白すぎる女神と破滅と勇者

イヌカミ

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第5品「勘違いしないでください。俺は俺、彼らは彼らなんで」

覚醒……と全力マヨギと全開ソヨミス

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  ――自分は気絶していたのか。気づけば車の屋根に寝ていたようだ。誰のものか分からないグレーのセダンの屋根は鉄球でも落としたようにへこみ、サイドのウィンドウガラスも粉々になっている。

  よく生きてたものだと、ノリは痛む体を起こした。視界はなにも青空を経由し、金の男で止まる。ノリは険悪に表情を歪めた。

「ウィッグを……みんなを……あなたが消した!」

  怨み言を吐きながら車からおりる。痛みが全身を突き抜けて体勢を崩すが、無理矢理に体を安定させた。中腰のままに拳を握る。ウィッグはいなくなってしまったはずなのに、ブレイサーは消えていない。

「セラフ……か。たかが人間が儂に挑む……まあ、そういうことはあった。しかし、すべてが無益むえきとなった」
「うわ……あ……うわあぁぁぁぁぁぁ!」

  怒りがノリを満たすと、急激な喪失感が襲った。まるで半身を裂かれたような『痛み』が、精神をぐちゃぐちゃに掻き回しているかのようだった。

  ウィッグが無理に精神統合を切り離した結果だった。その行為がノリの精神を傷つけたと言える。

  しかし――ノリは絶望を感じていなかった。怒りとともに充足していくのは、なにかの意志だった。世界の全と、自身の個が一緒になるような感覚……別個ではなく同然となる感覚……それはまさにアニミスへの理解と感知だった。

「無益なんて言わせない!  みんながわたしを生かしたことをムダになんてさせない!  わたしがあんたを浄化する!」
「やってみろ……」

  ノリはアニミスを全力で高揚し、解き放った。ウィッグの意志とアニミスを覚えている。世界を守るために命をかけた彼は、わたしを生かすためについえた。それをムダになんてしない!

  ――ノリの容姿に変化が起こる。短かった茶の髪が伸び、ふわふわとした長髪に変わる。ウィッグを模した変異である。それはおそらく覚醒を意味していたが、ノリは自覚しないまま右腕を払う。

「ホーリーチェイン!」

  ノリの技を見て、金の男は嘆息した。通じなかった技を二度使うのは愚行だと思ったのだろう。

  じっさい聖鎖は金の男が腕を振っただけで落ちた。ノリは気にせず走る。むしろ聖鎖を捨て、続けてホーリーチェインを放つ。金の男のリアクションも同様で、腕を振ってそれを落とす。

  ノリは金の男にブレイサーを叩きつけた。が、金の男は微動だにせずに正面から受け止めた。金の男は体を揺らしただけで、ノリの攻撃が通じていないことが分かった。しかし諦めずに突く。

破魔七罰宝飾神技ダイヤモンド・ブレイサー!」
「ほう……」

  金の男は挑発じみた声を漏らすが動かない。ノリの左のブレイサーが金剛石化し、突き出された拳は剛拳となる。ダイヤモンド・ブレイサーが金の男を突いた!

  ドゴォンッ!  と巨躯が激しく揺れた――が、手応えとは裏腹に金の男はかすかに上体を曲げたにとどまった。まったく効いていない。

「しょせんはセラフ風情といったところか……」

(――!  飾神技護装鉱シールド・チェイン!)

  ノリは瞬時に右のブレイサーを盾に変化させた。ただの盾ではなく鉱石属性の盾である。物理攻撃に対しての堅固さでは護神随一の神技だったが、金の男の蹴りは、あっさりと盾を割ってノリを吹き飛ばした。

「ぐうぅぅぅぅぅ!」

  折れた――だがいまは着地が優先事項。気絶したノリを受け止めた車を飛び越し、デッドプリズンの外へと飛んでいく――飛ぶ?

  ノリは飛行を思い出してアニミス制御に移る。いままでの感覚と違い、大気と自分が同一になるような感覚があった。ノリは空中で停止した。

「余裕だよねまったく……!」

  ノリは全力で金の男へと飛翔した。立ち位置すら変えていない金の男が憎たらしい。

  自分は敵わないのだろうという明確な事実を、ノリはまったく無視していた。それでも逃げたくはなかった。自分が死んでしまったらそれこそみんなの死がムダになる。だがこのままでは終われない!

「ホーリーチェイン!」
「くどい」

  三度みたびのホーリーチェインを、金の男は払いもせずに体で受けた。刺突すら通じずに聖鎖は弾かれていた。ノリはしかし、飛翔で接近しながらさらにホーリーチェインを放つ。

「……いささか興も冷めてきたぞ」
「あっそ!  破魔七罰操飾神技リストレイント・ホーリーチェイン!」

  拘縛こうばくへの聖鎖操術せいさそうじゅつリストレイント。ムダにも思えた屋上で散らばる聖鎖たちが、金の男に巻きつき拘束する。リストレイントによって聖鎖は強力に絞られ、被技者を圧壊へと導く!

(どうせ簡単に引き千切られる!)

破魔七罰挽鎖神技ソウグランド・ホーリーチェイン――」

  ノリは先手を打つ。聖鎖が金の男を十分に縛りつけたところで、一気に聖鎖を引き抜く!  次いで、

「――セブンリングス!」

  聖鎖の刃化を発動させる。引き抜かれつつも鋭利な刃が金の男を無尽に切りつけた!   ギャギャギャギャギャッ!  とかん高い不吉な音色が響き渡った。攻撃が通じていれば、あんまり想像したくない状態になっているだろう。

  バキィンッ!  と聖鎖が効果を終えてバラバラになった。さすがに聖鎖も消失する。

  ……が、金の男は無傷だった。刃によるあとすら残されていない。ノリの連撃チェーンですら通じず、金の男にはくすぐられた程度だったのか、体をなでる。なでながらその体を見おろしている。

「……儂はうれいている。強靭すぎる体躯、拳撃、蹴撃しゅうげき……儂と台頭する者は存在しなかった。儂は創世から生き、幾千幾億の闘いを勝ち、そして異世界に光明を見た……だが、ここにも台頭する存在はいなかった。次元門エルシアを渡った儂の行為すらも無益だった」
「だから?  なんなのよ!?  あんたの感傷につきあってみんなは消されたって言うの!?  そんな理由で!?  みんなへの侮辱は許さない!」
「……のことだ。儂のイレースヴェノムカノンから生き永らえた存在は……あの護神は存在そのものを賭して貴様を生かした。だからこそ、少しばかり貴様に期待したのだが……その期待もまた無益だった」
「ただ強いから――強いからってなによ!?」

  ノリはでも、自分が生かされた理由が分からなくて、金の男にはなにも通用しないのに、それが悔しくて、涙がこぼれて――

「ガデニデグの捕らえた護神らがいたが、それらは消すまでもなく残骸ざんがいとなっている。同じ飾神だったのだがな……少なからず儂はウィッグとやらに敬意を抱いておる。まだ貴様が消えておらぬがその証拠だ」
「敬意がなに……あんたなにさま!?」

  ノリは金の男の敬意を嬉しくは思わなかった。ウィッグを消し、自分にとっては無益と言っておきながら敬意を表している。支離滅裂だ。

  つまるところ強くなりすぎた金の男は退屈なのだ。退屈しのぎの余興を邪魔されて、デビロイドへ魔技を放った。その自負に満ちた最強の魔技にさらされながら、脆弱と思っていた飾神は人間を生かすことに成功した。そのおかげで金の男は新たな余興を得た。そのため金の男はウィッグへ敬意を覚えた。金の男はいくばくかの退屈しのぎを得られたのだから……。

「ふざけんな!  命はあんたのオモチャじゃない!」
「無論だ。命は存在の証明にすぎぬ。存在なくば命はない。だが儂には存在すらも無益なのかもしれぬ……いや、無益とならなかった存在はいたな。あのデビロイドの名はなんと言ったか……」

  金の男は顎に手をそえながら、こちらにはどうでもいい記憶を思い起こそうとしていた。その行為は挑発というより、こちらに対する侮辱に等しかった。

「馬鹿にすんな!  くそ……!  なんでわたしはこんなに……!」

  ノリは折れた右腕を見おろして、弱くもろい自分を恥じる。ウィッグとデビロイドたちの死をムダにしたくないのに、アニミスを感じるセンスを得ても金の男には通用しない。

  ノリは歯噛みする思いで、岐路きろに立たされたような錯覚を覚えていた。

  ノリには迷いがあった。せっかく助けてもらった命を投げ出してもいいのかどうか。無様でも助かるために逃走しなくてはならないのではないか……でも、このまま引きさがりたくはなかった。みんなの命を無益と言われて黙っていられなかった。どうにかして一矢いっしむくいたい……なのに、わたしにはその力がない……。

  金の男の回顧かいこは続く。こちらの存在などまったく相手にしていないのだ。それがたまらなく悔しい。でもこのまま戦闘を続けても、きっとわたしは死ぬ。それはこの男以上にウィッグを侮辱する行為なんじゃないだろうか……。

  逡巡しゅんじゅんだった。ノリは金の男への怒りを忘れて迷った。選択しようとして、『でも』を繰り返していた。

  そしてふと、ウィッグの言葉が脳裡のうりをかすめた。ウィッグの遺言はノリのことを気づかうものだった。

<おぬしに我のすべてを託す。おぬしには『知』が残る。つまりはセンスだ。アニミスを操り、できることならば逃げろ……おぬしとの時間は楽しかった――>

  ――ウィッグはノリとの精神統合を経て、ノリがどういう人間なのかをあますことなく理解していたのだろう。だからなんて、遠まわしな願いを伝えてきた。

(わたしには絶対から、そんなふうに言ったんだよね……わたしもあなたとの時間は、なんだか特別で楽しかった……)

  ウィッグは自分を理解してくれていて、彼は持っていたすべてをわたしに託した――ならば、大丈夫だろう。わたしはやりたいことをやっていいんだろう。

  ノリはブレイサーに視線を落とした。ウィッグが遺したモノを見つめて、やりたいことを探す。まだなにかが足りない気がした。

  デビロイドたち。彼らはなぜわたしを助けたのだろう。デビロイドはわたしよりも戦いに慣れている。それなら金の男がわたしに攻撃したときは、クラッグのかたきを討つ絶好のチャンスだった。

  だけどウィンチェスターはわたしを救った。わたしはあの一瞬のうちに二度、命を救われていたのだ……なんで?

(なんでみんな、わたしなんか助けたの?)

  なにもできないのに、なぜわたしは助けられたのか。ヴァーチャーズをひきいていた隊長だからか?  でも、ウィンチェスターは言った。

『逃げるぜウィッグ――ノリ』

  彼らは表層意識を交互に支配するノリとウィッグのことを、完璧に判別していた。ノリが支配していたらノリと呼んだし、ウィッグならばウィッグと呼んだ。その最後の言い直しは、戦闘していたのがノリだとは思わなかったからだろうが、でも表層意識にいたのがノリだと分かっていた。

  デビロイドたちはクラッグの仇を討つ、そのつもりだった。でも撤退を決めた。ビデガンのおかげで誇りを取り戻したはずの彼らが、仇敵きゅうてきを放ってわたしを助けようとした。瞬間的な合意だったろう。そうじゃなければリコイルレスとカルカノは、特攻していたはずだ。

  ウィッグ同様に彼らも、ノリを理解する者たちだった。だから逃げようと言ったし、みんなも同じ意見だった。仇敵を捨て置いても助けてくれた。ウィッグと同じ気持ちだったのかもしれない……わたしがだろうと思い、誇りよりもわたしを優先した。

  わたしは生かされた。みんなに生かされた。無益なんかじゃない。

(わたしはこの命を無益にしちゃいけない。ウィッグは世界を救おうとしていた。デビロイドは一族の解放を願っていた……希望と願望……どちらにもなにかをしなくちゃならない。想い――みんなの想いをわたしは継がなくちゃ。生かされたんだからさ……)

  「そうだよね……みんな……?」

  ――そのときノリは、感情を超越した。ただ沸き上がる感情を忘れ、ひたすらに彼らを想った。

  すると、想いだけが残った。怒りや苦しみや痛みや悼みや悔やみや恥や――そのなにもかもは消えていた――

  残ったのは想いだった。その想いを手に、ノリは金の男のまえにおり立った。

  神技を連発し、残されたアニミスはわずかなはずである。

  だが、アニミスはなぜだか増加していく。理由は分からなかったが心地よかった……金の男が怪訝けげんに眉を寄せた。

「……なんだそれは」
「これは想い……たぶん、世界を救おうとしたウィッグと、誇りを持ったデビロイドの想い……」

  ノリが左拳さけんに握るアニミスは、金の男が無視できないほどに輝き、洗練されていた。発せられる光と同時に金の男が感じていたのは、極限にまで研ぎ澄まされた剣のような、研鑽けんさんに似たものだったはずだ。

「知識でも経験でも熟練でもない『想い』。この想いにはあんたでも敵わない……そうじゃなかったらわたしが生きている説明がつかない」
「想い?  それだけで儂に届こうというのか……窮地きゅうちに立たされた者の夢想だな。そういうやからはいた。腐るほどにだ」
「わたしは磯之夏紀イソノカノリ。きっちり覚えなさい――」

  は想いの宿った左拳を構えて走った。飾神では発揮できないだろう強力なアニミスは、金の男に近づくにつれてさらに研ぎ澄まされていった。

(乾坤一擲けんこんいってき。そんな技名にしたらウィッグは怒るのかな?)

  ウィッグはバクチとか嫌いだろう。合理的な思考が好みっぽい……とか、どうでもいいことを考える。

  金の男の攻撃に対する反応は変わらなかった。使用する側のカノリ自身が驚くほどのアニミスを、ただ見つめている。ひょっとしたらこの男は、生きていることにすら退屈しているのかもしれない、そんな印象を覚えた。

  金の男まで二歩。 ここに来てカノリのアニミスはさらに研磨けんまされた。膨大なアニミスが研がれ、凝縮する。剣のような印象が短刀ほどになったが、小さくなった反面、強度を増していた。

  あと一歩。さらなる研磨が起こる。短刀ほどのアニミスは縫針ぬいばりのごとく研鑽けんさんされる。 ここでカノリはウィッグの与えた知によって、この研鑽が鉱石属性の性質なのだと理解していた。磨けば輝く宝石のような、研げば鋭くなる刃のような性質である。

  あと半歩――

  カノリはいつのまにかブレイサーも消えている生身の左拳を振り上げた。その顔に一発食らわせる――いや、無益な命などないことを思い知らせる!

  金の男は防御の動きをとった。右手で受けるつもりのようだ。カノリは防がれることを承知しょうちでそのまま左拳にこめた。力ではなく想いを――

  左拳が防御の手に触れる直前、アニミスはさらに研がれ、磨かれた。その最強度の研鑽と細さはもはや、一本の毛髪ほどだった――

(みんな……行くよ……)

  パァン……!  左拳が触れる。アニミスが放たれた手応えすら感じない。しかし、想いは無敵にも思えた金の男の防御を貫いていた――

「……見事だ」

  カノリの放った超研鑽の一撃は、金の男の手を貫き、その先にあった右の眼球を破壊するに至っていた。その賞賛の言葉がなければ、右の眼球に刺さった髪の毛ほどのアニミスに、気づくこともなかっただろう。

  カノリは微笑んだ。絶対無比の力に、宿した想いが勝った。みんなの死が無益ではないと、金の男の言葉を否定することができた。満足だった。

「……貴様の名は忘れぬだろう」
「やっぱ忘れて。あんたのこと好きじゃないから」

  金の男は返答の代わりに、拳を振りおろした。

  カノリはボンヤリしながらその時を過ごした。死の直前には走馬灯がお決まりだが、思い出が巡ったりはしなかった。コマ送りの時間のなかで、金の男の拳を見つめた。

  そういえば想いってなんだろうと、自問する。じつのところ、なんで自分が生かされたのか分からない。勇者の気持ちを汲むのが護神の定め?  その行為が仲間に及んだのだろうか……アニミスを得て万物とつながったから、仲間のアニミスを感じて、アニミスが魂なんだといままでよりも深く理解して……?  分からない。

  そういえば技の名前はなににしようかな。可愛いのがいいけど、きっとそれはウィッグの好みじゃない。

  金の男の拳がカノリを捉えた――

「――やるじゃねぇか嬢ちゃん」
「……え?」

  カノリは目をしばたいた。少し向こうで例えようのない轟音がした。カノリはデビロイドに抱えられていた。ウィンチェスターが生きていた……?  違う!

「ビデガン!」
「ああ……とりあえず涙をぬぐったらどうでぇ」

  カノリは優しくおろされて、 思っていた以上に涙を流していたことに気づき、そででグシグシと拭いた。

  顔をあげる。二十メートルほどさき、屋根のあるほうに仲間がいた。豆腐とシンディラと、フィアに……ソヨギ。もうひとりの女性は助け出されたひとだろうか。もうひとりは、

「モンスターにしか見えないひとがいるけど?」
「仲間だ。一応な――と、御大おんたいが気づきやがった」

  ビデガンが口笛を吹く。すると視界がいきなり変わった。瞬時に移動し、仲間たちのもとに移動していた。フェイクスターってこんなこともできたのか、そう感心していると、カノリの肩をソヨギが掴んでいることに気づいた。

「ソヨちゃん……生きててよかった」
「あざっす。ハジメマシテ」
「ん?  初めましてってなに?」
「説明はあとっす。みんな思うところはあるでしょうが、作戦通りにしてください」
「うん、分かってる……!」

  フィアは遠くにいる金の男を睨みつけていた。怒りの形相から察するに、いまここで起きたことのすべてを知っているのだろう。それよりもまず、隠しきれずに全身から発している魔力が気になる。というかソヨギからも魔力を感じるが……あと作戦てなんだろう。と、カノリが混乱を自覚するのには、まだまだかかりそうである。

  カノリを置いてけぼりにして、場は進行していく。

「イギギさん、みなさんをお願いします。シンディラさんも行かなきゃダメっすよ」
「分かっている……!  だが仲間を消された怒りをどうぎょせばいいのかが分からない……!」

  シンディラはフィアと同じように怒りをあらわにしていた。握りしめた手がわななき、いまにも爆発しそうなアニミスを背負っている……ていうか、なんか元のサイズになっている。なにがどうしてこうなったのだろう。カノリは置いていかれている。

「全部ガデニデグさんにぶつければいいんじゃ?  責任は全部あのひとにあるわけで」
「……マジでデスケテスをおめぇに任せていいんだろぅなぁ、マヨギ」
「ん?  マヨギ?  ソヨちゃんじゃないの?  ていうかデスケテスってあの最強魔神のこと?」
「知らねぇで戦ってたのか嬢ちゃん。あそこに立ってるのがそのデスケテスだぜ」
「でもウィッグはなにも言わなかったよ?  ウィッグなら知っててもおかしくないのに……ていうか、メガ美ちゃんが倒したはずじゃなかったっけ?」
「そっすね。でも違ったんすよ」

  なんで?  カノリは置いていかれている。

  だがまあ、ソヨギが――もといマヨギとやらがため息を思いっきり吐いたので、質問をためらわずにはいられなくなる。いや、ソヨちゃんだよね?

  そして当然の疑問なのだが、その最強魔神を目のまえにして、こんなに悠長に話しててもいいのだろうか。

  そう思って金の男――デスケテスを見ると、呆然としてこちらを眺めていた。カノリはすでに倒したという判定でもしたのだろうか。それなら襲ってこない理由も説明できるが……。

「てゆーか早く行ってくださいよ。始められないっす」
「んなこたぁ分かってんだ。でもよ、同族やられて黙ってろってか……できねぇよなぁ……!」

  ビデガンも爆発寸前のアニミスを抑えている。顔がひきつり、こめかみの血管が浮き出ている。誰でもそうなる。カノリもそうなった。

  そのみんなの怒りは同調している。カノリはなにもしなくてもアニミスを感じられるようになったので、その感情というか想いを、十分に理解できていた。表情や態度から読み取れる以上の想いを感じることが可能になっていた。アニミスはこんなにも雄弁なのかと感心する。

  なので、カノリは仲間たちに語りかける言葉が見つからずに見守っていた。

  すると、どこか知っている雰囲気の女性が一歩進んだ。自然と全員注目する。長い黒髪とノースリーブのライトダウン。黒いスウェットとバッシュ。どこから見てもソヨギスタイルである。なんていうか、デスケテスに向けられているなにを考えているか分からない表情すらも、ソヨギスタイルのように見えた。

  彼女に見え隠れする力はアニミスだ。セラフ?  でも彼女には憑いてる神がいない。置いていかれているカノリを尻目に、女性はデスケテスから視線を変えずに言った。

「……みなさんの想いはわたしが代弁しますんで」
「ごめん、あなたは?」
「ソヨミスっす。ハジメマシテ」
「なんか名前と喋り方がソヨちゃんみたい……生き別れの妹とか?」
「わたしもソヨギですが」

  ……?  カノリは置いていかれている。

  カノリはとにかく全部の説明を聞きたくて口を開きかけたが、ソヨミスとやらが右手を前方に差し出したので言葉がつっかえた。ソヨミスは手のひらをうえに向ける。戦闘体勢かな?

「……行ってください。アニミスが同調しちゃうと、わたしの動作にも影響します。マヨギさんが魔力で『伝播でんぱ』を中和してくれているのでガマンできてますが、みなさんの怒りがわたしの心を乱します。失敗できないっす。せっかく……」

  ソヨミスがちらっとカノリのほうを見た。カノリがなあに?  という表情を返していると、ソヨミスはふたたびデスケテスのほうを向いた。

「……せっかく攻撃方法を教えてくれたのに、ムダになっちゃいます」
「わたしが?」
「そっす。立ち回りは決まってたんですが攻撃をどうするか悩んでたんす。でも分かりました。あざっす」

  ソヨミスはぺこっと頭をさげた。つられて、ども、と頭をさげる。まあ、なんだかんだ置いていかれているわけだが。 

「……行こう。シンディラ、ビデガン。あいつぶん殴ってやりたいけど、ほうがいいよ」

  と、フィア。小さな勇者はひょろ長いモンスターの手を握った。ひょろ長いモンスターは、ぼへーっとした顔でフィアを見おろした。本当に仲間みたいである。シンディラがフィアに続く。が、立ち止まってこちらを振り向いた。

「ノリ。わたしたちが到着したときには、デスケテスの技が放たれる直前だった……すまない」
「ううん……あなたたちが間に合っても結果は変わらなかったかもしれない。変わったかもしれないけど……デスケテスは強すぎてなんとも言えない。でも、悲しいけど、ウィッグは今でも色んなことを教えてくれてるし、本当に一緒にいてくれてる感じなの。だから、よくはないけど悪くもない……ごめん、うまく話せないや」
「わたしも同じだよ……では、またな」

  シンディラがひょろ長いモンスターの肩に手を置く。

  カノリはビデガンを見る。ビデガンはまだ怒りを爆発させる機会をうかがっているようだった。

「ビデガン、あのさ……」
「……ああ、分かってる。俺じゃあ奴は倒せねぇ。だがよ、詫びの言葉ひとつ浮かばねぇのさぁ……情けねぇ」
「ビデガンがウィンチェスターたちの立場だったら、謝ってほしい?」
「――けっ!  んなわきゃねぇ。てめぇらじゃ敵わねぇから逃げろって言ってやる。もしくは、他にやることあんだろって怒鳴りつけてやるさぁ……」

  ビデガンは自分の言葉にハッとして、カノリを見おろした。そしてテンガロンハットを深くかぶると、

「ちっ、嬢ちゃんのくせにうめぇこと言いやがってよぉ」

  ビデガンはひょろ長いモンスターへと歩き出した。シンディラになにかを言われて、うるせぇと悪態をつく。

「あ、メガ美ちゃんは?」
「俺たちの補佐っす。それじゃあみなさん、ふぁいと」

  マヨギが棒読みで言うと、ひょろ長いモンスターが魔力を展開した。どこかに行こうとしていると分かり、カノリは手を振りながら、

「みんな、これからはわたしのことカノリって呼んで」

  なんでそんなお願いをしたのか、自分でも分からない。みんなはコクリと頷き、消えた。

「やっとですね……さて、やりますかソヨミスさん。全力で」
「……うっす。それでは――全開っす」

  マヨギの差し出した左手。魔力が炎のように揺らめきだした。

  ソヨミスが差し出していた右手。アニミスが水晶のように輝きだした。

『たまには本気だすソヨギ……解放』

  ドンッ!  とデッドプリズンが揺れる。カノリはその力から距離をとった。 

「ち……ちょ、ウソでしょ!?  なによこのスゴいの!  本当にソヨちゃんなの!」
「間違いなくソヨギさまです!」

  いつのまにか豆腐が隣にいた。いままで姿が見えなかったがどこにいたのだろう。

「メガ美ちゃん、なにがなんだか分からないから説明してくれる?」
「はい。お任せくださいさま」

  あ、そのへんの話のときには近くにいたんだ。じゃなくて。

「あのふたり何者なの?」
「はい。あのおふたりはガデニデグによって――」

  豆腐の説明が始まるのと同時、ソヨミスが消えた。

  勘でデスケテスのほうを見ると、とんでもないアニミスがデスケテスを蹴りつけたのが目に入った。

                       続く。
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