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本編
10.精霊の泉
しおりを挟む朝ごはんを終えた僕たちは、いつも通り泉へ向かった。ふたりと談笑しながら向かったが、ふと、今日はなんだか泉の様子がいつもと違う、と感じた。なんだろう? 見た目は何も変わってないのに、何かが違う。ふたりを止めて、慎重に泉へ近づいた。悪い感じはしなかったけど、一応遠くにいてもらった。泉の水はいつも通り輝いて澄んでいる。のぞき込むと、僕の顔が映った。
⋯⋯そういえば、自分の顔ってちゃんと見たことなかったな? 僕の髪は緑っぽい白って感じ。薄いミント色だね! 目はなんと金色でとても綺麗。顔はかわいいかんじで、前世とはぜんぜん違う。たぶん。⋯⋯あれ? 頭になんか生えてる? なにこれ、ミント? 引っ張ると痛くはないけど、頭から生えてる感覚はする。謎だ。
────っと、脱線してた。水面には何も無いから、水源の辺りまで飛んで行く。泉の真ん中辺り、水が湧き出ているところまで近づくと、いきなり水の中から強い光が発された。驚いて後ずさると、光がどんどん膨らみ、人の形をかたどった。そして光が収まると、そこには美しい青色の長い髪の女性が、微笑んで僕を見ていた。
「⋯⋯きれい⋯⋯」
思わず出してしまった言葉に、その女性は楽しそうに笑った。
「ふふふ。かわいらしい子ね」
「⋯⋯はっ! ぁわ、すみません!」
「ふふ。大丈夫よ。きれいって言ってくれて嬉しいわ」
⋯⋯ちょっと恥ずかしくなった。いや、それより、このひとってもしかして──
「──精霊?」
「ええ、そうよ。私はこの泉に宿る精霊。フォンターナと呼んでね」
なんと、この泉の精霊だった。フォンターナと名乗ったその精霊は、僕のことをずっと見守ってくれていたらしい。
「あなたのことが気になって、こうして人の形をとってみたの。妖精としてまだ未熟なあなたに、知恵を授けようと思ってね」
「⋯⋯確かに、僕、妖精に関する知識って何も無いんです。よく分からないまま妖精になってて⋯⋯」
「心配いらないわ。とある方から、あなたのことを見守るよう、頼まれているのよ」
「とある方?」
「ええ。この世界を見守る方にね」
「まさか、神様!?」
「うーん、神様とは違うわ。管理者、といった方が正しいわね。その話は、またいずれね。ところで、そこにいる子たちにも話をしたいから、こっちへいらっしゃい」
フォンターナがマロンとナッツを呼ぶと、ふたりはちょこちょこと戸惑いながら泉のほとりまで来た。それを見てから、僕に向き合って話し始めた。
「あなたは人として生きて、命を落とした。そして、今は妖精として、この世界に生を受けた。それは、あの方があなたの魂に干渉したから」
「⋯⋯もしかして、何か僕にしてほしいことがあるとか?」
「いいえ。確かに、あなたを転生させた目的はあるけれど、それは、あなたがこの世界で生を終えた後でのこと。今のあなたは、ただ穏やかに生きていくだけでいいの。その目的は、果たされるかもしれないし、果たされなくても問題ない、っていう、そこまで大変なものでは無いの。だから、あなたは心配は要らないのよ」
「ほっ。そっか。良かった~⋯⋯。世界を救ってくれ! とか、そういうのは僕には向いてないから」
「ふふふ。この世界は比較的平和な方よ。確かにあなたの前世の世界と大きく違うところはあるけれど、今のあなたには力がある。その力を使いこなせれば、自分の身を守ることもできるわ」
「えっと、それで、僕にそういうこととか教えてくれるために、出てきてくれたんですか?」
「ええ」
僕の転生は、世界の管理者とやらが干渉したために起こったらしい。よく、世界を救うだとかで転生するって物語があったけれど、フォンターナによれば、今何かをする必要はないらしい。そこはホッとした。ただ生きていくだけで、僕を転生させた目的が果たされるかもしれない⋯⋯そのへんはよく分かんないけど、まあ、大丈夫っしょ。
そういえば、話を聞いていたマロンとナッツは、終始ハテナ状態だったらしい。ふたりともそっくりに首をかしげていてかわいかった。
それから、僕はフォンターナに教えを請うことになった。この世界のこととか、妖精のこととか、僕の知らないことはなんでも教えてくれるらしい。本当にありがたい限りだ。
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