120 / 138
第百十五話 アンジェリカの日記
しおりを挟む
〇月〇日
今日も冒険者活動は順調。
このままいけばSランクに上がるのも近いと思う。
でも最近体がなんだか重たい日が多いのは疲れのせい?
軽やかな身のこなしから付いた二つ名、飛翔の名を持つ私の動きが鈍いなんて名折れも良いところだよね……
ゆっくり休もう……
それにしてもモレロは本当に手紙を書いてくれない。
ペネアノとメザイヌの遠距離恋愛んなんだから忙しいのはわかるけど返事位は欲しい。
私ばっかり書いて不公平だよ全く……
△月△日
何日か休んだけど体のだるさが取れない。
前みたいに軽やかな動きが出来なくなって冒険者活動に支障が出始めてる。
飛翔のアンジェリカが聞いて呆れちゃうよ本当に……
今日は確かペネアノでモレロの研究を発表する日だったけどうまく行ってるかな?
人間の体の一部をオートマタの様にするのがどうのって言ってたけど私では理解出来ない難しい言葉ばかりで途中からは全く聞いてなかったけど、そういう話をしてる時の彼の目はキラキラしていて本当に素敵だと思う。
早く会いたいなー。
◇月◇日
最近おかしい、体が思うように動かない。
たまに脚が急に上がらなくなって転倒する事が増えた、まだ私若いはずなんだけど……
落ち込んだから今日はこれでおしまい。
×月×日
風の噂で彼の研究は倫理に反しているとかで他の研究者や偉い人達に酷く非難されたらしい。
私は居てもたっても居られず彼の下へと向かう事にしたけど、階段を下りる途中で脚が動かなくなって頭を激しく打ってその場で気絶した。
モレロは間違いなく酷く落ち込んでいるのに、そんな時に彼の側に居れないなんて恋人失格。
彼は私が辛い時沢山側に居てくれた、今度は私の番なのに……なのに……どうして脚が動かないの? 揺すっても叩いても脚に何の感覚もない……
早く側に行きたいのに。ねぇお願い動いて……何で動かないの
お願いだから動いてよ!
◆月◆日
脚が動かなくなってから数日、冒険者仲間に生活の助けをしてもらってる。
みんな早く良くなれって声をかけてくれるけど、その顔は何処か暗い。
何日か経ってモレロが私の家へと来たんだけど、すぐに私の症状に気付いて顔を歪めた。
魔素循環不良で起こる不治の病の一つだと涙ながらに告げたその顔は、今までに見た事がない位悲しみに満ちていて、私はその顔をもう二度と忘れる事は出来ないと思う。
滅多に掛からない病気で下半身から順番に体が動かなくなりやがて死に至る病気らしい。
太ももに置かれる君の手の温もりを感じられないのが辛かった。
目から脚に零れ落ちる涙の感触を感じられないのが辛かった。
何より彼の悲しい顔を見る方が辛かった。
そして君は何かを決心した様な顔で私に告げたんだ、私をオートマタにすると。
〇月〇日
彼は直ぐにペネアノで激しく批判された自分の研究をこの国のお偉いさんへと持ち込んで、研究を続けれるように手配した。
この国は今、死んだ人間を蘇らせる研究に力を入れていて、それに付随する研究なら資金提供は惜しまない。
オートマタでも何でも死人が蘇るのなら何でも良いというのがこの国の方針らしい。
彼の本来の研究とは違うみたいだけど、私を助ける為に信念を捻じ曲げてまで研究を続ける事にしたみたいで、彼の研究室が作られる塔へと私も移動させられた。
もう最近じゃ左手も動かない、この右手もいつ動かなくなるかな……
怖いよ……
■月■日
右足、左足、左手、と動かなくなった場所から順番にオートマタの様になっていくのは変な感じだったけど、彼と居れるのなら何も怖い事なんてなかった。
そろそろ私の誕生日だけどモレロは覚えてくれてるかな?
今年は楽しみにしてくれってあんなに言ってたけど何してくれるつもりだったんだろう?
私の為にずっと研究ばかりしてくれてるけど、体を休めて欲しい。
理論上はうまく行くと言っていたけど本当の所はどうなんだろう?
もしダメだったとしても……
誕生日位までは生きたいな……
君が悪戯っぽく笑って楽しみにしててって言った誕生日だけ迎えられたら私はもう……
△月△日
手足にオートマタ用の金属を移植したけど動かすのは……無理だった。
ルドスガイトっていうのを脳に繋がないといけないらしいんだけど、人体でそれを試したことは未だなくて、未知の領域でどうなるかわからないらしい。
でもこのままだとどうせ死ぬし、彼の研究の役に立つのならと、リスクを承知で彼にお願いしたんだけど、彼の顔が浮かない物だったのが凄く印象に残ってる。
私は彼の笑顔が大好きなのに、私がそれを奪ってると思うと凄く辛い。
そんな顔しないで、一緒に頑張ろうね。
◇月◇日
ルドスガイトを脳に埋め込むのは成功したみたいで、体が前のように動くはどれくらいぶりだろう? 凄く前の様に感じる。
私はその手でやっと彼を抱きしめる事が出来たのが何よりも嬉しかった。
本当に嬉しくて涙が出そうなのに出なかったのが自分でも不思議。
私は凄く泣き虫なのに、強くなったのかな?
感情豊かな私が好きって言ってたけど、これは良い事だよね?
これから色々変わって行く……体全てがオートマタになって行けば、生殖機能もきっと失う……
そんな私を女として彼はみてくれるだろうか?
私は彼の側に居てもいいのかな?
×月×日
私の体は人類初の人間から作られたオートマタとなって前とは変わっちゃったけど、彼はこれまでと同じ様に、いや、以前にも増して私を大事にしてくれる。
そんな事が嬉しくてたまらないのだけど、反対に何とも言えない気持ちになる。
私は彼の子を宿せない。
彼はそんな事気にしないというけどそんなの嘘。
だって君は嘘付く時瞬きが増えるんだから……
〇月〇日
最近変わった夢をよく見る。
誰も居ない空間に私ともう一人の私が居るだけの夢……
なんだか自分が自分がなくなって行くみたいで凄く不安になる……
今はオートマタの入れ物に私っていう人格が入っているけど、それじゃあルドスガイトから形成されるはずだった人格はどうなるんだろう?
もし……夢の中のもう一人の私がその人格だったとしたら……
もし私が私じゃなくなってたら……
◆月◆日
今日彼にソレと呼ばれた。
最近モレロは私に隠し事をしている。
時々酷く冷たい時があるのに、笑いかけるといつもの優し彼に戻る。
私の事で彼に負担をかけているんだろうか? だとしたら嫌だな……
そして変な夢は今も続いてる。
夢の中の私は私の事をマスターと呼んで、何かしてほしい事はないかと尋ねてくるので、私はモレロを守る事、仲間を大事にする事、それと自分らしく生きる事というのだけど、その度にいつも表情なんてないもう一人の私の顔が悲し気に見えるのは気のせいなのかな……
〇月〇日
最近起きている居られる時間が短くなった……
体は動くのにモレロは安静にしてなさいと私を塔に閉じ込めて外に出そうとしてくれない。
彼もこの塔で研究を続けている、今は記憶だとか感情がどうだとかそういうよくわからない事を研究しているらしいと夢の中の私から聞いた。
彼ははっきり言わないし、夢の中の私もはっきり言わないけどなんとなくわかる。
もう私は私じゃなくなっていってるんだって。
君の瞼の動きが私に全部教えてくれたよ……
△月△日
彼の続けてる研究は非人道的な物で多くの人を苦しめているともう一人の私から聞いた。
お願いだからもう止めて……
私の為に誰かを傷つけないで……
もう……研究はやめて……
ごめん、もう私……愛して……
最後まで書ききることはなくそこで日記は終わっている。
所々涙を流して書いたのか滲んでいるところも多く歪んでいるページもいくつかあった。
「アンジェさん……これどういう事ですか?」
「ソレはルドスガイトが生み出したオートマタを動かすための人格でございます。オートマタの身体を動かすのにはルドスガイトの力が必要不可欠。逆にアンジェリカ様の人格は不必要であり、徐々にソレがアンジェリカ様の人格を侵食していきました。ソレがアンジェリカ様と取って代わる時にモレロ様の研究の事を話したのでございます。そしてアンジェリカ様にお願いされたのです、私の為に犠牲になった人を楽にしてあげて欲しいと。人工ルドスガイトはソレの様に新たに人格を形成される事はないですが、ご存知の通り体を動かす度に痛みを伴います。生きた人間や死体に実験をしてまで何故モレロ様が何故人工ルドスガイトを生み出したかというと……」
「それは自分で話すよ」
部屋の奥にあった扉から出て来て声をかけて来たのは不衛生に髪や髭を伸ばした男だった。
恐らくこの人が日記になったモレロという人なのだろう
「よく来たね、こっちも終わった所だし丁度良かったよ。さて、何故人工ルドガイトを生み出したかというと……簡単さ、アンジェリカの記憶や感情を取り戻す為の研究に必要だったからだよ。ルドスガイトは感情を食って人格を作り、人の感情を原動力にして動いてる。ソレの感情がないのは常にルドスガイトに感情を必要以上に食われているからさ」
「でもペネアノで見たオートマタは感情豊かでしたよ」
「普通のオートマタは誰かと主従関係を結んで相手の感情と自分の感情を食って動いてるのさ。ソレの主人は自分自身。だから本来2人で賄っていたエネルギーを一人で賄う事により必定以上に感情を食われてるせいで、ただの人形になってるって訳だよ」
モレロがアンジェを一瞥した後、額に手を当て体を剃り返して高笑いを始めた
「僕はねぇ、感情豊かなアンジェリカが大好きだったんだ、でも見てくれよソレを! こんなのただの勝手に動く人形だ! 自分の愛している人の好きな所を自分の手で無くしてしまうなんて滑稽だろ?! いいよ笑ってくれよ! こんな愉快な事はないだろぉ?!」
指を差してバカにした様に笑うモレロにも、アンジェは全く動じる事なく彼の独白に静かに耳を傾けている
「彼女の記憶を、感情を取り戻す為に色々やったよ……でもダメだったんだ、やればやる程もうアンジェリカは戻ってこない事がわかって行く! 痛みに悶えて殺してと助けを乞う者を見れば見る程彼女が遠ざかって行く! 一番大事な人が消え、そして最後に残ったはソレだ。 ただの抜け殻。君達は装置の破壊に来たんだろ、心配しなくても次期に壊れる様に仕込んでおいた。だからその日記を置いて早く立ち去ってほしい。彼女を感じれる物はこの部屋とその日記だけ……頼むから彼女と僕の世界に入ってこないでくれ……」
モレロは泣きながら、頭を抱えてその場に蹲った
人間をオートマタにして色々と非人道的な事をしたのは許される事ではないが、愛する者の為に希望の光を持ち続けて暗闇の中を走り、今尚暗闇から抜け出せないでいる彼を俺は責める気になれない。
そんな哀れな男の横を通り過ぎようとした時、モレロの命を狙うべく、頭目掛けて飛んできた 高速の矢をアンジェの魔工銃から放たれた魔素弾が迎撃したが、攻撃はそれだけではなくミントの呪縛帯も彼を狙っており、俺の【電光石火】で彼を抱えて躱した事でなんとか難を逃れた
「あれれー新しい雇い主さん、俺達の目的が復讐だって話したよね? 何で邪魔するの? まさか復習なんかで死んだ人間は喜ばないなんて言わないよね?」
扉が開かれ声をかけて来たのはアーチャーのウィオだ
「そんな下らない事言いませんよ。僕は復讐容認派です」
復讐なんて意味がない、そんな事をしてあいつが喜ぶと思うか? 復讐なんてしてもあいつは戻ってこない。 俺はこんな事を平気で言える奴の神経はどうかしていると思う。
そんな事は言われなくてもわかってるし、復讐しないと前に進めない奴だっている。
だが確認しておきたかった
「アンジェさん何故助けたのですか? アンジェさんも彼らの復讐を了承したんじゃなかったんです?」
「ソレはその事に関しては何も返事をしておりません」
確かに返事はしてないけど……それ後出しすぎない?!
「彼らと戦うんですか?」
目の前にはアーチャーのウィオ、錬金術師のマホーン、呪術師のミントが今にも飛び掛かって来そうな勢いで事の成り行きを見守っていた
こっちらにはバールの様なものを持ったジルも合流して俺とアンジェさんと後ろにはモレロさんがいる。
「ソレはマスターにモレロ様を守るよう仰せつかっておりますのでモレロ様をお守りせねばなりません。それと彼らはアンジェリカ様のかつての仲間。マスターに仲間を大事にする事と言われておりますので応戦は致しません」
「それじゃあ一方的にやられるだけじゃないですか!」
「そうかもしれません、ですが、それがソレらしく生きるという事だと思いますので。ショウ様はお下がりくださいませ。大丈夫でございます、彼らの目的は達成できますし、そうすれば何の確執なく当初の予定通りショウ様の仲間となっていただけるでしょう。私に感情はありませんので自分が消滅する事に何も抵抗はありませんのでショウ様が気に病む必要はありませんし、それが最善でございます」
アンジェさんの決心は固く何を言っても無駄の様だ
これが最善果たしてそうだろうか?
「いやはや……変に頑固な所はアンジェリカみたいなんだがな」
「あれは余の知っているアンジェリカではない、ただの入れ物に過ぎぬ」
「あぁ……だから容赦なく壊せるさ」
あの人達何も言わなかったけどアンジェリカさんの仲間だったのか。
見た目だけは一緒だけど、中身が違うアンジェさんを見るのは複雑だろうな……
それにしても本来モレロさんを恨むのはおかしいと思う。
モレロさんは全力を尽くして、どっちにしても死んでいたアンジェリカさんをこんな形とは言え生きながらえさせたのだから。
だからといって勿論簡単に割り切れる事じゃないのもわかる。
人格がなくなるというのは死んだも同じなのだから。
「ショウ君どうするの?! ねぇ?!」
やる気満々の向こうの態度にジルが焦ったように俺にどうするか問うが未だ答えは出ていない。
「俺は……」
「魔道具【竜の髭】」
ショウとジルが迷っていると、その隙をついてマホーンの持っていた魔道具から伸びて来た拘束具で手足の自由を奪われ、その一瞬でウィオが矢を放ち、アンジェ目掛けて飛んで行く
しまった!アンジェさんに動く気配はなく、このままだと頭を撃ち抜かれて他のオートマタ同様ドロドロに溶けてしまう!
「アンジェリカ、君は昔からよく最善を間違える。最善はこれだろう?」
そう言って後ろにいたはずのモレロがアンジェの前に出て、飛んでくる矢をその身に受けその場に倒れこんだ事に俺とジルだけではなく、対峙していた三人も大いに困惑した。
そして倒れたモレロが満足した表情で口を開く……
今日も冒険者活動は順調。
このままいけばSランクに上がるのも近いと思う。
でも最近体がなんだか重たい日が多いのは疲れのせい?
軽やかな身のこなしから付いた二つ名、飛翔の名を持つ私の動きが鈍いなんて名折れも良いところだよね……
ゆっくり休もう……
それにしてもモレロは本当に手紙を書いてくれない。
ペネアノとメザイヌの遠距離恋愛んなんだから忙しいのはわかるけど返事位は欲しい。
私ばっかり書いて不公平だよ全く……
△月△日
何日か休んだけど体のだるさが取れない。
前みたいに軽やかな動きが出来なくなって冒険者活動に支障が出始めてる。
飛翔のアンジェリカが聞いて呆れちゃうよ本当に……
今日は確かペネアノでモレロの研究を発表する日だったけどうまく行ってるかな?
人間の体の一部をオートマタの様にするのがどうのって言ってたけど私では理解出来ない難しい言葉ばかりで途中からは全く聞いてなかったけど、そういう話をしてる時の彼の目はキラキラしていて本当に素敵だと思う。
早く会いたいなー。
◇月◇日
最近おかしい、体が思うように動かない。
たまに脚が急に上がらなくなって転倒する事が増えた、まだ私若いはずなんだけど……
落ち込んだから今日はこれでおしまい。
×月×日
風の噂で彼の研究は倫理に反しているとかで他の研究者や偉い人達に酷く非難されたらしい。
私は居てもたっても居られず彼の下へと向かう事にしたけど、階段を下りる途中で脚が動かなくなって頭を激しく打ってその場で気絶した。
モレロは間違いなく酷く落ち込んでいるのに、そんな時に彼の側に居れないなんて恋人失格。
彼は私が辛い時沢山側に居てくれた、今度は私の番なのに……なのに……どうして脚が動かないの? 揺すっても叩いても脚に何の感覚もない……
早く側に行きたいのに。ねぇお願い動いて……何で動かないの
お願いだから動いてよ!
◆月◆日
脚が動かなくなってから数日、冒険者仲間に生活の助けをしてもらってる。
みんな早く良くなれって声をかけてくれるけど、その顔は何処か暗い。
何日か経ってモレロが私の家へと来たんだけど、すぐに私の症状に気付いて顔を歪めた。
魔素循環不良で起こる不治の病の一つだと涙ながらに告げたその顔は、今までに見た事がない位悲しみに満ちていて、私はその顔をもう二度と忘れる事は出来ないと思う。
滅多に掛からない病気で下半身から順番に体が動かなくなりやがて死に至る病気らしい。
太ももに置かれる君の手の温もりを感じられないのが辛かった。
目から脚に零れ落ちる涙の感触を感じられないのが辛かった。
何より彼の悲しい顔を見る方が辛かった。
そして君は何かを決心した様な顔で私に告げたんだ、私をオートマタにすると。
〇月〇日
彼は直ぐにペネアノで激しく批判された自分の研究をこの国のお偉いさんへと持ち込んで、研究を続けれるように手配した。
この国は今、死んだ人間を蘇らせる研究に力を入れていて、それに付随する研究なら資金提供は惜しまない。
オートマタでも何でも死人が蘇るのなら何でも良いというのがこの国の方針らしい。
彼の本来の研究とは違うみたいだけど、私を助ける為に信念を捻じ曲げてまで研究を続ける事にしたみたいで、彼の研究室が作られる塔へと私も移動させられた。
もう最近じゃ左手も動かない、この右手もいつ動かなくなるかな……
怖いよ……
■月■日
右足、左足、左手、と動かなくなった場所から順番にオートマタの様になっていくのは変な感じだったけど、彼と居れるのなら何も怖い事なんてなかった。
そろそろ私の誕生日だけどモレロは覚えてくれてるかな?
今年は楽しみにしてくれってあんなに言ってたけど何してくれるつもりだったんだろう?
私の為にずっと研究ばかりしてくれてるけど、体を休めて欲しい。
理論上はうまく行くと言っていたけど本当の所はどうなんだろう?
もしダメだったとしても……
誕生日位までは生きたいな……
君が悪戯っぽく笑って楽しみにしててって言った誕生日だけ迎えられたら私はもう……
△月△日
手足にオートマタ用の金属を移植したけど動かすのは……無理だった。
ルドスガイトっていうのを脳に繋がないといけないらしいんだけど、人体でそれを試したことは未だなくて、未知の領域でどうなるかわからないらしい。
でもこのままだとどうせ死ぬし、彼の研究の役に立つのならと、リスクを承知で彼にお願いしたんだけど、彼の顔が浮かない物だったのが凄く印象に残ってる。
私は彼の笑顔が大好きなのに、私がそれを奪ってると思うと凄く辛い。
そんな顔しないで、一緒に頑張ろうね。
◇月◇日
ルドスガイトを脳に埋め込むのは成功したみたいで、体が前のように動くはどれくらいぶりだろう? 凄く前の様に感じる。
私はその手でやっと彼を抱きしめる事が出来たのが何よりも嬉しかった。
本当に嬉しくて涙が出そうなのに出なかったのが自分でも不思議。
私は凄く泣き虫なのに、強くなったのかな?
感情豊かな私が好きって言ってたけど、これは良い事だよね?
これから色々変わって行く……体全てがオートマタになって行けば、生殖機能もきっと失う……
そんな私を女として彼はみてくれるだろうか?
私は彼の側に居てもいいのかな?
×月×日
私の体は人類初の人間から作られたオートマタとなって前とは変わっちゃったけど、彼はこれまでと同じ様に、いや、以前にも増して私を大事にしてくれる。
そんな事が嬉しくてたまらないのだけど、反対に何とも言えない気持ちになる。
私は彼の子を宿せない。
彼はそんな事気にしないというけどそんなの嘘。
だって君は嘘付く時瞬きが増えるんだから……
〇月〇日
最近変わった夢をよく見る。
誰も居ない空間に私ともう一人の私が居るだけの夢……
なんだか自分が自分がなくなって行くみたいで凄く不安になる……
今はオートマタの入れ物に私っていう人格が入っているけど、それじゃあルドスガイトから形成されるはずだった人格はどうなるんだろう?
もし……夢の中のもう一人の私がその人格だったとしたら……
もし私が私じゃなくなってたら……
◆月◆日
今日彼にソレと呼ばれた。
最近モレロは私に隠し事をしている。
時々酷く冷たい時があるのに、笑いかけるといつもの優し彼に戻る。
私の事で彼に負担をかけているんだろうか? だとしたら嫌だな……
そして変な夢は今も続いてる。
夢の中の私は私の事をマスターと呼んで、何かしてほしい事はないかと尋ねてくるので、私はモレロを守る事、仲間を大事にする事、それと自分らしく生きる事というのだけど、その度にいつも表情なんてないもう一人の私の顔が悲し気に見えるのは気のせいなのかな……
〇月〇日
最近起きている居られる時間が短くなった……
体は動くのにモレロは安静にしてなさいと私を塔に閉じ込めて外に出そうとしてくれない。
彼もこの塔で研究を続けている、今は記憶だとか感情がどうだとかそういうよくわからない事を研究しているらしいと夢の中の私から聞いた。
彼ははっきり言わないし、夢の中の私もはっきり言わないけどなんとなくわかる。
もう私は私じゃなくなっていってるんだって。
君の瞼の動きが私に全部教えてくれたよ……
△月△日
彼の続けてる研究は非人道的な物で多くの人を苦しめているともう一人の私から聞いた。
お願いだからもう止めて……
私の為に誰かを傷つけないで……
もう……研究はやめて……
ごめん、もう私……愛して……
最後まで書ききることはなくそこで日記は終わっている。
所々涙を流して書いたのか滲んでいるところも多く歪んでいるページもいくつかあった。
「アンジェさん……これどういう事ですか?」
「ソレはルドスガイトが生み出したオートマタを動かすための人格でございます。オートマタの身体を動かすのにはルドスガイトの力が必要不可欠。逆にアンジェリカ様の人格は不必要であり、徐々にソレがアンジェリカ様の人格を侵食していきました。ソレがアンジェリカ様と取って代わる時にモレロ様の研究の事を話したのでございます。そしてアンジェリカ様にお願いされたのです、私の為に犠牲になった人を楽にしてあげて欲しいと。人工ルドスガイトはソレの様に新たに人格を形成される事はないですが、ご存知の通り体を動かす度に痛みを伴います。生きた人間や死体に実験をしてまで何故モレロ様が何故人工ルドスガイトを生み出したかというと……」
「それは自分で話すよ」
部屋の奥にあった扉から出て来て声をかけて来たのは不衛生に髪や髭を伸ばした男だった。
恐らくこの人が日記になったモレロという人なのだろう
「よく来たね、こっちも終わった所だし丁度良かったよ。さて、何故人工ルドガイトを生み出したかというと……簡単さ、アンジェリカの記憶や感情を取り戻す為の研究に必要だったからだよ。ルドスガイトは感情を食って人格を作り、人の感情を原動力にして動いてる。ソレの感情がないのは常にルドスガイトに感情を必要以上に食われているからさ」
「でもペネアノで見たオートマタは感情豊かでしたよ」
「普通のオートマタは誰かと主従関係を結んで相手の感情と自分の感情を食って動いてるのさ。ソレの主人は自分自身。だから本来2人で賄っていたエネルギーを一人で賄う事により必定以上に感情を食われてるせいで、ただの人形になってるって訳だよ」
モレロがアンジェを一瞥した後、額に手を当て体を剃り返して高笑いを始めた
「僕はねぇ、感情豊かなアンジェリカが大好きだったんだ、でも見てくれよソレを! こんなのただの勝手に動く人形だ! 自分の愛している人の好きな所を自分の手で無くしてしまうなんて滑稽だろ?! いいよ笑ってくれよ! こんな愉快な事はないだろぉ?!」
指を差してバカにした様に笑うモレロにも、アンジェは全く動じる事なく彼の独白に静かに耳を傾けている
「彼女の記憶を、感情を取り戻す為に色々やったよ……でもダメだったんだ、やればやる程もうアンジェリカは戻ってこない事がわかって行く! 痛みに悶えて殺してと助けを乞う者を見れば見る程彼女が遠ざかって行く! 一番大事な人が消え、そして最後に残ったはソレだ。 ただの抜け殻。君達は装置の破壊に来たんだろ、心配しなくても次期に壊れる様に仕込んでおいた。だからその日記を置いて早く立ち去ってほしい。彼女を感じれる物はこの部屋とその日記だけ……頼むから彼女と僕の世界に入ってこないでくれ……」
モレロは泣きながら、頭を抱えてその場に蹲った
人間をオートマタにして色々と非人道的な事をしたのは許される事ではないが、愛する者の為に希望の光を持ち続けて暗闇の中を走り、今尚暗闇から抜け出せないでいる彼を俺は責める気になれない。
そんな哀れな男の横を通り過ぎようとした時、モレロの命を狙うべく、頭目掛けて飛んできた 高速の矢をアンジェの魔工銃から放たれた魔素弾が迎撃したが、攻撃はそれだけではなくミントの呪縛帯も彼を狙っており、俺の【電光石火】で彼を抱えて躱した事でなんとか難を逃れた
「あれれー新しい雇い主さん、俺達の目的が復讐だって話したよね? 何で邪魔するの? まさか復習なんかで死んだ人間は喜ばないなんて言わないよね?」
扉が開かれ声をかけて来たのはアーチャーのウィオだ
「そんな下らない事言いませんよ。僕は復讐容認派です」
復讐なんて意味がない、そんな事をしてあいつが喜ぶと思うか? 復讐なんてしてもあいつは戻ってこない。 俺はこんな事を平気で言える奴の神経はどうかしていると思う。
そんな事は言われなくてもわかってるし、復讐しないと前に進めない奴だっている。
だが確認しておきたかった
「アンジェさん何故助けたのですか? アンジェさんも彼らの復讐を了承したんじゃなかったんです?」
「ソレはその事に関しては何も返事をしておりません」
確かに返事はしてないけど……それ後出しすぎない?!
「彼らと戦うんですか?」
目の前にはアーチャーのウィオ、錬金術師のマホーン、呪術師のミントが今にも飛び掛かって来そうな勢いで事の成り行きを見守っていた
こっちらにはバールの様なものを持ったジルも合流して俺とアンジェさんと後ろにはモレロさんがいる。
「ソレはマスターにモレロ様を守るよう仰せつかっておりますのでモレロ様をお守りせねばなりません。それと彼らはアンジェリカ様のかつての仲間。マスターに仲間を大事にする事と言われておりますので応戦は致しません」
「それじゃあ一方的にやられるだけじゃないですか!」
「そうかもしれません、ですが、それがソレらしく生きるという事だと思いますので。ショウ様はお下がりくださいませ。大丈夫でございます、彼らの目的は達成できますし、そうすれば何の確執なく当初の予定通りショウ様の仲間となっていただけるでしょう。私に感情はありませんので自分が消滅する事に何も抵抗はありませんのでショウ様が気に病む必要はありませんし、それが最善でございます」
アンジェさんの決心は固く何を言っても無駄の様だ
これが最善果たしてそうだろうか?
「いやはや……変に頑固な所はアンジェリカみたいなんだがな」
「あれは余の知っているアンジェリカではない、ただの入れ物に過ぎぬ」
「あぁ……だから容赦なく壊せるさ」
あの人達何も言わなかったけどアンジェリカさんの仲間だったのか。
見た目だけは一緒だけど、中身が違うアンジェさんを見るのは複雑だろうな……
それにしても本来モレロさんを恨むのはおかしいと思う。
モレロさんは全力を尽くして、どっちにしても死んでいたアンジェリカさんをこんな形とは言え生きながらえさせたのだから。
だからといって勿論簡単に割り切れる事じゃないのもわかる。
人格がなくなるというのは死んだも同じなのだから。
「ショウ君どうするの?! ねぇ?!」
やる気満々の向こうの態度にジルが焦ったように俺にどうするか問うが未だ答えは出ていない。
「俺は……」
「魔道具【竜の髭】」
ショウとジルが迷っていると、その隙をついてマホーンの持っていた魔道具から伸びて来た拘束具で手足の自由を奪われ、その一瞬でウィオが矢を放ち、アンジェ目掛けて飛んで行く
しまった!アンジェさんに動く気配はなく、このままだと頭を撃ち抜かれて他のオートマタ同様ドロドロに溶けてしまう!
「アンジェリカ、君は昔からよく最善を間違える。最善はこれだろう?」
そう言って後ろにいたはずのモレロがアンジェの前に出て、飛んでくる矢をその身に受けその場に倒れこんだ事に俺とジルだけではなく、対峙していた三人も大いに困惑した。
そして倒れたモレロが満足した表情で口を開く……
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる