれば良いんだから」
「お父様を人質に……」
そこまでの極悪人に堕ちてしまわれたのですね、と私は内心呟きました。
「うるさいうるさいうるさい!!! あたしは負けない!! あたしが一番強いんだから! 」
どうしましょう、私は必死に考えました。お父様を助け、自分も助かるそんな方法がないかと必死に脳味噌を働かせます。
アルに呼び掛けますが、彼からの返事はありません。
私が選んだ答え、それはーー。
「……分かりました」
「あ? 」
「分かりました。私が死にます。だからお父様は解放して下さい」
ニターっとミリア様が満面の笑みを浮かべるのが分かりました。
「きゃははは!! 本当に良い子ちゃんだね、イブマリーさん。あたしちょっと尊敬しちゃうかも、その馬鹿さ加減に」
何と言われたって構いません。
お母様を亡くした今、お父様までいなくなるなんて。
とてもではないけれど今の私には耐えられそうにありませんでした。
「……その代わり、お父様には酷いことしないでください。お願いします」
「ふふふふ、良いよ。あんたさえ亡き者に出来ればあたしは満足なんだから」
私は少しほっとした自分がいることに気が付きました。
そもそも私はアルベルトに出会ったあの日、死んでいたはずの人間なのですから。
「良い~~~?? 避けるんじゃないわよ。避けたらあんたのお父様は即死だからね」
ミリア様の魔力がみるみる膨れ上がっていきます。
おかしな話ですが、その暴走する魔力の中に消えてなくなれるのも悪くないかなと思っている自分がいました。
きっと向こうではお母様に会えるのでしょう。
私、たくさんお話ししたいことがあるのです。
ーーごめんなさいアルベルト。私、貴方に本当の気持ちを伝えることも出来なかった。
でも生まれ変わっても貴方と夫婦になれたら、それは幸せでしょう。
「死ね……!!! 」
ミリア様が私に向かって魔法を放ちました。まるでスローモーションのように迫ってくるそれを、私はただじっと見ていました。
「さようなら」
私は目を閉じると、彼に別れを告げたのでした。
どうしよう、これ以上逃げ道がありません。飛び降りようにも、この高さから落ちれば無事では済まないでしょう。
すると、多数の兵士たちが濁流のように雪崩れ込んできました。
「絶対に殺すんじゃないわよ! 生け捕りにしなさい! 」
「はっ! 」
ミリア様の声を合図に、兵士たちが私に襲いかかります。
こんなところで捕まるわけにはいきません、私は心の中でごめんなさい、と謝罪すると、魔法を唱え始めました。
すると、兵士たちの足元に凍てつく氷が現れ、動きを拘束します。慌てた彼らは何とかその氷を砕こうともがきますがそう簡単にはここからは抜け出すことは出来ないのです。
「まさか……魔法? 」
驚愕した顔のミリア様を尻目に、私は必死で心の中でアルたちに呼び掛けます。
カイウスの首は取り戻しました。早く撤退しましょう! と。
しかし、依然として彼等の姿は見えないのです。
「ふん、まああんたが魔法使えるようになったからってどうなるってのよ、魔法ってのはね、こう使うのよ!! 」
ミリア様の手から放たれた火の玉が私に向かって吸い込まれていきます。しかし私はそれよりも一回り大きい火球で向かい打ちます。
「きゃっ……!! 」
爆風に吹き飛ばされたミリア様が尻餅をつきました。アルとの特訓は無駄ではなかったのです、きちんと私は魔法を使えています。
「嘘でしょ……こんなやつに負けるはずない……」
信じられないと言った表情で歯ぎしりするミリア様の頬には汗が滲み始めていました。
「ミリア様、もうこんなことはやめましょう。貴女は罪を償うべきです」
「うるさいうるさいうるさい!!! あたしに指図するな!! 」
ミリア様が打ち出した雷矢、しかしそれも私が張った魔法壁に弾かれ、煙のように消えてしまいました。
そんな様子をミリア様はまるで狐に化かされたような顔をして呆然と見ています。
「……嘘だ」
ぽつりと不意に彼女が呟きました。
「嘘だ嘘だ嘘だ!! あたしは魔法学校を主席で卒業して、勇者のパーティにも選ばれた天才なのよ!! こんな、のろまなお姫様なんかに負けるはずない……」
やけになったのか連続で魔法を私にぶつけますが、そのどれも私に傷一つつけることは出来ませんでした。
「ミリア様、私は貴女と戦うつもりはありません。貴女が罪を認め、国民にかけられている魔法を解いて償ってくれれば……」
「そういう偽善者ぶってるとこが気に入らないんだよ!! 自分だけ優しいお姫様面して、ほんとはあたしのこと、殺してやりたいと思ってるんだろ? 」
「そんなことは……」
思っていない、と言ったら嘘になるのかもしれません。
「そう言えよ!! あたしが憎いって、死んで欲しいって!! 」
「私は、そんなこと思ってません……」
絞り出した声は悲しいぐらい震えています。
ミリア様が強く舌打ちをしました。
「つまんない女! おい! 」
彼女の合図につられて、誰かが躍り出てきました。
その良く見知った顔は……。
「お父様! 」
私は思わず悲鳴をあげてしまいました。痩せ細り、瞳に光りはないもののその人は確かにお父様でした。
生きていらしたのですね、と私はほっと胸を撫で下ろしました。
しかしそんな希望もつかの間、ミリア様はお父様を羽交い締めにすると、その首にナイフを押し当てます。
「ミリア様一体何を……! 」
「もう飽きた。良い? 今からする私の攻撃を避けたらこのおじさん、殺すから」
私はえっ、と言葉に詰まります。
「"お父様"を助けたいならあんたが死になさい。簡単でしょ? ただ何もせずに耐えてれば良いんだから」
「お父様を人質に……」
そこまでの極悪人に堕ちてしまわれたのですね、と私は内心呟きました。
「うるさいうるさいうるさい!!! あたしは負けない!! あたしが一番強いんだから! 」
どうしましょう、私は必死に考えました。お父様を助け、自分も助かるそんな方法がないかと必死に脳味噌を働かせます。
アルに呼び掛けますが、彼からの返事はありません。
私が選んだ答え、それはーー。
「……分かりました」
「あ? 」
「分かりました。私が死にます。だからお父様は解放して下さい」
ニターっとミリア様が満面の笑みを浮かべるのが分かりました。
「きゃははは!! 本当に良い子ちゃんだね、イブマリーさん。あたしちょっと尊敬しちゃうかも、その馬鹿さ加減に」
何と言われたって構いません。
お母様を亡くした今、お父様までいなくなるなんて。
とてもではないけれど今の私には耐えられそうにありませんでした。
「……その代わり、お父様には酷いことしないでください。お願いします」
「ふふふふ、良いよ。あんたさえ亡き者に出来ればあたしは満足なんだから」
私は少しほっとした自分がいることに気が付きました。
そもそも私はアルベルトに出会ったあの日、死んでいたはずの人間なのですから。
「良い~~~?? 避けるんじゃないわよ。避けたらあんたのお父様は即死だからね」
ミリア様の魔力がみるみる膨れ上がっていきます。
おかしな話ですが、その暴走する魔力の中に消えてなくなれるのも悪くないかなと思っている自分がいました。
きっと向こうではお母様に会えるのでしょう。
私、たくさんお話ししたいことがあるのです。
ーーごめんなさいアルベルト。私、貴方に本当の気持ちを伝えることも出来なかった。
でも生まれ変わっても貴方と夫婦になれたら、それは幸せでしょう。
「死ね……!!! 」
ミリア様が私に向かって魔法を放ちました。まるでスローモーションのように迫ってくるそれを、私はただじっと見ていました。
「さようなら」
私は目を閉じると、彼に別れを告げたのでした。
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