社長の×××

恩田璃星

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社長の大失敗 2

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 まさかの優さんの反撃に、激しく動揺する葵を二度見すると、顔を真っ赤にしながら言い訳を始めた。

 「な、何言って!?だ、大体、お父さんだって土日もほとんど仕事だったでしょ!?それに、私、秘書だったし、急ぎの連絡があるかもと思って…!!」

 ヤバい、ニヤニヤが止まらない。

 「葵から連絡くれれば良かったのに」

 つい口を挟んでしまった。

 「大事な商談中だといけないと思って我慢してたの!」

 「へぇ、我慢してたの?じゃあ、やっぱり待ってくれてたんだ」

 「!!」

 ちょっとからかい過ぎたらしい。

 「と、とにかく!たまにはご飯作りに来てあげるから、キッチンは綺麗にしておいてよ、お父さん!!戸籍は本家に入るけど、私はお父さんの娘なんだし!!」

と言って、逃げるように去った葵の背中に向かって、優さんが「ありがとう」とちょっと潤んだ目で手を振った。




 車に乗り込むと、余程恥ずかしかったのか、葵は不自然なまでに窓側を向いている。
 でも、今の俺はそんなこと全く気にならない。

 何の躊躇いもなく指を絡ませ、手を握ると、そっぽを向いたまま、葵がキュッと握り返した。

 マンションに着くまでずっと繋いでいた部分から伝えられる熱に、心も体も満たされていく。

 玄関のドアが完全に閉まった音が耳に入った途端、理性のスイッチがオフになった気がした。

 振り返って、俺の後を付いてきた葵と向かい合う。

 身長差のある葵を正面から抱え上げるように抱いて、靴も脱がないまま、葵の唇に食らいついた。





 「唯人!?待っ…んんっ」


 俺にストップをかけるために、開かれた葵の口の中に舌を侵入させるのは、面白いほど簡単だった。

 深く差し入れ、頬の裏側を舌で撫で上げると、葵は俺のシャツの胸元にしがみついた。
 軽く目を開けて葵の表情をうかがうと、見る間に溶けていくのが分かる。

 それなのに、尚も待ったをかける葵。

 「はぁ…っ、ダメ。まだ、荷物運んでないし」

 「そんなの後でいいでしょ?」
 
 唇を甘噛みしながら抗議しても、葵は譲らない。

 「や、ヤだっ。シャワー浴びたい!着替え入ってるし」

 「ダメ。もう待てない。散々煽っといて、何言ってんの」

 「煽ってなんて…わぁっ!」





 葵の体を抱き上げると、華奢なヒールのミュールがカツンと落ちた。
 俺も靴を脱いでそのまま寝室へ直行する。

 葵をベッドに組み敷いて、上をとる態勢になるまでは、確かに理性のスイッチはオフになっていた。

 なのに、俺の下にいる葵の、困惑と期待の入り混じった目を見て、我に返った。

 興奮とは違うたぐいのプレッシャーが、俺の手を止めた。

 「…唯人…?」

 「…ヤバい」

 「え?」

 こんなことがあるなんて。

 「初めてで、緊張する」

 「……頭でも打ったの?」

 葵の辛辣な返しはもっともだ。
 言うまでもなく、俺は童貞じゃない。
 葵とするのだって、二回目だ。
 『初めて』という言葉がそぐわないと思われても仕方ない。

 でもー




 「大丈夫。打ってない」

 「意味分かんない」

 「本当に思い合ってる相手とするの、初めてって意味」

 「え…?」

 「俺、人を好きになったの、葵が初めてだから」

 笑われるかと思ったのに、葵は一気に頬を赤くした。
 驚いて瞬きをすると、次の瞬間には、苦しげに顔を歪め、その大きな瞳に、涙をたたえて言った。


 「それなら…私も初めてって言ってもいい…?」

 喉が、絞られたように締めつけられる。

 「は、初恋は別の人にあげちゃったけど、ちゃんと好きな人とするのは、初めてって」




 何て
 いじらしくて、愛おしい。

 せっかく取り戻した理性が、また霧のように消えていく。

 「もちろん」と言う代わりに、玄関でのキスより深く唇を重ねた。
 辿々しくも、葵が小さな舌で応え、俺の上顎をペロリと舐めると、快感で背中がゾクッと震えた。

 激しさを増す息遣いと、混ざり合う唾液の味に酔いしれながら、葵のブラウスのボタンに手を掛けようとしたら、パッと葵の手がそれを遮った。

 「やっぱりダメ。待って…!」

 「もう無理。それとも何?葵の『初めて』、くれるって嘘だったの?」

 「嘘じゃない!!けど、シャワーがダメならせめて着替え…」

 「これ以上お預けされたら、優しくできなくなるかも」 




 葵の首筋に軽く歯を立てると、相変わらず感度のいい体がピクンと跳ねた。
 シャワーとか着替えとか気にしている割に、葵からは俺を誘うような甘い体臭しかしない。

 そう言えば、葵の体は舐めても甘く感じた。
 記憶と香りに誘われるまま、舌の表面全体で舐め上げると、

 「ぁっ」

と、葵が小さく声を漏らした。

 もっと声が聞きたくて、今度は強めに吸いながら、くすぐるように舌を動かす。

 「んっ、ぁ、ひゃあっ!」

 ゆっくり唇を離し、そこに残る赤く、歪な形の痕を見たら、最初の時に、真田律のキスマークが付いていたのを思い出してしまった。

 そして、気付かないようにしていたコトも連鎖的に思い出す。
 いや、今思い出したんじゃない。
 さっきから俺と葵の間をずっとちらついていた。



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