せっかく異世界に来たのに無能力者ってあんまりじゃないか。

永遠

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第2話 異世界

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第2話 異世界

……まるで崖から海に落ちるかのように足が地面に着かず目を瞑っていたが、数十秒経っても床にたどり着く気配がなく、俺は目を開けた。

少し冷静になり、自分が死んでいること、あの部屋は何だったのか……などを考え始めた。

あのよく分からない浮かび上がる文字はなんだったのか。現実世界ではありえない原理だ…
そもそも文字が浮かぶってなんだ…消えて浮かぶ……そんなの聞いたことがない。

正直に「生き返る」を選択をした俺は、今2度目の死を覚悟している。
地に足が着かず、落ちているのか浮いているのか…よく分からない状態でいるのだから、地面に到達した際には身体を強打することは避けられない。

下に落ちているように思えるが、周りは真っ白で景色も見えない。重力に逆らって浮いている感じもしない。何も無い穴をただただ落ちているだけのようだ。

落ちて身体を打ち付け、痛い思いをするのは勘弁して欲しい……


すると、急に目の前が光り始め、俺は耐えれずギュッと目を瞑った。



生き返ることを選択した。それに今のところ悔いはない。ただ、あの文字が示す
「後悔するかも」
これだけがやけに引っかかる。
死ぬより後悔することなんてあるのか?死んだら楽になると考える人もいるだろうけど、そこから楽しみは生まれることはないだろう。


急激に落ちるスピードが速くなり、光も強さを増していく。
そして、何かに吸い込まれるように身体が引き付けられていく。

「うわっ……」

目を開けると目の前には真っ暗な闇が広がっており、俺はその中に放られた。

その瞬間頭の中でプチッと何かが切れる音がして、意識がなくなった。




「~~~~!」

「~~~~!!!?」


人の声がする。先程まで1人だったのに急に頭上から数人の声が聞こえる。
少しずつ目を開いていくと、誰かの靴が目の前にあり、自分は横たわっていることに気づく。
恐る恐る視線を上に上げると、40代から70代くらい男たちが数人いる。スーツの人もいれば、着物を着た人、杖をつくじいさんまで……何か言い争っているのか……?

「!やっと起きたか」

スーツの男と目が合った。身長が高く足が長い。かなり仏頂面で目がキリッと細い。
俺は立ち上がろうとしたが、身体がいう事を効かない。

「!!」

俺は両手足を縄で縛られている。しかも、よくよく見れば鉄格子が俺と男たちの間にある。

ってことは……檻の中にいる、のか?


「何故、こいつを庇う!世界に必要とされない『無能力者』だぞ!」

「そうだぞ、カゲミ!何を考えているんだ!」

また、ワーワーと騒ぎ立てる男たち。目の合ったスーツの男は「カゲミ」という名前らしい。しかも責められている。

ん……?ていうか『無能力者』……って?

「……はぁ…落ち着いてください、確かに今のところ『無能力者』ではありますが、今後能力が……」

「今までそんな奴はいなかった!ただ飯を食わせて、金がかかる不必要な人間に変わりない!」

いや、もしかしなくても『無能力者』って……俺、だよな……

「聞いた話によれば、この街の者でもないんだろう!誰もそいつを知らないし、見つかったのは海辺で気絶していたところをお前が助けたらしいな!」


このカゲミという男がどうやら俺を見つけたらしい。


「ただでさえ、ノーヴェットには優秀な奴が少ないのに……」

ノーヴェット……?初めて聞いた……どこかの国の名前か?でもこの人たちは、日本語を話している。

「何を躊躇う、カゲミ。すぐに『殺す』のが当然だろう」

……えっ、俺生き返ってすぐに殺されるの?


「ま、待って、くださ、ぃ……」

焦って出た声に全員が俺を見る。ていうかこのカゲミって人が1番若そうだな。

「俺、生き返ったばか……

「とりあえず、数日、私がここで面倒を見ます。檻からは出しませんし、縄も解きません」


俺の言葉はカゲミに遮られた。他の男たちは少し唸りながら、「仕方ない」と不満げに言った。

「待って2~3日だ。その後、どうするかを決める」

そう言って男たちは去っていく。俺の話を聞く気はないようだ。
カゲミは1人残って、長い脚を折り、床に座り込んで俺と目を合わせる。


「名前は」

「えっ……と」

突然名前を聞かれ、一瞬戸惑う。家の人間以外と話すなんて何年ぶりだろうか

「名前も言えないのか」

「……颯」

少しイラッとしたが、助けてくれた恩人だと思い正直に自分の名前を言った。


「お前、どこからきた。どう見てもここの奴じゃないだろう」


「俺は、生き返って、ここに……」

あからさまに「は?」という顔をされた。俺だって分かってる。普通にそんな事を言われたら俺だってその顔をする。

「……はぁ……なんだお前…嘘を吐くのが下手なのか」


「ち、違う!俺は、事故で死んで、白い部屋から落とされて……」


文章がめちゃくちゃだ。だって、人との会話なんてほとんどしない環境で育ったんだ。コミュニケーション能力は0に等しい。


「……まぁいい。ここは、ノーヴェットという街だ。名前くらいは聞いたことあるだろう?」

「知らない、どこの国かも……」


カゲミは、細い目を見開き、また大きなため息を吐いた。

「ッチ…なんだこの餓鬼…助ける奴を間違えたか……」


俺が勉強してきた世界中の街の名前に「ノーヴェット」なんて存在しない。しかも、この人たちは日本語を話している。外国人ではない。


「……ノーヴェットに住む奴らは、アヴィウス……も分かんねぇのか」

悪かったな、でも聞いたことがない。地名、有名な人名ならほとんど分かる。しかし、カゲミから話されることは、全て知らないことだ。

「アヴィウスは、そうだな、まぁ…悪人の組織だな。んで、ノーヴェットに住む奴らはそいつらを倒そうとする勇者だ」


カゲミは凄く分かりやすいようで、よく分からないことを言う。

「……組織、勇者……? そんなのいるのか…?」

「お前、頭打って記憶飛んでるのか?世の中には、そんな奴らばっかりだろ」


ていうか名前教えたのに「お前」呼ばわりかよ。

「……えー……と、カゲミ、さん?まず、俺はなんで檻に閉じ込められて、縄で縛られているのか教えてもらってもいいですか……」


「……まぁ、一言で言えばお前が『無能力者』だからだな」


「……無能力者って…逆に有能力者ってなんですか」

人は得意なこと、不得意なことは、色々とあるが能力者なんてものは存在しないはずだ。

「能力者ある奴に定義はない。なんでもいい。空が飛べるとか、火を出せるとか。この街、いや世界はそいつらがほとんどだ」

……ファンタジーか…と思いたいが、俺はもう理解している。これは、色々な知識の中で身につけた…いわゆる……

『異世界』だ。

勉強にほとんど関係しないし、覚える必要もなかったが、その言葉が世の中で使われているだけで俺の覚える対象だ。


「んで、お前がその弾かれ者の『無能力者』ってこと。どう見ても1つも取り柄がない」

この人…さっきから…腹が立つな……言葉に嫌味があるというか馬鹿にしているというか……


「……アンタは、何か出来るのかよ……」

そう言うとカゲミは少し笑った。

「……クソガキが」

そう言うと立ち上がりポケットに突っ込んでいた右手を俺の方に差し出す。

そうすると人差し指に白い光を灯し、俺を指指す。

すると光が俺の心臓の辺りに移ってきた。
カゲミは人差し指を上に向けると光も一緒に天に浮かんでいった。

「……本当はこれで、人の能力を奪えるんだがなぁ…お前能力ないから何も出てこないの」

「……馬鹿にしてます、よね」

でも分かった。これは間違えなく魔法、能力に分類されるものだ。
この世界ではこれが普通なんだ。

「つまり、能力を持たない俺はこの街、世界に不必要な人間だと…」

「そーゆうこと。必要無いものは消していかないと、自分たちから奪われる物があるだけだからな。金とか」

そこは現実世界と変わりないな。結局お金が大事ってことね。

「さっきの人たちは…アンタ敬語だったけど」

「いわゆるお偉いさん、この街の未来のために生きてる、働いてるとかって主張する人たち」


分かった。カゲミはあの人たちのこと嫌いなんだな。

「……ところで、俺はどうなるの…せっかく生き返ったのに…」

「まだ意味分からないこと言ってんのかよ。生き返るとかなんとか…そんな能力ないだろお前」

確かに能力があれば生き返ることもできるのか……

「話聞いてただろ?2~3日後にお前の生死が決まる。ほぼ死ぬ結果が見えてる。生き残る方法は1つだけ」

カゲミは人差し指をピッと立てる。


「お前がこの街に必要な人間だとされること」

……つまり能力を持てということか…無理だろ。能力を持つことなんて出来るわけない。そんなこと出来れば、苦労はしない。
ただ異世界だから出来ないこともないのか…?と思考を巡らせる。

「まぁ、『無能力者』に能力がつくなんて過去1度もないけどな。今までの数少なーい『無能力者』は全員、裁判のもと死んできた」


「……でもやらなきゃどうにもならないんでしょう……」

問題は、俺が勉強以外のことをした経験が0ということだ。能力の有無以前にスポーツも料理も…現実世界において何一つやった経験がない。

「飲み込みが早くて助かるわ。んじゃ、早速行きますか」

「えっ、俺ここから出れないんじゃあ……」

するとカゲミは檻に掌をつけた。
そして満面の笑みで

「壊れろ」

そう言うと、絶対に壊れないだろう鉄格子を一瞬にして木っ端微塵にした。

「あんなの嘘に決まってるだろ?俺に毎日ここに来いって言うのかよ~無理だわ」

この人凄い…なんか、変っていうか…とりあえずおかしい人だ。

「ハヤテ。お前は2日で能力を学んで、1日で使えるようにしなきゃいけねぇんだぞ」

そしてまた指先を俺に向けると両手足の縄がじゅっと音を立てて、切れた。

「……アンタ、何者……」

カゲミは最初見た仏頂面とはかけ離れた笑みで

「誰よりも有能な先生ってところ」

そう言うと俺の腕をは引っ張り立ち上がらせた。俺は縛られ赤くなった腕を摩ると、痛みがある。やっぱり夢ではないんだな……


「学校って、俺みたいな能力無い人の…?」

「だーから、『無能力者』なんて世界の数億人に1人いるかいないかだっつーの。全員優秀な能力者の生徒だ」

俺、そんなところに入って何が出来るんだよ

「まぁ、あのじいさんたち見て分かる通り、『無能力者』は嫌われ者、厄介者なわけだから、学校でも嫌われ者決定だけどな」


ああ……現実世界で通うことの出来なかった学校に行けると少々浮かれたが、それは打ち砕かれた。
嫌われ者決定なんて……

「……最悪だ……」

そう思いながらも助かる術はこの人について行くしかないことも分かっている。

俺はトボトボとやる気なく歩いていくと外の世界が見えてきた。

そして、俺は異世界の街「ノーヴェット」に足を踏み入れた。
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