強い祝福が原因だった

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婚約を解消したい1

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『マダム・シルヴィア』で意外な人を見掛けつつも、向こうはエイレーネーに気付かなかった。声を掛けようか迷うも、そこまでの仲じゃないかと踏み止まり、目当てのケーキを5種類空いた給仕に言って箱に詰めてもらった。代金を払ってケーキの入った箱を持ち、店の外に出た。転移魔法を使えばあっという間に屋敷だが、今帰ってもラウルがまだいるだろう。
 遅く帰っても誰も気にしない。暫く夕食も食堂で摂らずに済む。
 ケーキは箱を慎重に持っておけば、崩れはしない。

 魔法店に行くか、と足を向けて出発。『マダム・シルヴィア』から徒歩で30分程歩いた先に目当ての魔法店はあった。

 周囲は掃除が行き届いており、枯葉の1枚も落ちていない。年季の入った扉を開けると狭くはない店内には、等間隔で置かれた魔法アイテムが陳列されていた。客は疎である。

 特別欲しい魔法道具はないが何かないかという時間潰し。魔除け、虫除け、女除けもあれば男除けもある。幸運を運ぶ道具や不幸を呼び寄せる道具まで。

「あ」と微かに発してエイレーネーが手に取ったのは透き通るような空色の首飾り。宝石じゃなく、魔力を込められての色のようだ。


「ラウルの瞳の色みたい……」


 首飾りを見つめて暫し経った後。
 店主に首飾りの代金を払って外に出た。


「こんなもの買ったって意味はないのに」


 ラウルの瞳と同じ色だったから、気付くと購入していた。彼の瞳がエイレーネーに優しく愛するような感情で見てくれることはこの先もないのだろう。彼の瞳の先にいるのはガブリエル。首に掛け、服の中に首飾りを隠したエイレーネーはこの後も雑貨店や古書店を巡り、転移魔法で屋敷近くまで戻った。

 正門へ近付き門番に門を開けさせ、屋敷へ歩いて行く。買い物に出掛けて数時間経過したが、ラウルがいる可能性は否めない。素早く屋敷に入り、迎えもない、目が合っても無視をする使用人をエイレーネーもスルーをして私室へと足を速めた。

 が。


「エイレーネー」


 エイレーネーを呼び留める声が。
 エイレーネーは聞こえていない振りをしてさっさと部屋に戻りたかったが、ぐっと堪え振り向いた。
 彼――ラウルは早足で近付くとエイレーネーの前に立つ。


「体の調子が悪いと聞いていたが大丈夫なのか……?」


 どうして自分の所にラウル訪問の報せが来なかったのかを理解した。ガブリエルか、リリーナか、それとも別の誰かが。誰かが告げた体調不良を鵜呑みにし、変わりという体でガブリエルが相手を申し出たかラウルがいさせたか。

 どちらでも良い。

 ラウルが愛しているのはガブリエルだ。婚約者よりも睦まじい光景を見ているとエイレーネーでさえ思えてくる。


「大して悪くありません。ラウルが来ているとは知らなかったもので。挨拶もせず、申し訳ありません」
「え? あ、い、いや、いい。元気なら。……ん? その箱は?」
「ケーキです。街へ買い物へ行っていたのに」
「体調が悪いんじゃなかったのか?」
「大して悪くないと言いました」
「買い物には行くのに、私には会わないのか」


 エイレーネーがラウルの訪問を告げられた上で外出していたらエイレーネーが責められる。姿を見掛けていたから、来ているという事実は知っていた。

 誰も伝えに来なかったから、知らないと言い通せる。

 責めるラウルの瞳は言葉よりも強くエイレーネーへ気持ちをぶつけている。箱の取っ手が握力でぐにゃりと潰れるもエイレーネーは負けじとラウルを睨み返した。


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