蒼炎の魔法使い

山野

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第九十四話 スピーチとスカートは短い方が良い

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ショウがメンタルにダイレクトアタックをくらい気絶している間にジルとルー達は自己紹介が終わっていて、起き上がった彼に、ジルはまるで幽霊を見るかの様にルーメリア達を見渡してから声をかけた。

「ショウ君、本当にルーメリアさんやフラミレッラさんなんだよね?」
今も一人一人の顔を見ては眉間に皺を寄せている。

「??  それがどう言う意味なのかよくわからないけど、リールモルの王女やカルターノの女王って意味ならあってるよ」

「そう…なんだ…」
ジルは再度神妙な面持ちで眉間に皺を寄せているジルを尻目にフララがパンパンと手を叩いた

「自己紹介が終ったところで、当初の予定通り花見にしましょう。  イレスティ用意をお願い。  ジル、あなたも参加するといいわ。」

フララの言葉と共にイスレスティがスカートの中からシートやら料理やらを取り出し準備を始める。 俺の教えを忠実に守った結果、エクランではアイテムボックス持ちの上級メイドはみなスカートの中から物を取り出す。

「ククク、時の鎖に縛られし左手が疼くわ。  興味はないが参加してやろう。  我を今宵の宴に招いた事を後悔させてやる」
耳まで赤くしてめっちゃ嬉しそうですけど?!  照れ隠しで変なスイッチ入ってしまったのね

「…ジル、少し変わってる。  でも悪い子じゃないと思う。」
ルーも受け入れ態勢の様だ、女の子だけど元の世界に帰りたいっていう目的もはっきりしているので全然妬いたりしないようだ。  真顔で肉をえぐり取られそな位抓られてるけど、全然妬いたりしないようだ。

「兄貴ー! オイラ達もきたよー!!」

「来たわね、こっちこっち」
ストフやピンゲラ襲撃の際に助けた二人、孤児院の子供達がぞろぞろとやって来たのをストリンデが手を振って迎える。
俺が一人先に来ている間に誘ったようで、目の前に並んだご馳走を見て涎を垂らし今にも飛び掛かりそうな子供達に思わずに顔が綻んだのだが、青筋を立てながら参加表明する文官の方々を見てスーッと脇から汗が流れ落ちた。 明日からちゃんと仕事しますから…

身内だけの小さい花見にするつもりが思いの他人数が増え、形だけでも一応挨拶をしてくれと文官達に鋭い目つきで促されたので仕方なく立ち上がって咳払いするとみんなの視線が俺へと集まる。 こういうの苦手なんだよなぁ…

「えーお集まり頂きありがとうございます。 本日はお日柄も良く天気にも恵まれ… えっとー…」

「…かんぱーい。」
どこかで聞いた事ある様な言葉を適当に並べながら、何を言うか迷って恥ずかしがっていると、静まり返った会場に場違いな程やる気のないルー乾杯の音頭が響き渡り、みんなの爆笑と共に宴会が始まった。 きっと俺が困っているのを助けてくれたのだろう。 さっき抓られた所が青く変色しているけどとても優しい婚約者だ、現代の日本なら腕一本位持っていかれててもおかしくない。

始まってからはさっきまで静かだったのが嘘の様に騒がしく、エクラン治安を守るフララの眷属アンデッドも合流して会場はカオス。 料理や酒がなくなりそうになると、どこからともなくすかさずメイド達が現れ補充していく段取りの良さは本当に感心する。

うちの女性陣は飲むと面倒だ。 ルーは血走った目で首筋に何度も噛みついて来るし、エメは甘えながら膝の上からどかない。 フララは見た感じは特に変わらないが彼女が変わるのはベットに入ってからだ。 イレスティはワーカホリックなのでこういう時程働きたがり飲まないし、レデリは体質的にどれだけ飲んでも酔わないので、酔うと脱ごうとするとルチルを止めるのはこの二人だ。 会場を盛り上げているのはシャロで、彼女の華麗な舞は背景のしだれ桜と相まってみなを魅了した。 ジルが例のポーズを取りながらリンデと飲み比べをしているが、二人共顔が真っ赤でもうじきゲロイン化するんじゃないだろうか? 

大学の新歓に参加したのに俺は隅の方でただ時間が過ぎるのを待っているだけだったなぁ…
陽キャはああいう時楽しめる、ああいう初対面が多い場所で話せる陰キャは陰キャ風陽キャだ。

俺みたいなガチの陰の者は同じような種族を見つけても話しかける事すら出来ずにちらちらと視線だけを送りひたすらスマホをいじるのが普通だろう? 逃げ道のスマホがない時代に生まれてたらと思うとぞっとする。 常にお見合い状態なのが俺達陰の者のスタンダード。 まぁそんな奴新歓では俺だけだったんだけど…

そんな苦い思い出を肴に酒を飲み、宴会は続いたが辺りが暗くなってきたので徐々に皆帰っていく。ルーとフララは身支度があるからと先に戻ったので俺は一人酔い覚ましに風にあたりながら周りを見ていた。

ストリンデが死んだように眠っている所を見ると、ジルとの飲み比べはジルの勝ちの様で、真っ赤な顔のまま笑顔を作り千鳥足でこっちに来ると俺の隣に腰を落ち着ける。

「こんな日が来るなんて思ってなかったから凄く嬉しい」

「そりゃあんな事してたら避けられるでしょ… 普通にしてれば可愛いのに」
奇妙な連帯感が生まれた俺達の距離感は一気に縮まり、フランクに話せるようになっていた

「深淵の闇から生まれし我には孤独こそが相応しい。 孤高の存在とはいつでも孤独なのだ! ククク」
肩を揺らして笑う非常に残念美少女だ…

「一人だけ、たった一人にだけわかってもらえたら、それでいいんだ」
ジルは俺の昔とは違い常時発症型の中二病というわけではない。 

「それって元の世界に居た人?」

「まぁそうかな」

「転生しても好きなんて、その人の事が本当に大好きなんだな」

「彼こそ我が魂の伴侶。二人の魂が離れるのは時の鎖の呪縛から解き放たれた時のみ!」
伴侶なのに呪縛とか解き放たれるとかどういう事?!

「早く元の世界に帰れるように頑張ろうな」

「うん。 そうだね。」
そういうジルの表情は何処か曇っていた。 膝を抱えて優しく鈴を鳴らし風にツインテールを靡かせしだれ桜を見る表情は寂し気だ。 やっぱり元の世界に残して来た大事な人の会うのが不安なのだろうか? 向こうじゃジルは死んだ事になってるんだもなぁ… こっちと同じ時間で時が流れているのかわからないけど、流れているとしたら十数年は経っている訳だし。 もしかしたら新しい誰かと… 

「ジルはさ、怖くないの? 色々と状況が変わってしまっていて自分が入り込む余地がないかもしれないんだよ?」

「勿論怖いよ。 でも一番怖いのは忘れられてしまう事かな。 だってそれって本当に死んでしまうって事でしょ? ………はっ?! 魂に刻まれた悠久の記憶が忘却の彼方に追いやられた時、人は死して尚、死するのだ!」

「わざわざ言い直さなくても…」
ジルは多分中二病患者ではない、重度の中二病を患っていた俺にはわかる。 彼女のは仮病だ。 楽しんでいる節はあるがカッコいいとは思ってない、カッコいいと思わない中二病は中二病ではないのだ。 何の為にやっているかわからないが…このビジネス中二病め!

「ククク、邪神すら恐れ戦く余と血の契約を交わすお前には余の事を語り継ぐという大役を与えてやろう!」
一人称コロコロ変わりすぎてこいつの設定がよく掴めん… またまぁ要するに私の事忘れないでって事でいいのかな? ワザワザ立ち上がって迄宣言する必要あるのかそれ… まぁ仕方がないから乗ってやるか

「ククク良いだろう! 紅よりも紅い血の契約に従い魂に刻み付けたお前との記憶を糧に未来永劫生きていく事を誓う。」
俺も立ち上がりそう言うとジルは嬉しいような悲しいような複雑な表情を浮かべた

「うん。 ありがとう。 じゃあ私も泊ってるとこ戻るね。 明日私を黄龍ちゃんの所へ連れてって! それじゃあI'll be back」
ジルは親指を立て颯爽と去って行った。 それここで使うんと違う…
同じ異世界人の女の子、とても可愛く何故か中二病を演じてる謎の女の子。
酔いながら例のポーズを何パターンか披露していたのだが、十数年前に転生していたとしたら知っているはずのないポーズが幾つか紛れていた。 彼女は一体何者なのだろうか?

俺が彼女の背中を見送っていると、ケモミミ二人が俺の下へとやってきて声をかけて来た
「主様主様! わらわのウルフダンスは見てくれたかえ?」
俺に飛びつくなりお酒で顔を赤くした顔で尻尾をフリフリしてながそう聞いて来る姿にデレデレしてしまうのは仕方ないよね?

「あぁでも脱ぎ出したのにはちょっと驚いたわ、レデリとイレスティが大慌てだったな」

「そもそも服を着ているの自体違和感があるのじゃ! だからわらわは脱ぐ! 主様脱がせてたもー!」

「いや流石にそれはちょっと…」

「嫌なのじゃ嫌なのじゃ! 主様に脱がしてもらうのじゃ! 早くしてたも、脱ぎたい脱ぎたい脱がされたい! ん? レデリ?! 嫌じゃ放してもたも! 主様! 早くわらわを脱がせて…」
ジタバタゴロゴロするルチルはただの駄々っ子だ

「兄さん先戻ってるからねー。 生産性のない事してないで早くもどってきなよー」
駄々をこね出したルチルの首根っこを掴みレデリが引きずりながらそのまま城へと連行していく。

「本当に騒がしい人人達なのです。 飲んだら飲まれるなは基本なのですよ?」

「シャロは全然平気そうだね、それにあの舞凄く良かったよ」
俺はシャロの頭をいつもの様に撫でると、嬉しそうな表情を浮かべた。

「えへへ嬉しいのです。 そういえばショウさん、あのジルさんっていう人は嘘を付いているのです。 全部が嘘って訳じゃないみたいなので何が嘘なのかまではわからないのですけど… でも悪意のある嘘ではないのと思うのですよ。」

「何でわかるの?」

「忘れたですか? シャロは嘘つきさんなのですよ?」
耳をピクピクさせながらウインクしてくるのは確かに可愛いけど、シャロの場合は計算済みだ。

「シャロがいうなら間違いないね」

「何かそれは嫌なのです… さぁ帰るですよ」
口を尖らせながら手を伸ばして来たシャロの手を握る

「おう」
その酔いつぶれて寝ているリンデをイレスティと彼女の寝室へと運び楽しかった宴会はお開きとなったのだが… 俺はレデリ特性の精力ドリンクを流し込み鼻の穴を広げながら寝室へと向かったのだった…
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