傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

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 ローゼライト=シーラデンは気怠げに自分を見上げる男ダヴィデに再度依頼内容を述べた。


「私を連れ去ってほしいのです。傷物の私から婚約者を解放したい」


 平民を装う為に履いた赤色のスカートをギュッと握り締め、相手からの回答を待つ。深い青の瞳がじっとローゼライトを見つめ――やがて瞼を閉じた。


「良いんだな?」
「はい。後悔はありません」
「分かった。お前さんの持って来る品はどれも品質が良いからな。手を貸そう」
「ありがとうございます」


 深く頭を下げた後、ローゼライトは顔を上げ内心ガッツポーズを取った。
 ダヴィデの許から去り、徒歩で屋敷に帰った。出掛けていたと知られたくなくて裏門に回り、自身を透明にする魔法を全身に掛けて部屋に戻った。念の為偽装をして出掛けたが誰も騒いでいないのを見ると気付かれていない。


「ふう」


 透明になる魔法を解き、更に変身魔法をも解くとローゼライトは息を吐いて椅子に座った。
 鏡を引き寄せ顔を映した。
 前髪を長くして隠された額には傷がある。
 この傷が原因で婚約者となった令息がいる。


「もうすぐ、解放してあげる」


 子供の頃はやんちゃでローゼライトを振り回さないと気が済まなかった彼も、額に傷を付けてしまった以降はすっかりと大人しくなり、社交界では人気の令息となった。昔を知らない人なら驚く程冷静で紳士的な姿に驚くだろう。
 だがローゼライトは知っている。彼には他に愛する人がいる事を。傷物にしてしまった責任を取る為に相手方から申し込まれたこの婚約はもうすぐ終わる。


「馬鹿よね」


 好きな相手がいるのに、考えなしに相手を振り回した挙句に怪我をさせるなんて、と。

 魔法で平民服から普段着に一人で着替えていると控え目に扉が叩かれた。どうぞ、と声を掛けると入室したのは執事だった。


「お嬢様。ベルティーニ公爵令息様がいらっしゃっております」
「今日は訪問の予定はない筈だけれど」
「お嬢様にお会いしたいとお待ちです。如何なさいますか?」
「分かった。すぐ向かうわ」


 着替えも丁度終わったので姿見の前で確認をし、執事を連れて玄関ホールへと向かった。
 大きな出入口の前には金色の髪の青年が立っていて、ローゼライトに気付くと名前を呼んでやって来た。


「ラルス」


 彼はラルス=ベルティーニ。ローゼライトの婚約者であり、幼い頃額に傷を作った本人。ただ、そこに彼の悪意がなかったことだけは述べておく。ただの事故に過ぎない。


「ローゼライト。この間はどうして先に帰ってしまったんだ」


 この間……言われて思い出した。
 先日、ラルスに誘われて街へデートをした。観劇を観て、昼食を食べて、お店巡りをしている最中ラルスとは遠縁に当たるヴィクトリア=アバーテ公爵令嬢と遭遇した。ラルスの想い人がヴィクトリアと知るローゼライトは、二人が話している間にさり気無く距離を取り、ラルスが気付いた頃を見計らって伝言鳩を飛ばした。


「急用が出来たからよ。鳩にもちゃんと入れていたでしょう」
「そうだが……」


 まだ何か言いたそうなラルスに苦笑しつつ、今日は何用かと訊ねた。


「今日はどんなご用?」
「明後日開かれる夜会についてだよ。ローゼライトにドレスを贈るから」
「それくらい手紙で知らせなさいよ」
「この間どうして帰ったのか気になっていたから……」


 置いて行ったのは悪かったがそこまでして気になるものだろうか。ヴィクトリアがいたから一人ではなかっただろうと指摘すると顔を歪められた。


「ヴィクトリアとはあの後すぐに分かれた」
「私を気にしたの? 私は帰ったのだから気にしなくても……」
「そういう訳にはいかない。僕には君という婚約者がいるのに、他の令嬢と一緒にいられる訳ないだろう」


 成る程。つまり、婚約者でなくなれば一緒にいられるという訳だ。
 その為に魔法使いに婚約解消をする依頼をしたのだ。


「私は気にしないわ。ヴィクトリア様はラルスの遠縁じゃない」
「……」
「?」


 何故か、ラルスは無言になってじっとりとした目でローゼライトを見る。言葉を間違えたかと焦るが多分大丈夫。気にし過ぎだ。


「……分かった。ローゼライトがそう言うなら」
「そ、そう」
「当日は迎えに来るから待ってて」
「ええ」


 無事、と言って良いのか謎だが取り敢えずラルスは帰った。側に控えていた執事に「お嬢様」と呼ばれる。


「ラルス様、落ち込んでいらっしゃいましたよ」
「そうかしら?」
「はい。お嬢様が他のご令嬢といても気になさらないからと」
「私はラルスを束縛する気はないの。一々交友関係に口出しをするほど、心の狭い女じゃないわ」
「ラルス様は多分気にしてほしかったのだと思います」
「相手はヴィクトリア様。ラルスの遠縁の方よ? 会うな、話すなと言う方がおかしいわ」


 何よりヴィクトリアはラルスの想い人。ローゼライトはラルスを好いているが、他に好きな相手がいるのに結ばれない思いをラルスにしてほしくない。何より二人の婚約はローゼライトの額の傷が理由。これがなければ、きっとラルスはヴィクトリアと婚約出来ていただろうに。


「夕食の時間まで部屋にいるわ」
「畏まりました」


 ローゼライトは部屋に戻り、作戦実行は夜会当日だと決めた。
 早速ダヴィデに伝言鳩を飛ばした。
 自分の魔力によって形成される鳩の見目は自由自在で。ローゼライトは薔薇色の魔力で形成された鳩を飛ばした。


「そうだ。明日ダヴィデに会って作戦を立てないと」





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