瓶怪人

ヒナタウヲ

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6 空気感

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 傀儡駱駝がいつの頃から、そんな謂われのある「蟻食荘」に住むようになったかは、分かりません。
 
 然し、彼は確かに最後の住人として、其処に住み、ーーそう、棲み処として、日々、版画芸術に打ち込んでいたのです。

 そして版画芸術に打ち込む傀儡駱駝の信念は「美しいもの」に対する強い執着であったと、男は私に言いました。  

 その信念を見聞きした自身には、突如として蟻食荘の由緒、傀儡駱駝の信念、それが懸濁した反響で私の耳圧となり、飲み屋の喧騒からひとり沈黙孤立すると、…なんという事か、一度も見たことがない傀儡駱駝と言う男の内なる闇の前に立つ感じを受けたのです。

 然しそれらは一方で私の孤立を嘲笑う様に、喧騒に混じり合うと、ぽとりと男のグラスの底に落ち、まるで傀儡駱駝の執着心が其処に居るような、そんな素振りで男は軽く手カウンター向こうへ手を上げました。

「ーー瓶麦酒びんビールおかわりくれへんか?、あと隣の兄ちゃんにも、おんなじやつを」  

 …へーぃ。
 カウンター奥で応じる声。

 暫時、混濁する空気感が耳圧となって襲い掛かっている自分には、男が店員へ向かって言った事も、余り聞き取れなかった程なのですが、然し、次の瞬間、男がカウンター奥へ言い放った言葉は耳圧を超えて「私」の脳裏に雷鳴の如く、響き…私は…

「あの子はどないした?ほら、駱駝の想い人のあの子や」

 そう、驚愕したのでした。





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