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影と傷

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柔らかな唇が首筋を滑る。
吐息が熱い。
高嶺くんが触れているところ、全部が燃えそう─

ん?
触れているところ、全部が燃えそう??

頭を乗せられている方とは逆側の手で、高嶺くんの額に触れる。

あっつ!高嶺くん、もしかしなくても、具合悪いの?」

体を回転させ、正面で抱きとめながら訊いても返事はなくて。
壁を使って今にも崩れ落ちそうな体を支えながら、必死に高嶺くんの部屋の寝室まで運んだ。

とりあえず、熱を下げないと。

「高嶺くん、大丈夫―?ちょっと服脱がすね?」

「ん…」

ジャケットを脱がせて、シャツのボタンを外す。
薬の在り処より、タオルと氷の方が早く見つかりそうだな。

洗面所に向かおうとすると、強い力でベッドに引き戻され、後ろから高嶺くんの体に拘束された。

「…どこ…行くんだよ?」

こんな状態なのに、かなり腕の力が強くて抜け出せない。

「洗面所とキッチンだよ。高嶺くん、すごい熱出てるから、体冷やさないと!薬とか体温計とか、ある?ちょっと部屋さがさせてもらうね?」

「…たのに…。次俺の前から勝手に消えたら、今度こそ許さない」

かなり辛いのか、会話が成立していない。
不謹慎だけど、こんな状態でも偉そうなのが、ちょっと可笑しい。

「…大丈夫。病人置いて帰ったりしないよ。ちゃんと側に居るから、安静にしてて」

きつく巻き付いている腕をあやすように軽く叩くと、ようやく拘束が解かれた。

とりあえず、大急ぎで氷水に浸したタオルで高嶺くんの頭を冷やした。

それから、昨日より更に山を大きくした洗濯物の一部をドラム式洗濯機に突っ込んでスイッチを押し、室内を全体的に軽く片付けた後、病人でも食べられそうなものの準備にとりかかる。

洗面所もリビングもかなり散らかっていたけど、水回りだけはどこも綺麗だったのは不幸中の幸いだった。
特にキッチンは、まるで使用感がなくて。

冷蔵庫、飲み物しか入ってなさそう。
下手したら調理器具さえないかもしれない。

昨日も私のご飯が食べたいとか言ってたし、この様子だとことをしてくれる女性ヒト、今は本当にいないのかな。Love Birdsに登録したくらいだし。

そんなことを考えながら、真新しい冷蔵庫のドアを開けると─

各種調味料はもちろん、卵やお肉、野菜室には玉ねぎやじゃがいもなど、最低限以上の食材が備えられていた。
使い勝手よさそうで、高級そうな調理器具も一式。

前言撤回。
危うくまた騙されるところだった。

こんなの、絶対出入りしてる女いるじゃん。

本当は高嶺くんに食欲があるのなら、滋養の良い食事の方がいいんだろうけど。
どうしても冷蔵庫の中の食材を使う気になれない。
だって、ほら、相手の女性に悪いし。

誰に対するものなのかよく分からない言い訳を一頻り終え、結局私は土鍋を引っ張り出して生米からお粥を炊き、卵一個と細ネギ一本だけ拝借して卵粥をつくることにした。

お粥が炊けるまでの間、キッチンはなんとなく居心地が悪くて、乾燥の終わった洗濯物を畳んで過ごした。
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