蒼炎の魔法使い

山野

文字の大きさ
101 / 138

第九十六話 水族館の後は寿司一択

しおりを挟む
ショウは今雲よりも高い高度でベリルの背中に乗り、意識を失ったジルを抱えながら、報酬をもらうべく黄龍と対峙していた。

黄龍が突然自分の目に鋭い爪を突き立て、目玉をえぐり取り、手の中で力を込めると、目玉が綺麗な黄色い宝石へと変化する。

「ほな約束通り渡すわ、はい飴ちゃん」
ぽいっと本当に飴を渡すかの様に投げられたそれは、確かにべっこう飴みたいでちょっと美味しそうだ

「でも食べたらあかんで?  それ、物凄い力の塊やから体内に入れたら、中から破裂して人間なんて木っ端微塵やから気をつけなはれや!  あかんで?!  絶対に食べたらあかんで?!  絶対やで?!」

「ノリだけで人を殺す気か!」

「ほな自分で食べるわ」
黄龍は手をそっと上げた

「どうぞどうぞ」

「違う、違うねんて! そうじゃないねんて!」
体をくねくねさせて駄々をこねる。
わかっちゃいるが乗ってやる義理はない、なんせ食べたら死ぬし…

「まぁもうええわ、色々楽しませてもろたしな。後そこのお嬢ちゃんやけどな、今疑心暗鬼になってるやろ?」
先程迄のふざけた雰囲気とは違って今の黄龍は至って真面目だ。
俺は口元を血で汚しながら意識を失っているジルを一瞥した後頷く。

「別にそのお嬢ちゃんはあんたらの敵やないと思うで、むしろ寿命を削ってまであんたの手伝いをしたんや、信じてやりや。そのうち自分から話す時がくるやろし。後な…いつかとんでもなくしんどい選択を迫られる日が来ると思う。その時は…しっかりと考えるんやで、ほなな!」
黄龍はそう言い残しジルに優しい眼差しを送って飛び去って行った。
何か知っている口ぶりだったけど一体どういう事なのだろう?
ますますジルの謎が深まってしまった… はぁ

俺が溜息を吐き出しジルの顔を見ていると彼女の服のポケットから四つ折りにされた一枚の紙が落ちる

「これは…詠唱?」
四つ折りにされた紙には、時魔術を使う際に唱えていたオリジナル詠唱に使う文言がびっしりと書き込まれていて、とても真面目に何回も考えたのが伺える。

何度も書いては消したりしながら中二臭いワードを考えるジルの姿を想像するとなんだかとても可愛らしくてつい顔が綻ぶ。
こんなバカバカしい事も真剣にやる癖にみんなに嘘付いたり、なのに命削ってまで俺の手伝いをしてくれたり…

「全くお前は一体何者なんだよ…」
俺の腕の中で安心しきった様子で満足気に眠っている彼女に向かって呟いた。

◇  ◇  ◇  ◇

「それで、海底都市ってどうやって行くんだ?」
俺の前を鼻歌交じりに機嫌よく歩く女の子に問いかけると、足を止めて後ろに手を組み桜色のショートカットヘアーをふわりと靡かせながら体をこちらに向ける。
振り返った際に起きた風に乗って彼女いい香りが鼻腔をくすぐり、匂いフェチの俺は密かにテンションが爆上がりした。

「デルベックの更に北だね。海底都市に行くには定期的に発生する特殊な海流に乗らないといけなくて、その入り口になる渦潮がデルベックやヴァルゼンのある大陸の最北端の海で発生するんだよー」

どうやら俺達はデルベックから北上しているようだ、辺りは草原で何もない。

「良く知ってるな」
俺はレデリの頭を優しく撫でると彼女は満面の笑みを浮かべる

「凄いでしょ?兄さんとデルベックの大図書に行った時に見た」
そんな俺達のイチャラブを、パーカーミニスカニーハイというメンヘラを感じさせる出で立ちの、前髪を目の上で切り揃えたオレンジツインテールの女の子が鈴の音を鳴らしながら俺達の間に割って入る。

大丈夫大丈夫、手首に傷はない。

「ぐぬぬ…我が魂の伴侶と歩む覇道への旅路に何故レーちんがいるの?!」
リアルでぐぬぬっていう人初めてみたわ。
ジルの中でレデリのあだ名はレーちんってらしい。

「仕方ないじゃん。ジルさん病み上がりなんだから。なんかあった時の為に一応ついて来たの。」
あの後城に戻って俺の魔法や、リンデの神聖魔術、レデリの薬と色々試したが彼女には何の効果もなく、自然に起きるのを待つしかない状態で、起きたのは結局三日経ってからだ。

聞きたい事は色々とあったが、話す時が来たらきっと彼女の方から話してくれるだろうと思ってあえて何も聞いていない。

「それを言われたら何も言えない…」

「そう言えばジルってマーメイドのハーフって言ってたけど、マーメイドにもなれるの?」

「なれるよ、なれるけど…どうせ見せてって言うんでしょ?」

「そりゃ見てみたいよ、だってマーメイドだよ?!そんな味付けの濃いファンタジー素材、見たいに決まってんじゃん!」

「はぁ…毎回毎回見せるのが地獄の業火にこの身を焼かれた時よりも億劫なんだよね…」
ジルは深くため息をついて肩をがっくりと落とす。
地獄の業火に焼かれた感想が億劫って、地獄の業火ぬる過ぎない?

「お願いジル! 俺マーメイドをちゃんと見た事ないんだ!! 一回だけ!一回だけでいいから!」
ジル肩を揺らしながら懇願するとジルは諦めた表情で深いため息を吐く

「はいはいわかったよ、ショウ君が言うならやってあげる。じゃあ行くよ!【人魚化】」
ジルが不透明なシャボン玉に包まれ、やがてシャボン玉がパンと割れて俺達の前に現れたのは…

「「………あはははははは!!!」」
俺達は腹を抱えながら地面を転げまわる

「もぉ!! だから嫌だったのに!」
ジルはその場で足をジタバタしだす。

「いやだって…お前…マーメードって普通脚が魚じゃん? 上半身が魚とか…ウケ狙いすぎでしょ?! てかこえーよ!」

「兄さん笑っちゃ悪いよ…マーメイドハーフの人は人魚化がうまくできなくて極稀にこうなっちゃうんだから」

「「………ぷはははははは!」」
リボンを付けたオレンジ色っぽい魚の上半身にニーハイを履いた人の下半身とのアンバランスが面白すぎて俺達は笑いをこらえる事ができず笑い転げていると、再度ジルの身体がシャボン玉に包まれ、破裂するといつものジルが現れたのだが、その顔は真っ赤で瞳には涙もたまっていて今にも零れ堕ちそうだ。

俺とレデリは慌てて正座してジルに謝罪の意を示す。
「ご、ごめん…あまりにも想像と違い過ぎたっていうか…」

「ジルさんごめんない。まさか上半身が人魚化するとは思ってなかったから…」
俺達は、先程まで楽しくじゃれていたのに目に指が意図せず入ってしまい、泣かせてしまった時の様な居心地の悪さを感じていた

「…でて…」
腕を組んでプイっと顔を背けたジルの消え入りそうな声が聞こえたが、はっきりなんと言ったか聞こえず眉をひそめていると隣にレデリに肘で、はよはよと小突かれる

でて…でて…愛でて?! ルチルやシャロを愛でる感じで良いのかな?
んーかなり緊張するんだが機嫌を戻してもらう為には仕方ないか…
ええのんか? ほんまにええのんか?

ルチルやシャロならともかくジルは普通の女の子…
下手したら痴漢だけど、本人が望むなら仕方ないよね?

俺はそっと立ち上がり目にもとまらぬ速さでジルの後ろへと回る
「ジルさんよけてー!」
レデリさん、人を気円斬みたいに扱うのやめろ

ジルを後ろから抱き締め彼女の頬に自分の頬を擦り付ける
「よぉ~しよしよしよし…」
ふっ完璧だ…これが俺の愛でるスタイル。
本来ならば尻尾をモフモフしながらケモミミを堪能するのだが、ジルは生憎残念人魚なので代わりにツインテールをわしゃわしゃした。

ええのんか? これがええのんか?!
「ぐはぁ!」
ジルの肘鉄がもろに鳩尾に入り呼吸困難に陥る

「兄さん何してるの! ジルさんは撫でて言ったんだよ?!」
何だと?! それじゃあいきなり抱き締めたり、頬を擦り付けたりなんかしたら怒って当然だよな…

ジルはゆっくりと振り返りうずくまっている俺を見下ろすが、その顔は恍惚としており、ハァハァと息を荒げ内股でモジモジしていた

「ツインテールをわしゃわしゃするなんてショウ君のエッチ… ツインテールはまだお預けなんだからね…」
………何言ってんだこいつ?!
ジルが何者かはわからない、ただ、こいつは変態だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...