妖精の森の、日常のおはなし。

華衣

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本編

1.妖精

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 深い深い森の奥。木漏れ日が照らす切り株の広場に、ひとりの少年がいました。少年の背丈は普通の人間よりはるかに小さく、何より背中から透き通った蝶のような一対の翅が生えていました。
 少年が切り株で休んでいると、周りから様々な動物が集まって来ました。りす、うさぎ、きつね、たぬき、しか、くま、おおかみ。さらには小鳥から大きな鷹まで、少年のそばにやってきました。

「みんな、おはよ! 今日は何して遊ぶ?」

 今日も、森にはあたたかな風が通り抜けています。これから始まるのは、妖精の少年と、森の動物たちの、ただの穏やかな日常の物語でございます。


 ▷◇◁


 とある世界での僕は、特に突出したところのない平凡な人間だった。容姿は少し幼く見られたかもしれないが、頭脳はまったくもって平凡だった。身体も特に悪い所はなく、いたって健康。成人して就職した会社も、ごくごく普通の企業。そんな感じで、世間にとっての「普通」の人生を歩んで来た。
 ただ、人生の終わりは普通じゃ無かった。たまたま買い物に出かけたデパートで、大規模な火事が起こった。アナウンスでは、調理場から火が起こった、と言っていたが、本当は放火事件だったのかもしれない。まあ、真実は分からないが、僕は不幸にも火災現場の近くに来ており、逃げ惑う人波に押されて、階段から落ちてしまった。踊り場でうずくまっていたものの、助けてくれるような人は来ず、炎が迫ってきた。そこで、記憶が途切れている。

 今、僕はどこかの森っぽいところで佇んでいる。あれ? 僕、火事で死んだはずじゃ⋯⋯? どうにか、ここに来るまでの事を思い出そうとするが、何も浮かばない。というか、前世の記憶にも曖昧なところがあり、自分の名前や、家族の顔なども思い出せない。仕方ない。とりあえず、周りを見てみよう。
 と思って目を向けてみると、なんかやたらとデカい。何かって? 全部だよ。草も木も、石もデカい。もしかして、巨人の国にでもいるのかな? なんて思ったりするが、全く現実的じゃ無い。じゃあ、自分の方が縮んでたりするのかな? そう思って身体を見てみると、なんかファンタジーな服を着てた。妖精とか精霊とかが着てそうな、透明感のあるひらひらした服だ。こんな服、僕の趣味じゃないし、着た記憶も無い。おかしい。
 とにかく、ここがどこなのか把握しないことには何もできないから、そこの石(大岩サイズ)に登って、草で見えない遠くでも確認してみよう。岩肌が丁度よくゴツゴツしてるから、問題なく登れそう。そうして手を掛けて足を踏み出したとこで、突然体が勢いよく空に持ち上がった。

「うわわわわ!? 何!? ヒェッ⋯⋯こ、こわ⋯⋯!」

 はずみで下を見てしまい、地面が遠くて恐怖を感じた。手足をジタバタさせるが、宙に浮いたままで動かない。⋯⋯そのうち落ち着いてきて、周りを見る余裕ができた。

「うーん、どう見ても森、だよな⋯⋯」

 どこ見ても、木、木、木ばっかり。木漏れ日がきれいだな~って感じ。これじゃ、人と会うのは絶望的かもしれない。そもそも、人と会っても、この体の小ささを説明できる気がしないが。そうやって周りをぐるぐるして、自分の後ろを見たとき、あり得ない物が目に入ってきた。

「⋯⋯⋯⋯え、はぁ? なにこれ⋯⋯羽?」

 透き通って、キラキラ輝いた蝶のような羽。それが、僕の背中から生えているように見える。意識すると動かすことができて、すぃ~っと地面に降りることができた。
 ⋯⋯いやまて。これってまさか、もしかして⋯⋯

「よよよ、妖精になってる!?」

 ⋯⋯どうやら、妖精になってしまった⋯⋯みたい?

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