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第2章 5年前の亡霊
第21話 ローランの頼み
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ロームの街はそこそこ大きな街だ。街から離れた位置には山脈があり、その近隣の村から山の幸が届けられる。そして海も近く、海の幸だって手に入る食の宝庫としても有名なのよね。
昨日は昨日で美味しいものをいただいたけど、今日の食事もそれはもう期待していいに決まっている。何せ昨日は殿下から殿下をお守りした褒美と中位デモノイドを滅ぼして街を救った褒美、不当な目にあわせた倍書として総額金貨1200枚もいただいたのだ。
自分ご褒美として美味しいものを食べる権利が私にはある!
「そうそう。一応マレフィカさんもサンクトルムへの入隊が決まっているからね。2人ともまだ入隊こそしていないものの、これはサンクトルムの正式な任務として扱われているから私の指定した宿に泊まるようにね」
「え……?」
「だから食事は3人と2人? で取るから。宿代はサンクトルムの予算で落とすから心配しなくていいからね」
つまりタダ飯!
それは嬉しい。よし、思う存分食べさせてもらうとしよう。ローラン様の前だろうと私は気にしない。ローラン様はイケメンだけど上位貴族の御令息だろうからね。最初から望みのない相手なので男性としての意識など全くないのだ。
「着くのが明後日ならお酒を飲んでも問題ないですよね?」
「まぁ、そうだね。アルマは酔っても大丈夫な人だよね?」
アルマは飲む気満々か。アルマは別に飲んでもウザ絡みされたことはなかったな。普通に陽気になるだけだ。その辺はフルグルの方が詳しそうだけど。
「大丈夫よね、フルグル」
「大丈夫じゃなーい? 私も飲むけど」
フルグルお前もか。精霊って酒好き?
「よし、マレフィカ。お前も飲め」
「いいけど真昼間から?」
さすがに真昼間はどうなんだろう?
冒険者だと普通に飲んでる人はちょくちょく見かけてたけど。
「うん、いいかもしれないね。親睦会も兼ねて飲むのはいいと思うよ。しかしさすがに昼はやめておこうね?」
「そうそう。ダメだよアルマ?」
「しゃーねーな……」
ローラン様に咎められてはさすがに無理だね。アルマも諦めたようだ。やはり昼は普通に美味しいものを堪能したい。
私たちはあれ食べたいねーなどと話しながら宿へと向かった。
宿はなかなか立派なところだった。部屋はシングル1部屋とダブル1部屋。食事は使い魔の分込で1泊金貨5枚!
高級宿じゃんか!
「マレフィカさんはシングルで。アルマは僕と同室で頼む」
「わかりました」
ローラン様から鍵を受け取る。うん、さすがに私をダブルとかにしないよね。
「ああ、かまわないぜ」
「私はマレフィカと一緒の部屋に行くのよ。男同士の話もあるかもしれないし」
「そうか、わかった。マレフィカ頼むわ」
「いいわよ。おいで、フルグル」
「フルグルも一緒なのです」
フルグルは私と来るのか。まぁ、男同士の方がいいのかもしれない。
「マレフィカはキャトルを抱いているから、私は2人の間に陣取るのよ」
フルグルが私の方に来ると、キャトルの膝に乗っかる。
「お昼は各自にしておいた。好きな物を食べに行くといい」
「わかりました! では俺はこれで!」
アルマはシャキッと手を挙げるといち早く宿の外へ出て行った。随分張り切ってるなぁ……。まぁ検討つくけどねぇ。言わぬが花かな。
「どうせ娼館なのよ。放っておけばいいの」
「あー、うん。まぁ男だしね。フルグル、バラしちゃ可哀想じゃない」
うん知ってた。別に私にとってはどうでもいいんだけどね。それはアルマの自由だし。
「マレフィカさん。よろしければご一緒させていただいても?」
「ええ、構いませんよ?」
「そうですか、それは良かった。いいお店を知っていましてね。ご案内します」
まぁ、変に断るのもね。美味しいお店を知っているならいいのかな?
観光なら美味しそうなお店を探すのも醍醐味なんだけどね。
私はローランさんの後について行った。
案内されたお店はこの近くの山脈に生息するマツザカミノタウロスという危険度の高いモンスターのお肉を扱うお店だった。
マツザカミノタウロスは数いるミノタウロス種の中でも極上の味と言われ、 このミノタウロス種が生息しているところから近くの山脈の名前にも使われている。
マツザカ山脈と呼ばれるその山脈には数々の美味珍味モンスターが生息しているのよね。帰る前に何匹か捕獲に行きたいな。
「ここのミノスステーキは極上でね。この街に来たら必ず寄ることにしているんだ」
「凄いですね、ここ凄く高そう」
しまったな、ご一緒する前に「奢りなら」と付け加えるべきだった。私はメニューを開いてその値段に驚く。
当店オススメ!
ミノスサーロインステーキセット 金貨8枚
ミノスヒレステーキセット 金貨7枚
ミノスステーキセット 金貨5枚
……
ミノスシチューセット 金貨2枚
安いメニューでも金貨2枚。メニューに銀貨の文字が無い!
完全に富裕層向けのお店だねぇ……。
「心配しなくても大丈夫だよ。ここは私が出すからね。使い魔の分もどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
いかん、もしかして顔に出てたかな……?
まぁ、奢りだし容赦なくミノスサーロインステーキセットを注文しますけどね?
ただより安いものはなし!
キャトルとフルグルは何がいいんだろ。
「フルグルは何か食べたいのですか?」
「私は少し分けて貰えればいいのよ。キャトルのを少し分けてほしいわ」
「サーロインステーキ美味しそうなのです。これがいいのです」
何気にこの2人意気投合していると思う。フルグルも最初は怖がっていたけど、キャトルが使い魔になったらすんなり仲良くなったなぁ。
「はははっ、じゃあサーロインステーキ3つでいいね。せっかく来たんだ、1番美味しいものをご馳走するよ」
「あ、ありがとうございます」
私が頼む前にオーダーが確定したみたい。ローラン様って凄くいい人のようだ。顔良し性格良しお金持ち実力ある、のあるある尽くしだねぇ。
ローラン様はウェイターを呼ぶと、サーロインステーキセットを3人前注文する。そしてウェイターがその場を立ち去ると、私に向き直った。
「マレフィカさん、キャトル君。君たち2人に尋ねたい。君たち2人なら最精鋭である金と銀に勝てるかい?」
ん?
いや、見たこともないのにわかるわけないと思うんだけど……。
「人数がわからないのです。それに実力も。でも殺していいなら負ける気はしないのです」
時々キャトルがデモノイドだということを忘れてしまう。愛くるしい笑顔に可愛らしい声。私の言うことはちゃんと聞いてくれるし、気を使って守ってもくれる。それでもやっぱりキャトルはデモノイド。悪魔なのだ。
「そうか。うん、そうだよね。うちで最も強い金の隊長、ヴィクトリアでさえデモノイドを単騎で討伐したことはないからね。中位デモノイドさえも全く相手にならないキャトル君ならそれこそ瞬殺だろうね」
認めたくない事実だろうに、ローラン様の声には淀みも震えもない。でも諦めという感情ではなおようだ。
「2人に頼みたい。恐らく彼らは命令書を見ても納得しないだろう。この任務で先代の隊長のアウラ様を見つけたいと考えているはずだ」
「生きているわけがないのです」
「だろうね。それに関しては僕も希望的観測を持ってはいない。でも彼女は違うかもしれない。アウラ様は国内では歴代最強とまで呼ばれたサンクトルム。彼女を師と仰ぎ、尊敬していたヴィクトリアが納得するわけがないんだ」
うん、人の心はそういうものだと思う。信じたくない事実には目を背けたくなるものだ。仮に死んだことを受け入れているのなら、何があったのか突き止めたいはずだ。
「つまり、力づくで止めろと?」
「そうだ。頼む、これ以上精鋭を失うわけにはいかないんだ……」
ローラン様が頭を下げる。その心境はいかばかりか。
「僕は引き受けるのです。優秀な人材を敵のウテロに取られるのは面白くないのです」
「お引き受けします。キャトル、絶対殺さずにやらなきゃいけないわ。できるわね?」
「ご主人様の御心のままに、なのです」
なるほど。私たち2人の存在はローラン様にとっても渡りに船だったわけか。いいでしょ、やってみせますとも。私も自分の力を正しく知りたいものね。
昨日は昨日で美味しいものをいただいたけど、今日の食事もそれはもう期待していいに決まっている。何せ昨日は殿下から殿下をお守りした褒美と中位デモノイドを滅ぼして街を救った褒美、不当な目にあわせた倍書として総額金貨1200枚もいただいたのだ。
自分ご褒美として美味しいものを食べる権利が私にはある!
「そうそう。一応マレフィカさんもサンクトルムへの入隊が決まっているからね。2人ともまだ入隊こそしていないものの、これはサンクトルムの正式な任務として扱われているから私の指定した宿に泊まるようにね」
「え……?」
「だから食事は3人と2人? で取るから。宿代はサンクトルムの予算で落とすから心配しなくていいからね」
つまりタダ飯!
それは嬉しい。よし、思う存分食べさせてもらうとしよう。ローラン様の前だろうと私は気にしない。ローラン様はイケメンだけど上位貴族の御令息だろうからね。最初から望みのない相手なので男性としての意識など全くないのだ。
「着くのが明後日ならお酒を飲んでも問題ないですよね?」
「まぁ、そうだね。アルマは酔っても大丈夫な人だよね?」
アルマは飲む気満々か。アルマは別に飲んでもウザ絡みされたことはなかったな。普通に陽気になるだけだ。その辺はフルグルの方が詳しそうだけど。
「大丈夫よね、フルグル」
「大丈夫じゃなーい? 私も飲むけど」
フルグルお前もか。精霊って酒好き?
「よし、マレフィカ。お前も飲め」
「いいけど真昼間から?」
さすがに真昼間はどうなんだろう?
冒険者だと普通に飲んでる人はちょくちょく見かけてたけど。
「うん、いいかもしれないね。親睦会も兼ねて飲むのはいいと思うよ。しかしさすがに昼はやめておこうね?」
「そうそう。ダメだよアルマ?」
「しゃーねーな……」
ローラン様に咎められてはさすがに無理だね。アルマも諦めたようだ。やはり昼は普通に美味しいものを堪能したい。
私たちはあれ食べたいねーなどと話しながら宿へと向かった。
宿はなかなか立派なところだった。部屋はシングル1部屋とダブル1部屋。食事は使い魔の分込で1泊金貨5枚!
高級宿じゃんか!
「マレフィカさんはシングルで。アルマは僕と同室で頼む」
「わかりました」
ローラン様から鍵を受け取る。うん、さすがに私をダブルとかにしないよね。
「ああ、かまわないぜ」
「私はマレフィカと一緒の部屋に行くのよ。男同士の話もあるかもしれないし」
「そうか、わかった。マレフィカ頼むわ」
「いいわよ。おいで、フルグル」
「フルグルも一緒なのです」
フルグルは私と来るのか。まぁ、男同士の方がいいのかもしれない。
「マレフィカはキャトルを抱いているから、私は2人の間に陣取るのよ」
フルグルが私の方に来ると、キャトルの膝に乗っかる。
「お昼は各自にしておいた。好きな物を食べに行くといい」
「わかりました! では俺はこれで!」
アルマはシャキッと手を挙げるといち早く宿の外へ出て行った。随分張り切ってるなぁ……。まぁ検討つくけどねぇ。言わぬが花かな。
「どうせ娼館なのよ。放っておけばいいの」
「あー、うん。まぁ男だしね。フルグル、バラしちゃ可哀想じゃない」
うん知ってた。別に私にとってはどうでもいいんだけどね。それはアルマの自由だし。
「マレフィカさん。よろしければご一緒させていただいても?」
「ええ、構いませんよ?」
「そうですか、それは良かった。いいお店を知っていましてね。ご案内します」
まぁ、変に断るのもね。美味しいお店を知っているならいいのかな?
観光なら美味しそうなお店を探すのも醍醐味なんだけどね。
私はローランさんの後について行った。
案内されたお店はこの近くの山脈に生息するマツザカミノタウロスという危険度の高いモンスターのお肉を扱うお店だった。
マツザカミノタウロスは数いるミノタウロス種の中でも極上の味と言われ、 このミノタウロス種が生息しているところから近くの山脈の名前にも使われている。
マツザカ山脈と呼ばれるその山脈には数々の美味珍味モンスターが生息しているのよね。帰る前に何匹か捕獲に行きたいな。
「ここのミノスステーキは極上でね。この街に来たら必ず寄ることにしているんだ」
「凄いですね、ここ凄く高そう」
しまったな、ご一緒する前に「奢りなら」と付け加えるべきだった。私はメニューを開いてその値段に驚く。
当店オススメ!
ミノスサーロインステーキセット 金貨8枚
ミノスヒレステーキセット 金貨7枚
ミノスステーキセット 金貨5枚
……
ミノスシチューセット 金貨2枚
安いメニューでも金貨2枚。メニューに銀貨の文字が無い!
完全に富裕層向けのお店だねぇ……。
「心配しなくても大丈夫だよ。ここは私が出すからね。使い魔の分もどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
いかん、もしかして顔に出てたかな……?
まぁ、奢りだし容赦なくミノスサーロインステーキセットを注文しますけどね?
ただより安いものはなし!
キャトルとフルグルは何がいいんだろ。
「フルグルは何か食べたいのですか?」
「私は少し分けて貰えればいいのよ。キャトルのを少し分けてほしいわ」
「サーロインステーキ美味しそうなのです。これがいいのです」
何気にこの2人意気投合していると思う。フルグルも最初は怖がっていたけど、キャトルが使い魔になったらすんなり仲良くなったなぁ。
「はははっ、じゃあサーロインステーキ3つでいいね。せっかく来たんだ、1番美味しいものをご馳走するよ」
「あ、ありがとうございます」
私が頼む前にオーダーが確定したみたい。ローラン様って凄くいい人のようだ。顔良し性格良しお金持ち実力ある、のあるある尽くしだねぇ。
ローラン様はウェイターを呼ぶと、サーロインステーキセットを3人前注文する。そしてウェイターがその場を立ち去ると、私に向き直った。
「マレフィカさん、キャトル君。君たち2人に尋ねたい。君たち2人なら最精鋭である金と銀に勝てるかい?」
ん?
いや、見たこともないのにわかるわけないと思うんだけど……。
「人数がわからないのです。それに実力も。でも殺していいなら負ける気はしないのです」
時々キャトルがデモノイドだということを忘れてしまう。愛くるしい笑顔に可愛らしい声。私の言うことはちゃんと聞いてくれるし、気を使って守ってもくれる。それでもやっぱりキャトルはデモノイド。悪魔なのだ。
「そうか。うん、そうだよね。うちで最も強い金の隊長、ヴィクトリアでさえデモノイドを単騎で討伐したことはないからね。中位デモノイドさえも全く相手にならないキャトル君ならそれこそ瞬殺だろうね」
認めたくない事実だろうに、ローラン様の声には淀みも震えもない。でも諦めという感情ではなおようだ。
「2人に頼みたい。恐らく彼らは命令書を見ても納得しないだろう。この任務で先代の隊長のアウラ様を見つけたいと考えているはずだ」
「生きているわけがないのです」
「だろうね。それに関しては僕も希望的観測を持ってはいない。でも彼女は違うかもしれない。アウラ様は国内では歴代最強とまで呼ばれたサンクトルム。彼女を師と仰ぎ、尊敬していたヴィクトリアが納得するわけがないんだ」
うん、人の心はそういうものだと思う。信じたくない事実には目を背けたくなるものだ。仮に死んだことを受け入れているのなら、何があったのか突き止めたいはずだ。
「つまり、力づくで止めろと?」
「そうだ。頼む、これ以上精鋭を失うわけにはいかないんだ……」
ローラン様が頭を下げる。その心境はいかばかりか。
「僕は引き受けるのです。優秀な人材を敵のウテロに取られるのは面白くないのです」
「お引き受けします。キャトル、絶対殺さずにやらなきゃいけないわ。できるわね?」
「ご主人様の御心のままに、なのです」
なるほど。私たち2人の存在はローラン様にとっても渡りに船だったわけか。いいでしょ、やってみせますとも。私も自分の力を正しく知りたいものね。
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