蒼炎の魔法使い

山野

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第百二十七話 学園編のテンプレはよ

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  「えーっと……ショウです。よろしくお願いします」
 俺がそう言って頭を下げると、顔はいまいちだけど伯爵ってのはいいわよね? なんていう失礼な会話が聞こえて来た。
 俺の耳は悪口に敏感なのだ。

「我は悠久の時を生きる時の……イテッ! ちょっとショウ君なにするの?!」
 ジルがまた変なポーズを取って出会った時の様な自己紹介をしようとしたのでチョップでそれを制した。

「普通にしろ、普通に。伝わりにくいだろ」

「ふんっだ! 私の個性をどうして潰すかな? まぁでも仕方ないね。私はジル。ショウ君の従者? やってます、よろしく」
 パーカーのポケットに両手を入れてそっけなく挨拶したにも関わらず俺の時とは違い拍手が起こり、男の中にはジルに熱い視線を送っている者も居る。特にミニスカとニーソとの間に出来る絶対領域に多くの視線が集まっているのは言うまでもない。

 正直内面はなしだけど、クリっとした目が特徴的でかなり可愛いからなこいつ、肉好きも程よくて太ももはかなりエロイしな。

「ソレはアンジェと言います。ショウ様の秘書官でございます。以後お見知りおきを」
 相変わらずの微動だにしない表情と、何の感情も込められていない声色での挨拶なのだが、スカートの端を摘まんで挨拶する所作は完璧で、ロングボブに切りそろえられた綺麗な髪がふわっと漂わせる香りや、揺れる胸に思春期真っ盛りの男子は前かがみにならざるを得ない。

 でも残念だったな、アンジェはオートマタだ、行為は出来ても子供は作れないし、何かの間違いで行為に及べたとしても、マグロなのは想像に難くないので思っているよりも楽しめないのだよ!

 第一回チキチキ、ショウ君と行く学園編のじゃんけん大会を制したのはジルとアンジェの二人だ。
 近衛を連れて行かないと外出は許可出来ないとオニキスに何故か怒られたので、影の中にセレナとスピナを潜らせてステルスを掛けたシトリンを肩に乗せている。

 ジルは音魔術の応用を使い、空気の振動パターンから指の動きを予測して勝ち抜き、アンジェは筋肉の動きから何が出るかの確立をはじき出して勝ち抜いたガチ勢だった。彼女達相手にとってじゃんけんとは運ゲーではないらしい。

 まぁ人としての相性は一番悪い二人なのだが……

「それじゃあ……申し訳ないんだけど三人あそこの席でいいかな? 隣に居るのは貧民街出身なんだが……」
 前国王が平等というのに力を入れていた様で、その意向によりこの学園は表向きはどんな生徒も平等に扱うと謳っている。金さえ払えば身分に関係なく入学できるのは確かにいい事なのかもしれないけど、平等には程遠いのが現状といったところだろう、教師ですらはっきりと生徒を区別してるし。

 貧民街の子と聞いて目を向けてみると……
 昨日死のうとしてたあの子だ! あの汚かったローブがこの学園のだという事は知っていた。だからこの学園に居るとは思ってたけど同じクラスとか俺を殺す気か?!

 今度は俺が死にたい! 流石に昨日のは黒歴史過ぎた、思い出しただけで四回は死ねる!
 秘密の会合場所の近くに居て偶然出会った彼女……

 何が可愛い後輩キャラだよ、俺みたいな奴が言ったらきもすぎるだろ!

 可愛い女の子に抱きつかれて変なテンションになちゃって夕日に向かって叫んじゃったし、恥ずかし過ぎるだあれは!!

 そんな事に頭を抱えながら別の頭でクラスの状況を冷静に分析する。
 40名程いる内の30人以上は身なりの良い服装をしているし貴族か金持ちの平民だろう、残りはいかにも普通の服装で、ウルだけが小汚い恰好をしていた。貧民街から来てるのは彼女だけなのだろう。

 女子の顔面で言えばウルがダントツだ、少しだけ垂れ目で愛嬌のある顔立ちは、耳に髪を掛けたエアリーなショートボブと相まって非常に可愛いくて何だかイジメたくなる気持ちもわかる。

 がそれは女の子としてだ、道具の様に扱ってしごかせたり咥えさせたいわけじゃない、嫌がりながらも恥じらって喜ぶのが見たいといういい意味のイジメだ。いい意味のイジメって何だ……

「貧民街出身の者の近くは不本意ではありますけど、学園の方針では仕方ないですね」
 そう言って昨日出会った事などなかったかのように彼女の近く腰掛けた。
 俺の言葉を聞いてジルがキっと俺と睨んだが、あそこで気にしませんよなんて言うのは良くない。あれが最適だ。

 その証拠にウルも少しほっとしたような表情を浮かべている。

 授業中も、後ろの席の生徒にペンを強く刺されたり、ゴミを投げられたりしてるのに、ウルは怒るでもなく力なく笑って返すだけだった。

 アンジェを見るとまるで無関心といった様子で姿勢よく前を向いている。
 ジルは……まぁそうだよな、俺だって同じ気持ちだ。

 彼女は何かを堪える様に拳をギュッと握り、堪える様にずっと眉間に皺を寄せていた。
 リンデだったら机をドンと叩いて……いや叩き割って立ち上がってブチ切れいるに違いない。
 我が愛しの脳筋ゴリラと一緒じゃなくて良かった……そんな事されると余計に拗れる。

 授業が終わった休み時間、一人の男子生徒がウルの下へと来た。
 身なりも良く、色黒の短髪、いかにもスポーツが出来そうなスクールカースト上位種だ。
 カードゲームなら間違いなく生贄二体必要だろうな。

 そんな男が大声でウルに詰め寄る
「おい、お前何で昨日帰ったんだ! 昨日は俺達のグループを相手する日だっただろう? わかってんのか?!」
 ウルの体はビクンと硬直してしまい、彼の恫喝にすっかり怯えてしまっていた

「留学生君、あの女は娼婦の娘だから好きにしていいからね。ただし順番は守らないとだけど。あーでも本番だけはやめときなよ? 娼婦の娘なんてどんな危ない病気うつされるかわかったもんじゃないからね。昨日はあいつらのグループの番だったんだけど授業の途中、あの便所女帰っちゃってさ、あ、ここからが面白くなるよ」
 本当に、それはもう本当に耳障りで不愉快極まりない口調と声色で話す薄汚い口を縫い付けてやりたいけどここはぐっと堪えた。

 ジルは今にもバールの様な物で殴りかかりそうだったので腕を強く掴んでそれを制す。

「……ごめんない、昨日は具合が悪くて……」

「てめぇの具合なんて知らねぇよ! 俺達の番ってわかってて帰ったんじゃねぇーだろうな?!」
 髪をわしゃっと掴んで立ち上がらせ彼女の耳元で叫んだ

「水魔法【ウォーター】」
 ウルの頭上から大量の水が降りウルの体が水浸しとなる

「生温いなぁやるならもっと派手にやろうよ」
 俺は男からウルを奪い取り腹を殴ると、彼女の口から大量の血が吐き出される。
 それでも何度も何度も殴り、殴る度に大量の血が吐き出されるので周りがざわつき始めた。

 飛び出してきそうなジルはアンジェにしっかりと押さえつけておくように頼んであるので問題ない。
「おい、流石にそれじゃあ死ぬんじゃないか?」

「何言ってんだよ、いいだろ別に死んだって。どうせ貧民街の女なんだろ?」

「貧民街で起こった事なら問題ないけどここは学園だよ? みんな見てるし、この国は死刑こそないけど、殺人は何年か強制労働させられるよ?」

「ふーん、死なない程度に痛めつければ良いって事だろ? じゃあまだ殴れるじゃん! ほらもっといい声で鳴けよ!」
 俺は笑いながらウルの腹を殴りまくった、吐き出された血の量から言ってかなりヤバいので周りもかなり引き気味に見ている。

「そろそろ死にそうだからこの辺にしとくか、血まみれでだし体べとべとだし気持ち悪いな。トイレでもいって顔洗ってこいよ、アンジェ連れて行ってやれ。死ぬ寸前まで殴った事が教師にばれても面倒だしな」

「承知致しました」
 アンジェは俺に言われた通り、ウルを抱えてトイレへと向かう。
 床は水浸しだし血まみれだしクラスの全員引いているなか、ジルが俺の腕を掴んで今までに聞いた事ない程の冷たい声で俺に着いて来るように告げた。

 人気のない校舎裏に着くなり彼女はバールの様な物を取り出して俺に振り下ろす。

「確かに今回は違うと思ったけどここまでだとは思ってなかった。お前なんて助ける価値なんてない、今ここで死ね!」
 そう言って彼女は何度も俺に向かってバールの様な物を振り回した。

「ちょっと待てってジル!」
 こいつ本気だ! 外れて抉られた地面がその本気度を表している。

「待たない、今すぐ死んで! ちょっとでも期待してた私が馬鹿だった!」
 俺の話になんて聞く耳を持たず振り回されたバールの様な物が空を切る音が何度か響いた時、申し訳なさそうなウルの声がジルの冷静さを取り戻させた。

「ジルさん違うの、ショウはあの……私を庇ってくれたの……」
 モジモジと指を組んで怒っているジルを怯えながら見ていた。

「え?」
 何を言っているのか理解できない様子でジルはウルと俺を交互に見る

「私その……怖くて漏らしちゃったんです……」
 ウルは恐怖で漏らしていた。スカートを履いていた彼女の太ももを伝って流れて来たご褒美……ではなく聖水にいち早く気付いた俺は、他の者に気付かれない様に水を被せのだ。

 怖い時って体は硬直するのに排泄器官は緩むから不思議。
 ウルに近づいて濡れた服を乾かしてやる。

 その間もちらちらを上目遣いを送って来たり、モジモジしたり、手を近づけるとビクっとしたり一々可愛い所が目立つ。

「それに殴られた感覚もないのに体が浮いて、知らない内に血を吐き出してたの」
 風魔法で体をちょっと浮かせて、血はルーとイレスティの大好物の瘡蓋で覆われた鮮血フルーツの小さい奴を破裂させたのだ。

 冒険者でもない学生程度の目なら少しの身体強化で容易に欺ける。

「だ、だよねーそれ位知ってたよー? これはただの準備運動だからー。我の退屈凌ぎに付き合うとは誠に大義であった! あーはっはっ……うぅっ!」
 余りにもイラッとしたのでジルの両頬を全力で摘まむんで千切れる勢いで引っ張る

「痛いよショウ君……でも何で普通に止めなかったの?」
 かなりの力を込めて引っ張ってやったので親知らずを抜いた後みたいに頬があれ上がっている。

「はぁわかってないなジル、じゃあ正義感を振りかざして止めに入ったとする、結果、その場は収まるけど後で助けて貰ったからって調子のってんじゃねぇーよと更にイジメが更に陰湿になる」

「んーそういう物なの? じゃあ大人に相談するとか?」

「それも愚行だな、そうすると何お前チクってんだよ調子乗ってんじゃねーよと、イジメが更に陰湿になる」

「あーもう、じゃあどうするの? 私達が仲良くするとか?」

「そうすると仲間が出来たからって調子乗ってんじゃねーよと更に陰湿になる上に、俺達もハブられる」

「何でそんなに見て来た様にわかるの?!」
 見て来たんだよ……俺の場合はイジメられたというわけじゃなくてハブられてただけなんだけど……あれ? これもイジメにはいるのか?

「まぁとりあえずは情報収取からだろう。ああいうのはライブの一体感みたいなもんで、ウルなら何をしてもいいっていう空気は中々払拭できない。でも俺達っていう異物と、さっきの俺の行動で少しは空気が変わったんじゃないかな? 後俺はちょっと危ない奴って思われてるだろうからある意味で一目置かれた存在になれたと思う。こういう集団生活では地位が物を言うからな、ポジショニングは大事だ」
 学校なんて殆どない異世界人とは違ってこちとら集団生活は学校でなれてるからスクールカースト上位がどういう存在かは大体理解しているつもりではある。

 スタートダッシュの大事さは身に染みているからな。

「ねぇ……私に構わなくていいよ……評判悪くなっちゃうよ? 私はさ……今まで通りでもいいから。ただ時々でもこうやって話してくれたら嬉しいかな、そしたら……嫌な事も我慢できるから」
 ほらまたそうやって力なく笑った。また自分を押し殺してる。この顔を見ると胸が締め付けられそうになるくらい苦しい。でもそれは多分俺が異物だから。

 元の世界にも勿論イジメられている子が居たけど可哀そうだな位にしか思ってなかった、それは俺も教室の空気の一部になっていたからだと思う。その異常性が日常になっていたのだ。

 助けるなんておこがましい事は多分俺には出来ない。でも、気兼ねなく話せる相手、そういうのが居るだけで本当に人って救われるから。

 俺には俺の目的もあるし、暫くここには滞在しないといけないし無理のない範囲で何とか出来ればいいんだけど……
 だけど助けるなんて言えない、こういうのはどんなことになっても背負う覚悟がないなら必要以上に手を出しちゃいけないのだ。

「ショウ様、そろそろ休み時間が終わりますので、教室に戻る事を進言致します」

「了解、じゃあ別々に戻ろうか」
 そして俺達三人と、ウルは別々に戻った。

 授業が全て終わると、俺に腹を殴られ死にそうになっていたことなどお構いなしで盛りの付いた猿の様な男達がウルの手を引っ張り人気のない場所へと消えていく。

「ショウ君だっけ……さっきは凄かったね、僕興奮しちゃったよ……あ、ごめんね、僕はベンノ。あの時は本当に殺しちゃうんじゃないかと思ってゾクゾクしちゃった……」
 話しかけて来たのは女の子と間違えてもおかしくない程の整った顔立ちの美少年で、身なりや端々に出る所作から貴族なのだろうという事が伺える。女の子の恰好をしていたら普通に可愛いと思ってしまう所だ。

「思い出しただけでもうカチカチだよ……それに凄く湿ってる……ほら触ってみて……」
 彼は俺の手を取って自分の膨らんだ股間へと当てようとしたので慌てて手を振りほどいた

「ふふふ、うぶだなぁ……僕のいかに興奮しているか感じて欲しかったのに……ああいうのもっと見せてくれると嬉しいな。じゃあ今日は予定があるから帰るね。ばいばい」
 俺が何も言えないままでいる中、膨らんだ股間など気にする様子もなくウインクを飛ばして教室を出て行った。

「これは奥様方にご報告せねばなりませんね」

「アンジェ、一体ルー達にどう報告するつもりなの?」

「それをショウ様にお教えする訳には参りません」
 俺の秘書官なのに……まぁ監視役でもあるようだ。
 変な汗をかきつつ周りを見るともう俺達だけになっていた。

「ショウ君」
 ジルがウルが連れていかれた方を見ながら俺に声を掛けた

「わかってるよ。二人は先に戻ってて。見てもあんまりいいものじゃないだろうし、ウルだって見られたくないと思うから。セレナ、スピナ、どっちかの影に潜ってくれ」
 俺の影に潜っていた双子が手枷の鎖をじゃらじゃら鳴らして抱き着いて来た

「お父様の近くに居るのに抱き着く事が出来ないのは拷問なのよう……ナデナデして欲しいのよう……」

「そうなのよう。パパに抱き着いて充電なのよう。スピナの頭もナデナデして」
 甘えた声で頭を擦り付けてくる幼女にとめどない愛情が溢れてくる

「ごめんね、戻ったら遊ぼうね、だからちょっとだけバイバイね」
 二人の頭を撫でると目を細めて満足した様に元気よく頷いてアンジェの影に潜っていった。
 素直なのも可愛いんだけど、もうちょっとわがままを言ってくれてもお父さんは嬉しいかなー……

「何故迷いもなくアンジーの影?! ぶーぶー。ショウ君、ウーちゃんの事お願いね」
 こいつは相変わらずパーソナルスペースに入るのが早い……勝手に愛称を付けるな……

「ではショウ様、先に戻っております。何かあればセレナ様、スピナ様を通してお呼びくださいませ」
 去っていく二人を見送って、ウルを【チェイサー】で探すと人気のない閉鎖空間に彼女と複数人の男達が居るのを窓から視認出来た。俺の姿は【ステルス】で隠している。

 クソ、あの変な奴に捕まったせいでもう始まっていた……

「悪いな、混ぜて貰って」
 休み時間にウルに詰め寄っていた奴だ、寝ころんだウルの上に跨り、胸の両端をぐしゃっと
 掴んでアレを挟み込み腰を振っている最中だ。

 密室で熱いのか汗がウルの素肌に落ちるが彼女の瑞々しい肌はそれを拒むように弾く。

「良いよ、性欲旺盛な俺達の歳で飛ばされるのは流石に辛いからね」
 今日は二グループ、合わせて8人を相手させられるみたいだ

「ほら昨日はすみませんでした、早くしゃぶらせて下さいってお願いしてみろよ!」
 グループの中位的な存在の男が、いきり立った物をウルの頬にぺちぺちと叩きつけていた。

 叩きつける度に濡れた先端と頬に糸が出来ては消える。
「昨日はすみませんでした……早くしゃぶらせて下さい……」
 ウルの瞳に光はない……ただ行われている事が終わるのを待っているだけ、言う事を聞いて早く終わらせたいだけなのだろう。

 両手には他の男の物を握らされ手を上下して、青臭い欲望をしなやかで細い指が絡め取っていく。
 手や口には限りがあるので全員は相手出来ず、何人かの男達が今か今かと自分の番を待っている状態だ。

 精気の無い女1人に男が群がって嬌声を上げる画は余りにも胸糞悪くて、今すぐ全員殺してやりたいけどそれではあまりにも短絡的過ぎるし、婚約者の一人の様に何も思わずに人を殺せる殺人鬼ではない。だから……

【眷属召喚】
 俺が呼び出したのはフララの眷属の大型犬サイズの獣型のアンデッドで、眼球は白濁しており、顔の半分は骨と化している。その他の部分も所々骨がむき出しで、腸を引きずっている状態だ。
 最近召喚のレベルが上がったらしく、眷属の低位眷属をいくらか呼び出せるようになった。

「えーっと……ジョン! あそこにいる男達を殺さずに追い払いたい、腕の一本や二本なら食い千切っていいから頼む」
 名前は今適当につけたのだが、名前を付けるとこんな悍ましい姿なのに何故か愛着が沸くから不思議だ。
 こくりと頷いて獣のアンデッドは窓のガラスの破砕音と共に乱入。
 まずは馬乗りになっている男の腕を食い千切った。

 どうやら絶頂を迎えた直後らしく吐き出した欲望がウルの胸に残っている。
 滑らかな吸いつく柔肌の上に残る白くてドロドロの体液の上に、サラサラの赤い血が落ちるが、粘度が違う二つは混ざり合わずに彼の一部と一部が彼女の胸の谷間に混在した。

 近くに居た他の者の腕も食い千切っているので溢れた血がウル顔やその他の部分を汚すけど、彼女はまるで微動だにしない。

 鋭い牙と顎の力で噛み切られた腕を獣型のアンデッドは美味しそうに骨を噛み砕いて飲み込むのだが、胃に穴が開いているらしく、破れた腹からぐちゃぐちゃに噛み砕かれた腕がこぼれ出て来て、それをみたジョンは少し寂しそうに片方しかない耳を伏せる。

 何か怖いけど可愛いな……

「ギャー!! 俺の、俺の腕がーー!! 助けて助けて!!」
 やっと事態を理解した男達はズボンも履かずに慌ててその場を去ろうとするが、ジョンは投げられたボールを追いかける様に彼らの腕を食い千切っていく。

 本当は大事な所を噛み千切ってほしかったんだけど、それだと蹲って逃げ出さない可能性もあったからやっぱり腕で正解だと思う。

 そうして男達は片腕を失いながら退散していった。金持ち連中だから明日には生えているのだろうけど。

 残ったのは体液と血で汚れた少女と、噛み千切られた腕の数々、それを美味しそうに尻尾を振って食べているジョンだ。

「ごめんちょっと遅かったね……起きれる?」
 俺を声を掛けるとウルはゆっくりと首を動かし俺を見てはっとした様子で胸を隠した……

「見ないで……お願い……見ないで……」
 懇願する様な彼女の言葉が酷く痛い。
 そこそこ重量感のある胸を隠しながらずり上がったスカートを直す。

「どうして貴方が居るの? 貴方にだけは見られたくなかったのに……どうして来ちゃうの……」
 すがる様で、悲しい様で、それでいてどこか責め立てる様な口調で俺に問う。

「何か出来るかと思ったんだ……でもダメだったね……」

「これは……キャッ?! なにこれ!!」
 今まで何があったのか全く分かってないようだった。
 辺りに散らばる噛み千切られた腕や、血だまり、その腕を頬張る悍ましいアンデッドを見て酷く怯えたようで俺に抱き着いて来るが、慌てて離れようとしたので、昨日みたいにそれを制する。

「汚くてごめん……昨日は汚物塗れで、今日は他の男の体液と血なんて最低だね私……」
 谷間に残っていた男の白い一部と赤い一部がべっとりとローブに付いてしまったのだ。

「いいよ」

「これって……その……ショウがやったの?」
 恐る恐る血に濡れた顔を上げ、下から不安そうに俺を見上げていて、体も少し小刻みに震えている。

「俺というか、正確にはジョンなんだけど……まぁそうだね」
 そういうと小刻みに震えていたのが止まりぽっと溜息を付いた。

「そっか助けてくれたんだ……」
 ウルは少し目を瞑って考えて俺の股間へと手を伸ばす

「ちょ、何してんの?」
 俺は慌てて彼女の腕を掴む

「私、どうやってお礼していいかわからないから……お金もないし出来る事が何もないの。私の出来るのは体を使った奉仕だけ……手と口だけは沢山してるから……胸も使いたいなら好きに使っていいよ……大丈夫手だよ、手と口なら病気とかうつらないから心配しないで……」
 この状況は明らかにおかしい、汗臭い男の匂いの中に仄かに混じる女の子の甘い香りと血の匂い。腕にむしゃぶりつく咀嚼音を耳にしながらそんな雰囲気になれるわけもない。

 雰囲気以前に彼女の言葉が凄く痛くて悲しいのだ。
「私本当に誰とも経験ないから病気なんてないのにね……でも誰も信じてくれないんだよ。ごめんね、本当に何も返せないの。ごめんね……ごめんね……」
 彼女は悲しそうに、でも泣くことはなく再度俺の下半身に手を伸ばそうとする。

 人付き合い歴が浅い俺が言うのもなんだけど、そういう事じゃないと思う。

「いいんだよウル……そんな悲しい事言わないでよ。俺がやりたくてやったんだから。ありがとうってその一言だけでいいから。それ以外何もいらないよ」

「ダメ、私なんかが優しくされちゃダメなの……優しくされたら私……もっと欲しくなっちゃうよ……そんな事していい人間じゃないのに……」
 そう言って彼女は俺の胸に顔を埋めた。決して泣いてる訳じゃない。でも心では泣いていた。

 暫くして固まりかけた血の付いた顔を上げて言った。
「ありがとう」

「うん」
 俺はこの時の事を一生後悔することになる。あの時もっと深く色々と聞いておけば彼女の運命は変わったかもしれないのに。
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