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第七十話 狐と巫女と扇子
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シャロが指輪から出したのは要の部分がたるむ程の長さの紐で繋がれた二本の扇だった
巫女服との相性バッチリだ
「でもそれ戦いに使えるの?」
「武器にまで【オーラ】を纏わせれば出来るです!」
「そんなこと出来るの?」
「知らないですか? デルベックでは当たり前なのですよ?」
獣人国家半端ないな、俺の晶刀の方が硬いはずなのに砕かれたのもその辺りに原因がありそうだ。 近々師匠のとこ行って聞いてみるか
「ご主人様、見えて参りました」
「あれは…キラーラビットだな」
高速で飛び跳ね華麗な足技を繰り出す厄介な魔物だ
こちらへ迫ってくる魔物の両脇の二体が左右に散ったので俺は正面の一体を相手にする事にした
さてと…ちょっと試してみるか
「重力魔法【重力反転】」
こちらに向かって飛び跳ねながら迫って来たキラーラビットが、俺の前まで到達する事なく宙に浮かび上がりそのまま一緒に浮かび上がった小石等と一緒に停滞した
重力魔法は扱いが難しい、なんせ自分にも影響を及ぼしてしまう。 だがトラップとしては知恵の低い魔物には有効の様だ。
ショウが鞘から刀を抜くと重力を失い空中でじたばたしているキラーラビットの首と体がスパッと綺麗に分かれ、鮮血や生首と共に体が宙を漂うが鞘に刀をしまうとドサドサっと地面に落ちた
「流石にご主人様一瞬ですね、私もサクッと終わらせましょう」
少し離れた場所でショウの戦いを見ていたイレスティはまさに今戦いを始める所だ
イレスティはメイド服のスカートの中から王都の屋敷に生えているかさぶたに覆われた禍々しい果実を出す
「鮮血魔術【ブラッティホール】」
イレスティが唱え終わると、かさぶたを割って大量の血液が渦を巻きながら彼女前に集まり球体を模り宙に浮かびながら停滞した
「行きます!」
彼女がそういうと球体だった血が薄い障壁の様に変形する。彼女がスカートの中から取り出した大量のナイフを投擲すると、前にある血の障壁を突き抜けてキラーラビット目掛けてに飛んでいくが、俊敏性の高いキラーラビットに難なく避けられてしまう
「鮮血魔術【血遊び】」
避けられたはずの血で汚れたナイフがキラーラビットを取り囲み、イレスティが開いていた手をギュッと握ると一斉に突き刺した!
草原に鮮血が舞うが出血量が尋常ではない、貫いたナイフが血液を吸いだしているのだ! そして傷口から流れ出た血は霧状になり、イレスティの頭上に移動した血液の球体がそれを吸い上げて行く
鮮血魔術は己の魔素を混ぜた血液を操つったり性質を変化させる魔術。 鮮血魔術で作られた傷口は自然には塞がる事がなく、傷口から絶え間なく血液を吸収し出血多量死させることが出来る為長期戦でも有利に戦える魔術だ
何度もあらゆる方向から血塗られたナイフに貫かれ、やがてキラーラビットは断末魔と共に絶命する
赤い血の霧の中イレスティは愛する主人に向かって満面の笑みを浮かべながら褒めて貰いに彼に駆け寄った
やっぱり鮮血魔術を覚えてだいぶ強くなったなぁ、俺もイレスティと長期戦は嫌だな…
シャロは… さっきから見つめ合って動いてないか
「おーい手助けいるかー?」
俺は手を振りながらシャロに声をかける
「も、もう終わったですか?! 大丈夫なのです! じゃあシャロもそろそろ行くです!」
睨み合っていた両者だがシャロが動き出した事によって敵も駆け出す
両者が駆け寄りぶつかる所で先制攻撃を仕掛けたのはキラーラビットだ!
鍛え上げられた脚力から繰り出される鋭い蹴りがシャロを襲う!
「幻狐舞踊【水月の舞】」
無数に飛んでくるキラーラビットの蹴りを二枚の扇子で華麗に舞い、残像を作り避けては切り裂いていく。 捕らえたと思ってもそれは彼女の残像で、彼女を捕らえるのは水に映る月を掴もうとするかの如く不可能な事かと思えた。 その姿は戦いの最中とは思えない程に美しく惹きつけられる物だ
キラーラビットが攻撃も当たらずカウンターばかり貰う事に危機を感じ距離を取って樹の後ろに逃げるがシャロは逃がさない
「幻狐舞踊【風狂の舞】」
シャロが風の様に軽やかに舞いながら二枚の扇子を投げると繋がっている紐の中心を軸にして激しい鋭い風を纏いながら風車のように回り、キラーラビットが隠れている樹諸共スパッと切り裂く!
辺りの樹々もなぎ倒しその威力絶大だ、Dランク冒険者って依頼書に書いてあったけどランクアップ試験受けてないのだろうか?
キラーラビットを仕留めて戻って来た血に染まった二枚の扇子を広げてポーズをとるシャロは、何処か妖艶で背筋をゾクリとさせる何かを感じさせ、その目は先程までの可愛いかった時の物とは違って見えた
「終わったのです! ショウさんどうしたですか?」
彼女の持つ不思議な雰囲気に戸惑っていると、先程の可愛い彼女の雰囲気に戻り不思議そうに声をかけて来た
「何でもないよ、先を急ごうか」
やっぱりただの可愛い女の子だ… 愛でたい…
そうして俺達は何度か魔物と遭遇しながらもサクサクと倒していき今日は野営にすることにしたのだが…
「イレスティ、流石に帰らないのはまずいよな?」
「連絡もなしなのはまずいと思いますよ」
「よし、じゃあシャロと一緒に【転移】でエクランに戻ろう!」
「はい…ですが…」
イレスティが少し眉間にしわを寄せる
「どうしたの?」
「いえ…なんでもないです…」
どうしたんだろう? 具合でも悪いのかな?
「なぁシャロ、野営でもいいけどちゃんとしたベットで眠りたくないか?」
「そりゃシャロだってそうしたいですけど、それは無理な話なのです」
「出来るって言ったら?」
「どうするんです?」
「こうするんだよ【転移】」
黒い渦が現れシャロの手を引き中に入って執務室に戻って来たのだが…
「わぁ! な、なんなのです?! 何でいきなりこんな部屋に出るです?! ショウさん一体何したですか?!」
シャロが狐の尻尾をフリフリさせながら目をキラキラさせて俺に聞いてきた。 可愛すぎなので頭をなでなでする
「これはなぁシャロ…」
「…シャロ…それがその子の名前…」
ゾクリと先程シャロから感じた寒気とは比べ物にならない程の寒気が背筋を凍らせる!
「へぇ… ストフを影武者にして何処をほっつき歩いてると思ったらま~た知らない女と居たの?」
俺の脳が危険だと警笛を鳴らしている、これは命を脅かすタイプの警笛だ!
俺がロボットの様に首を横に向けるとそこには冷たく輝く紅い瞳と蒼い瞳が俺を刺すように見つめていた
イレスティが言い淀んでいたのはこれだったのか!
「ショウさん、こ、このお姉さん達怖いのです!」
シャロが耳を折り曲げ俺の後ろに隠れ、ちょこんと顔を出しながら二人を見てぶるぶると震えていた
「…ショウに懐いてる。」
早い! いつの間にか取り出された大鎌の先が俺の胸元に当てられている
「おかしいわね? いつ知り合ったの? 今日よね? 何でそんなに親しいのかしら?」
待て待て! 魔素の流れが死霊魔術を発動する時の流れだ!
「イ、イレスティヘルプ!」
すかさずイレスティが一歩前に出で口を開く
「それでは僭越ながら説明させていきます」
・
・
・
・
「という事でシャロ様がとても可愛く、ご主人様はシャロ様にメロメロなのです」
そうだけどそうじゃないだろ! なーにシャロの可愛さを語ってんだよ!
「…言い残す言葉は?」
遺言?!
「これでやっと貴方をアンデットに出来るわね」
今やっとって言ったよね?!
「違うんだって、俺達は冒険者の依頼でシャロと一緒にいるの! シャロは依頼人なんだよ!」
「…シャロ。 本当なの?」
「ほ、本当ですぅ… ショウさんとは今日知り合ったばっかりで何にもないのです!」
「まぁそれが本当なら仕方ないわね」
シャロの言葉によって二人から放たれた圧力が解かれ場の空気が軽くなる
「あ、兄貴… 俺もう帰っていい? ねぇーちゃん達怖すぎるよ…」
二人の圧力が強すぎて身動きが取れず一連のやり取りを見るしかなかったストフが椅子に座りながら声をかけて来た
「今日は助かったわ、また頼むからよろしくな」
そう言って俺はストフに金貨一枚を渡した
「こんなにいいのか?」
「みんなになんか買ってやれ」
「ありがとう兄貴! それじゃあまたな!」
そう言ってにこっと笑い、颯爽とツーブロックの男は部屋を出て行った
「あ、お兄ちゃんおかえりー ドーン」
「ただいま」
入れ替わるようにエメが入ってきていつものダイビングハグをかまされたので、受け止めて頭を撫でる
「兄さんいるのー? ちょっと取ってきてほしい物あるんだけどー」
次はレデリだ
「西の大陸にしかない植物なんだけど」
「それなら丁度いい、次は西の大陸に行くからね」
「存在価値が極端に低い兄さんの価値が今5ミリ程高まったよ!」
べったりくっつきながら何でそんなに辛辣な事言えるんだよお前は…
「主様! 今日はわらわを抱いて寝る日なのじゃ! 早く用意してたも!」
次はルチルが枕を抱きかかえながら入って来た、眠そうな顔が非常に愛らしく可愛い。 こいつの為なら世界だって滅ぼすぞ俺は!
「今何時だと思ってんだよ、早すぎだろ… 飯位食らわせろよ」
「ちょっといつ帰って来たの? あんた仕事ほっぽり出して何処行ってたのよ?!」
最後はゴリラ聖女だ
「えーっと仕事?」
「仕事はこれでしょうが?!」
ストリンデが山積みの書類を指さす
「リンデがやっていいよ」
「あたしはあたしで忙しいのよ! 自分の仕事は自分でやりなさい!」
いつもの様に顔を近づけてくる彼女にドキドキしながら肩を押して引き離す
「あ、あのぉ… ショウさん、みなさんショウさんの何なのです?」
次から次へと執務室に集まってくる騒がしい面々をみてシャロは疑問に思ったようだ
「んー家族みたいなもんかな。 後抱き枕とゴリラ」
「こんな綺麗な人をゴリラなんてショウさん酷いのです」
「違うんだよシャロ、こいつは聖女の皮をかぶってゴリラの皮をかぶりつつ聖女の皮をかぶったゴリラなんだよ」
俺は少し屈んでシャロの肩に手を置きリンデの正体を明かした
「そんなに被る必要があるですか?」
ふふふ素直に信じたようだ、こうやって聖女の評判を徐々にゴリラに塗り替えて行こう
「誰がゴリラよ!」
「ゴリラっていう自覚あるんだ!」
「今日という今日は許さないわよ!」
「許さないなら何するんだよ?! あぁーん?」
「一日中この部屋に監禁して仕事させるわ!」
「そんな! お前は鬼か! 鬼ゴリラか! ん? 鬼ゴリラって、鬼とゴリラの混合体じゃなくて、めっちゃゴリラって意味な! 勘違いすんなよ!」
「話の流れ的には鬼とゴリラの混合体の方が自然じゃないの?!」
パンパン
「はいはい、じゃれ合ってないでご飯にするわよ」
「「はーい…」」
いつも通りキリのいい所でフララが遮り終わりとなった
「シャロも食べるよね?」
「はい、頂くのです! ショウさんの家族は楽しい人ばかりなのですね」
シャロがクスっと楽しそうに笑った
「そうだね、みんなとても大事な人だよ」
「そうなのですか…」
彼女の声は心なしか元気がないよう感じられた
そして専用の食堂に移動しみんなで食卓を囲み、俺達の事を聞かせて欲しいとの事だったので所々搔い摘みながら話した
「まさかショウさんが領主様だとは知らなかったのです」
「まぁなんとなくなっちゃっただけだからいつも通り接してね」
「わかったのです!」
彼女の食事の仕方はとても品よく、ルーやフララにも引けを取らない。 実はいい所のお嬢様なのかな?
「それにしても皆さんの経歴も凄いですけど関係性にも驚いたのです!」
そしてシャロはナイフとフォークを置き真面目な顔になる
「ショウさんは皆さんがとっても大事で必要なのです?」
どうしたんだろう、その可愛い声とは裏腹に何故かその表情は不安を掻き立てられる
「当たり前だろ、みんな大事だし一人だって失いたくない」
俺は彼女の真剣な眼差しをしっかりと見つめ返し答えた
「そうですか、皆さんからはショウさんがとても大事だっていうのが伝わるのです… とってもいい関係なのですね!」
シャロは元気一杯にそういうが違和感を覚える
その後もみんなでワイワイガヤガヤと食卓を囲み食べ終わると、明日の旅の続きもあるので休むためにシャロと別れたのだが、別れ際に放ったシャロの一言がベッド寝転がる俺の頭の中をグルグルと回っている
『裏切られたらどうするですか?』
その一言を放った彼女の顔は魔物を倒した時に見せた妖艶で危険な色気を放っていた
考えたくもなかった事だ。 心が離れてしまう、そんな事もあるのかもしれない。 どんなに固い物でも少しヒビが入ればそこから壊れてしまうように、人間関係も壊れてしまうのだろうか?
誰かと人間関係を作ったことなどない俺には答えはでそうにない…
「…眠れない?」
ルチルを抱き枕にして眠っている俺の背中からルーが優しく声をかけて来たのでルーの方へと向き直る
「ちょっとね」
「…また変な事考えてる… 私の体じゃ忘れさせてあげれなかった?」
「…逆に忘れられなくなりそうです…」
先程愛し合ったルーを思い出してしまうとこの後ずっと悶々としそうだ
「…不安なの?」
「何考えてるかわかるの?」
「シャロが言った事聞こえてたから。 お姉様も言ってた。 あの子には気を付けて」
「え? 何で? ただの可愛い女の子じゃないか」
「わからないけど何か嫌な物を感じる。」
「考えすぎだと思うけどなぁ」
「それならそれでいい。」
「でもルーとフララがそういうなら心に留めておくよ」
「ありがとう、それじゃあ…」
ルーが優しく俺の唇に自分の唇を重ねた
「もっと私をショウの心に刻み込んで。 不安を感じない位に…」
彼女はいつでも俺の事を考えてくれる、いつでも俺の側で微笑んでくれる、決してく俺を裏切らない人
俺はこの時のルーの忠告を安易に考えてしまっていた。 人の心など脆く移ろいやすい物なのだから
巫女服との相性バッチリだ
「でもそれ戦いに使えるの?」
「武器にまで【オーラ】を纏わせれば出来るです!」
「そんなこと出来るの?」
「知らないですか? デルベックでは当たり前なのですよ?」
獣人国家半端ないな、俺の晶刀の方が硬いはずなのに砕かれたのもその辺りに原因がありそうだ。 近々師匠のとこ行って聞いてみるか
「ご主人様、見えて参りました」
「あれは…キラーラビットだな」
高速で飛び跳ね華麗な足技を繰り出す厄介な魔物だ
こちらへ迫ってくる魔物の両脇の二体が左右に散ったので俺は正面の一体を相手にする事にした
さてと…ちょっと試してみるか
「重力魔法【重力反転】」
こちらに向かって飛び跳ねながら迫って来たキラーラビットが、俺の前まで到達する事なく宙に浮かび上がりそのまま一緒に浮かび上がった小石等と一緒に停滞した
重力魔法は扱いが難しい、なんせ自分にも影響を及ぼしてしまう。 だがトラップとしては知恵の低い魔物には有効の様だ。
ショウが鞘から刀を抜くと重力を失い空中でじたばたしているキラーラビットの首と体がスパッと綺麗に分かれ、鮮血や生首と共に体が宙を漂うが鞘に刀をしまうとドサドサっと地面に落ちた
「流石にご主人様一瞬ですね、私もサクッと終わらせましょう」
少し離れた場所でショウの戦いを見ていたイレスティはまさに今戦いを始める所だ
イレスティはメイド服のスカートの中から王都の屋敷に生えているかさぶたに覆われた禍々しい果実を出す
「鮮血魔術【ブラッティホール】」
イレスティが唱え終わると、かさぶたを割って大量の血液が渦を巻きながら彼女前に集まり球体を模り宙に浮かびながら停滞した
「行きます!」
彼女がそういうと球体だった血が薄い障壁の様に変形する。彼女がスカートの中から取り出した大量のナイフを投擲すると、前にある血の障壁を突き抜けてキラーラビット目掛けてに飛んでいくが、俊敏性の高いキラーラビットに難なく避けられてしまう
「鮮血魔術【血遊び】」
避けられたはずの血で汚れたナイフがキラーラビットを取り囲み、イレスティが開いていた手をギュッと握ると一斉に突き刺した!
草原に鮮血が舞うが出血量が尋常ではない、貫いたナイフが血液を吸いだしているのだ! そして傷口から流れ出た血は霧状になり、イレスティの頭上に移動した血液の球体がそれを吸い上げて行く
鮮血魔術は己の魔素を混ぜた血液を操つったり性質を変化させる魔術。 鮮血魔術で作られた傷口は自然には塞がる事がなく、傷口から絶え間なく血液を吸収し出血多量死させることが出来る為長期戦でも有利に戦える魔術だ
何度もあらゆる方向から血塗られたナイフに貫かれ、やがてキラーラビットは断末魔と共に絶命する
赤い血の霧の中イレスティは愛する主人に向かって満面の笑みを浮かべながら褒めて貰いに彼に駆け寄った
やっぱり鮮血魔術を覚えてだいぶ強くなったなぁ、俺もイレスティと長期戦は嫌だな…
シャロは… さっきから見つめ合って動いてないか
「おーい手助けいるかー?」
俺は手を振りながらシャロに声をかける
「も、もう終わったですか?! 大丈夫なのです! じゃあシャロもそろそろ行くです!」
睨み合っていた両者だがシャロが動き出した事によって敵も駆け出す
両者が駆け寄りぶつかる所で先制攻撃を仕掛けたのはキラーラビットだ!
鍛え上げられた脚力から繰り出される鋭い蹴りがシャロを襲う!
「幻狐舞踊【水月の舞】」
無数に飛んでくるキラーラビットの蹴りを二枚の扇子で華麗に舞い、残像を作り避けては切り裂いていく。 捕らえたと思ってもそれは彼女の残像で、彼女を捕らえるのは水に映る月を掴もうとするかの如く不可能な事かと思えた。 その姿は戦いの最中とは思えない程に美しく惹きつけられる物だ
キラーラビットが攻撃も当たらずカウンターばかり貰う事に危機を感じ距離を取って樹の後ろに逃げるがシャロは逃がさない
「幻狐舞踊【風狂の舞】」
シャロが風の様に軽やかに舞いながら二枚の扇子を投げると繋がっている紐の中心を軸にして激しい鋭い風を纏いながら風車のように回り、キラーラビットが隠れている樹諸共スパッと切り裂く!
辺りの樹々もなぎ倒しその威力絶大だ、Dランク冒険者って依頼書に書いてあったけどランクアップ試験受けてないのだろうか?
キラーラビットを仕留めて戻って来た血に染まった二枚の扇子を広げてポーズをとるシャロは、何処か妖艶で背筋をゾクリとさせる何かを感じさせ、その目は先程までの可愛いかった時の物とは違って見えた
「終わったのです! ショウさんどうしたですか?」
彼女の持つ不思議な雰囲気に戸惑っていると、先程の可愛い彼女の雰囲気に戻り不思議そうに声をかけて来た
「何でもないよ、先を急ごうか」
やっぱりただの可愛い女の子だ… 愛でたい…
そうして俺達は何度か魔物と遭遇しながらもサクサクと倒していき今日は野営にすることにしたのだが…
「イレスティ、流石に帰らないのはまずいよな?」
「連絡もなしなのはまずいと思いますよ」
「よし、じゃあシャロと一緒に【転移】でエクランに戻ろう!」
「はい…ですが…」
イレスティが少し眉間にしわを寄せる
「どうしたの?」
「いえ…なんでもないです…」
どうしたんだろう? 具合でも悪いのかな?
「なぁシャロ、野営でもいいけどちゃんとしたベットで眠りたくないか?」
「そりゃシャロだってそうしたいですけど、それは無理な話なのです」
「出来るって言ったら?」
「どうするんです?」
「こうするんだよ【転移】」
黒い渦が現れシャロの手を引き中に入って執務室に戻って来たのだが…
「わぁ! な、なんなのです?! 何でいきなりこんな部屋に出るです?! ショウさん一体何したですか?!」
シャロが狐の尻尾をフリフリさせながら目をキラキラさせて俺に聞いてきた。 可愛すぎなので頭をなでなでする
「これはなぁシャロ…」
「…シャロ…それがその子の名前…」
ゾクリと先程シャロから感じた寒気とは比べ物にならない程の寒気が背筋を凍らせる!
「へぇ… ストフを影武者にして何処をほっつき歩いてると思ったらま~た知らない女と居たの?」
俺の脳が危険だと警笛を鳴らしている、これは命を脅かすタイプの警笛だ!
俺がロボットの様に首を横に向けるとそこには冷たく輝く紅い瞳と蒼い瞳が俺を刺すように見つめていた
イレスティが言い淀んでいたのはこれだったのか!
「ショウさん、こ、このお姉さん達怖いのです!」
シャロが耳を折り曲げ俺の後ろに隠れ、ちょこんと顔を出しながら二人を見てぶるぶると震えていた
「…ショウに懐いてる。」
早い! いつの間にか取り出された大鎌の先が俺の胸元に当てられている
「おかしいわね? いつ知り合ったの? 今日よね? 何でそんなに親しいのかしら?」
待て待て! 魔素の流れが死霊魔術を発動する時の流れだ!
「イ、イレスティヘルプ!」
すかさずイレスティが一歩前に出で口を開く
「それでは僭越ながら説明させていきます」
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「という事でシャロ様がとても可愛く、ご主人様はシャロ様にメロメロなのです」
そうだけどそうじゃないだろ! なーにシャロの可愛さを語ってんだよ!
「…言い残す言葉は?」
遺言?!
「これでやっと貴方をアンデットに出来るわね」
今やっとって言ったよね?!
「違うんだって、俺達は冒険者の依頼でシャロと一緒にいるの! シャロは依頼人なんだよ!」
「…シャロ。 本当なの?」
「ほ、本当ですぅ… ショウさんとは今日知り合ったばっかりで何にもないのです!」
「まぁそれが本当なら仕方ないわね」
シャロの言葉によって二人から放たれた圧力が解かれ場の空気が軽くなる
「あ、兄貴… 俺もう帰っていい? ねぇーちゃん達怖すぎるよ…」
二人の圧力が強すぎて身動きが取れず一連のやり取りを見るしかなかったストフが椅子に座りながら声をかけて来た
「今日は助かったわ、また頼むからよろしくな」
そう言って俺はストフに金貨一枚を渡した
「こんなにいいのか?」
「みんなになんか買ってやれ」
「ありがとう兄貴! それじゃあまたな!」
そう言ってにこっと笑い、颯爽とツーブロックの男は部屋を出て行った
「あ、お兄ちゃんおかえりー ドーン」
「ただいま」
入れ替わるようにエメが入ってきていつものダイビングハグをかまされたので、受け止めて頭を撫でる
「兄さんいるのー? ちょっと取ってきてほしい物あるんだけどー」
次はレデリだ
「西の大陸にしかない植物なんだけど」
「それなら丁度いい、次は西の大陸に行くからね」
「存在価値が極端に低い兄さんの価値が今5ミリ程高まったよ!」
べったりくっつきながら何でそんなに辛辣な事言えるんだよお前は…
「主様! 今日はわらわを抱いて寝る日なのじゃ! 早く用意してたも!」
次はルチルが枕を抱きかかえながら入って来た、眠そうな顔が非常に愛らしく可愛い。 こいつの為なら世界だって滅ぼすぞ俺は!
「今何時だと思ってんだよ、早すぎだろ… 飯位食らわせろよ」
「ちょっといつ帰って来たの? あんた仕事ほっぽり出して何処行ってたのよ?!」
最後はゴリラ聖女だ
「えーっと仕事?」
「仕事はこれでしょうが?!」
ストリンデが山積みの書類を指さす
「リンデがやっていいよ」
「あたしはあたしで忙しいのよ! 自分の仕事は自分でやりなさい!」
いつもの様に顔を近づけてくる彼女にドキドキしながら肩を押して引き離す
「あ、あのぉ… ショウさん、みなさんショウさんの何なのです?」
次から次へと執務室に集まってくる騒がしい面々をみてシャロは疑問に思ったようだ
「んー家族みたいなもんかな。 後抱き枕とゴリラ」
「こんな綺麗な人をゴリラなんてショウさん酷いのです」
「違うんだよシャロ、こいつは聖女の皮をかぶってゴリラの皮をかぶりつつ聖女の皮をかぶったゴリラなんだよ」
俺は少し屈んでシャロの肩に手を置きリンデの正体を明かした
「そんなに被る必要があるですか?」
ふふふ素直に信じたようだ、こうやって聖女の評判を徐々にゴリラに塗り替えて行こう
「誰がゴリラよ!」
「ゴリラっていう自覚あるんだ!」
「今日という今日は許さないわよ!」
「許さないなら何するんだよ?! あぁーん?」
「一日中この部屋に監禁して仕事させるわ!」
「そんな! お前は鬼か! 鬼ゴリラか! ん? 鬼ゴリラって、鬼とゴリラの混合体じゃなくて、めっちゃゴリラって意味な! 勘違いすんなよ!」
「話の流れ的には鬼とゴリラの混合体の方が自然じゃないの?!」
パンパン
「はいはい、じゃれ合ってないでご飯にするわよ」
「「はーい…」」
いつも通りキリのいい所でフララが遮り終わりとなった
「シャロも食べるよね?」
「はい、頂くのです! ショウさんの家族は楽しい人ばかりなのですね」
シャロがクスっと楽しそうに笑った
「そうだね、みんなとても大事な人だよ」
「そうなのですか…」
彼女の声は心なしか元気がないよう感じられた
そして専用の食堂に移動しみんなで食卓を囲み、俺達の事を聞かせて欲しいとの事だったので所々搔い摘みながら話した
「まさかショウさんが領主様だとは知らなかったのです」
「まぁなんとなくなっちゃっただけだからいつも通り接してね」
「わかったのです!」
彼女の食事の仕方はとても品よく、ルーやフララにも引けを取らない。 実はいい所のお嬢様なのかな?
「それにしても皆さんの経歴も凄いですけど関係性にも驚いたのです!」
そしてシャロはナイフとフォークを置き真面目な顔になる
「ショウさんは皆さんがとっても大事で必要なのです?」
どうしたんだろう、その可愛い声とは裏腹に何故かその表情は不安を掻き立てられる
「当たり前だろ、みんな大事だし一人だって失いたくない」
俺は彼女の真剣な眼差しをしっかりと見つめ返し答えた
「そうですか、皆さんからはショウさんがとても大事だっていうのが伝わるのです… とってもいい関係なのですね!」
シャロは元気一杯にそういうが違和感を覚える
その後もみんなでワイワイガヤガヤと食卓を囲み食べ終わると、明日の旅の続きもあるので休むためにシャロと別れたのだが、別れ際に放ったシャロの一言がベッド寝転がる俺の頭の中をグルグルと回っている
『裏切られたらどうするですか?』
その一言を放った彼女の顔は魔物を倒した時に見せた妖艶で危険な色気を放っていた
考えたくもなかった事だ。 心が離れてしまう、そんな事もあるのかもしれない。 どんなに固い物でも少しヒビが入ればそこから壊れてしまうように、人間関係も壊れてしまうのだろうか?
誰かと人間関係を作ったことなどない俺には答えはでそうにない…
「…眠れない?」
ルチルを抱き枕にして眠っている俺の背中からルーが優しく声をかけて来たのでルーの方へと向き直る
「ちょっとね」
「…また変な事考えてる… 私の体じゃ忘れさせてあげれなかった?」
「…逆に忘れられなくなりそうです…」
先程愛し合ったルーを思い出してしまうとこの後ずっと悶々としそうだ
「…不安なの?」
「何考えてるかわかるの?」
「シャロが言った事聞こえてたから。 お姉様も言ってた。 あの子には気を付けて」
「え? 何で? ただの可愛い女の子じゃないか」
「わからないけど何か嫌な物を感じる。」
「考えすぎだと思うけどなぁ」
「それならそれでいい。」
「でもルーとフララがそういうなら心に留めておくよ」
「ありがとう、それじゃあ…」
ルーが優しく俺の唇に自分の唇を重ねた
「もっと私をショウの心に刻み込んで。 不安を感じない位に…」
彼女はいつでも俺の事を考えてくれる、いつでも俺の側で微笑んでくれる、決してく俺を裏切らない人
俺はこの時のルーの忠告を安易に考えてしまっていた。 人の心など脆く移ろいやすい物なのだから
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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