蒼炎の魔法使い

山野

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第百四話 タイトルを考えるのは意外と難しいと聞き及んでいます

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フララからの連絡があり一安心した所で、飛び立った広場へと降り立つと住民達が何と声をかけていいのかわからないと言った様子でこちらに視線を送ってきていたので、深々と一礼すると敵ではないとわかってくれたらしく住民達から歓声がどっと沸いた。

大歓声の中ベリル達に周辺の偵察を指示し、空から見つけたジルの所へと向かう。
広場から少し行った所にある噴水の縁に腰掛け何かを口ずさんでいるジルを視界に捉えた。

小ぶりな唇から零れる清らかな川のせせらぎの様な美声は、周りの大歓声を押しのけ俺達の耳まで届けられ、一瞬で俺達はその歌声の虜になり聞き入ってしまう

誰もを魅了してしまうはずの歌声なのだが、周りは飛竜隊を無事撃退出来た喜びで一杯なのか聞こえていないようだ。

歌い終わると彼女は勢いよく立ち上がり、奇抜なポーズを取りいつもの調子で口を開く
「ククク、遅かったではないか我が魂の伴侶よ! 些か難儀な問題を抱えたのだろう? 我に任せよ! ヴァルハラより持ち帰った神殺しのエクスカリバールさえあれば… もgもご…」

「もういいから! わかったから!」
高らかにバールの様な物を掲げるジルを挟んで、無表情でこちらを見ている女性と目が合い、恥ずかしさの余りジルの口を手で塞いだのだが、反撃とばかりに逆に腕を掴まれ手の平を高速でレロレロされた

「うわぁ! 止めろよ! 俺はさくらんぼじゃないぞ!」

「私はチェリーボーイが好きなの! だから、もう一回っ♪」

「チェリーじゃねぇし! 婚約者も居るんだぞ?!」

「…私が美味しく頂きました。」
ルーがジルに向かって誇らしげにVサインを送る

「えっ?! 嘘?! その顔で?! 右手と床が恋人の万年自家発電野郎だと思ってたのに!裏切り者! ショウ君の右手を見ながら想いを馳せニヤニヤしてた私の純情を返して!返してよぉ! 私とは遊びだったんだね、死んでやる、死んでやるー!! チラ」
俺の胸をポカポカ叩きながら突然その場にへたり込んで、わんわんと泣き出してしまったのだが、一体どこに悲しみを覚えているのかさっぱりわからない
女心とかそう言う次元じゃなくて、こいつという存在の意味がわからない

「死んでやるんだから! もう私生きてても仕方ないんだから! 本当に死んでやるんだからー!! チラチラ」
左手で持ったバールの様な物の切先を喉元に当てながら、右手で隠した目をちらちら覗かせる

一連のやり取りを見ていたルーやエメ、シャロ、レデリにイレスティは俺に軽蔑の眼差しを向けて来るけど、これ俺が悪いの?! 俺の方が泣きそうな事言われてるんですが?!

「少しお時間よろしいでしょうか?」
声をかけて来たのは先程ジルを挟んで目が合った女性だ
あたふたしながらジルとルー達の顔を交互に見ている俺と再度目が合うと、彼女はゆっくりとVサインを作る

「二回です」
ルー達の方を向いて突然無表情に抑揚なく発せられた彼女の言葉の意味が全く理解できない

「え? 何が?」

「私が貴方様に凌辱された回数でございます。 貴方様の子も授かっております。」
俺の頭は、お腹を擦りながら彼女の口のから放たれた言葉に理解が追い付かず、高速化で頭を回転させた弊害で思考が完全に停止、泣いていたはずのジルも、驚きの余り飛び出る位目を見開き、壊れたおもちゃの様に鈴の髪飾りをいじっている

あれ…こんな事ルーが聞いたら… 思考が動き出した時にはもう遅い
「って何か胸から鎌の切先飛び出てるし!」
ルーが背後から大鎌を刺した様で、背中を貫通して胸から突き出た赤黒い鎌の切先が、血を吸って嬉しそうに光っていた

「…ショウがどんな外道に落ちても私は愛せる。 でも取り合えず一回死んでね。 大丈夫大丈夫、すぐに終わるから。 一回だけだから。 優しくするから。」
その一回が問題なんだよ! 耳元で聞こえてる来るルーの声は完全に正気を失っており、完全に殺る気だ!

「ちょ、ちょっと待って! 何かの悪い冗談なんだろ?」
今にも殺されそうな俺を見ても、全く動じることもなく、無表情でお腹を擦っているその女性に問いかける

「いいえ事実でございます。 ソレと貴方様は二度目が合いました。 男性と目が合うと妊娠すると聞き及んでおります。 ソレは妊娠は望んでおらず、合意の上ではなかった為、凌辱とさせて頂きました。 ご不快に感じさせてしまったのなら申し訳ありませんでした。 望まない妊娠ではありましたが、 例え父親が嫌がる女性を凌辱するのが趣味な鬼畜だとしても生まれて来る子に罪はありませんし、強く生きて行こうと思います」
……本格的にヤバイ奴きたーー!! 

刺さっている鎌をゆっくりと抜いて【リカバリー】をかけ傷口を塞ぐ

「ほら見ろルー、おかしいのはあっちじゃないか」

「危なかった、あと一歩でショウを殺して私も死ぬ所だった。 後ちょっとだったのにね。」
俺の血液がべっとりついた大鎌を後ろ手に、頬を赤く染めてニコっと笑ってるのは何で?! どういう感情?!

「おかしいでしょうか? 授かった命は大事にするべきだと聞き及んでおります。 無論女で一つというのは苦労も絶えませんが、愛しの我が子の成長を見ればそんな事も気にならなくなるとも聞き及んでもおります 」
立派だよ! でも聞き及んだ話ばかりじゃねぇーか!

「まず前提として間違ってるんですよ、目が合っただけで妊娠しないから! どんだけ箱入りだよ」

「衝撃の事実でございます。 それと疑問点が一つ浮かび上がって参りました。 ソレは現在箱に入ってはおりません、入った方がよろしいのでしょうか? 尚、ソレが箱に入ること位によってどのような事が起こるのでしょうか? どんだけ、とおっしゃられていた事から推察するに程度が重要なのでしょうか? 角が立たないように平均的な選択をするならば、半分だけ入るのが無難なのしょうか? また、その際上半身と下半身で分けるのか、右半身左半身で分けるのかどちらが…」

「あーあー!!もう良いですから! 箱入りとか気にしなくていいからどんどん話がズレれて行きますから!…」
この人文字通り受け取りすぎだろ、というかかなり面倒くさい!
抑揚もなんもないから何か詰められてる気になるし…

「では話を戻させて頂きます。 どうやれば妊娠するのでしょうか? 実演していただけますか?」
ルーがこちらを見て先程よりも顔を赤くしゆっくりと頷く

「出来るか!」
衝撃の事実と言いながらも先程から眉一つ動かさず全くの無表情で抑揚なく淡々と話す彼女が誰なのかさっぱりわからない

「全く見覚えがないのですが、以前どこかでお会いしました?」
色素が薄く肌も陶器の様にきめ細かい。 清楚で気品のある顔立ちと、微動だにしない表情から人形だと言われても信じることが出来そうだ。


「いいえ、お初にお目にかかります。 ソレ、と言います。 以後お見知りおきを」
とても清楚な印象で、童貞を殺す服のスカートの端をちょこんと摘まみ、軽く膝を曲げるとボブに揃えられた髪がふわっと舞う。 彼女の所作には一片の隙も無く、逆にプログラムされたかの様な動きに感じてしまう。
名前がソレって事か? 多分itの意味のソレだよな…

「僕はショウと言います、あのー名前がソレなんですか?」

「はい、ソレはソレと呼ばれておりました。 ただ…一度だけアンジェリカとだけ呼ばれた事もあります」

「じゃあアンジェさんと呼ばせてもらいますね」
ソレっていうのは何か物みたいでやっぱり気が引けるし…オートマタ特有の関節ではないし人間で間違いないだろう。 よっぽどアンジェの方が俺の思い描いたオートマタに近いけど

「了承致しました。 ソレは鑑定の力を使い、ショウ様が一番ソレの目的を遂行出来る可能性が高いと方だと判断させてもいましたので、こちら参った次第です」
出た鑑定スキル! 何かプライベートを覗かれてるみたいで余りいい気分ではないな

「ちょっと今は忙しいのでそれが終わってからでないと無理だと思いますが…」

「ショウ様は察するにペネアノにご助力しているのではないでしょうか? そして現在状況から、オートマタが反乱を起こし、現在ペネアノ国内は大混乱だと判断しました。 恐らく使われたのはメザイヌ王国で作られた、オートマタ用の思考回路を乱す装置。この装置は一度使用すると一日は使えません。ですが再度使用されることがあれば…」

「またオートマタが暴走して復旧どころじゃないって事か…」
俺達が手助けしても数で押し切られたら一たまりもない、一刻も早く復旧してくれないと…実際俺の眷属が眷属を召喚した所で数では圧倒的に負けているだろう、いくつかの国が手を組んで攻め込んで来たらそれこそやばい、敵戦力を一刻も早く割り出す必要があるな

「復旧までにかかる時間は概ね7日、ここまで用意周到に準備された攻撃です、敵国の軍も恐らくそれは理解しているでしょう。 7日耐え切れれば軍を引かせられるはずです。 7日間耐え切る為には装置を破壊するのは必須事項だと進言致します」
守るだけじゃダメって事か、実はこれかなり厄介な状況なんじゃないか?

「それがアンジェさんのやってほしい事ですか?」

「いいえ、これはショウ様にメリットを提示してその気にさせる為に知らせただけでソレがお願いした事ではありません。 ソレがショウ様にお願いしたい事は…メザイヌ王国が作ったオートマタ部隊の、殲滅です。」
オートマタの技術ってペネアノが独占していたんじゃないっけ?
殲滅って事は引かせるだけじゃなく、一体残らず破壊しないといけないという事か…
相変わらず無表情で抑揚なく言う彼女だが、それが彼女の発した言葉の様に平坦な物では事は容易に想像がついたのだった
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