社長の×××

恩田璃星

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律の十字架 2

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 最初は同情だったのか。
 幼い頃から植え付けられた真田家の未来の当主としての責任感だったのか。
今となっては分からない。

 葵の不遇を知った俺は、当時の当主だった祖父に葵の両親の噂を耳に入れ、本家で預かることを進言した。


 このことが俺と葵にどんな運命をもたらすかも知らずに。


 普段は厳しい祖父も、俺のことだけは猫可愛がりしていたので「それでこそ儂の孫」と手放しで褒めてすぐに葵を呼び寄せた。

 最初うちに来た時、周囲からの腫れ物扱いに戸惑っていた葵にはほとんど笑顔は見られなかった。

 そんな中でも同い年だからなのか、俺の遠慮のない態度のせいなのか、俺にだけは昔の葵のままなのが妙に嬉しかった。

 同情から責任感へ。
 責任感から他者への優越感へ。
 俺の葵への気持ちは目まぐるしく、そして確実に形を変えていった。

 同じように周囲の葵に対する扱いも徐々に変化していき、葵も笑顔を見せるようになっていった。

 だから俺は馬鹿な勘違いをしていた。
 葵はもう大丈夫。これからもずっと俺と一緒に居る、と。

 時折俺と母が話している時に見せる、葵の寂しげな目に気付かないふりをして。

 あの日、あの時、あのひとからの電話を受けるまでは。





 中学に入ると、葵はどんどん変わっていった。

 顔も、身体も、仕草も、何もかも。

 全部大人っぽくなっていった。

 第二次性徴期における女子の劇的な変化に比べれば、男子の変化なんてちょっと身体が伸びて、声が低くなって、筋肉がつくくらいで本当に大したことない。

 ついこの間まで下に見ていた葵に置いていかれそうな不安と焦りを隠し、平常心を装う日々。

 更に俺を悩ませたのは、葵に触れたくなる衝動だった。

理由わけもなく葵に伸びそうになる手を制し、『今のは何かの間違いだ』と訳の分からない言い訳を自分に重ねる。

 そんな風に気持ちを素直に認められないくせに、風呂上がりのストレッチを口実にしっかり潜在的な欲求は満たした。

 いざ葵の身体に触れてみると、思ってたより平気だった。
 多分無意識に何度もシュミレーションしていたからだろう。

 これならいける。

 なんて油断してたら、

 「律、ここ。ほら、ガッチガチになってる」

 と、全く悪気なく葵から落とされたエロい台詞は爆弾並の破壊力だった。

 葵が指摘したのは肩なのに、別の所が本当にガッチガチになってしまって、いつ気付かれるかハラハラしたなんてもんじゃなかった。

 でもこの時はまだ、葵のことが好きなのか、ただの男のサガなのか自分の気持ちを測りかねていた。
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