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しおりを挟む皇太子ラシュエルの婚約者候補筆頭だったのもあり、他家の令嬢から沢山の嫌がらせを受けてきた。小説のリナリアもそうだったがやられたら倍返しにはしてきた。
可愛い見た目に反して逞しい。自分の全てを捧げてきたラシュエルに捨てられるまで、ずっと気丈に振る舞っていたのだと思うと悲しくなる。
ラシュエルの妃の座を欲していたのは異母妹も同じ。登城は無理でもラシュエルが屋敷に来ると我先にと出迎え、会いに来たのはリナリアではなく異母妹なのだと周囲に印象付けた。侯爵家の使用人達でリナリアの味方をする者はいない。
後妻が全て解雇し、使用人を一新した。皆、後妻や異母妹の味方にしかならない。さすがに世話をしなくなる者がいないと困るからと父が新しい侍女を付けてくれたその侍女も後妻と異母妹寄り。朝の支度と称して何度も嫌がらせを受けた。
「ユナンがいて良いと言うのならいさせて。他に行く所もないし、侯爵家に戻りたくないの」
「リアから何度か聞いたけどそんなに酷いのか?」
「ええ。朝起こされる時は冷たい水を掛けられて、髪を梳く時は頭皮が剥がれるくらい強い力で引っ張られて、ドレスを着せる時はとっても雑にして。食事の時間も苦痛だったの。家族三人仲良くって言ったら、お父様に顔を殴られてお義母様や異母妹は大笑いして。使用人達も嗤ってたわね」
今更になって思い出さなくても……としても遅い。
隣にいるユナンの纏う空気が冷たくなっていく。慌てて過去の事だと説明した。
「ラシュエルの婚約者候補になってから暴力はなくなったわ。食事を抜かれる事も減ったし」
「食事を抜かれていたのか!?」
「私が皇太子妃になれると期待したお父様が食事を抜けば虐待を疑われるからって」
「十分虐待じゃないか」
非難の相貌を浮かべるユナンにリナリアは苦笑を見せるしかなかった。前世と変わらないので慣れもあり苦じゃなかった。
食事抜きはキツイが、母が生きていた頃からいる料理長が彼等の目をこっそりと盗んでご飯を届けてくれた事が何度もあった。後妻は最初料理長も解雇したがったが先代侯爵の時代より仕える料理長を解雇する権限はなく、これについては父が拒否した。
「聞いて呆れるな」
「お義母様からしたら、私とお母様がいるせいでお父様と結婚出来なかったからねえ」
「没落貴族の娘、大した価値もないのだから出来なくて当たり前だ」
二人は元々将来を誓い合った恋人同士であったが後妻の家が没落。元から男爵令嬢という身分が気に入らなかった祖父が才色兼備と名高った侯爵家の娘だった母との婚約を調えた。
真実の愛をリナリアの母のせいで引き裂かれたと後妻や父は恨んでいるが、恨む矛先を間違っている。恨むなら先代侯爵を恨んでほしい。
「母方の家はリナリアの現状を知ってるのか?」
「お父様が再婚する時、新しい家族に私が馴染めるか分からないからって引き取ろうとはしてくれたの。まあ、侯爵家から皇太子妃を出したかったお父様は絶対に駄目だと頷いてくれなかった」
野心が強い父は侯爵家から初めて皇太子妃を輩出させようと画策していた。皇太子の婚約者候補を決めるお茶会でリナリアに多大な金を掛け、皇太子に会うまで絶対に心を射止めろと何度も圧を与えた。
父の思惑通りラシュエルの婚約者候補になれたのは癪だが彼本人には好意的な感情を抱いた。第一印象も悪くなかった。それはお互いに言えること。
足を伸ばしたリナリアは後ろに倒れた。聖域に夜は来ない。常に朝の時間。綺麗な空を見上げているとユナンも隣に寝転んだ。
「帝都に戻らないにしても、教皇には一報入れておくよ」
「教皇様に?」
「リアの言う通り、今頃リアの妹が聖女の力を覚醒させて皇太子の病を癒し、姿を見せないリアは病に苦しむ皇太子を捨てたと吹聴しているなら、俺としても面白くない」
「ユナンが気にしなくても」
「聖女は清い心を持たないと力を弱体化していく。聖女を正しき存在でいさせたい大教会にとっては大事なんだ」
「そう、なの?」
「そうそう」
神官であるユナンが言うのならそうなのかと納得した。
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