悪役令嬢の罠にかかって、ただの穴だと思い込んで告白もできず逃げ出したのに、元ヤンから弁護士に変身した彼に溺愛されてます

恩田璃星

文字の大きさ
55 / 97
溶解

しおりを挟む
「そ、そんなことできないよ!!」

勢いよく振り払ったはずの東海林くんの手が、すぐさま私の両肩を強く掴んだ。

「そうやってまた逃げるんですか?白黒はっきりさせないまま終わらせて、今度は一生引きずって生きていくつもりなんですか?」

だって、あの時は、セフレでさえないと言われて。
辛くて、惨めで、本当のことなんてとても聞けなくて。
相談できる人もいなくて、逃げることしかできなかった。

それからずっと、高嶺くんに再会するまで、記憶に無理やり蓋をして、彼のことを思い出さないように生きていた。
誰かを好きになることさえできなかった。
「好き」という感情が高嶺くんを思い出させるから。

でも、今は?

高嶺くんは、私を好きだと言ってくれた。
いつかプロポーズもしてくれるって。
あの言葉は、きっとどっちも嘘じゃない。

それにまだ、私は高嶺くんの「彼女」だ。

「すみません、俺…自分のことじゃないからって無責任に。でも、静花さんには幸せになって欲しいから」

それに、今は一人ぼっちじゃない。

「…ダメだったらやけ酒付き合ってくれる?」

「静花さんの気が済むまで、何日でも」

差し出された東海林くんの手を掴み、立ち上がった。

お願い。
間に合って。

おぼろげな記憶を頼りに二人のいるレストランを目指す。
アパートの駐輪場に停めてあった、東海林くんのバイクの後ろに乗せてもらっている間、凍てつくような風の中でずっと祈っていた。

路肩でバイクのエンジンが止まるのと同時に飛び降り、店の方に駆け寄ると、ちょうど高嶺くんと瑞希が店から出てくるところだった。

私の願いが通じたのかどうかは、まだ分からない。
瑞希の腕はしっかりと高嶺くんの腕に絡まっている。

その光景に、突如電池が切れたように動けなくなる。

「静花さん」

いつのまにか隣に立っていた東海林くんが励ますように声をかけてくれた。
それと同時に二人がこちらに気付いた。

「あれぇ?静花じゃない。何しに来たの??今ごろ」

ちょっと意地悪な口調で瑞希の方が声をかけてきた。
高嶺くんは、何も言わない。

どうして二人が一緒にいるの?
どうして腕を組んでいるの?
これからどこに行こうとしているの?

聞きたいことは沢山あるのに、心も体も固まってしまい、声が出ない。

「…用がないなら、私達行くね?」

二人が寄り添い合うようにして私の横を通り過ぎようとしたとき、やっと声が出た。

「…めて」

瑞希の足がピタリと止まった。

「なーにー?声小さすぎて聞こえないんですけど?」

「ぃ…いか…行かない、で」

やっと出たのは、自分でも情けなくなるくらいか細い声。

「何で静花にそんなこと言われないといけないのよ?ずっと親友だと思ってたのに、一週間も無断欠勤しといて。高嶺さんとだってずっと連絡とってないんでしょ?私達のことなんてどうでもいいからそういうことしたんじゃないの?」

違う。

ちゃんと言わなきゃいけないのに、これまで向けられたことのない瑞希の攻撃的な口調に萎縮してしまって、また声が出ない。

「ま、言えるわけないわよね。『東海林くん他の男のところに転がり込んでました』なんて。あの女が言ってたことが事実だって証明してるようなもんだもんね」

どうして瑞希がそのことを!?
隣にいる東海林くんを見ると、「すみません。絶対会いに来ないって約束で、居場所だけは伝えていました」と謝られた。

今度こそ立ち去ろうと踵を返した瑞希は、高嶺くんの腕を引いて歩き出した。
その先には瑞希ご用達の高級ホテル。

イヤ。
ダメ。
行かないで。
お願い、止まって。

今まで生きてきた中で、一番強い思いが言葉になって口から溢れる。

「だいすきだから…」

ダメだ。
こんな蚊の鳴くような声じゃ届かない。
ちゃんと伝わるよう、思い切り息を吸い込んで叫ぶ。

「二人のことが大好きだから、行かないで!!」

その瞬間、私は瑞希と高嶺くんに抱きしめられていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...