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しおりを挟むリナリアを訪ねてラシュエルが侯爵邸に来る時は、必ずイデリーナが一番に呼ばれた。侍女でリナリアの味方は誰もいない、皆イデリーナの味方だ。
だがイデリーナが来てもラシュエルは事務的な対応をするだけですぐに退室を求められた。
『私が会いたいのはリナリアだ。君じゃない』
リナリアが来て居座ってもイデリーナはすぐに使用人達に連れ出された。
皇太子に命じられば従うしかないから。
初めてラシュエルを見た時は胸が高鳴った。世界にこんなにも美しい男性がいたのかと。母に似て美しいイデリーナすら霞んで見えてしまう美貌を持つラシュエル。
皇太子として育ったラシュエルの隙の無い佇まいもふとした時に見せる微笑もどれも美しく、そんな彼の側にいたいと思うのは当然で。でもラシュエルが求めるのはリナリアだけ。
病に苦しむラシュエルを捨て、他の男の許へ逃げたと弱ったラシュエルに囁き続けると最初は頑なに信じようとしなかったラシュエルもやがて信じてくれた。
綺麗な黄金の瞳に濃い翳りが出来ようがイデリーナの献身的な愛を持ってすれば何時か元の輝く黄金に戻ると信じた。
……信じたのに、結局リナリアが戻り、イデリーナや父が囁きが嘘だとバレ、更に事がクローバー侯爵家の耳にも入り大事になった。
「お父様……」
「心配するなイデリーナ。私がきっと何とかする。聖女となったお前が皇太子妃になるのだ」
「お父様が先代侯爵夫人と結婚したのは、夫人に言い寄られクローバー侯爵家が圧力を掛けたせいだと仰っていましたよね?」
「その通りだ。私には愛する人がいたというのに、あの女が私を愛するあまり我が家に圧力を掛けたのだ。私は何度も父に訴えたのに、父はクローバー家の力目当てで私とあの女の婚約を決めてしまった」
苦痛で仕方なかったと語る父の言葉を嘘だと思いたくない。だが、昨日リナリアに語られた話が嘘とも思えない。
初めてヘヴンゲート家の屋敷に迎えられた時にリナリアと出会った。
前妻との間に娘がいるとは聞いていた。歳の差は一つ。姉が出来るのだとイデリーナは内心喜んでいた。母は前妻や前妻の娘たるリナリアを嫌い、常に悪口を言っているから言葉で嬉しいと表したら母が悲しんでしまうとイデリーナは表では同じように悪口を言い続けた。
初めて出会ったリナリアは珍しい桃色の髪に紫の瞳をした美少女で。お人形のような美しさに息を呑むも、イデリーナや後妻、更には父を見る目は何も宿っていなかった。
表面上は何事もなく自己紹介をして終わったものの、母は気に入らなかったようで父の愛人である自分や愛人の子であるイデリーナを馬鹿にしていると憤慨していた。
その後母は屋敷にいる使用人全てを一新し、リナリアを徹底的に虐げる事で不満を解消していた。最初に仲良くしたいと抱いていた気持ちもいつの間にかイデリーナから消え去り、後妻と共にリナリアを虐げ続けた。
「でも……お姉様はお祖父様がお姉様のお母様とお父様を婚約させたい為に外堀を埋めたと言っていました」
「ふん! あの女も父もそう言っていたがそんなもの嘘だ」
「……」
嘘偽りに塗れた心を持つせいで清らかな心を持ってこそ能力を維持する聖女なのに今は失い掛けている。このまま父や母の言葉を信じラシュエルに愛されるようになればいいのかと自問するイデリーナ。
リナリアはきっと嘘を言っていない。なら、父は? となった時イデリーナは……。
「だ、旦那様」
執事がリリーシュ公爵令息ソルトの訪問を報せた。イデリーナがラシュエルの婚約者と決まった途端、いきなりリリーシュ公爵家からリナリアとソルトとの婚約を打診された。
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