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影と傷

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「何やってんだよ?こんなところで」

お粥を作り終えても高嶺くんが起きてこないので、洗面所に戻って二回目の洗濯待ちをしていたら、眠りこけていたらしい。

フラフラの高嶺くんに声を掛けられ、目が覚めた。

「…呼んでも返事がないから、帰ったのかと思った」

「ごめん、ごめん。卵粥食べられそう?薬飲む前に何かお腹に入れた方がいいと思って」

「卵…粥…?お前が作ったのか?」

「うん」

「食べる」

少々食い気味に返事をする高嶺くんが、寝室に戻るのに付き添ってから、お粥を温め直し、寝室にとんぼ返りする。

「お待たせ。熱いから気をつけてね」

と、お椀の載ったトレイを渡そうとすると、食べる準備万端の高嶺くんが「あ」と口を開けてみせた。

「ん??」

「自分で食べるの、だるい」

つまり、食べさせろと言うことですね?
まだ薬飲めてなくて辛そうだから、仕方ないか。

一口分をスプーンに掬って、ふうふうしてから高嶺くんの口元に運んだ。

でも、さっきまでの勢いはどこへやら。
高嶺くんは口を開けない。

「高嶺くん、『あーん』は?」

と言うと、ようやく形の良い唇が開き、スプーンが口に含まれた。

てっきり、美味しいとか不味いとか、感想がくると思っていたのに、裏をかかれた。

「やっぱりお前の飯、毎日食いたい」

「だから、それは…!」

昨日も断ったはず、と反論しようとしたら、すかさず顎で次のお粥を催促された。
またフーフーしなければならないので、もちろん話すことはできない。

高嶺くんはまだ体が辛いのか、ヘッドボードに背中を預け、天井を仰ぎ、目を閉じた。

「…昨日はちょっと言い過ぎた。再会しても全く俺に気付かないし、ミズキミズキってうるさかったから…悪かった」

え?
もしかして、今、高嶺くんが謝った…?

「だ、大丈夫?先に熱計ればよかったね」

動揺のあまり、お粥をのせたスプーンを持ったまま体温計を探そうとする私を高嶺くんが止めた。

「うるさい。熱はあるけど俺は正気だ」

…ってことは。

「昨日のは、瑞希にやきもち焼いてたってこと…?」

私の問いかけに、高嶺くんは否定も肯定もしない代わりに、気まずそうな顔で「あ」と口を開けてお粥を要求した。

あーーーーっ!!
尊い。
爆萌え。
キュン死するうぅーーーー!!

って、ダメダメダメダメ。
私こそ正気を保たなければ。
待っているのは、沼。

「そ、んなこと言って。ご飯作ってくれる人いるんでしょ?冷蔵庫にいっぱい食べ物入ってるの、知ってるんだから」
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