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第1話 転機
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第1話 転機
「貴方は天才なのよ、颯」
母は俺に会う度にそう言った。
元々海外出張が8割の両親に会うことは稀で、会ったとしても嫌になるほど聞かされるのは、この言葉だった。
両親は「天才児を子供持つ親」になりたいだけであり、その道具として使われることが少し癪に障るが、16年も同じ扱いを受けているのだから気にすることも無くなっていた。
「颯、勉強はどうだい?今は何の研究を……」
俺は現在取りかかっている研究をまとめた資料を父に渡した。父は満足気に笑みを浮かべた。
「じゃあ、部屋に戻って研究の続きをするよ。2人はしばらくこっちにいるの?」
「いや、今夜にはイギリスに発つ」
慣れた俺は「分かった、気をつけて」と引き止めることもなく部屋へと戻った。
自室に戻り、ドアを閉めた。
「……馬鹿馬鹿しい……」
研究をするなんて嘘で、気を使う両親から離れたかっただけだ。俺は自室のベッドに横たわる。
眠い、疲れた、明日は研究を少し続けて……
そう考えているうちに眠っていた。
俺の家はいわゆる豪邸、つまり金持ちだ。だから両親がいなくても料理を作るシェフも居るし、掃除をしてくれる人もいる。俺は家から出なくても過ごしていける。
ただ、今回は……………
「研究材料を買いに行きたい。」
付き人にそう言うと、「私が買ってきますよ」と言うが、研究の内容もよく分かってない人に材料を選ばせたくはない。
「自分で見たいから、車だけ出して欲しい」
「承知しました。」
そういうとすぐに車を用意してくれた。
使っているパソコンも壊れかけだし、そろそろ新しくしよう。
久々に外に出るわけだから、出来るだけ自分のモノを調達しておこうと考えた。
車に乗り、ボーッと外を眺めていると知らない建物が建っていたり、道が変わっていたり……ずっと住んでいる街のはずなのに知らないところみたいだ……。
「颯様、まずはどちらに……」
「……あ、パソコンを買い替えたい」
外の風景に気を取られていると、付き人の声にハッとした。
しばらく外を眺めていると、眠気が襲ってくる。心地よく揺れる車内で目の前が霞む。カクンと頭が揺れ、目を閉じた。
「颯様、お休みのところ申し訳ございません。駐車場に車を停めてきますので、ここでお待ちください。」
付き人の声で目が覚めた。
寝ていた…最近研究続きで徹夜することも多かったためだろうか……
「ああ…分かった」
車から降り、駐車場へと向かう車を見送る。
まだ、しっかりと目が覚めておらず、すぐ後ろにあったガードレールに寄りかかる。
「今日の買う物は……」
持っていたスマホを取りだし、メモ機能を開き買う予定の物を確認する。
すると、どこからか車のクラクションの音が鳴り響いていた。パトカーのサイレンも遠くから聞こえてくる。
俺は気にせずスマホの画面に夢中になり、行く予定の店の商品一覧を眺めていた。
段々とサイレンが近く聞こえてくる。嫌な音だ……。と思い、振り返ると目の前に黒で埋め尽くされた。
「っえ」
その瞬間ガードレールが破片となり、そこら辺あたり一面に飛び散る。
甲高い声が聞こえる。でも、俺は声が出ない。
あぁ……そっか、俺は車の下敷きになっているんだ。
ドクドクと脈が早くなる、全身痛いような痛くないような……
ワーワーと誰かが叫ぶ。男か、女か…大人か子供か……その区別も付かないほど耳が遠くなっていた。
薄れる意識の中で、指先に血が触れる。
俺、死ぬのか…
自分の血だとわかった瞬間、死を覚悟した。だって、この流血の多さ……助かるわけないもんな。
馬鹿みたいに頭に詰め込んだ知識。最後に思うことがこんなことなんて……
ーーーホントに馬鹿らしい人生だ。
そこで俺は意識を手放した。
ズキンと頭が痛い。俺は、感覚を取り戻した、のか…?
目を開けると目の前は真っ白だった。
「……病院…ではないな…ベッドもないし…」
真っ白な部屋の床に横たわっていた俺は、むくりと身体を起こした。
「……生きてる…そんなはずない…出血量からして…………」
手を握り、開くを繰り返す。しっかりと自分の意識通りに動いている。
「ここ、どこだよ…」
頭だけはズキズキと痛むが、身体の痛みはない。あれだけ強く打ち付けたはずの身体が無傷なんてありえない。
すると、目の前に黒い文字が浮かんできた。
「後悔するかもしれないが、もう一度、生き返りたいか」
フワフワと浮かび上がる文字に驚きを隠せない。現実世界で文字が宙に浮くわけがない。どんな原理だ。
ふと我に返ったときに考えることは、こんなことばかりかと自分が嫌になる。
「……生き返る……」
ということは、俺は死んでいるのか。じゃあここは現実世界ではないってことか……。
生き返りたい、生き返りたくない…そんなこと考えたことがないが……
つまらない16年の人生だけで終えたくはない。
「……生き返ればあのつまらない人生じゃなくなるのか?」
そう誰にでもなく文字に問いかけるが、文字は答えるはずもなく、ずっと浮かんでいるだけだ。
……俺次第ってことなのか。
「………………生き返りたい……」
ボソッと呟くと、文字は消えた。そして新たな文字が浮かび上がる。
「生き返りたいのなら、この扉を開けて」
先程までなかったはずの扉が目の前の壁にあった。
俺は立ち上がり扉の前に立った。
「どうせ、生きるか死ぬしかないなら…後悔してでもやり直してやるよ」
独り言のように呟き、強い力で扉を押し開け、1歩踏み出そうとした瞬間
「えっ」
下に地面はなく、俺は落ちていった。そこでやはり死ぬのかもしれない、と思い、目をつぶった。
扉は閉まり、誰もいない白い部屋で
「本当に後悔しても知らないよ」
と浮き出て、すぐに消えた。
「貴方は天才なのよ、颯」
母は俺に会う度にそう言った。
元々海外出張が8割の両親に会うことは稀で、会ったとしても嫌になるほど聞かされるのは、この言葉だった。
両親は「天才児を子供持つ親」になりたいだけであり、その道具として使われることが少し癪に障るが、16年も同じ扱いを受けているのだから気にすることも無くなっていた。
「颯、勉強はどうだい?今は何の研究を……」
俺は現在取りかかっている研究をまとめた資料を父に渡した。父は満足気に笑みを浮かべた。
「じゃあ、部屋に戻って研究の続きをするよ。2人はしばらくこっちにいるの?」
「いや、今夜にはイギリスに発つ」
慣れた俺は「分かった、気をつけて」と引き止めることもなく部屋へと戻った。
自室に戻り、ドアを閉めた。
「……馬鹿馬鹿しい……」
研究をするなんて嘘で、気を使う両親から離れたかっただけだ。俺は自室のベッドに横たわる。
眠い、疲れた、明日は研究を少し続けて……
そう考えているうちに眠っていた。
俺の家はいわゆる豪邸、つまり金持ちだ。だから両親がいなくても料理を作るシェフも居るし、掃除をしてくれる人もいる。俺は家から出なくても過ごしていける。
ただ、今回は……………
「研究材料を買いに行きたい。」
付き人にそう言うと、「私が買ってきますよ」と言うが、研究の内容もよく分かってない人に材料を選ばせたくはない。
「自分で見たいから、車だけ出して欲しい」
「承知しました。」
そういうとすぐに車を用意してくれた。
使っているパソコンも壊れかけだし、そろそろ新しくしよう。
久々に外に出るわけだから、出来るだけ自分のモノを調達しておこうと考えた。
車に乗り、ボーッと外を眺めていると知らない建物が建っていたり、道が変わっていたり……ずっと住んでいる街のはずなのに知らないところみたいだ……。
「颯様、まずはどちらに……」
「……あ、パソコンを買い替えたい」
外の風景に気を取られていると、付き人の声にハッとした。
しばらく外を眺めていると、眠気が襲ってくる。心地よく揺れる車内で目の前が霞む。カクンと頭が揺れ、目を閉じた。
「颯様、お休みのところ申し訳ございません。駐車場に車を停めてきますので、ここでお待ちください。」
付き人の声で目が覚めた。
寝ていた…最近研究続きで徹夜することも多かったためだろうか……
「ああ…分かった」
車から降り、駐車場へと向かう車を見送る。
まだ、しっかりと目が覚めておらず、すぐ後ろにあったガードレールに寄りかかる。
「今日の買う物は……」
持っていたスマホを取りだし、メモ機能を開き買う予定の物を確認する。
すると、どこからか車のクラクションの音が鳴り響いていた。パトカーのサイレンも遠くから聞こえてくる。
俺は気にせずスマホの画面に夢中になり、行く予定の店の商品一覧を眺めていた。
段々とサイレンが近く聞こえてくる。嫌な音だ……。と思い、振り返ると目の前に黒で埋め尽くされた。
「っえ」
その瞬間ガードレールが破片となり、そこら辺あたり一面に飛び散る。
甲高い声が聞こえる。でも、俺は声が出ない。
あぁ……そっか、俺は車の下敷きになっているんだ。
ドクドクと脈が早くなる、全身痛いような痛くないような……
ワーワーと誰かが叫ぶ。男か、女か…大人か子供か……その区別も付かないほど耳が遠くなっていた。
薄れる意識の中で、指先に血が触れる。
俺、死ぬのか…
自分の血だとわかった瞬間、死を覚悟した。だって、この流血の多さ……助かるわけないもんな。
馬鹿みたいに頭に詰め込んだ知識。最後に思うことがこんなことなんて……
ーーーホントに馬鹿らしい人生だ。
そこで俺は意識を手放した。
ズキンと頭が痛い。俺は、感覚を取り戻した、のか…?
目を開けると目の前は真っ白だった。
「……病院…ではないな…ベッドもないし…」
真っ白な部屋の床に横たわっていた俺は、むくりと身体を起こした。
「……生きてる…そんなはずない…出血量からして…………」
手を握り、開くを繰り返す。しっかりと自分の意識通りに動いている。
「ここ、どこだよ…」
頭だけはズキズキと痛むが、身体の痛みはない。あれだけ強く打ち付けたはずの身体が無傷なんてありえない。
すると、目の前に黒い文字が浮かんできた。
「後悔するかもしれないが、もう一度、生き返りたいか」
フワフワと浮かび上がる文字に驚きを隠せない。現実世界で文字が宙に浮くわけがない。どんな原理だ。
ふと我に返ったときに考えることは、こんなことばかりかと自分が嫌になる。
「……生き返る……」
ということは、俺は死んでいるのか。じゃあここは現実世界ではないってことか……。
生き返りたい、生き返りたくない…そんなこと考えたことがないが……
つまらない16年の人生だけで終えたくはない。
「……生き返ればあのつまらない人生じゃなくなるのか?」
そう誰にでもなく文字に問いかけるが、文字は答えるはずもなく、ずっと浮かんでいるだけだ。
……俺次第ってことなのか。
「………………生き返りたい……」
ボソッと呟くと、文字は消えた。そして新たな文字が浮かび上がる。
「生き返りたいのなら、この扉を開けて」
先程までなかったはずの扉が目の前の壁にあった。
俺は立ち上がり扉の前に立った。
「どうせ、生きるか死ぬしかないなら…後悔してでもやり直してやるよ」
独り言のように呟き、強い力で扉を押し開け、1歩踏み出そうとした瞬間
「えっ」
下に地面はなく、俺は落ちていった。そこでやはり死ぬのかもしれない、と思い、目をつぶった。
扉は閉まり、誰もいない白い部屋で
「本当に後悔しても知らないよ」
と浮き出て、すぐに消えた。
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