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溶解
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「そ、そんなことできないよ!!」
勢いよく振り払ったはずの東海林くんの手が、すぐさま私の両肩を強く掴んだ。
「そうやってまた逃げるんですか?白黒はっきりさせないまま終わらせて、今度は一生引きずって生きていくつもりなんですか?」
だって、あの時は、セフレでさえないと言われて。
辛くて、惨めで、本当のことなんてとても聞けなくて。
相談できる人もいなくて、逃げることしかできなかった。
それからずっと、高嶺くんに再会するまで、記憶に無理やり蓋をして、彼のことを思い出さないように生きていた。
誰かを好きになることさえできなかった。
「好き」という感情が高嶺くんを思い出させるから。
でも、今は?
高嶺くんは、私を好きだと言ってくれた。
いつかプロポーズもしてくれるって。
あの言葉は、きっとどっちも嘘じゃない。
それにまだ、私は高嶺くんの「彼女」だ。
「すみません、俺…自分のことじゃないからって無責任に。でも、静花さんには幸せになって欲しいから」
それに、今は一人ぼっちじゃない。
「…ダメだったらやけ酒付き合ってくれる?」
「静花さんの気が済むまで、何日でも」
差し出された東海林くんの手を掴み、立ち上がった。
お願い。
間に合って。
おぼろげな記憶を頼りに二人のいるレストランを目指す。
アパートの駐輪場に停めてあった、東海林くんのバイクの後ろに乗せてもらっている間、凍てつくような風の中でずっと祈っていた。
路肩でバイクのエンジンが止まるのと同時に飛び降り、店の方に駆け寄ると、ちょうど高嶺くんと瑞希が店から出てくるところだった。
私の願いが通じたのかどうかは、まだ分からない。
瑞希の腕はしっかりと高嶺くんの腕に絡まっている。
その光景に、突如電池が切れたように動けなくなる。
「静花さん」
いつのまにか隣に立っていた東海林くんが励ますように声をかけてくれた。
それと同時に二人がこちらに気付いた。
「あれぇ?静花じゃない。何しに来たの??今ごろ」
ちょっと意地悪な口調で瑞希の方が声をかけてきた。
高嶺くんは、何も言わない。
どうして二人が一緒にいるの?
どうして腕を組んでいるの?
これからどこに行こうとしているの?
聞きたいことは沢山あるのに、心も体も固まってしまい、声が出ない。
「…用がないなら、私達行くね?」
二人が寄り添い合うようにして私の横を通り過ぎようとしたとき、やっと声が出た。
「…めて」
瑞希の足がピタリと止まった。
「なーにー?声小さすぎて聞こえないんですけど?」
「ぃ…いか…行かない、で」
やっと出たのは、自分でも情けなくなるくらいか細い声。
「何で静花にそんなこと言われないといけないのよ?ずっと親友だと思ってたのに、一週間も無断欠勤しといて。高嶺さんとだってずっと連絡とってないんでしょ?私達のことなんてどうでもいいからそういうことしたんじゃないの?」
違う。
ちゃんと言わなきゃいけないのに、これまで向けられたことのない瑞希の攻撃的な口調に萎縮してしまって、また声が出ない。
「ま、言えるわけないわよね。『東海林くんのところに転がり込んでました』なんて。あの女が言ってたことが事実だって証明してるようなもんだもんね」
どうして瑞希がそのことを!?
隣にいる東海林くんを見ると、「すみません。絶対会いに来ないって約束で、居場所だけは伝えていました」と謝られた。
今度こそ立ち去ろうと踵を返した瑞希は、高嶺くんの腕を引いて歩き出した。
その先には瑞希ご用達の高級ホテル。
イヤ。
ダメ。
行かないで。
お願い、止まって。
今まで生きてきた中で、一番強い思いが言葉になって口から溢れる。
「だいすきだから…」
ダメだ。
こんな蚊の鳴くような声じゃ届かない。
ちゃんと伝わるよう、思い切り息を吸い込んで叫ぶ。
「二人のことが大好きだから、行かないで!!」
その瞬間、私は瑞希と高嶺くんに抱きしめられていた。
勢いよく振り払ったはずの東海林くんの手が、すぐさま私の両肩を強く掴んだ。
「そうやってまた逃げるんですか?白黒はっきりさせないまま終わらせて、今度は一生引きずって生きていくつもりなんですか?」
だって、あの時は、セフレでさえないと言われて。
辛くて、惨めで、本当のことなんてとても聞けなくて。
相談できる人もいなくて、逃げることしかできなかった。
それからずっと、高嶺くんに再会するまで、記憶に無理やり蓋をして、彼のことを思い出さないように生きていた。
誰かを好きになることさえできなかった。
「好き」という感情が高嶺くんを思い出させるから。
でも、今は?
高嶺くんは、私を好きだと言ってくれた。
いつかプロポーズもしてくれるって。
あの言葉は、きっとどっちも嘘じゃない。
それにまだ、私は高嶺くんの「彼女」だ。
「すみません、俺…自分のことじゃないからって無責任に。でも、静花さんには幸せになって欲しいから」
それに、今は一人ぼっちじゃない。
「…ダメだったらやけ酒付き合ってくれる?」
「静花さんの気が済むまで、何日でも」
差し出された東海林くんの手を掴み、立ち上がった。
お願い。
間に合って。
おぼろげな記憶を頼りに二人のいるレストランを目指す。
アパートの駐輪場に停めてあった、東海林くんのバイクの後ろに乗せてもらっている間、凍てつくような風の中でずっと祈っていた。
路肩でバイクのエンジンが止まるのと同時に飛び降り、店の方に駆け寄ると、ちょうど高嶺くんと瑞希が店から出てくるところだった。
私の願いが通じたのかどうかは、まだ分からない。
瑞希の腕はしっかりと高嶺くんの腕に絡まっている。
その光景に、突如電池が切れたように動けなくなる。
「静花さん」
いつのまにか隣に立っていた東海林くんが励ますように声をかけてくれた。
それと同時に二人がこちらに気付いた。
「あれぇ?静花じゃない。何しに来たの??今ごろ」
ちょっと意地悪な口調で瑞希の方が声をかけてきた。
高嶺くんは、何も言わない。
どうして二人が一緒にいるの?
どうして腕を組んでいるの?
これからどこに行こうとしているの?
聞きたいことは沢山あるのに、心も体も固まってしまい、声が出ない。
「…用がないなら、私達行くね?」
二人が寄り添い合うようにして私の横を通り過ぎようとしたとき、やっと声が出た。
「…めて」
瑞希の足がピタリと止まった。
「なーにー?声小さすぎて聞こえないんですけど?」
「ぃ…いか…行かない、で」
やっと出たのは、自分でも情けなくなるくらいか細い声。
「何で静花にそんなこと言われないといけないのよ?ずっと親友だと思ってたのに、一週間も無断欠勤しといて。高嶺さんとだってずっと連絡とってないんでしょ?私達のことなんてどうでもいいからそういうことしたんじゃないの?」
違う。
ちゃんと言わなきゃいけないのに、これまで向けられたことのない瑞希の攻撃的な口調に萎縮してしまって、また声が出ない。
「ま、言えるわけないわよね。『東海林くんのところに転がり込んでました』なんて。あの女が言ってたことが事実だって証明してるようなもんだもんね」
どうして瑞希がそのことを!?
隣にいる東海林くんを見ると、「すみません。絶対会いに来ないって約束で、居場所だけは伝えていました」と謝られた。
今度こそ立ち去ろうと踵を返した瑞希は、高嶺くんの腕を引いて歩き出した。
その先には瑞希ご用達の高級ホテル。
イヤ。
ダメ。
行かないで。
お願い、止まって。
今まで生きてきた中で、一番強い思いが言葉になって口から溢れる。
「だいすきだから…」
ダメだ。
こんな蚊の鳴くような声じゃ届かない。
ちゃんと伝わるよう、思い切り息を吸い込んで叫ぶ。
「二人のことが大好きだから、行かないで!!」
その瞬間、私は瑞希と高嶺くんに抱きしめられていた。
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