妖精の森の、日常のおはなし。

華衣

文字の大きさ
11 / 51
本編

10.精霊の泉

しおりを挟む

 朝ごはんを終えた僕たちは、いつも通り泉へ向かった。ふたりと談笑しながら向かったが、ふと、今日はなんだか泉の様子がいつもと違う、と感じた。なんだろう? 見た目は何も変わってないのに、何かが違う。ふたりを止めて、慎重に泉へ近づいた。悪い感じはしなかったけど、一応遠くにいてもらった。泉の水はいつも通り輝いて澄んでいる。のぞき込むと、僕の顔が映った。
 ⋯⋯そういえば、自分の顔ってちゃんと見たことなかったな? 僕の髪は緑っぽい白って感じ。薄いミント色だね! 目はなんと金色でとても綺麗。顔はかわいいかんじで、前世とはぜんぜん違う。たぶん。⋯⋯あれ? 頭になんか生えてる? なにこれ、ミント? 引っ張ると痛くはないけど、頭から生えてる感覚はする。謎だ。
 ────っと、脱線してた。水面には何も無いから、水源の辺りまで飛んで行く。泉の真ん中辺り、水が湧き出ているところまで近づくと、いきなり水の中から強い光が発された。驚いて後ずさると、光がどんどん膨らみ、人の形をかたどった。そして光が収まると、そこには美しい青色の長い髪の女性が、微笑んで僕を見ていた。

「⋯⋯きれい⋯⋯」

 思わず出してしまった言葉に、その女性は楽しそうに笑った。

「ふふふ。かわいらしい子ね」
「⋯⋯はっ! ぁわ、すみません!」
「ふふ。大丈夫よ。きれいって言ってくれて嬉しいわ」

 ⋯⋯ちょっと恥ずかしくなった。いや、それより、このひとってもしかして──

「──精霊?」
「ええ、そうよ。私はこの泉に宿る精霊。フォンターナと呼んでね」

 なんと、この泉の精霊だった。フォンターナと名乗ったその精霊は、僕のことをずっと見守ってくれていたらしい。

「あなたのことが気になって、こうして人の形をとってみたの。妖精としてまだ未熟なあなたに、知恵を授けようと思ってね」
「⋯⋯確かに、僕、妖精に関する知識って何も無いんです。よく分からないまま妖精になってて⋯⋯」
「心配いらないわ。とある方から、あなたのことを見守るよう、頼まれているのよ」
「とある方?」
「ええ。この世界を見守る方にね」
「まさか、神様!?」
「うーん、神様とは違うわ。管理者、といった方が正しいわね。その話は、またいずれね。ところで、そこにいる子たちにも話をしたいから、こっちへいらっしゃい」

 フォンターナがマロンとナッツを呼ぶと、ふたりはちょこちょこと戸惑いながら泉のほとりまで来た。それを見てから、僕に向き合って話し始めた。

「あなたは人として生きて、命を落とした。そして、今は妖精として、この世界に生を受けた。それは、あの方があなたの魂に干渉したから」
「⋯⋯もしかして、何か僕にしてほしいことがあるとか?」
「いいえ。確かに、あなたを転生させた目的はあるけれど、それは、あなたがこの世界で生を終えた後でのこと。今のあなたは、ただ穏やかに生きていくだけでいいの。その目的は、果たされるかもしれないし、果たされなくても問題ない、っていう、そこまで大変なものでは無いの。だから、あなたは心配は要らないのよ」
「ほっ。そっか。良かった~⋯⋯。世界を救ってくれ! とか、そういうのは僕には向いてないから」
「ふふふ。この世界は比較的平和な方よ。確かにあなたの前世の世界と大きく違うところはあるけれど、今のあなたには力がある。その力を使いこなせれば、自分の身を守ることもできるわ」
「えっと、それで、僕にそういうこととか教えてくれるために、出てきてくれたんですか?」
「ええ」

 僕の転生は、世界の管理者とやらが干渉したために起こったらしい。よく、世界を救うだとかで転生するって物語があったけれど、フォンターナによれば、今何かをする必要はないらしい。そこはホッとした。ただ生きていくだけで、僕を転生させた目的が果たされるかもしれない⋯⋯そのへんはよく分かんないけど、まあ、大丈夫っしょ。
 そういえば、話を聞いていたマロンとナッツは、終始ハテナ状態だったらしい。ふたりともそっくりに首をかしげていてかわいかった。

 それから、僕はフォンターナに教えを請うことになった。この世界のこととか、妖精のこととか、僕の知らないことはなんでも教えてくれるらしい。本当にありがたい限りだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた

Mr.Six
ファンタジー
 仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。  訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。 「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」  そう開き直り、この世界を探求することに――

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

処理中です...