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第2品「じつは時間経過って、思ってるより遅かったり早かったりする」
セラフVSダムンディアボロス
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ソヨギがタバコを片手にいろんなポージングを楽しんでいると……キュアオッ! となにかが空から降ってきて、道路を突き破った。ブワッと爆風がおこり、ソヨギの髪がわささーっとなる。さらに、
――キュアオッ! キュボンッ! ボゴァドドドドドドッ! ドゴンドゴンドゴアァッ!
いきなりシャワーのように青い光線が降ってきた。その破壊はコンビニまえにとどまらず、道路や周辺の家屋なんかもめちゃくちゃに粉砕されていく。だがなぜか、コンビニの敷地には降ってこない。
青い光線が着弾するたびに爆発がおこり、粉塵や砂煙、土煙が吹きあがっている。その光景はまるで爆撃されているかのようだった。
そんななか、今度は灰色の物体が空から降ってきた。まるで巨大な雪玉のような物体は、コンビニまえの破壊されつくした道路に衝突すると、ボウンッ! と破裂し、周囲にあった瓦礫やなんやらを吹き飛ばしてしまう。
ソヨギはその突風をさけるように、喫煙所からちょい奥へと身を隠した。なにもかもを吹き飛ばす風には、灰が大量に混ざっていたのだ。灰の風は一瞬で吹き抜けて、すぐにとまる。それにあわせて空爆もとまっていた。
「なにごとであるか!」
ウィッグノリさんの声が聞こえた。ソヨギは気になったのでひょこっと顔をだす。コンビニからティアラ係長、ツケマB系、豆腐も続いてでてくる。そしてソヨギは唖然としていた。
空中に舞っていた灰がいきなり、サーっという感じで晴れていく。地面に衝突した巨大な雪玉はどうやら灰でできているようで、さらさらと灰が上部からこぼれたりしていた。と、その巨大な灰の塊がぼふっと崩れる――なんと、そこからでてきたのはひとりの女だった。全身が灰色の、まさに灰っぽい女だ。
「は……灰の女神!」
豆腐が叫んだ。だがソヨギは唖然とタバコを見おろしていた。
強風のせいでタバコが燃えつきていたのだ。うまいこと灰の女神とやらに灰にされていたのである。まだ半分しか吸っていないのに……こうなると物足りなくなるのが喫煙者の深き業である。ソヨギはダウンのポケットをゴソゴソとし始めた。よおし……もう一本吸おう!
「ごきげんよう、飾神の方々……それにソフラ」
女はスカートをつまみあげながら会釈をした。なんだか高貴な雰囲気である。
「豆腐の女神よ、あやつは護神か? アニミスとは違うなにかを感じるぞ」
「ウィッグさま……彼女は護神ではありません。護神とは勇者パーティーに影ながら尽力する神のこと。灰の女神シンディラは……無属の神の一柱なのです」
「無属の……では善でも悪でもない、中道神であるか。どおりでアニミスを追っていても見つけだせぬはずよ」
専門用語は果てしない……全部の理解は諦めよう! そう決意したソヨギは取りだした一本に火をつけた。連続の喫煙は肺への負担を強めるが、まだ吸い足りないのだからしょうがない。
「ソフラ……あなたとはこうなる運命だったのよ」
「いまさら私怨など! いまこうしているあいだにも、破滅が――!」
「黙れ! すべてが灰塵に帰すと言うのなら、わたしは破滅を待望する女だ! それが灰の妖女! それがわたしだソフラ……!」
よくは分からないが因縁の相手らしい。シンディラが腕を振りあげた。その手からびゅおぉっ! と灰の風が吹き荒れる。
「障壁魔法!」
豆腐の障壁はコンビニの敷地をつつみ、灰の風を受けとめた。障壁の外はビュオォォォォッ! と、まるで嵐である。だがソヨギは無事に火をつけることができた。豆腐さまさまである。
「ティアラよ! 別動隊に援護を要請するのだ! ツケマ! 嵐がやみしだい討ってでる! アニミスを高揚させるのだ!」
『おおぉぉぉぉぉぉぉ!』
ソヨギはふぅーと煙を吐きながら目を閉じた。なんか凄いビカビカしていて、なんとか現象をひきおこしそうなほどのやばそうな発光が目に痛いのだ。
高揚の光がおさまっていくと、そこらへんでシュワンシュワンという音が聞こえてきた。目を開くとウィッグノリさんとツケマB系がオーラをまとっていた。それにあわせたように灰の嵐も弱まっていく。
「豆腐の女神よ、障壁を解くのだ。準備はよいかツケマ」
「いつでもいける」
完全に灰の嵐の放出が終わったところで、豆腐が障壁魔法を解除した。外は、まるで灰の霧が立ちこめているようだった……そこで、ソヨギは予感めいたものが胸にあらわれるのを感じていた。これではダメなんじゃないか……?
「――破魔煌飾神技!」
ウィッグノリさんとツケマB系が、光で紡がれた鎖のような一撃を放った。灰の妖女がいたあたりに着弾し、チュゴォッ! とかん高い爆発がおきる。その爆発が立ちこめていた灰の霧を晴らす――と、そこにいたのは灰の妖女ではなかった。
「デビロイドがいつのまに!?」
豆腐が驚愕する。目のまえにいたのは十数名のデビロイドたちだったのだ。灰が視界をふさぎ、そのあいだに包囲を完了したのだろう。それぞれがビデガンと似たような外見であり、角の数や首からしたの色はマチマチだったが、なぜかテンガロンハットとコートは一様に黒だった。デビロイドのうち五人は地上で扇形の陣形をとり、残りの十人くらいは家の屋根や上空に浮遊したりしている。
「やっぱりな……」
ソヨギはそれを見て、確信からつぶやいていた。
なんと吸っていたフィリップモリスは1mgだったのだ! 3mgを取ったつもりが間違えていたらしい。ソヨギの胸が――というか肺が感じていた、これじゃあダメな予感は的中していたのである。どおりで満足しないはずだ! ソヨギは肩にかけているライフルとエコバッグをよいしょとかけ直し、ちゃんと灰皿まで行ってタバコを消し、それからコンビニの店内に向かった。取りかえてもらおう。
「なんと……灰の妖女にしてやられたというわけか……」
ウィッグノリさんが悔しそうに言った。
「このやりかたで護神を潰していったのだな……」
ティアラ係長が舌打ちする。
「だが本当にデビロイドなのか? 魔力をまったく感じさせぬぞ」
「護神が裏切ったのではないのなら、むりやりに取りこまれたと考えるべきです……! かすかに食神たちのアニミスを感じるのです……わたしには分かる!」
ツケマB系に、豆腐は絶望的に答えた。
「……品切れしてる」
ソヨギも絶望的につぶやいた。入れ間違いによるタバコの取り間違いではなかった。3mgがないから1mgをケースにいれていたのだ。これでは恐らくカートンのストックもないに違いない。発注はこまめにしてくれないと困ります! しかたない……こうなったらアレをやるしかない。
「こうなったらやるしかありません」
ソヨギの胸中を語るように豆腐が言った。その物言いからして、二百倍のアニミスをもってしてもやりにくい相手なのだろう。
「だが豆腐の女神よ……」
「ウィッグ神さま。なぜ奴らが優位に立っていながら攻撃してこないのかお分かりですか? こちらが動くのを待っているのです。なぜなら――」
豆腐の長いセリフをまとめると、食神を得たデビロイドたちは中位神の飾神を倒せるほど強く、こちらが攻撃したら魔装技巧というやつでその隙をつくつもり……だそうだ。
「その狙いに乗ります。少なくとも二三体はわたしの速攻で倒せるはず……」
「ここは援護を待つのも手ではないか。うまくいけば挟撃も可能である」
「ティアラ神さま。消極的な仕掛けではデビロイドは倒せません。死中に活を見いだすような、無鉄砲のなかで運をつかむようなやりかたでなければ……そうでないとすべて読み切られてしまいます。それに、灰のめ……いえ、妖女シンディラもいるのですから」
豆腐はむしろそちらのほうが問題だとでも言いたげだ。確かにあの灰による攻撃はつかみ所がない。そのくせシンディラの姿が見えなくなっているのが、なにやら不気味だった。
豆腐がアニミスを高揚させると、紫のオーラが炎のように揺らめき、豆腐を包みこむ。
ソヨギがタバコを一本解放すると、ライターの炎が揺らめき、先端を包みこむ。
「大豆式超速激化!」
「……フィルターカッター」
ソヨギがフィルターを半分ちぎるのと同時、豆腐が先陣を切って飛びだした。はっきり言って速すぎて見えない。そのせいでデビロイドたちも反応が遅れる。というか、
「フェイクス――!」
と叫びながら地上にいた真正面のふたりが豆腐に吹っ飛ばされる。なにか技を使おうとして、失敗したような印象だ。豆腐の超速特攻により、ふたりのデビロイドは反対側のブロック塀や家屋にドゴオォォォォンッ! とつっこんだ。豆腐は紫に発光すると、
「破魔必殺導神技!」
テュンッ! と紫色をした拳くらいの光の球が発射され、デビロイドふたりが落ちたあたりに飛んでいく――ボグゴワァァァァッッ! 紫の光がドーム状に広がり、ちょうどデビロイドが落ちた範囲のなにもかもを消滅させた。ソヨギは――
――瞬時にうしろを向いた。なぜなら爆風がおしよせてきたのだ。またタバコが燃えつきるのは勘弁である。ソヨギはフィルターカッターのおかげで口あたりが増加し、ずいぶんマシになったタバコを吸い続けた。
「行くぞツケマよ」
「ティアラ、支援要請は!」
「届いたはずだ。これで安心して散ることもできるな……」
気になって振り返ると、ティアラ係長がふっと笑っていた。ソヨギは思う。カッコいい……
「我は護神! 我は勇者と世界のためにある!」
「我『ら』だ!」
「デビロイドどもよ覚悟しろ!」
三人がアニミスを高揚させながら飛翔した。豆腐ほどではないが、その動きは早い。それを見てデビロイドたちも応戦する。無数の青い光線が三人に飛んでいくが、飾神の力なのか当たることはない。回避や防御、または障壁を作って三人は突進する!
豆腐はと言えば、ふたりを倒してからは空中戦を繰り広げていた。撃って守って回避しての三拍子だ。だがなかなか決め手にならないらしい。だいたい一丁対四人くらいか。
飾神たちを見る。こちらの戦闘は少年誌的である。殴って殴られ、よけたり受けたり、吹っ飛ばされて吹っ飛ばす……その動きは早い。こちらは三人対五人。つまり、
「……ですよね」
十五人-二-四-五=……まあ四人ですね。それがソヨギのほうに右手を構えていた。なんか手に穴が開いていて気持ち悪い。そのうちふたりはこちらに歩いてくる。まさかの永眠チャンスふたたびである。
「貴様も忌々しいセラフだな!」
「……ひと違いです」
「見るからに弱そうな奴だ」
「フリーランスという名の一般人っす」
「ははは! こいつは違うぜ、異世界の人間だ。アニミスも魔力も感じねえ」
「なるほど」
「魔装銃なんかもったいねえな。俺が殴り殺してやる」
「痛いのは嫌です」
まあなんかジリジリとつめよりながら、適当に喋っている四人。ソヨギはタバコの煙を吐きだした。まだ半分なのでもったいない。あの手の空洞が魔装銃なんだろう。
しかしどうするかな。豆腐も飾神も忙しそうだ。戦うしかないのかな……やだ、めんどくさい。迎え酒で調子はいいが、酒がはいっている状態で動きまわるのはよくない。過剰な血流により頭痛が発症したりするのだ。せっかくおさまったのに動きたくはない。なんかいいものないかなぁ……エコバッグをちょっと開いて見てみる。水、コー○、カップラーメン、ちっちゃい醤油、ホッカイロ、小麦粉――小麦粉? 最近のコンビニはなんでもそろうなぁ……ちがくて。なぜ小麦粉? なんで小麦粉? まあいろいろ使えるし、いいか。
「おい人間、ずいぶんと余裕じゃねーか、ああ?」
「うっす、忘れてました」
ソヨギのその余裕を見て、デビロイドたちは包囲をせばめることを中断していた。ちょっと警戒しているようだ。しかしメン○スコー○で遊んでもらうタイミングではないし……と、そこでソヨギはタバコを吸い終えた。
「消さなきゃ……」
「おいてめえ! 動くんじゃねえ!」
デビロイドたちが怖い顔で右手を――魔装銃を突きだす。ソヨギはだが気にしない。タバコはちゃんと灰皿に捨てるのがマナーである。ポイ捨ては大人として恥ずかしいのだ。というわけで灰皿に向かう。
「動くなっつってんだろうがっ!」
「いや、動かないと消せないし」
「なめやがって!」
「――待てベイカー!」
地上にいるひとりが向かってこようとすると、浮遊しているひとりが止めた。
「なんだガーランド! なぜ殺らせない!」
「熱くなるんじゃねえ。こいつ……ソヨギだ」
「ソヨギ……? ビデガンをあっさり欺いたアイツか? はっ! そんなもん試してみりゃ分かるじゃねえかよ。そうだよな? ウィンチェスター」
ソヨギは会話を耳にしながらタバコを消した。なんだか有名人の気分である。そしてコンビニの裏から逃げようかと考えるが、灰の霧が立ちこめていて移動は無理そうだった。灰を吸いこんでしまえば致命的である。コンビニ周辺をぐるっと見てみると、どこもだいたいそんな感じである。なるほど、灰の妖女の役目はこれだったのか、と理解する。
「そうだぜガーランド。報告にあった爆発液体に気をつけてりゃなんでもねえ」
「馬鹿かてめえら! 俺たちはもう、ソヨギの射程圏内かもしれねえんだぜ」
そう言ったのは浮いているもうひとりである。ソヨギはとりあえずホッカイロを取りだす。寒いのだ。
「リコイルレス、そりゃどういうことだ? あいつはただ煙を吸ってただけじゃねえか」
「ああ……これが戦闘中じゃなければな! ただの策士が戦闘中に、余裕かましてそんなことできるか? できねえだろ。それにあいつの言葉だ! 動かないと消せない……そう言ったんだあいつは!」
デビロイドたちの顔がサッと青くなった。そしてシーン……となる。耳に届くのはバシバシドゴンて感じの飾神たちの戦闘している音だ。
なんにせよ、張ってもいない罠に勝手にはまったデビロイドたち。ビデガンが本隊にした報告がどんなもんかは知らないが……まあ、利用するか。ソヨギは貼ろうとしたホッカイロたちを手に歩いた。
「ばれちゃいましたか。せっかく起動したのに……」
「き……起動しただと!?」
なんかザワッとする四人。ソヨギはデビロイドたちの弱点を見つけた。起動。
「これは起動すれば歩いてても浮いててもかかる装置なもんで……起動したから動かないほうがいいですよ。なんせ起動しましたから。起動はしたけど動かなければ発動はしません」
ここぞとばかりにいっぱい言ってみる。地上にいるベイカーなんかはガクブルである。誰が誰かは分からないが左がベイカーだきっと。
「か……解除しろ!」
「えー、起動したのにー」
「ソヨギ! 俺たちは護神たちを葬りに来ただけだ。おまえには手をださないと誓う!」
「起動したのに?」
「だから! いますぐ解除しろぉ!」
ガクブルベイカーが魔装銃を撃つぞと、その手で空気を叩いた。でも撃ってはこないだろう。だってビビってるもの。
「俺に向けて撃てば発動します。ご自由にどうぞ」
「やめろウィンチェスター……動くんじゃねえ!」
ウィンチェスターなの? ベイカーさんごめんなさい。まあなんでもいいけど。ソヨギはホッカイロの袋を破って取りだす。六個いりを買ったのは正解だった。
「これは発動を抑制する装置です。これを散布して浴びれば罠の効果を受けなくなります」
「早くよこせ!」
「ちなみに熱くなったら成功なんで、逃げてくださいね。じゃあ……あとはお願いします」
ソヨギはひとつを自分用に持ち、あとのは四人に放り投げてやった。
「最小威力で撃ち抜いて散布するんだ!」
「……お疲れっした」
ソヨギは四人がホッカイロに向けて攻撃するのを見ずに、喫煙所に歩く。荷物たちをまた肩にかけて、とりあえず様子見である。チュンッ! ピュンッ! ぼふっ! ざさぁ……たぶん顔とかにもかかったのだろう。四人は悲鳴をあげながら悶絶していた。
ホッカイロの中身は鉄粉、塩類、活性炭などである。ホッカイロをクシャクシャっとして使うのは酸素を含ませて酸化をうながすためだ。酸化したときの発熱で暖まるのである。なので空気中にばらまけば充分に酸素を取りこんでかなり熱くなる。七十度くらいにはなるから火傷もするだろう。ソヨギには高校の科学実験での知識があったのだ。
「なんか可哀想……」
うひゃあとかいいながら四人は転げまわっている。浮遊していたふたりは落下したようだ。いまのうちにコンビニのなかにでも隠れようかな。
豆腐と飾神の戦いは続いていた。デビロイドが護神と互角に渡りあえるのが凄いことなのかは分からないが、まだまだ時間はかかりそうである。いっそのことここで寝るか……ソヨギは外では寒いのでコンビニにはいろうとした。しかし、すぐに足をとめる。
「……やるじゃねえか。さすがは策士」
「あざっす……」
どこからともなく聞こえてきた声。ソヨギはハァと溜め息をついた。このひともデビロイドだし、いても不思議はないか……めんどい! ソヨギは背後を振り向いた。
「てめえは本当に『虚実の王』を名乗る資格があるのかもな」
「……いりません」
ビデガンが魔装銃を構えて立っていた。いや、ハイヴォルトとか言ってたかな? なんにせよ霊級とやらはお腹いっぱいだ。いりません。
「だがよ、トリックスター……この状況はどうする? てめえが戦える奴だとはこれっぽっちも思えねえ。いまこのとき、てめえに残された選択肢はひとつだ。死……それしかねえよな?」
「まあ、そうっすね。じゃあそれで」
「なんだと……?」
ビデガンがぴくりと頬を動かした。なにか気にさわったのだろうか。
「死が怖くねえのか?」
「じつはかなり眠りたいので……漫喫にも行けないし、別にいっかなーみたいな」
「マンキツ? 修練場かなんかか?」
「ブレないっすねー……」
分かった。異世界語なんだきっと。もしくはマンキツって修練場みたいなのがあるのだ。もうそれに決めた。
「死なんざ覚悟してるってわけか……畏れいったぜソヨギ。てめえみたいな奴がいるとはな……」
「……なんかまえにも聞いたような」
「提案だ。俺と賭けでもやらねえか? 俺が勝ったらてめえは死ぬ。だがてめえが勝ったら俺が死ぬ……どうだ?」
「いいっすよ」
「けっ、軽く受けてくれるじゃねえか。言っとくが俺は死ぬのが怖ぇ……だから、マジで行くぜ」
ていうか会話が長いと眠くなっちゃうのだ。やるなら早くしないと、立ち寝の準備はほぼ完了してますよ?
「お好きにどうぞ。早めに」
「クックックッ……いいねえ。ゲームは単純だ……!」
そこでビデガンが消えた――と思ったら顔がくっつくくらいの近くにあらわれる。
「これで死ななきゃてめえの勝ちよ!」
「……ツバ飛んでます」
直後、ソヨギの体に魔装銃が突きつけられ、キュオッ! とかん高い音が聞こえた。ソヨギはその一撃をくらい、コンビニの壁にドガッ! と叩きつけられていた。
「ぐあっ!」
ソヨギにはめずらしくマジな悲鳴がもれる。消えそうな意識のなかで腹部を見おろすと、ダウンにポッカリと穴が空いていた。そこから冗談のように黒々とした液体が流れていた。
「……痛い」
「けっ……つまんねえ殺しだぜ……」
ソヨギが脱力し、ズルズルと壁をすべるなか、ビデガンはテンガロンハットをおさえてうつむいた。
背中も痛い。打ちつけた痛みなのか魔装銃の一撃が貫いたせいなのかは分からない。ひとつ言えるのは、アスファルトを簡単に突き破る攻撃なのだということ。だから間違っても、腹にしこんでいる月刊サジャジンが受けとめてました、みたいなことにはならないだろう。
「さて……後片づけでもするかねぇ」
ビデガンがつまらなそうにつぶやく。ソヨギはその声を耳にしながらも、サムライドオンの最後のページ見てないなぁとか思っていた。
まあいっか、やっと寝れるし……
ソヨギはゆっくりと瞼を閉じた。
続く
――キュアオッ! キュボンッ! ボゴァドドドドドドッ! ドゴンドゴンドゴアァッ!
いきなりシャワーのように青い光線が降ってきた。その破壊はコンビニまえにとどまらず、道路や周辺の家屋なんかもめちゃくちゃに粉砕されていく。だがなぜか、コンビニの敷地には降ってこない。
青い光線が着弾するたびに爆発がおこり、粉塵や砂煙、土煙が吹きあがっている。その光景はまるで爆撃されているかのようだった。
そんななか、今度は灰色の物体が空から降ってきた。まるで巨大な雪玉のような物体は、コンビニまえの破壊されつくした道路に衝突すると、ボウンッ! と破裂し、周囲にあった瓦礫やなんやらを吹き飛ばしてしまう。
ソヨギはその突風をさけるように、喫煙所からちょい奥へと身を隠した。なにもかもを吹き飛ばす風には、灰が大量に混ざっていたのだ。灰の風は一瞬で吹き抜けて、すぐにとまる。それにあわせて空爆もとまっていた。
「なにごとであるか!」
ウィッグノリさんの声が聞こえた。ソヨギは気になったのでひょこっと顔をだす。コンビニからティアラ係長、ツケマB系、豆腐も続いてでてくる。そしてソヨギは唖然としていた。
空中に舞っていた灰がいきなり、サーっという感じで晴れていく。地面に衝突した巨大な雪玉はどうやら灰でできているようで、さらさらと灰が上部からこぼれたりしていた。と、その巨大な灰の塊がぼふっと崩れる――なんと、そこからでてきたのはひとりの女だった。全身が灰色の、まさに灰っぽい女だ。
「は……灰の女神!」
豆腐が叫んだ。だがソヨギは唖然とタバコを見おろしていた。
強風のせいでタバコが燃えつきていたのだ。うまいこと灰の女神とやらに灰にされていたのである。まだ半分しか吸っていないのに……こうなると物足りなくなるのが喫煙者の深き業である。ソヨギはダウンのポケットをゴソゴソとし始めた。よおし……もう一本吸おう!
「ごきげんよう、飾神の方々……それにソフラ」
女はスカートをつまみあげながら会釈をした。なんだか高貴な雰囲気である。
「豆腐の女神よ、あやつは護神か? アニミスとは違うなにかを感じるぞ」
「ウィッグさま……彼女は護神ではありません。護神とは勇者パーティーに影ながら尽力する神のこと。灰の女神シンディラは……無属の神の一柱なのです」
「無属の……では善でも悪でもない、中道神であるか。どおりでアニミスを追っていても見つけだせぬはずよ」
専門用語は果てしない……全部の理解は諦めよう! そう決意したソヨギは取りだした一本に火をつけた。連続の喫煙は肺への負担を強めるが、まだ吸い足りないのだからしょうがない。
「ソフラ……あなたとはこうなる運命だったのよ」
「いまさら私怨など! いまこうしているあいだにも、破滅が――!」
「黙れ! すべてが灰塵に帰すと言うのなら、わたしは破滅を待望する女だ! それが灰の妖女! それがわたしだソフラ……!」
よくは分からないが因縁の相手らしい。シンディラが腕を振りあげた。その手からびゅおぉっ! と灰の風が吹き荒れる。
「障壁魔法!」
豆腐の障壁はコンビニの敷地をつつみ、灰の風を受けとめた。障壁の外はビュオォォォォッ! と、まるで嵐である。だがソヨギは無事に火をつけることができた。豆腐さまさまである。
「ティアラよ! 別動隊に援護を要請するのだ! ツケマ! 嵐がやみしだい討ってでる! アニミスを高揚させるのだ!」
『おおぉぉぉぉぉぉぉ!』
ソヨギはふぅーと煙を吐きながら目を閉じた。なんか凄いビカビカしていて、なんとか現象をひきおこしそうなほどのやばそうな発光が目に痛いのだ。
高揚の光がおさまっていくと、そこらへんでシュワンシュワンという音が聞こえてきた。目を開くとウィッグノリさんとツケマB系がオーラをまとっていた。それにあわせたように灰の嵐も弱まっていく。
「豆腐の女神よ、障壁を解くのだ。準備はよいかツケマ」
「いつでもいける」
完全に灰の嵐の放出が終わったところで、豆腐が障壁魔法を解除した。外は、まるで灰の霧が立ちこめているようだった……そこで、ソヨギは予感めいたものが胸にあらわれるのを感じていた。これではダメなんじゃないか……?
「――破魔煌飾神技!」
ウィッグノリさんとツケマB系が、光で紡がれた鎖のような一撃を放った。灰の妖女がいたあたりに着弾し、チュゴォッ! とかん高い爆発がおきる。その爆発が立ちこめていた灰の霧を晴らす――と、そこにいたのは灰の妖女ではなかった。
「デビロイドがいつのまに!?」
豆腐が驚愕する。目のまえにいたのは十数名のデビロイドたちだったのだ。灰が視界をふさぎ、そのあいだに包囲を完了したのだろう。それぞれがビデガンと似たような外見であり、角の数や首からしたの色はマチマチだったが、なぜかテンガロンハットとコートは一様に黒だった。デビロイドのうち五人は地上で扇形の陣形をとり、残りの十人くらいは家の屋根や上空に浮遊したりしている。
「やっぱりな……」
ソヨギはそれを見て、確信からつぶやいていた。
なんと吸っていたフィリップモリスは1mgだったのだ! 3mgを取ったつもりが間違えていたらしい。ソヨギの胸が――というか肺が感じていた、これじゃあダメな予感は的中していたのである。どおりで満足しないはずだ! ソヨギは肩にかけているライフルとエコバッグをよいしょとかけ直し、ちゃんと灰皿まで行ってタバコを消し、それからコンビニの店内に向かった。取りかえてもらおう。
「なんと……灰の妖女にしてやられたというわけか……」
ウィッグノリさんが悔しそうに言った。
「このやりかたで護神を潰していったのだな……」
ティアラ係長が舌打ちする。
「だが本当にデビロイドなのか? 魔力をまったく感じさせぬぞ」
「護神が裏切ったのではないのなら、むりやりに取りこまれたと考えるべきです……! かすかに食神たちのアニミスを感じるのです……わたしには分かる!」
ツケマB系に、豆腐は絶望的に答えた。
「……品切れしてる」
ソヨギも絶望的につぶやいた。入れ間違いによるタバコの取り間違いではなかった。3mgがないから1mgをケースにいれていたのだ。これでは恐らくカートンのストックもないに違いない。発注はこまめにしてくれないと困ります! しかたない……こうなったらアレをやるしかない。
「こうなったらやるしかありません」
ソヨギの胸中を語るように豆腐が言った。その物言いからして、二百倍のアニミスをもってしてもやりにくい相手なのだろう。
「だが豆腐の女神よ……」
「ウィッグ神さま。なぜ奴らが優位に立っていながら攻撃してこないのかお分かりですか? こちらが動くのを待っているのです。なぜなら――」
豆腐の長いセリフをまとめると、食神を得たデビロイドたちは中位神の飾神を倒せるほど強く、こちらが攻撃したら魔装技巧というやつでその隙をつくつもり……だそうだ。
「その狙いに乗ります。少なくとも二三体はわたしの速攻で倒せるはず……」
「ここは援護を待つのも手ではないか。うまくいけば挟撃も可能である」
「ティアラ神さま。消極的な仕掛けではデビロイドは倒せません。死中に活を見いだすような、無鉄砲のなかで運をつかむようなやりかたでなければ……そうでないとすべて読み切られてしまいます。それに、灰のめ……いえ、妖女シンディラもいるのですから」
豆腐はむしろそちらのほうが問題だとでも言いたげだ。確かにあの灰による攻撃はつかみ所がない。そのくせシンディラの姿が見えなくなっているのが、なにやら不気味だった。
豆腐がアニミスを高揚させると、紫のオーラが炎のように揺らめき、豆腐を包みこむ。
ソヨギがタバコを一本解放すると、ライターの炎が揺らめき、先端を包みこむ。
「大豆式超速激化!」
「……フィルターカッター」
ソヨギがフィルターを半分ちぎるのと同時、豆腐が先陣を切って飛びだした。はっきり言って速すぎて見えない。そのせいでデビロイドたちも反応が遅れる。というか、
「フェイクス――!」
と叫びながら地上にいた真正面のふたりが豆腐に吹っ飛ばされる。なにか技を使おうとして、失敗したような印象だ。豆腐の超速特攻により、ふたりのデビロイドは反対側のブロック塀や家屋にドゴオォォォォンッ! とつっこんだ。豆腐は紫に発光すると、
「破魔必殺導神技!」
テュンッ! と紫色をした拳くらいの光の球が発射され、デビロイドふたりが落ちたあたりに飛んでいく――ボグゴワァァァァッッ! 紫の光がドーム状に広がり、ちょうどデビロイドが落ちた範囲のなにもかもを消滅させた。ソヨギは――
――瞬時にうしろを向いた。なぜなら爆風がおしよせてきたのだ。またタバコが燃えつきるのは勘弁である。ソヨギはフィルターカッターのおかげで口あたりが増加し、ずいぶんマシになったタバコを吸い続けた。
「行くぞツケマよ」
「ティアラ、支援要請は!」
「届いたはずだ。これで安心して散ることもできるな……」
気になって振り返ると、ティアラ係長がふっと笑っていた。ソヨギは思う。カッコいい……
「我は護神! 我は勇者と世界のためにある!」
「我『ら』だ!」
「デビロイドどもよ覚悟しろ!」
三人がアニミスを高揚させながら飛翔した。豆腐ほどではないが、その動きは早い。それを見てデビロイドたちも応戦する。無数の青い光線が三人に飛んでいくが、飾神の力なのか当たることはない。回避や防御、または障壁を作って三人は突進する!
豆腐はと言えば、ふたりを倒してからは空中戦を繰り広げていた。撃って守って回避しての三拍子だ。だがなかなか決め手にならないらしい。だいたい一丁対四人くらいか。
飾神たちを見る。こちらの戦闘は少年誌的である。殴って殴られ、よけたり受けたり、吹っ飛ばされて吹っ飛ばす……その動きは早い。こちらは三人対五人。つまり、
「……ですよね」
十五人-二-四-五=……まあ四人ですね。それがソヨギのほうに右手を構えていた。なんか手に穴が開いていて気持ち悪い。そのうちふたりはこちらに歩いてくる。まさかの永眠チャンスふたたびである。
「貴様も忌々しいセラフだな!」
「……ひと違いです」
「見るからに弱そうな奴だ」
「フリーランスという名の一般人っす」
「ははは! こいつは違うぜ、異世界の人間だ。アニミスも魔力も感じねえ」
「なるほど」
「魔装銃なんかもったいねえな。俺が殴り殺してやる」
「痛いのは嫌です」
まあなんかジリジリとつめよりながら、適当に喋っている四人。ソヨギはタバコの煙を吐きだした。まだ半分なのでもったいない。あの手の空洞が魔装銃なんだろう。
しかしどうするかな。豆腐も飾神も忙しそうだ。戦うしかないのかな……やだ、めんどくさい。迎え酒で調子はいいが、酒がはいっている状態で動きまわるのはよくない。過剰な血流により頭痛が発症したりするのだ。せっかくおさまったのに動きたくはない。なんかいいものないかなぁ……エコバッグをちょっと開いて見てみる。水、コー○、カップラーメン、ちっちゃい醤油、ホッカイロ、小麦粉――小麦粉? 最近のコンビニはなんでもそろうなぁ……ちがくて。なぜ小麦粉? なんで小麦粉? まあいろいろ使えるし、いいか。
「おい人間、ずいぶんと余裕じゃねーか、ああ?」
「うっす、忘れてました」
ソヨギのその余裕を見て、デビロイドたちは包囲をせばめることを中断していた。ちょっと警戒しているようだ。しかしメン○スコー○で遊んでもらうタイミングではないし……と、そこでソヨギはタバコを吸い終えた。
「消さなきゃ……」
「おいてめえ! 動くんじゃねえ!」
デビロイドたちが怖い顔で右手を――魔装銃を突きだす。ソヨギはだが気にしない。タバコはちゃんと灰皿に捨てるのがマナーである。ポイ捨ては大人として恥ずかしいのだ。というわけで灰皿に向かう。
「動くなっつってんだろうがっ!」
「いや、動かないと消せないし」
「なめやがって!」
「――待てベイカー!」
地上にいるひとりが向かってこようとすると、浮遊しているひとりが止めた。
「なんだガーランド! なぜ殺らせない!」
「熱くなるんじゃねえ。こいつ……ソヨギだ」
「ソヨギ……? ビデガンをあっさり欺いたアイツか? はっ! そんなもん試してみりゃ分かるじゃねえかよ。そうだよな? ウィンチェスター」
ソヨギは会話を耳にしながらタバコを消した。なんだか有名人の気分である。そしてコンビニの裏から逃げようかと考えるが、灰の霧が立ちこめていて移動は無理そうだった。灰を吸いこんでしまえば致命的である。コンビニ周辺をぐるっと見てみると、どこもだいたいそんな感じである。なるほど、灰の妖女の役目はこれだったのか、と理解する。
「そうだぜガーランド。報告にあった爆発液体に気をつけてりゃなんでもねえ」
「馬鹿かてめえら! 俺たちはもう、ソヨギの射程圏内かもしれねえんだぜ」
そう言ったのは浮いているもうひとりである。ソヨギはとりあえずホッカイロを取りだす。寒いのだ。
「リコイルレス、そりゃどういうことだ? あいつはただ煙を吸ってただけじゃねえか」
「ああ……これが戦闘中じゃなければな! ただの策士が戦闘中に、余裕かましてそんなことできるか? できねえだろ。それにあいつの言葉だ! 動かないと消せない……そう言ったんだあいつは!」
デビロイドたちの顔がサッと青くなった。そしてシーン……となる。耳に届くのはバシバシドゴンて感じの飾神たちの戦闘している音だ。
なんにせよ、張ってもいない罠に勝手にはまったデビロイドたち。ビデガンが本隊にした報告がどんなもんかは知らないが……まあ、利用するか。ソヨギは貼ろうとしたホッカイロたちを手に歩いた。
「ばれちゃいましたか。せっかく起動したのに……」
「き……起動しただと!?」
なんかザワッとする四人。ソヨギはデビロイドたちの弱点を見つけた。起動。
「これは起動すれば歩いてても浮いててもかかる装置なもんで……起動したから動かないほうがいいですよ。なんせ起動しましたから。起動はしたけど動かなければ発動はしません」
ここぞとばかりにいっぱい言ってみる。地上にいるベイカーなんかはガクブルである。誰が誰かは分からないが左がベイカーだきっと。
「か……解除しろ!」
「えー、起動したのにー」
「ソヨギ! 俺たちは護神たちを葬りに来ただけだ。おまえには手をださないと誓う!」
「起動したのに?」
「だから! いますぐ解除しろぉ!」
ガクブルベイカーが魔装銃を撃つぞと、その手で空気を叩いた。でも撃ってはこないだろう。だってビビってるもの。
「俺に向けて撃てば発動します。ご自由にどうぞ」
「やめろウィンチェスター……動くんじゃねえ!」
ウィンチェスターなの? ベイカーさんごめんなさい。まあなんでもいいけど。ソヨギはホッカイロの袋を破って取りだす。六個いりを買ったのは正解だった。
「これは発動を抑制する装置です。これを散布して浴びれば罠の効果を受けなくなります」
「早くよこせ!」
「ちなみに熱くなったら成功なんで、逃げてくださいね。じゃあ……あとはお願いします」
ソヨギはひとつを自分用に持ち、あとのは四人に放り投げてやった。
「最小威力で撃ち抜いて散布するんだ!」
「……お疲れっした」
ソヨギは四人がホッカイロに向けて攻撃するのを見ずに、喫煙所に歩く。荷物たちをまた肩にかけて、とりあえず様子見である。チュンッ! ピュンッ! ぼふっ! ざさぁ……たぶん顔とかにもかかったのだろう。四人は悲鳴をあげながら悶絶していた。
ホッカイロの中身は鉄粉、塩類、活性炭などである。ホッカイロをクシャクシャっとして使うのは酸素を含ませて酸化をうながすためだ。酸化したときの発熱で暖まるのである。なので空気中にばらまけば充分に酸素を取りこんでかなり熱くなる。七十度くらいにはなるから火傷もするだろう。ソヨギには高校の科学実験での知識があったのだ。
「なんか可哀想……」
うひゃあとかいいながら四人は転げまわっている。浮遊していたふたりは落下したようだ。いまのうちにコンビニのなかにでも隠れようかな。
豆腐と飾神の戦いは続いていた。デビロイドが護神と互角に渡りあえるのが凄いことなのかは分からないが、まだまだ時間はかかりそうである。いっそのことここで寝るか……ソヨギは外では寒いのでコンビニにはいろうとした。しかし、すぐに足をとめる。
「……やるじゃねえか。さすがは策士」
「あざっす……」
どこからともなく聞こえてきた声。ソヨギはハァと溜め息をついた。このひともデビロイドだし、いても不思議はないか……めんどい! ソヨギは背後を振り向いた。
「てめえは本当に『虚実の王』を名乗る資格があるのかもな」
「……いりません」
ビデガンが魔装銃を構えて立っていた。いや、ハイヴォルトとか言ってたかな? なんにせよ霊級とやらはお腹いっぱいだ。いりません。
「だがよ、トリックスター……この状況はどうする? てめえが戦える奴だとはこれっぽっちも思えねえ。いまこのとき、てめえに残された選択肢はひとつだ。死……それしかねえよな?」
「まあ、そうっすね。じゃあそれで」
「なんだと……?」
ビデガンがぴくりと頬を動かした。なにか気にさわったのだろうか。
「死が怖くねえのか?」
「じつはかなり眠りたいので……漫喫にも行けないし、別にいっかなーみたいな」
「マンキツ? 修練場かなんかか?」
「ブレないっすねー……」
分かった。異世界語なんだきっと。もしくはマンキツって修練場みたいなのがあるのだ。もうそれに決めた。
「死なんざ覚悟してるってわけか……畏れいったぜソヨギ。てめえみたいな奴がいるとはな……」
「……なんかまえにも聞いたような」
「提案だ。俺と賭けでもやらねえか? 俺が勝ったらてめえは死ぬ。だがてめえが勝ったら俺が死ぬ……どうだ?」
「いいっすよ」
「けっ、軽く受けてくれるじゃねえか。言っとくが俺は死ぬのが怖ぇ……だから、マジで行くぜ」
ていうか会話が長いと眠くなっちゃうのだ。やるなら早くしないと、立ち寝の準備はほぼ完了してますよ?
「お好きにどうぞ。早めに」
「クックックッ……いいねえ。ゲームは単純だ……!」
そこでビデガンが消えた――と思ったら顔がくっつくくらいの近くにあらわれる。
「これで死ななきゃてめえの勝ちよ!」
「……ツバ飛んでます」
直後、ソヨギの体に魔装銃が突きつけられ、キュオッ! とかん高い音が聞こえた。ソヨギはその一撃をくらい、コンビニの壁にドガッ! と叩きつけられていた。
「ぐあっ!」
ソヨギにはめずらしくマジな悲鳴がもれる。消えそうな意識のなかで腹部を見おろすと、ダウンにポッカリと穴が空いていた。そこから冗談のように黒々とした液体が流れていた。
「……痛い」
「けっ……つまんねえ殺しだぜ……」
ソヨギが脱力し、ズルズルと壁をすべるなか、ビデガンはテンガロンハットをおさえてうつむいた。
背中も痛い。打ちつけた痛みなのか魔装銃の一撃が貫いたせいなのかは分からない。ひとつ言えるのは、アスファルトを簡単に突き破る攻撃なのだということ。だから間違っても、腹にしこんでいる月刊サジャジンが受けとめてました、みたいなことにはならないだろう。
「さて……後片づけでもするかねぇ」
ビデガンがつまらなそうにつぶやく。ソヨギはその声を耳にしながらも、サムライドオンの最後のページ見てないなぁとか思っていた。
まあいっか、やっと寝れるし……
ソヨギはゆっくりと瞼を閉じた。
続く
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