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9したいかしたくないか
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9したいかしたくないか
目を開けたくなかった。意識をそのまま失っていたかった。こんな自己嫌悪に苛まれるならば。
目が覚め、変わらずベッドに横たわる俺は実は、ヴァラドルに辱め……いや、痴態を晒したのは夢であったのだ、と思いたかった。
しかし、目を開けば今朝見たシーツとは別の少しグレーがかった色のシーツに、風呂上がりに来ていて事の発端となっていたヴァラドルの私物と思われる大きめの衣類ではなく、着た覚えのない俺にサイズぴったりの衣類を纏っている……。
絶対にヴァラドルに色々拭かれたか、洗われたかして服を着せられたのだ……と思うしかなかった。
昨日連れられてきて、昨日と今日で2回も痴態を晒すなんて……っ!!
強気で牙を向いたかと思えば、最後にはヴァラドルに身を委ねた自分の呪う。アイツの匂いにあてられ、発情しきった身体が欲しがり、ついに「欲しい」とまで口にした。
……しかも、ヴァラドルに文句を言ってやれれば良いのに、結果的にアイツが俺に抑制剤を飲ませ、介抱をし、後始末までさせてしまった。
……1人でしたいという俺の意見は聞かなかったが。
それに、同じ男としてヴァラドルのも非常に熱を持っていた、と思う。腰に当たった時に大きさと硬さしか分からなかったが…………、あれは凶器並みにだった。
Ωの発情を目の当たりにしたαも平常では居られない。それはアイツも例外では無かったということだ。
本能と理性の狭間でヴァラドルは、理性を保ったのか、何なのか……、謎の使命感なのか、俺を犯そうとはしなかった。
というか、指先だけで情けなく根を上げた俺の心配までしてくれるとは思わなかった。……忘れたかった、子供並に泣きじゃくる自分が恥ずかしかった。思い出すと更に恥ずかしい。
結局人差し指を入れ、少し中を弄られ、気を飛ばした俺だからその後何かあったのかもしれないが、腰に痛みやダルさが無いことから、性行為には至らなかったのだろう。
……性行為って、どこまでが性行為になるのか…
抵抗はしたものの、触られることが嫌だった訳ではなかった。自分の身体が経験した事の無い快楽に溶けそうで、おかしくなりそうで怖かっただけだ。ヴァラドル本人を怖がった訳では無い。
俺はαを家族以外に知らない。ただ、話に聞いたのはαがΩを捕食対象として見ていること、特に意味がなくとも、Ωが逆らえる属種では無いことくらいだ。
ユリウスのそんな姿は見たくないが、きっと例外ではなく、弟もそうなんだろう。
「クロウス、起きたのか」
「…!!」
昨夜と同じようなやり取りだった。部屋のドアをゆっくり閉めて、ヴァラドルが俺の方に歩み寄る。
違うのは、先程の自分の不甲斐ない姿を晒したため、恥からまともにヴァラドルの顔が見れないことくらいだ。
いや、最初もコイツのフェロモンにあてられ、意識を失っていたから、実質3回目の痴態晒しか……。
「……身体、痛むところはあるか」
優しい声で聞いてくるヴァラドルは、ベッドに座り、顔を見ない俺の頬に手を当てる。俺はゆっくり声もなく、2度首を振る。
ホッとしたのか頬をすりすりと撫でるヴァラドルの手が温かい。
「……すまない、抑制剤の効果があそこまで早く切れるとは思わなかった。 俺の私物の衣類を貸したことも謝る、もっと気をつけるべきだった」
どうして、ヴァラドルが謝る。悪意がなかったのは分かっていた。抑制剤を飲ませ、着替えのない俺に自分の服を貸してくれただけだ。
「…………。」
俺はブンブンと首を振るう。謝るな、お前は悪くないと伝える。
「……怒っているのか、少し時間をおいてから来る」
ギッとベッドから立ち上がろうとするヴァラドルの腕を急いで掴む。
「……っちが、おこってなんか、ない……」
焦るようにヴァラドルにそう伝える。行動だけでコイツに思いを伝えることは出来ないらしい。そう、俺は怒ってない。ただ、不甲斐ない自分の顔を見られたくないだけだ。
「……おまえ……ヴァラドルが謝ることなんて、1個もなかっただろう……」
強気で敵視していた猫が急に元気をなくして驚いたみたいな顔で見てくるヴァラドルは、もう一度ベッドに座り直す。
「……………ただ、自分が嫌なだけだ、あんなに強気でいたくせに、本能を前にお前を、αを欲しがった……。俺にお前を責める資格は無い」
αは自己勝手な獣で、Ωを喰らうことしか考えていない、だからαなお前も嫌いだ。そう思っていたのに、どうだ。現実、酷く醜い姿だったのはΩである俺の方だ。自分の欲のままに嫌いだなんだと言ったくせに、「欲しい」と強請ったと思えば、次は「触るな」だの「怖い」だのと訴える。
「……笑えるだろう、αのお前より俺の方がずっと自分を中心に考えているんだ」
「笑うわけないだろう。それがバース……それぞれの特性なんだ、お前は悪くもおかしくもない」
そんな優しい言葉が俺を締め付けるんだ。そうさ、Ωなんだから仕方ないとか、周りよりも厄介な身体だとか……そんなの耳にタコができるほど聞いてきた。
「……って、お前はっ…! 理性保ってて……こんな、俺との、馬鹿みたいな約束守ったんだぞ……! それに、俺はお前を欲しいと言った! 許可が出たも当然だ……! あの時喰われようが俺はお前に反論できないだろう……」
違う、ヴァラドルは悪くない、こんな怒りをぶつけるのは間違っている。けれど、他にぶつける場所がないんだ。
「……確かに、クロウス自身が言ったといえばそうだが、俺が欲しいのは本能に任せてないお前の許可が欲しい。 身体じゃない、俺の心も、全部が欲しいのだとお前が言わなければ、俺は最後までしない」
「……っ、お前、やっぱりおかしいぞ、勝手に迎え入れたくせに、なんで……」
俺の意見を聞く人はいなかった、いや言わせてもらえる立場ではないのだと分かっていたから、言わなかったという方が正しい。
「ただし、嫌だと言っても、俺はお前を離す気はサラサラないがな」
自分勝手な男なのか、そうではないのか、よく分からない男だ。
けれど、嫌悪するほど、一緒にいるのが嫌だと思う男では無い。他のαを知らないから、コイツがマシとか他がマシじゃないとか分からない。
「……そういえば、クロウス。 お前の抑制剤の効き時間が、異状に短い。 短くとも1日は1錠で事足りるはずだ。 お前は、もって半日くらいだった」
ヴァラドルが何を言いたいのかよく分からない。1錠で1日……? 俺が飲んだのが昨日の夕方だとしても今朝には効果は切れていた。
「……お前が元々飲んでいた抑制剤について聞かせてくれるか」
「俺は使用人が持ってくる錠剤を飲んでいただけだから、名前までは知らないぞ……。 少し水色がかったこれくらいの粒を2~3錠、朝と夜に飲んでいた」
指で小さめの輪っかを作り、薬の大きさを表す。「ふむ」とヴァラドルは頷き、何か考え込む。
「……朝と夜に複数錠か……、分かった。知り合いの医者に聞いてみる」
何を聞くんだ……? ヴァラドルは医者にでもなる気なのか……? 王家のくせにか。
「……出来れば、あの抑制剤は強いものだからあまり与えたくは無いが、今日はあれで我慢してくれ。 明日、その医者のもとに一緒に行こう」
「……えっ、俺を外に連れ出すのか?」
元々、父に外に、街に出ることを禁止されていたため、子供の頃は使用人たちにごねていたが、ダメだと言われ諦めていた。
捕まえた…連れてきた俺を街へ出すというのか…?
「…ん? 外は嫌か? こちらに来てもらって良いが……」
「……っ、で、出たい……! ……っあ、に、逃げる訳じゃぁ……」
急な大声に、もしかしたらヴァラドルは逃げるのではと思ったのでは無いかと訂正したが、逆に怪しかったか……?
「……くくっ……あぁ、お前が逃げたとして、連れ戻すと言っているだろう」
髪の毛をくしゃりと撫でてくる。白い歯が見えるほどに笑っている。
街、外に……出れるのか……!
「……そうと決まれば、医者に連絡をしてくる。 今日は良い子でこの部屋にいろ、飯の頃には戻ってくる……、何か欲しいものやしたいことはあるか? 暇つぶし程度に何か渡そう」
「……ほ、本で良い……、勉強をしたい……」
父にはΩの俺の頭では、勉強をしたとて意味は無いと言われろくな本すら与えて貰えず、毎日することも無く過ごしていた。
「勉強か、俺の持っている物でよければ、持ってこよう」
何故だろう、あの家よりこいつの近くにいた方がやりたい事ができる、それにこいつは俺を蔑んだ目でも見てこない。親から撫でられることすら嫌がられた俺を何度も撫でてくる。
「…っ、あ、ヴァラドル……、その、あ、ありがとう……」
伏し目がちにチラリとヴァラドルの顔を見て、礼を言う。改めて言葉にすると恥ずかしいな、顔が熱いし、赤くなる。
またヴァラドルの手が俺の頬に触れる。撫でるのが好きなのか、と思っているとヴァラドルの少し開いた唇が迫ってきた。
「ふぇっ……ん、んむぅ……」
「……っ、あんまり俺を煽るな」
また舌を入れてくるキスだった。昨日で少し学んだ、唇を開ける、舌を出す、それからそれから……息を……
「はふ……はぅ…っん、んぁっ」
両手で頬を挟まれ、グッと近づけられる。抵抗するべきなのか? ……でも、コイツのこの、キスの仕方……気持ち良くて……頭で考えれない。
「……抵抗しないのか? クロウス、何度も言うが許可を得るまでは、最後まではしない……が、こういったことは嫌という程するぞ」
はぁっ、唇が離れ、唾液の糸が引く。ヴァラドルは、自分の唇を親指で拭いながらそう言った。拭った親指でふにと俺の唇に触れる。
ヴァラドルのこういったときの瞳は獣の目のように光っている。狙えば逃しはしないという目をしている。
「……、て、いこう……した、ほうがいいのか……?」
ボゥッとした頭でヴァラドルにそう問いた。ヴァラドルは目を丸くし、ハッと笑う。口に腕を押し当てて、くくっと笑っている。
「……っふ、そうだな、俺はしないと助かるがなぁ」
きっと、嫌がろうが抵抗しようが、コイツは実力行使で俺にキスを迫る。力がコイツに劣る俺はそれを避けられない。
ここまで来たら気持ちの問題だ。
俺もしていたいか、していたくないか。
どうせ、こんな日々がヴァラドルが俺に飽きるまでは続くのだろう。それならば……
「……キス、は許してやる……」
そう言い終わるか、終わらないか、ヴァラドルの唇がまた俺の唇を奪う。
ヴァラドルの、αの種を腹の中に溜めて、子を孕むのは真っ平御免だが、コイツのキスは脳みそが溶けそうになるほど気持ち良い。
嫌だ嫌だで、しないとなるなら別だが、どの道キスをするのに変わりがないのなら、その気持ち良さに委ねてしまおうと、自分に言い聞かせる。
しなければいけないのなら、したくないのに、じゃなくて、自分がしたいから、と思っていた方が気が楽だった。コイツに負けた気がしないから、そうだ。
「っん、ヴァラ、ド……んっ、ぢゅっ……」
「……ほら、舌」
教えるようにヴァラドルが言うと、俺は従うようにヴァラドルの舌を自分の舌で触る。
軽く触れるとヴァラドルの舌はしつこく、絡みついてくる。
「…………クロウス」
そう言ったヴァラドルの顔が赤く火照っているのを見ることに少し満足感を覚えた。
目を開けたくなかった。意識をそのまま失っていたかった。こんな自己嫌悪に苛まれるならば。
目が覚め、変わらずベッドに横たわる俺は実は、ヴァラドルに辱め……いや、痴態を晒したのは夢であったのだ、と思いたかった。
しかし、目を開けば今朝見たシーツとは別の少しグレーがかった色のシーツに、風呂上がりに来ていて事の発端となっていたヴァラドルの私物と思われる大きめの衣類ではなく、着た覚えのない俺にサイズぴったりの衣類を纏っている……。
絶対にヴァラドルに色々拭かれたか、洗われたかして服を着せられたのだ……と思うしかなかった。
昨日連れられてきて、昨日と今日で2回も痴態を晒すなんて……っ!!
強気で牙を向いたかと思えば、最後にはヴァラドルに身を委ねた自分の呪う。アイツの匂いにあてられ、発情しきった身体が欲しがり、ついに「欲しい」とまで口にした。
……しかも、ヴァラドルに文句を言ってやれれば良いのに、結果的にアイツが俺に抑制剤を飲ませ、介抱をし、後始末までさせてしまった。
……1人でしたいという俺の意見は聞かなかったが。
それに、同じ男としてヴァラドルのも非常に熱を持っていた、と思う。腰に当たった時に大きさと硬さしか分からなかったが…………、あれは凶器並みにだった。
Ωの発情を目の当たりにしたαも平常では居られない。それはアイツも例外では無かったということだ。
本能と理性の狭間でヴァラドルは、理性を保ったのか、何なのか……、謎の使命感なのか、俺を犯そうとはしなかった。
というか、指先だけで情けなく根を上げた俺の心配までしてくれるとは思わなかった。……忘れたかった、子供並に泣きじゃくる自分が恥ずかしかった。思い出すと更に恥ずかしい。
結局人差し指を入れ、少し中を弄られ、気を飛ばした俺だからその後何かあったのかもしれないが、腰に痛みやダルさが無いことから、性行為には至らなかったのだろう。
……性行為って、どこまでが性行為になるのか…
抵抗はしたものの、触られることが嫌だった訳ではなかった。自分の身体が経験した事の無い快楽に溶けそうで、おかしくなりそうで怖かっただけだ。ヴァラドル本人を怖がった訳では無い。
俺はαを家族以外に知らない。ただ、話に聞いたのはαがΩを捕食対象として見ていること、特に意味がなくとも、Ωが逆らえる属種では無いことくらいだ。
ユリウスのそんな姿は見たくないが、きっと例外ではなく、弟もそうなんだろう。
「クロウス、起きたのか」
「…!!」
昨夜と同じようなやり取りだった。部屋のドアをゆっくり閉めて、ヴァラドルが俺の方に歩み寄る。
違うのは、先程の自分の不甲斐ない姿を晒したため、恥からまともにヴァラドルの顔が見れないことくらいだ。
いや、最初もコイツのフェロモンにあてられ、意識を失っていたから、実質3回目の痴態晒しか……。
「……身体、痛むところはあるか」
優しい声で聞いてくるヴァラドルは、ベッドに座り、顔を見ない俺の頬に手を当てる。俺はゆっくり声もなく、2度首を振る。
ホッとしたのか頬をすりすりと撫でるヴァラドルの手が温かい。
「……すまない、抑制剤の効果があそこまで早く切れるとは思わなかった。 俺の私物の衣類を貸したことも謝る、もっと気をつけるべきだった」
どうして、ヴァラドルが謝る。悪意がなかったのは分かっていた。抑制剤を飲ませ、着替えのない俺に自分の服を貸してくれただけだ。
「…………。」
俺はブンブンと首を振るう。謝るな、お前は悪くないと伝える。
「……怒っているのか、少し時間をおいてから来る」
ギッとベッドから立ち上がろうとするヴァラドルの腕を急いで掴む。
「……っちが、おこってなんか、ない……」
焦るようにヴァラドルにそう伝える。行動だけでコイツに思いを伝えることは出来ないらしい。そう、俺は怒ってない。ただ、不甲斐ない自分の顔を見られたくないだけだ。
「……おまえ……ヴァラドルが謝ることなんて、1個もなかっただろう……」
強気で敵視していた猫が急に元気をなくして驚いたみたいな顔で見てくるヴァラドルは、もう一度ベッドに座り直す。
「……………ただ、自分が嫌なだけだ、あんなに強気でいたくせに、本能を前にお前を、αを欲しがった……。俺にお前を責める資格は無い」
αは自己勝手な獣で、Ωを喰らうことしか考えていない、だからαなお前も嫌いだ。そう思っていたのに、どうだ。現実、酷く醜い姿だったのはΩである俺の方だ。自分の欲のままに嫌いだなんだと言ったくせに、「欲しい」と強請ったと思えば、次は「触るな」だの「怖い」だのと訴える。
「……笑えるだろう、αのお前より俺の方がずっと自分を中心に考えているんだ」
「笑うわけないだろう。それがバース……それぞれの特性なんだ、お前は悪くもおかしくもない」
そんな優しい言葉が俺を締め付けるんだ。そうさ、Ωなんだから仕方ないとか、周りよりも厄介な身体だとか……そんなの耳にタコができるほど聞いてきた。
「……って、お前はっ…! 理性保ってて……こんな、俺との、馬鹿みたいな約束守ったんだぞ……! それに、俺はお前を欲しいと言った! 許可が出たも当然だ……! あの時喰われようが俺はお前に反論できないだろう……」
違う、ヴァラドルは悪くない、こんな怒りをぶつけるのは間違っている。けれど、他にぶつける場所がないんだ。
「……確かに、クロウス自身が言ったといえばそうだが、俺が欲しいのは本能に任せてないお前の許可が欲しい。 身体じゃない、俺の心も、全部が欲しいのだとお前が言わなければ、俺は最後までしない」
「……っ、お前、やっぱりおかしいぞ、勝手に迎え入れたくせに、なんで……」
俺の意見を聞く人はいなかった、いや言わせてもらえる立場ではないのだと分かっていたから、言わなかったという方が正しい。
「ただし、嫌だと言っても、俺はお前を離す気はサラサラないがな」
自分勝手な男なのか、そうではないのか、よく分からない男だ。
けれど、嫌悪するほど、一緒にいるのが嫌だと思う男では無い。他のαを知らないから、コイツがマシとか他がマシじゃないとか分からない。
「……そういえば、クロウス。 お前の抑制剤の効き時間が、異状に短い。 短くとも1日は1錠で事足りるはずだ。 お前は、もって半日くらいだった」
ヴァラドルが何を言いたいのかよく分からない。1錠で1日……? 俺が飲んだのが昨日の夕方だとしても今朝には効果は切れていた。
「……お前が元々飲んでいた抑制剤について聞かせてくれるか」
「俺は使用人が持ってくる錠剤を飲んでいただけだから、名前までは知らないぞ……。 少し水色がかったこれくらいの粒を2~3錠、朝と夜に飲んでいた」
指で小さめの輪っかを作り、薬の大きさを表す。「ふむ」とヴァラドルは頷き、何か考え込む。
「……朝と夜に複数錠か……、分かった。知り合いの医者に聞いてみる」
何を聞くんだ……? ヴァラドルは医者にでもなる気なのか……? 王家のくせにか。
「……出来れば、あの抑制剤は強いものだからあまり与えたくは無いが、今日はあれで我慢してくれ。 明日、その医者のもとに一緒に行こう」
「……えっ、俺を外に連れ出すのか?」
元々、父に外に、街に出ることを禁止されていたため、子供の頃は使用人たちにごねていたが、ダメだと言われ諦めていた。
捕まえた…連れてきた俺を街へ出すというのか…?
「…ん? 外は嫌か? こちらに来てもらって良いが……」
「……っ、で、出たい……! ……っあ、に、逃げる訳じゃぁ……」
急な大声に、もしかしたらヴァラドルは逃げるのではと思ったのでは無いかと訂正したが、逆に怪しかったか……?
「……くくっ……あぁ、お前が逃げたとして、連れ戻すと言っているだろう」
髪の毛をくしゃりと撫でてくる。白い歯が見えるほどに笑っている。
街、外に……出れるのか……!
「……そうと決まれば、医者に連絡をしてくる。 今日は良い子でこの部屋にいろ、飯の頃には戻ってくる……、何か欲しいものやしたいことはあるか? 暇つぶし程度に何か渡そう」
「……ほ、本で良い……、勉強をしたい……」
父にはΩの俺の頭では、勉強をしたとて意味は無いと言われろくな本すら与えて貰えず、毎日することも無く過ごしていた。
「勉強か、俺の持っている物でよければ、持ってこよう」
何故だろう、あの家よりこいつの近くにいた方がやりたい事ができる、それにこいつは俺を蔑んだ目でも見てこない。親から撫でられることすら嫌がられた俺を何度も撫でてくる。
「…っ、あ、ヴァラドル……、その、あ、ありがとう……」
伏し目がちにチラリとヴァラドルの顔を見て、礼を言う。改めて言葉にすると恥ずかしいな、顔が熱いし、赤くなる。
またヴァラドルの手が俺の頬に触れる。撫でるのが好きなのか、と思っているとヴァラドルの少し開いた唇が迫ってきた。
「ふぇっ……ん、んむぅ……」
「……っ、あんまり俺を煽るな」
また舌を入れてくるキスだった。昨日で少し学んだ、唇を開ける、舌を出す、それからそれから……息を……
「はふ……はぅ…っん、んぁっ」
両手で頬を挟まれ、グッと近づけられる。抵抗するべきなのか? ……でも、コイツのこの、キスの仕方……気持ち良くて……頭で考えれない。
「……抵抗しないのか? クロウス、何度も言うが許可を得るまでは、最後まではしない……が、こういったことは嫌という程するぞ」
はぁっ、唇が離れ、唾液の糸が引く。ヴァラドルは、自分の唇を親指で拭いながらそう言った。拭った親指でふにと俺の唇に触れる。
ヴァラドルのこういったときの瞳は獣の目のように光っている。狙えば逃しはしないという目をしている。
「……、て、いこう……した、ほうがいいのか……?」
ボゥッとした頭でヴァラドルにそう問いた。ヴァラドルは目を丸くし、ハッと笑う。口に腕を押し当てて、くくっと笑っている。
「……っふ、そうだな、俺はしないと助かるがなぁ」
きっと、嫌がろうが抵抗しようが、コイツは実力行使で俺にキスを迫る。力がコイツに劣る俺はそれを避けられない。
ここまで来たら気持ちの問題だ。
俺もしていたいか、していたくないか。
どうせ、こんな日々がヴァラドルが俺に飽きるまでは続くのだろう。それならば……
「……キス、は許してやる……」
そう言い終わるか、終わらないか、ヴァラドルの唇がまた俺の唇を奪う。
ヴァラドルの、αの種を腹の中に溜めて、子を孕むのは真っ平御免だが、コイツのキスは脳みそが溶けそうになるほど気持ち良い。
嫌だ嫌だで、しないとなるなら別だが、どの道キスをするのに変わりがないのなら、その気持ち良さに委ねてしまおうと、自分に言い聞かせる。
しなければいけないのなら、したくないのに、じゃなくて、自分がしたいから、と思っていた方が気が楽だった。コイツに負けた気がしないから、そうだ。
「っん、ヴァラ、ド……んっ、ぢゅっ……」
「……ほら、舌」
教えるようにヴァラドルが言うと、俺は従うようにヴァラドルの舌を自分の舌で触る。
軽く触れるとヴァラドルの舌はしつこく、絡みついてくる。
「…………クロウス」
そう言ったヴァラドルの顔が赤く火照っているのを見ることに少し満足感を覚えた。
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