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3 執着心
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版画の巨星「棟方志功」を引き合いに出すなどとは、と思いながらも麦酒を一口喉奥に流し込むと、私は、ついと身体を寄せて聞いたのです。
「それで…彼、その傀儡駱駝と言うの人物は版画芸術に大変才能のあった人物だったのでしょうか…?」
問いかけられた男も、私と同じ様に麦酒をぐぃと喉奥に流し込みましたが、まるで喉ごしを過ぎた麦酒の爽快さなど忘れてしまったかのように、手を軽くへらへらと振ると、じっと目を細めました。
「ーー残念やけど全くや、なんにもあらへんかった、…才能のかけらなんてモンわな」
聞いた私は、少し食いかかるように寄せた身体を僅かに反らせ、男に言いました。
「それでも何かはあったでしょう?ーーあの「蟻食荘」に住む、いや、巣食うと言ったほうがいい住人ならば、何かしら一癖二癖はある筈です、違いますか?」
聞いた男は私の言葉に口元を僅かに緩めると、さも、そうだと言わんばかりに頷きました。
「せやな、その通り。あの男には確かに芸術の才能はなかったかもしれん。何故ならば何度も何度も大小の版画公募に落ち続けたんや。…しかしや、そんな男やからかもしれんけど、あいつには他の人間にはない強さがあった」
(強さ…)
私は何か鬼気迫るものを感じ、唾を飲み込みました。ですが、男は私とは違ってコップに残っている麦酒を一気に飲み干すと、私を顧みず、グラスの底を見つめたのです。
「…執着心や、そう、酒好きが飲み干したコップの底へ、まだ酒が欲しいと言う未練がましさがあるように、芸術家にはありがちなのかもしれへんが、ーー「美しいもの」に対する強い執着かあいつにはあった」
ーー美しいものに対する強い執着心…
私は瞬間、その言葉に身震いを感じました。
いや、でもそれは直ぐに勘違いだと思いました。何故ならそう思ったと同時に酔客が出て行き、「麝香」と筆書きされた店の暖簾が揺れて夜風が吹き込んできたからです。
だから私は誰かの起こした風が、自分を身震いさせたのだと言う私は思いましたが、然しながらそれは早合点に過ぎませんでした。
つまり「私」はまだ傀儡駱駝の事を知らないーー謂わば語り始められた怪人噺の前に生まれたばかりの嬰児でしかなかったのを後々知ったからです。
「それで…彼、その傀儡駱駝と言うの人物は版画芸術に大変才能のあった人物だったのでしょうか…?」
問いかけられた男も、私と同じ様に麦酒をぐぃと喉奥に流し込みましたが、まるで喉ごしを過ぎた麦酒の爽快さなど忘れてしまったかのように、手を軽くへらへらと振ると、じっと目を細めました。
「ーー残念やけど全くや、なんにもあらへんかった、…才能のかけらなんてモンわな」
聞いた私は、少し食いかかるように寄せた身体を僅かに反らせ、男に言いました。
「それでも何かはあったでしょう?ーーあの「蟻食荘」に住む、いや、巣食うと言ったほうがいい住人ならば、何かしら一癖二癖はある筈です、違いますか?」
聞いた男は私の言葉に口元を僅かに緩めると、さも、そうだと言わんばかりに頷きました。
「せやな、その通り。あの男には確かに芸術の才能はなかったかもしれん。何故ならば何度も何度も大小の版画公募に落ち続けたんや。…しかしや、そんな男やからかもしれんけど、あいつには他の人間にはない強さがあった」
(強さ…)
私は何か鬼気迫るものを感じ、唾を飲み込みました。ですが、男は私とは違ってコップに残っている麦酒を一気に飲み干すと、私を顧みず、グラスの底を見つめたのです。
「…執着心や、そう、酒好きが飲み干したコップの底へ、まだ酒が欲しいと言う未練がましさがあるように、芸術家にはありがちなのかもしれへんが、ーー「美しいもの」に対する強い執着かあいつにはあった」
ーー美しいものに対する強い執着心…
私は瞬間、その言葉に身震いを感じました。
いや、でもそれは直ぐに勘違いだと思いました。何故ならそう思ったと同時に酔客が出て行き、「麝香」と筆書きされた店の暖簾が揺れて夜風が吹き込んできたからです。
だから私は誰かの起こした風が、自分を身震いさせたのだと言う私は思いましたが、然しながらそれは早合点に過ぎませんでした。
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