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Unknown Lover

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 さっきは夏目さんが、私が夏目さんの初恋のコだったと言い、今度は国会議員の真壁博武がお爺ちゃんだと言い出した。

 こんなの私の願望が作り出した夢以外何でもない。
 自分で思っていた以上に夏目さんとの別れがストレスだったらしい。

 どうせ夢だし、と自分の頬を一切のためらいなく、思い切り引っ叩いてみた。

 だけど、夢から覚めるどころか、ものすごくほっぺが熱い。

 ダメか。
 よし、もう一回。
 今度は反対側、と振り上げた平手を、母が慌てて掴んだ。

 「ちょ、凛!何してるの!?止めなさい!!」

 「だって!これはただの夢だから早く目覚めなきゃ!!現職の国会議員が私のお爺ちゃんなわけないでしょう!?」

 必死にその手を振り解こうとする私に、母は苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 「残念だけど、事実よ。この人は私の実の父。そして、凛、あなたの祖父なのよ」

 ジツノチチ。
 アナタノソフ。

 母の言っていることが理解できなくて。
 目だけ動かして真壁博武の方を見れば、さっきの威圧感はどこへやら。
 私よりも頬を赤く染め、胸の前で人差し指をモジモジさせている。

 「は…?本当に??私、の、お爺ちゃん???」

 まだ信じられなくて問いかけただけなのに、真壁議員は感極まって泣き出してしまった。

 「お母さん!?どういうことなの!!?説明して!!」

 「どうもこうもないわよ。この頑固ジジイが虎太郎こたろうさんとの結婚に反対したから駆け落ちしただけよ。でも、そしたら孫会いたさに誘拐までして…凛をあんな目に遭わせたから完全に絶縁してやったのよ!!」

 ってことは、《 は本当にお爺ちゃんの関係者だったのか。
 そういえば、私にずっとついていた人、高藤さんに似ていたような気がする。

 「た、確かにアレは悪かったと思うて反省しとるからこそ、こうしてワシが自ら凛に相応しい相手を選び抜いてじゃな…」

 「余計なお世話だってば!!」

 「そうは言うても、このまま放っておいたら、あの男の稼ぎが悪いばっかりに、ろくな治療もできんかったせいで、凛が行き遅れてしまうわい」

 「は?誰のせいで虎太郎さんが転職繰り返したと思ってるのよ!?就職する度に会社に圧力かけたあんたのせいでしょうが!!私が知らないとでも思ってるの!?」

 お爺ちゃんは、この部屋に入ったときの自分よりも強い圧を放つの視線から逃れるように、夏目家側に回り込んだ。

 「ほ、ほれ、凛。夏目グループの次期社長、夏目壱哉くんじゃ。ええ男じゃろう?」

 お爺ちゃん…。
 お爺ちゃんが選び抜いたとかいうその男、私のこと三年も弄んで捨てたうえに、夏目さん新しい彼氏との仲を引き裂こうとした最低な男だよ…。

 とは、夏目さんのご両親の手前流石に言うことはできないでいたら─

 「申し訳ありませんが、今日私がここに来たのは、凛さんとの縁談をお断りするためです」

 「な、なんじゃと!?」

 お爺ちゃんの目を白黒させたのは、まさかの壱哉だった。

 そりゃあ私だって今更壱哉と結婚する気はないけれど。
 ついこの間まで嫌がらせで私と結婚しようとしていたのに、一体どういう風の吹き回し?

 「見合いの席にまで臨んでおきながら今更そのようなことを…!理由を言ってみろ!事と次第によっては許さんぞ!!」

 夏目さんのご両親は、真壁家と清永家の茶番の最中から変わらず、ただ黙って成り行きを見守っている。

 「私が…凛さんには相応しくない人間だからです」

 「貴様…!ワシの可愛い孫娘に何か不満があるとでも言うのか!?」

 「いえ、事実です。誓って他意はありません。それに、もっと相応しい人間がいるんです。凛さんのことだけを、ずっと一途に思い続け、運命ごと引き寄せてしまうような人間が」

 「それは誰じゃ!?」

 壱哉は、夏目家の末席へ向かうと、両親と共に固唾を飲んで私たちを見守っていた、自分より少し背の高い弟の背中を押して言った。

 「私の弟の、仁希です」

 話の流れ的に、てっきりお爺ちゃんに自己紹介するのかと思いきや。
 夏目さんは、お爺ちゃんを素通りして、私の目の前で跪いて私の手を取った。

 「凛、改めて言う。凛の全てを愛してる。俺と結婚して欲しい」

 今までずっと気にしてきた『家柄』の件は、解決してしまった。
 それに、「全て」には本当に背中の傷も含まれているようで─
 
 ここに来て、それまでずっと黙っていた夏目さんのお父さんが、初めて口を開いた。

 「真壁議員には申し訳ありませんが、ご連絡をいただいたときから、このお話は仁希にと思ってお受けしていました」

 厳かな口調で夏目さんのお母さんも続く。

 「仁希が20年前に出会った女の子のことをずっと探していたのは、家族全員が知っていましたから。それに、私たちもあの時仁希を助けてくださった方に、ずっとお礼とお詫びをしたいと思っていたんです」

 どうやら本当の本当に、夏目さんはあの時の男の子だったらしく。
 まさか、(壱哉含め)ご家族揃って受け入れてくれるなんて。

 と、言うことは─


 私、本当にこの手を握り返していいの?


 ほんの一瞬躊躇った隙に、お爺ちゃんが喚き立てた。

 「ダメじゃダメじゃ!凛の相手は次期社長の兄の方でない…もががっ」
 
 すかさず母が、お爺ちゃんの口を塞ぐ。

 「性懲りも無くまた同じ過ちを繰り返すつもり!?ちょっと黙ってなさいよ!凛!あなたも何迷ってるの!さっさと返事しなさい!!」

 母に名実ともに背中を押され、差し出された手ではなく、夏目さん自身に飛びついて言った。

 「はい!喜んで!!」
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