悪役令嬢の罠にかかって、ただの穴だと思い込んで告白もできず逃げ出したのに、元ヤンから弁護士に変身した彼に溺愛されてます

影と傷

４

言いながら、スプーンを口に突っ込んであげると、ゴキュッと即飲み込みこむ音がした。

あ。
その反応は、やっぱり図星なんだ。

分かっていたこととはいえ、急に白けた気持ちになって、器の中のお粥を所在なげに混ぜていたら─

視界の端っこに口元をヒクヒクさせた高嶺くんがチラチラ映り込んでくる。

「…何？」

「……もしかして、妬いたのか？」

「！ち、違います」

「お前でもそんな顔するんだな」

もう隠すこともなく、思い切り馬鹿にニヤニヤしている。
これにはさすがの私もイラッとした。

「誤魔化さないで。も、もう昔の私とは違うんだから…！都合のいい女なんてご免です！！」

言った…。
言えた！
言っちゃった！！

高校時代、ずっと言いたくて、ずっと言えなかったこと。

高嶺くんは、ぐうの音も出ないのか呆然としたまま固まっている。

「そんなに元気なら、私もう帰るね。後は自分で食べて。食べて薬飲んで寝たら朝には良くなると思うよ」

サイドテーブルにトレイを置いて、部屋を出ていこうとドアノブに手を掛けた。

「待てよ」

無視すればいいのに、足を止めてしまう自分が憎い。

「…冷蔵庫の中身は、昨日お前に飯作らせ…作ってもらおうと思って適当に準備しといただけだ。いつもは飲み物しか入ってない」

『適当に準備した』って、あんなに沢山の食材を？
洗濯もままならないほど忙しい人が？？
パンツだけで３０枚はあったよ？

それよりも、何よりも。

「わ、私が断るとか考えなかったの？？」

「全っ然。昨日実際に断られるまで」

言ってのけた顔は大真面目で。

どれだけ外見を変えたって。
面と向かって反論できるようになったって。

─敵わない─

そのことを強烈に思い知らされ、ドアに向かってバレないようにため息を吐いた。

「それと」

音もなくベッドを降りて私の背後まで来ていたらしい。
熱のせいと分かっていても、吐息混じりの声が耳にかかると、金縛りにかかったように動けなくなってしまった。

ドアノブにかけていた手を、そっと解かれ、引き寄せられた。

「俺はお前のことを都合のいい女扱いしたことなんて、一度もない」

「…っ！！」

そのまま、昔より厚く広くなった胸の中に、包み込まれた。

「だから、こんな遅くに一人で帰せない」

いつも強引な癖に、今日は慎重で遠慮がち。
調子が、狂う。

「……何もしないから、今夜はこのまま泊まっていけよ」

まるで壊れ物に触れるかのような優しい手を、どうしても振り払うことができなかった。

すぐに後悔することになるとも知らずに。