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悪役令嬢、迫られる
しおりを挟む3日間というのは意外と短いもので、今日はもう家に帰る日だ。
タイムリミットは夕方。ここまでにレベッカと接触し、証拠を集める必要がある。
まだ夜が明けたばかりなので時間がなくはないが、授業があることを考えると……ゆっくりしている暇はなさそうだ。
しかしあの気の強さ、しかもあらぬ誤解を受けてしまったようだし、話を聞いてくれるだろうか。
寮で一人悩みに頭を抱えていると、コツコツと窓を叩かれた。
初めは風かと思っていたのだが、連続して続くその音に不審に思った私はカーテンを開ける。
「ロキ!? 」
「よお」
窓を開けると、部屋に滑り込んできたロキ。
「こっちが片付いたから様子見に来たぜ。調子はどうだ」
「うっ……」
ロキの顔を見たら何だか安心して、涙が出てくるのが分かった。
思わずロキに抱き付くと、わんわん泣いてしまった。
「おいおい、大袈裟だな」
「も゛う゛駄゛目゛か゛と゛思゛っ゛た゛~~~」
「よく頑張ったな。安心しろ、こっちは良い調子だぞ」
抱き付く私を振り払うこともせず、ただぽんぽんと私の頭を撫でてくれた。
「ほんと? 」
私はぱっと顔をあげると、ハンカチで涙を拭き取る。
あ……ロキの服も私の涙でびしょびしょだ。ごめん。
「ほら見てみろ、これ見たら笑えるぜ」
そうしてロキがばら蒔いたのは……エミリアとエドワードのキス写真。
おまけに背景から推測するに、これは私のお屋敷の中だろう。
「あいつら、お前と屋敷の主人がいないのを良いことに好き放題やってたぜ。白昼堂々こんなことしてるなんて無防備にもほどがあるぜ」
「うわぁ……」
何枚ものキス写真に私は思わずため息を漏らした。2人ともうっとりとした表情で何度も口づけを交わしている。確かにここまで来ると笑いが溢れてくる。
「私の方は教師からの証言と、他の男子生徒に宛てた手紙ぐらいかな……」
「どういうことだ? 」
私はロキに、ここであったことを全て話した。
◇◇◇
「まじかよ」
ロキはもうずーっと笑い転げている。おかしくてたまらないといった様子で目に涙すら浮かべており、ひーひー声をあげる。
「そ、そんな面白い? 」
「ほんとすげえ女だな。同時進行で4人も攻略してるなんて」
まぁね……。でも恋愛ゲームのヒロインってこんなもんなのかもしれない。
「いやぁ、こんな面白い証拠を掴むなんて大したもんじゃん。期待以上だったぜ」
ロキは手紙を一通一通読みながら、腹を抱えて笑っている。
どうやら彼の笑いのツボに入ったらしい。
「えへへ」
褒められると素直に嬉しいので、私は照れ隠しで毛先をくるくると遊ばせる。
「で、これまで集めた証拠は盗聴、他の男への手紙、キス写真、教師の証言か」
「うん、結構集まってきたね。もう十分かな?」
いやまだ足りないとロキは首を振る。
「決定的なもんが足りない」
「決定的? 」
はぁとロキがため息を吐いた。本当に分かんねえの? とちょっと呆れてる。
そして私の耳に顔を寄せて、こう囁いた。
「×××してるとこだよ、×××してるとこ」
……年齢制限がかかりそうなのでここでは伏せさせて貰う。
まぁ男女の営み、というやつだ。
ぶわああああと顔が赤くなるのが分かった。前世でも今世でもそんな経験がない私は思わず目を泳がせてしまう。
第一、異性と手を繋いだことすらない!
「あれっ? もしかして経験ない? そんな妖艶な見た目してんのに」
「あ、あ、あ、あ、あ、あるわけないでしょ」
「ふーん」
「で、で、で、で、でも概要は分かったわ。二人のそーゆーことしてるシーンを押さえれば良いのね」
「そういうことだな。だいぶ調子にのってるからやらかしてくれると思うぞ」
「わ、わ、わ、わ、わ、分かったわ!! 帰ったら調査しましょう」
すると何かを思い付いたようにロキが笑みを浮かべた。
そしてするりと私に近付く。
「な、何? 」
「へえ、イリアは経験ないんだ。もしかしたら刺激が強くて調査中に倒れちゃうかもよ」
何だかいつもと違うロキの顔に胸がドキリと高鳴る。
「そ、そ、そ、それが何か問題あるの?」
「あるよ、もし倒れて彼らに見つかったら作戦は全てパァだ」
「う、確かに」
「だからさ。練習として俺と、どうよ? 」
「どう? ってどういうことよ、ちょっとねえロキ」
グイグイと迫るロキ。待って待って何この雰囲気。
「優しくするよ? 」
甘えたような彼の声。こんな声初めて聞いたと、私は頭がパンクしそうだ。
「いやいやいや、そういう問題じゃなくて!! 」
唇が触れそうなほど近い彼の顔。うわ、睫毛長い……ってそうじゃなくて。
私はどしんと彼を突き飛ばした。
「そ、そ、そういうのは結婚してからでお願いします!! 」
「第一浮気調査してる私たちが浮気してたら本末転倒よ! 」
一気に喋ったせいか喉がカラカラだ。
そしてぽかんとしていたロキが不意に吹き出した。
「冗談さ、あの慌てぶり……」
心底楽しそうに笑う彼。
からかいやがったなこいつ。私に負けず劣らず性格が悪い。
「からかったわね!! ロキの馬鹿! 」
「悪い悪い、でも結婚したら良いんだ? 」
「へ」
「だから、結婚したらそういうことしても怒らないってこと? 」
「まぁそうなんじゃない? 」
知らんけど。と私は心の中で付け加えた。一般的には結婚したらオッケーなんじゃないだろうか。
……というか何でそんなこと私に聞くのだろう?
「おっけ」
そう言うと、ロキは再び窓から飛び出した。
「じゃあまた明日。頑張ろうな」
「え、ちょっ……! 」
まるで空に溶けるように、彼の姿は見えなくなった。
何だか私、からかわれただけなただけな気がする……。
それに林檎みたいに赤くなった顔でレベッカを探しに行けるわけないじゃない、と鏡を見て肩を落とした。
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