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彼の正体と過去と現在

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あっっっっぶな!!

投げた球、思い切り打ち返されて、心臓ぶち抜かれたかと思った。
この男の思わせぶりワード、本当エグい。
あと2,3発受けたら、完全にKOだ。

悔しいから、いつかレッスン仕事で効果のある一言として紹介しちゃおう。

そうだ。
忘れかけてたけど、今だって仕事中なんだ。
しっかりしろ!

深呼吸して、ビジネスモードで深々と頭を下げる。

「も、申し訳ありません。今の仕事、やめるわけにはいかないので。瑞希は親友だし、私、これでも副社長なので」

私の初めての反抗に、高嶺くんの目が点になっている。
でも、それは瞬きの間のこと。

ゾッとするほど重い空気が漂ったかと思うと、ふわりと体が浮いた。

「ぅわっ、た、高嶺くん!?」

米俵のように雑に抱きかかえられ、今度は本当に寝室のベッドに放り投げられた。
身動きできないよう、私の胸の上で馬乗りになった高嶺くんが私を見下ろしながら言う。

「…そんなに大事な親友ならちゃんと教えてやれよ。『キスどころか、高校時代は朝でも昼でも、所構わず俺とヤりまくってましたって』」

痛いところを突かれ、反論できずにいると、薄暗い部屋に、聞き覚えのある、ベルトのバックルを外す音が響き出した。

「忘れてるんなら、今からいくらでも思い出させてやるよ」

「いっ、いやいやいやいや!間に合ってます!!覚えてます!!8Kの鮮明さで!!!」

ジタバタと手足を動かして逃れようとする私の姿が滑稽なのか、俯瞰している高嶺くんの目が、軽く弧を描いている。

「じゃあナニか?客から巻き上げるために設定にしてるとか?」

「…違っ!だって、本当に!高嶺くんとキスはしてないし!!」

「嘘はついてないって?すごい屁理屈だな。『親友』が聞いてあきれるぜ」

高嶺くんの言うとおりだ。
瑞希は、地味でダサくて暗くてボロボロだった私をありのまま受け入れ、導いてくれたかけがえのない存在なのに。
高嶺くんとの過去を打ち明けられないことは矛盾していると分かっている。
それでも、だからこそ、瑞希の中の私の数少ない良いイメージを、壊したくない。

なんて、高嶺くんに言ったところで分かってもらえないだろうから黙っていると─

「ま、あの女もあの女で大した玉だよな。ちょっと金積んだだけでを、得体の知れないに差し出せるんだから」

瑞希の悪口に、私の中の何かがプツリと音を立てて切れた。

「だから、そんな女とはさっさと縁切って─」

「───で」

「ん?」

「何も知らない癖に、瑞希のこと悪く言わないで!!!」

気付けば今まで誰の前でも出したことのないような大声と馬鹿力で高嶺くんを撥ね退け、マンションを後にしていた。
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