128 / 131
社長の大失敗 2
しおりを挟む
まさかの優さんの反撃に、激しく動揺する葵を二度見すると、顔を真っ赤にしながら言い訳を始めた。
「な、何言って!?だ、大体、お父さんだって土日もほとんど仕事だったでしょ!?それに、私、秘書だったし、急ぎの連絡があるかもと思って…!!」
ヤバい、ニヤニヤが止まらない。
「葵から連絡くれれば良かったのに」
つい口を挟んでしまった。
「大事な商談中だといけないと思って我慢してたの!」
「へぇ、我慢してたの?じゃあ、やっぱり待ってくれてたんだ」
「!!」
ちょっとからかい過ぎたらしい。
「と、とにかく!たまにはご飯作りに来てあげるから、キッチンは綺麗にしておいてよ、お父さん!!戸籍は本家に入るけど、私はお父さんの娘なんだし!!」
と言って、逃げるように去った葵の背中に向かって、優さんが「ありがとう」とちょっと潤んだ目で手を振った。
車に乗り込むと、余程恥ずかしかったのか、葵は不自然なまでに窓側を向いている。
でも、今の俺はそんなこと全く気にならない。
何の躊躇いもなく指を絡ませ、手を握ると、そっぽを向いたまま、葵がキュッと握り返した。
マンションに着くまでずっと繋いでいた部分から伝えられる熱に、心も体も満たされていく。
玄関のドアが完全に閉まった音が耳に入った途端、理性のスイッチがオフになった気がした。
振り返って、俺の後を付いてきた葵と向かい合う。
身長差のある葵を正面から抱え上げるように抱いて、靴も脱がないまま、葵の唇に食らいついた。
「唯人!?待っ…んんっ」
俺にストップをかけるために、開かれた葵の口の中に舌を侵入させるのは、面白いほど簡単だった。
深く差し入れ、頬の裏側を舌で撫で上げると、葵は俺のシャツの胸元にしがみついた。
軽く目を開けて葵の表情をうかがうと、見る間に溶けていくのが分かる。
それなのに、尚も待ったをかける葵。
「はぁ…っ、ダメ。まだ、荷物運んでないし」
「そんなの後でいいでしょ?」
唇を甘噛みしながら抗議しても、葵は譲らない。
「や、ヤだっ。シャワー浴びたい!着替え入ってるし」
「ダメ。もう待てない。散々煽っといて、何言ってんの」
「煽ってなんて…わぁっ!」
葵の体を抱き上げると、華奢なヒールのミュールがカツンと落ちた。
俺も靴を脱いでそのまま寝室へ直行する。
葵をベッドに組み敷いて、上をとる態勢になるまでは、確かに理性のスイッチはオフになっていた。
なのに、俺の下にいる葵の、困惑と期待の入り混じった目を見て、我に返った。
興奮とは違う類のプレッシャーが、俺の手を止めた。
「…唯人…?」
「…ヤバい」
「え?」
こんなことがあるなんて。
「初めてで、緊張する」
「……頭でも打ったの?」
葵の辛辣な返しはもっともだ。
言うまでもなく、俺は童貞じゃない。
葵とするのだって、二回目だ。
『初めて』という言葉がそぐわないと思われても仕方ない。
でもー
「大丈夫。打ってない」
「意味分かんない」
「本当に思い合ってる相手とするの、初めてって意味」
「え…?」
「俺、人を好きになったの、葵が初めてだから」
笑われるかと思ったのに、葵は一気に頬を赤くした。
驚いて瞬きをすると、次の瞬間には、苦しげに顔を歪め、その大きな瞳に、涙を湛えて言った。
「それなら…私も初めてって言ってもいい…?」
喉が、絞られたように締めつけられる。
「は、初恋は別の人にあげちゃったけど、ちゃんと好きな人とするのは、初めてって」
何て
いじらしくて、愛おしい。
せっかく取り戻した理性が、また霧のように消えていく。
「もちろん」と言う代わりに、玄関でのキスより深く唇を重ねた。
辿々しくも、葵が小さな舌で応え、俺の上顎をペロリと舐めると、快感で背中がゾクッと震えた。
激しさを増す息遣いと、混ざり合う唾液の味に酔いしれながら、葵のブラウスのボタンに手を掛けようとしたら、パッと葵の手がそれを遮った。
「やっぱりダメ。待って…!」
「もう無理。それとも何?葵の『初めて』、くれるって嘘だったの?」
「嘘じゃない!!けど、シャワーがダメならせめて着替え…」
「これ以上お預けされたら、優しくできなくなるかも」
葵の首筋に軽く歯を立てると、相変わらず感度のいい体がピクンと跳ねた。
シャワーとか着替えとか気にしている割に、葵からは俺を誘うような甘い体臭しかしない。
そう言えば、葵の体は舐めても甘く感じた。
記憶と香りに誘われるまま、舌の表面全体で舐め上げると、
「ぁっ」
と、葵が小さく声を漏らした。
もっと声が聞きたくて、今度は強めに吸いながら、くすぐるように舌を動かす。
「んっ、ぁ、ひゃあっ!」
ゆっくり唇を離し、そこに残る赤く、歪な形の痕を見たら、最初の時に、真田律のキスマークが付いていたのを思い出してしまった。
そして、気付かないようにしていたコトも連鎖的に思い出す。
いや、今思い出したんじゃない。
さっきから俺と葵の間をずっとちらついていた。
「な、何言って!?だ、大体、お父さんだって土日もほとんど仕事だったでしょ!?それに、私、秘書だったし、急ぎの連絡があるかもと思って…!!」
ヤバい、ニヤニヤが止まらない。
「葵から連絡くれれば良かったのに」
つい口を挟んでしまった。
「大事な商談中だといけないと思って我慢してたの!」
「へぇ、我慢してたの?じゃあ、やっぱり待ってくれてたんだ」
「!!」
ちょっとからかい過ぎたらしい。
「と、とにかく!たまにはご飯作りに来てあげるから、キッチンは綺麗にしておいてよ、お父さん!!戸籍は本家に入るけど、私はお父さんの娘なんだし!!」
と言って、逃げるように去った葵の背中に向かって、優さんが「ありがとう」とちょっと潤んだ目で手を振った。
車に乗り込むと、余程恥ずかしかったのか、葵は不自然なまでに窓側を向いている。
でも、今の俺はそんなこと全く気にならない。
何の躊躇いもなく指を絡ませ、手を握ると、そっぽを向いたまま、葵がキュッと握り返した。
マンションに着くまでずっと繋いでいた部分から伝えられる熱に、心も体も満たされていく。
玄関のドアが完全に閉まった音が耳に入った途端、理性のスイッチがオフになった気がした。
振り返って、俺の後を付いてきた葵と向かい合う。
身長差のある葵を正面から抱え上げるように抱いて、靴も脱がないまま、葵の唇に食らいついた。
「唯人!?待っ…んんっ」
俺にストップをかけるために、開かれた葵の口の中に舌を侵入させるのは、面白いほど簡単だった。
深く差し入れ、頬の裏側を舌で撫で上げると、葵は俺のシャツの胸元にしがみついた。
軽く目を開けて葵の表情をうかがうと、見る間に溶けていくのが分かる。
それなのに、尚も待ったをかける葵。
「はぁ…っ、ダメ。まだ、荷物運んでないし」
「そんなの後でいいでしょ?」
唇を甘噛みしながら抗議しても、葵は譲らない。
「や、ヤだっ。シャワー浴びたい!着替え入ってるし」
「ダメ。もう待てない。散々煽っといて、何言ってんの」
「煽ってなんて…わぁっ!」
葵の体を抱き上げると、華奢なヒールのミュールがカツンと落ちた。
俺も靴を脱いでそのまま寝室へ直行する。
葵をベッドに組み敷いて、上をとる態勢になるまでは、確かに理性のスイッチはオフになっていた。
なのに、俺の下にいる葵の、困惑と期待の入り混じった目を見て、我に返った。
興奮とは違う類のプレッシャーが、俺の手を止めた。
「…唯人…?」
「…ヤバい」
「え?」
こんなことがあるなんて。
「初めてで、緊張する」
「……頭でも打ったの?」
葵の辛辣な返しはもっともだ。
言うまでもなく、俺は童貞じゃない。
葵とするのだって、二回目だ。
『初めて』という言葉がそぐわないと思われても仕方ない。
でもー
「大丈夫。打ってない」
「意味分かんない」
「本当に思い合ってる相手とするの、初めてって意味」
「え…?」
「俺、人を好きになったの、葵が初めてだから」
笑われるかと思ったのに、葵は一気に頬を赤くした。
驚いて瞬きをすると、次の瞬間には、苦しげに顔を歪め、その大きな瞳に、涙を湛えて言った。
「それなら…私も初めてって言ってもいい…?」
喉が、絞られたように締めつけられる。
「は、初恋は別の人にあげちゃったけど、ちゃんと好きな人とするのは、初めてって」
何て
いじらしくて、愛おしい。
せっかく取り戻した理性が、また霧のように消えていく。
「もちろん」と言う代わりに、玄関でのキスより深く唇を重ねた。
辿々しくも、葵が小さな舌で応え、俺の上顎をペロリと舐めると、快感で背中がゾクッと震えた。
激しさを増す息遣いと、混ざり合う唾液の味に酔いしれながら、葵のブラウスのボタンに手を掛けようとしたら、パッと葵の手がそれを遮った。
「やっぱりダメ。待って…!」
「もう無理。それとも何?葵の『初めて』、くれるって嘘だったの?」
「嘘じゃない!!けど、シャワーがダメならせめて着替え…」
「これ以上お預けされたら、優しくできなくなるかも」
葵の首筋に軽く歯を立てると、相変わらず感度のいい体がピクンと跳ねた。
シャワーとか着替えとか気にしている割に、葵からは俺を誘うような甘い体臭しかしない。
そう言えば、葵の体は舐めても甘く感じた。
記憶と香りに誘われるまま、舌の表面全体で舐め上げると、
「ぁっ」
と、葵が小さく声を漏らした。
もっと声が聞きたくて、今度は強めに吸いながら、くすぐるように舌を動かす。
「んっ、ぁ、ひゃあっ!」
ゆっくり唇を離し、そこに残る赤く、歪な形の痕を見たら、最初の時に、真田律のキスマークが付いていたのを思い出してしまった。
そして、気付かないようにしていたコトも連鎖的に思い出す。
いや、今思い出したんじゃない。
さっきから俺と葵の間をずっとちらついていた。
0
あなたにおすすめの小説
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
年上幼馴染の一途な執着愛
青花美来
恋愛
二股をかけられた挙句フラれた夕姫は、ある年の大晦日に兄の親友であり幼馴染の日向と再会した。
一途すぎるほどに一途な日向との、身体の関係から始まる溺愛ラブストーリー。
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
君に何度でも恋をする
明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。
「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」
「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」
そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる