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彼の正体と過去と現在

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でも、それが全て自分にとって都合のいい解釈でしかなかったと分かるまでに、そう時間はかからなかったけれど。

「―し」

さすがの私でも、本人の口からああもハッキリ言われたら、目が覚めるわ。

「音無」

同じ時期に高嶺くんのお父さんとの関係が終わったらしい母と、逃げるように転校した先で瑞希と出会って、劇的に見た目を変えてもらった。
途端、言い寄って来た男達のお陰で、私の男性不信は加速し、キスもしないまま今日に至る。

「おい、音無っ!!」

目の前に、現在の高嶺くんの顔面ドアップが現れて、息が止まりそうになった。

「はいぃっ!」

「何回呼ばせるんだよ?ぼへーっと空の彼方に意識飛ばして」

「ごめっ、ごめんなさい!!な、何でしたっけ??」

「だから。今までもこんなふうに客の家に連れ込まれて危ない目に遭ったことがあるんじゃないのかって聞いてる」

一度痛い目にあっているというのに、私を映す高嶺くんの目が酷く心配そうに見えるなんて、どうかしている。
この目は危ない。
あの頃の自分に引き戻されないよう、慌てて視線を下に落とす。

「…ありません」

「本当に?」

嘘じゃない。
Love Birdsのお客様に、高嶺くんほど強引な人はいない。

頷く私に、高嶺くんはまたしてもとんでもないことを言い出した。

「そうか。じゃあ、今すぐLove Birdsこの仕事やめろ」

「…はい?」

「やめてここの家ウチで働け。何なら住み込みでも構わない」

Love Birdsをやめろと言われたことだけでも聞き間違いかと思ったのに。
働けって…加えて住み込みってどういうことよ…!?

「ま、全く話が飲み込めないんですけど!!」

「ちゃんと分からせてやる。来い」

ずっと玄関でもだもだしていた私の手を、高嶺くんがまたしても強引に掴んで居住スペースに引きずりこまれる。

「…めちゃくちゃ溜まってるんだよ」

「溜まっ…!?」

正体を明かした途端、性欲処理の道具にするつもり!?

ダメダメダメ!!
そんなことされたら一瞬で下僕時代あの頃に逆戻りだ。

「ちょ、本当に、無理です!絶対無理!!」

押し込まれた部屋は、寝室―

ではなくて、広い洗面所だった。
そして、そこにはキャスターのついた大きめのランドリーバスケットに入り切らないほどの洗濯物の山。

「…独立直後で仕事が忙し過ぎて家のことに手が回らない」

ま、紛らわし過ぎる。
そして、性欲処理あんなことなんて思った自分が死ぬほど恥ずかしい。

「食事も外食ばっかりで、流石に飽きた」

あまり見たいことのない、ちょっと困った顔に、引っ張られそうになる。
でも、ダメ。
私はもう下僕には戻らない。

心を鬼にしてド正論を投げつける。

「ハ、ハウスキーパーさん雇ったらいいじゃないですか」

「…お前の飯、食いたいんだけど」
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