蒼炎の魔法使い

山野

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第百十二話 ハラミが内臓とか絶対嘘

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 シャロに先に行けと促されたルーメリアは屋敷の中を探索していた
 屋敷の部屋の扉を一つ一つ開けていると、やがて鼻が曲がりそうな程の悪臭を放つ部屋を見つける事となる

 鼻を刺す不快な匂いの正体は、垂れ流した排泄物の匂いだ、それに紛れて何日も風呂に入っていない体から放たれる家畜小屋の様な匂い

 部屋の中には天井から伸びたロープで両手を縛られ、座る事も許されず裸で立たされている5人の女性がおり、悪臭の原因が彼女なのは明白だった

「……大丈夫、助けにきたから。」
 そうは言っても赤黒く禍々しい大鎌を携えたルーメリアに説得力はない、どこからどう見ても正義の味方といった感じではないからだ

 女性達の身体には殴られた痕が複数あり、所々青紫色に腫れあがっていて精神的にかなり追い詰められているのが見て取れる
 ルーメリアが手を伸ばすと、逃げられもしないのに後ずさりながら、猿轡をされた口から怯えと恐怖の声が漏れる

 ロープを切ってやると3人はその場にへたり込み、2人はその場へ勢い良く倒れ込んでしまったので急いで駆け寄るってみると、すでに手遅れだった

 死因は何度も殴られた事による内臓破裂、痛みに耐えて流した涙の涙痕がまだ新しく死んでからそんなに時間が経っていない事に気が付きルーメリアは強く下唇を噛んだ

「……ジェシカから頼まれたの。 だから大丈夫、安心して。」
 まだ生きている3人にレデリのポーションを与えて回復させると、ジェシカという名前に安心したのか先程よりも少し落ち着いた様だ

「ありがとうございます、やっぱりそこの2人はもうだめだったんですね…… ずっとうめき声は聞こえてたんですけど…… 私達どうする事も出来なくて…… ごめんね……」
 生き残った3人が、亡くなった2人の下へ行き、自分達の身体よりも先に、倒れた際に排泄物で汚れてしまった2人の体を拭く

「……仇は取る。 だからどこにいるか教えて。」

「扉を出て右に真っすぐ行った部屋です。 昨日から1人戻ってません、お願いです、助けてあげてください」

「わかった、私の仲間の狐の獣人が多分ここに来るから、それまでは辛いと思うけどここに居て。」

「はい、ありがとうございます」
 そういって深々と頭を下げた3人を背に、聞いた場所へと向かい、扉を開けると大きなベットがあり、ベットに何かいるのを感じたので警戒しながら近づいて行くと、後ろで手を縛られベットの上で正座している女性が居た

 ベットに上がり手を伸ばすと、ベットが沈んだ事でバランスを保てなくなった女性の身体が前方に力なく倒れ込む。
 倒れた事で露わになった背中には刃物で『残念でした』と刻まれおり、伸ばした手を下ろして大鎌を強く握った

 この街の兵を纏めていた男は既に逃げていたのだ
 ルーメリアもそれに気付き、腸が煮えくり返った

 どんなに憤っても怒りをぶつける相手が居ない、彼女達の無念を晴らす相手が居ない
 それじゃあ悪戯に命を弄ばれたあの子達の怒りは、悲しみは何処へ行く?

 声を上げながら行き場のない怒りを大鎌に乗せて部屋中に叩きつける

 調度品を壊し、壁を壊し、窓ガラスを粉砕し、胸の内から込み上げてくる怒りに身を焦がしながら大鎌を振り回す

 頬を伝う雫は怒りから来るものなのか、無力感から来るものなのか、それとも何か別の物なのかルーメリア本人も分からない

「ルーメリアさんどうしたのですか?! 何があったのです?!」
 激しい戦闘が行われていると勘違いして急いで走って来たシャロは、大鎌を振り回して部屋を滅茶苦茶にしているルーメリアを見て何事かと声を荒げた

「はぁ……はぁ……ごめんシャロ。 ただの八つ当たりだから……」
 シャロの声に冷静さを取り戻したルーメリアは、シャロに見られないように涙を拭って、割れた窓ガラスの外から聞こえる歓声に戦いの終わりを悟り、やり切れない想いと共にその場を後にするのだった。

 ◇  ◇  ◇  ◇

 ルーメリア達の戦闘が激化する中、ブイズに駐在している兵の纏め役だった男は、早々に見切りをつけ逃げ出していた

「全くどこのバカだよ」
 あの人数相手にケンカ売って来るなんて、正気を失った奴か、余程の実力者かだ。 まぁ逃げて正解だわな。 
 あの街はやりたい放題出来るし最高だったんだけどな…… 特に最後の女なんて首絞めたら下の口がギュッと締まるからついつい締めすぎて死んじまったんだっけか?

 最高に締まり具合のいい女だったから勿体なかったな、死んでなきゃ帝国に着くまで連れまわしてヤリまくったのによ
 クソ、それも何もかもどこかのバカのせいだ、帝国に戻ったら探し出して殺してやる!
 報告では女って聞いたから、あの街の奴らみたいに家畜にするのもありだな

 計画とは違ったけど命令通り反乱は起きて住人を始末する大義名分は得られた、兵も半分以上は罪人で元々始末するやつばかりだったし帝国にとっては痛くも痒くもない

 これで俺も出世コースだな、これで嫁のジルダにも薄給だとガミガミ言われないし、今年12歳になる息子のジオにもいい教育をしてやれるだろう

 男は与えられた任務を無事遂行し、待っているであろう明るい未来を想像して頬を緩めた

 そして男は道草を食いながら4日後に帝国へと帰還し、ブイズでの一件を上層部に報告すると、皇帝との夕食の席へと招待され大いに舞い上が事となる

 家に戻る事なく城のメイド達に身支度を整えられ、夜まで待った。

 城のメイドに案内された扉の先には長いテーブルの先に座りニコニコ笑う20歳そこそこの長い金髪を一つ括りにした男、メーラ帝国の皇帝だ。

 そしてその両隣には八大将軍と呼ばれる帝国を支える将軍が控えており、その中にはフラミレッラが出会ったアラクネの姿もある

「ほ、本日はお招き頂きありがとうございます。 皇帝陛下にお会いする事ができ、光栄の極みでございます」
 何人かはいると思ってたけど八大将軍全員いるなんて聞いてないぞ……
 緊張しすぎて噛んじまったじゃねぇか!

「もっと楽にしてくれていいよ、僕はフランクな皇帝だからね」
 そう言って子供っぽく笑う皇帝に男は違和感を覚えた

 これが残虐非道な行いも眉一つ動かさずに実行するというメーラ帝国の皇帝なのか?
 まだ童心が抜け切ってない大人といった感じに思うだが……

「ありがとうございます、私も育ちが特別いいという訳ではないのでありがたいです」

「ははは、素直でいいね。 今日は君の働きが素晴らしかったから、君だけの為に特別に料理を準備したんだ、楽しんで行ってね」
 皇帝が手をパンパンと叩くとメイド達が料理を続々と運んできた

 男の前に並べられた料理は飾りつけも美しく、鮮度のいい野菜や肉がふんだんに使われ、一般庶民の男からしてみれば初めて見る物ばかりだった

「気に入ってくれたみたいだね、さぁ食べてくれていいよ、あぁ僕達は気にしないでね、実は君には悪いけど先にすませてしまったから。 それにこれは君の為だけに作らせた料理だからね」
 料理は男の前にだけしか並べられておらず、皇帝や将軍達は男が食べるのを見ているだけだ

 んー何とも食べずらいな…… でもなんだろう、初めて食べる物ばかりだけどうまいな。
 この塩漬けにした肉なんて絶品だ

 それにこのレバーのパテは今までに食べた事がない味だけど癖になる

「そんなに美味しそうに食べてくれるなら作らせたかいがあったよ、でもそんなに急いで食べてお腹一杯にしないでね、メインがそろそろ来るから」

「こんなに豪華なのにまだメインがあるのですか? こんなに良くしていただけるなんて、私は帝国軍人で良かったと心底思いました!」

「ははは、君は単純だね。 でもそういう所気に入ったよ」
 男は内心ガッツポーズをした、皇帝に気に入られれば将来安泰で、家族3人安心して暮らせる。
 親も健在だし親孝行してやってもいいかもしれない、男の心は明るい未来に心躍っていた

「ほら来たよ、君が好きな料理だったよね? なんだっけ? 美味しいから食べてね、お代は要らないよだったっけ?」
 悪戯っぽく笑った皇帝が持ってこさせた料理が男の前に並ぶと、男は驚きの余り椅子から転げ落ちてしまう

 目の前に置かれたのは細い槍でコメ噛みを貫かれて串焼きの様にされた4つの生首で、その顔には見覚えがあった

「おやじ、おふくろ! ジルダ! ジオ!」
 男の家族だ。
 自分がやったように父の目玉はくり抜かれ、切り落とされたシワシワの胸が捻じ込まれている
 母の切り落とされた鼻には父の目玉が捻じ込んであり、妻の口には息子のまだ未発達である陰部が咥えさせられていた

「泣く程嬉しかったのかい? そうだよね、君はこれが大好きだもんね? ほらどうしたの? 早く食べなよ。 もう一杯食べたでしょ?」
 そう言って悪戯が成功して喜んでいる子供の様に笑う皇帝を見て男は気付いた、今まで食べて来た料理、見た事もない肉、味

 何故自分一人だけが食べていたのか……
 男は胃に収めた自分の家族の肉を吐き出した

「勿体ないじゃないか、折角作ってくれた料理人に失礼だよ? ほら子の串焼きは頭の中身が美味しんだってさ、早く食べなよ。 あ、もしかしてさっき倒れた時に手を怪我したとか?」

「え? ぎゃーー!!」
 男の両手は宙を舞っており、痛みに声を上げる

「やっぱり! 手がないんじゃ食べれないよね、皇帝の僕が直々に食べさせてあげるよ」
 いつも間にか男の横に現れた皇帝は、目の前にある男の家族の頭をクルミの様に割り、スプーンで脳髄を穿りだす

「はい、あーん」

「やめろ、やめてくれ!!」
 近くに来た将軍の一人が無理やり口を開けさせそこに脳味噌をほおり込んでは噛ませて飲み込ませる

「どれがおいしいの? 長期熟成された、お父さんお母さんかな? それとも脂が乗ってるお嫁さん? やっぱりフレッシュな子供かな? まだまだあるから遠慮しないでね。」

「嫌だ、もうやめてください……」

「何でさ、あんなに楽しそうに君もやってたじゃないか。 自分がされて嫌な事は人にやっちゃダメって教わらなかったの? ちゃんと君がやった通り、お父さん、お母さん、お嫁さん、子供っていう順番で殺したからね? 子供なんて凄く怖そうにぶるぶる震えてすぐ目を逸らそうとするから瞼を切ってあげたんだよ。 後君が殺したあの子供にやらせた様に、君の子供の初めての相手も君のお嫁さんだよ。 死ぬ前に体験させてあげるなんて君もいい所あったんだね、偉いよ。 でも凄いね、人間の性欲ってあんな異常な状態でもちゃんと反応するんだね、首のないお母さんの死体が初めての相手とか僕だったらちょっと嫌だけなぁ。 ほらお代わりだよ」

 その後も自分の家族の脳味噌を口に捻じ込まれるという地獄の様な光景は男が全て食べきるまで続けられ、四人の頭の中が全て空になった頃には、男の精神は壊れており、皇帝も興味を失った様で執事に男を下げさせた

「あんたもやる事がエグイね、流石残虐非道な皇帝様だこと」
 髄液で汚れてた手を拭いている皇帝に、ラミア種で女性の将軍の一人が声を掛けた

「そうかな? でもあの顔は傑作だったよね。 自分の家族を食べたと知った時の顔ったらなかったよ」
 皇帝の子供の様な笑顔に呆れた様に別の将軍、ハーピー種の女が溜息を深々と付いて口を開く

「それよりも、あいつ始末しなくてよいの? 必要ならすぐに誰か行かせるわさ」

「いやいいよ、殺しちゃったら僕の噂が広がらないじゃないか。 彼には僕の事を広めて貰わないといけないし、放置でいいよ。 彼は任務を遂行したと思ってるけど違うんだよね、住民と騎士団を始末するっていうのは、食い扶持を減らす為にも必要な事だったけど、奪われるのは違うでしょ? 僕が僕の物を生かすも殺すも自由だけど、勝手に横から出てきて取られるのは気に入らないよね。 何処の誰かは知らないけどちゃんとお礼はしなくちゃね」
 子供の様に悪戯な笑みを浮かべる皇帝に、将軍達は深々と溜息を吐くのであった。
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