凌辱カキコ

島村春穂

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凋落

四/五

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「はい、綺麗ですよ」
 と、到頭自分から区切りをつけ、多馬田臨床検査技師が丸椅子へと座る。スチールテーブルと向き合い、ひろげてある幾つかの書類にペンで書き込みを始めた。が、一応聞き耳の類はちゃんと立てているらしく、一向に身なりを整えるといったような衣擦れが聞こえてこないのが分かると、「検査終わりですから終って頂けますかあ」と、抑揚のないトーンで言う。


 この暗がりにあって、なんとも奇妙な間を埋めるかのように書類の上をペン先がさらさらと軽快に叩く。蒼甫から、返事はない。


「終って頂けますかあ」
 こんどはやや強い調子で多馬田臨床検査技師が言う。ペン先は止まっている。


 暗がりがまるっきり静寂になる。いや、いままで気に掛からなかった臨床器具の作動音がおそらくは二人の耳には聞こえていた。


 多馬田臨床検査技師の背後で衣擦れがあった。ここでペン先はようやく動き、「では、検査のほうは終わりですねぇ」と、臨床検査技師らしく態度を改める。


 ベッドが、きいきい、二、三度軋む。


「終わりですよぉ」
 多馬田臨床検査技師が振り返る。ぎょっ! と目玉が暗がりに浮かび上がる。そのまま目を外せなくなる多馬田臨床検査技師。いま彼女が目撃したものとは、なんと! 全裸となり果て、いうなれば、往年のプロレスラー・力道山のあの有名な白黒写真のように、左右それぞれの拳を腰に宛てる恰好でベッドに仁王立ちする蒼甫の姿である。


「……まだべたべたするよぉ……」
 多馬田臨床検査技師は、我の目を疑うばかりか、耳すらも疑うように、「はっ、はいっ?……」と弱音をあげる。


「……だからぁ、ここがべたべたするっていってんだろぉ」
 多馬田臨床検査技師が見たこことは、暗がりに浮かびあがる不気味な屹立である。その全貌を現した屹立は、輪郭だけでもごつごつしたのがよく分かり、しかも並外れてでかく、また太く、如何にも固そうに天井にそびえている。蒼甫は、腰に拳を宛てたままである。


「……わかったなら、清めてくれぇ……」
 暗がりに浮かぶ、蒼甫の異常な双眸。多馬田臨床検査技師は口もとを両手で覆った。「早くしろ、こらっ」と、蒼甫から追い打ちが掛かる。その時である。ん? と蒼甫が気づく。


「おやおや……」
 と、ほくそ笑む。


 多馬田臨床検査技師がしょんべんを洩らしている。「あーあ、みっともない」と声音を使い罵倒をすれば、事もあろうか、しょんべんの勢いが増した。白衣の股ぐらから、ぼたぼたである。泣いているようであった。鼻を啜るのが聞こえる。しかも随分しょんべんを溜めていたようでまだ垂れ流している。蒼甫がその様をただ眺めてやるだけで、多馬田臨床検査技師は前屈んで尻を突き出し、内股に向いた膝が内外へと振るえあがり、両手で口を覆い隠し洩らしているのだ。


「いい眺めだぜぇ」
 蒼甫が見下してやると、「くぅっ!」と切羽詰まらせる。「ほんと可愛らしいぜ、きな、ドM」の声に素直に従う多馬田臨床検査技師がいた。がたがたに体が振るえ、支えを求めるように蒼甫の腰にしがみつく。


「ここまできて、言い訳貰おうと思ってんじゃねえよ」
 と、蒼甫が言った。多馬田臨床検査技師の顎さきを抓みあげ、「なあ」と睨み据える。これには彼女も弱って返事どころか目さえ合わせられない。「なあ」と顎さきをぞんざいに揺すぶり、「こっち見ろ」と指さきに憎悪を込めた。


「バレてんだよ、てめえがドMってこと、わかる?」
 多馬田臨床検査技師の口もとが、ひょっとこになるまで力任せに頬辺を抓んだ。急を迫られ、機嫌をとるような目で蒼甫を見つめ、うんうん、と多馬田臨床検査技師が頷く。


「変態のドMだろ、てめえ」


「…………」


「こらッ!」


「ごめんなさい!…っ……」
 と、これまた随分快い返事がきた。声帯を波立たせ、肩先などはがたがたずっと振るえっぱなしだ。その姿から哀れなほどドMの匂いがでていた。


「ドMの豚が他人様に世間面してんじゃねえよ」


「アアッ!…っ……」


「ひと様にいえねえことどんだけやってきた」


 ひぃん、と多馬田臨床検査技師が口ごもる。「虐められるように俺を試して挑発したのか?」「ちがいます……」「舐めてんの?」「舐めてません!……」「汚ったねえ女だよ」「はいっ!……」「馬鹿女」「はいっ!…っ……」「なんでさあ。ドMって普段威張るの?」「すみません! 威張ってません……」「こらァ、逆らうな」「ごめんなさいッ……」「感じわりぃって言ってんの。普段から改めろ」「はいッ…っ……」「けつの穴おんなー」「はいぃ!」蒼甫は益益確信を得、横っ面をおもっくそビンタした。――みるみる女めいてくる多馬田臨床検査技師がそこにいた。


 蒼甫が得意げに顔を覗き込むと、もはや戦意喪失している。一度軍門に降った瞳はもはや哀願するばかりでほんの数分前に見せた気概など、あのしょんべんと一緒にどこぞへ流れていってしまったようだ。頭を小突いてやった。ひぃん、とよく啼く女だ。どうやら夜な夜な夫婦でSMごっこをしているようだ。しかも、だいぶ調教済みらしい。こいつぁ愉快だ、と蒼甫は爛々だ。


「わかるな」


「……はい…ッ……」
 と、多馬田臨床検査技師が深くこうべを垂れる。


「なにがわかった」
 蒼甫が、間髪入れず訊いた。


「き、綺麗にすれば、よろしいんですね…ッ……」
 と答える口もとをこれまたぞんざいに掴み、「声をだすな、騒ぐな、このことを内緒にできるか」と蒼甫は凡例を言い、これに頷く多馬田臨床検査技師。


「言葉にだして答えろ」
 と、蒼甫が念を押す。「は、はい…ッ…わ、わかりました…ッ……」「ちげえだろ、馬鹿女」「……うぅ…声を…だしません…ッ…騒ぎませんッ…このことを、うぅ…うぅ、うぅ…このことを…うぅ…内緒にします…ッ…うぅうぅうぅ……」と、涙ながらに同意したのを見、「豚が。簡単なおんな~」蒼甫が褒美として嘲笑を浴びせつけ、頭を乱暴に抱き寄せると、いよいよ肉幹へと誘った。


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