四天王寺ロダンの冒険

ヒナタウヲ

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馬蹄橋の七灯篭――『四天王寺ロダンの挨拶』より

その36

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(36)

 僕は頭を掻いた。ボリボリと音を立てる。
「あまりにも端的に話をしすぎておると思いでしょうね。でもパズルが全て組合わさり、それを知っているあなたにはどこから切り出されても問題ないでしょう。僕は小説家じゃない。だから順序だてするのは嫌いですが、唯ここで全ての元凶とは何かを整理したくなりました」
 老人は唾を飲む。皺だらけの喉もとが上下に動いた。自分が知らぬことをこの若者は知っている。その未知に対する恐れが喉を動かしたのかもしれない。
「僕があなたに言ったつまり遺伝性的な性癖、それはつまりあなたの母親である戸川瀧子から引き継がれているのです。彼女のある側面がやがてあなた方の肉体の内で血を吸うように花開いた。つまりですよ、戸川瀧子とは何者か、それを知らなければ、全ての順序を整理できないのです」
「何を知っている?」
 老人は若者に問いかける。それはどこか懇願するようにも見える。
「なぁ何をだ?」
 僕は顎に手を掛けた。そして言う。
「猪子部さん、貴方。女性の遺伝的な事って性癖だけじゃなく、その出産に関わることも遺伝するかって聞いたらどうこたえます?」
 老人はこの瞬間、今までに見たことが無い呆けた表情になった。まるで緊迫する将棋の一手として意外な手を打たれた棋士のように。
「…言っている意味が分からないが」
 それが老人の僕の問いかけに対する精一杯のだせる言葉だった。
「うん…でしょうね。ちょっと投げやりな問いでしたね」
 僕は頭を再び掻くと今度は首筋をぴしゃりと音を立てて叩いた。
「つまりですよ。妊娠、あ…受胎とでも言うのですが」
 僕は老人に顔を向けた。
「つまり多胎児という出産は連続で起きるかという事です」
 老人は僕の言葉に顔を上げた。皺だらけの表情の下で鈍く隠れていた研ぎ澄まされてる知性が動き出すのが、僕には分かった。僕はキーワードを投げただけだったが、それだけで老人は瞬時に何かを悟ったのだ。
 悟れば後は瞬時に意味を解くための頭脳が動き出す。それが鋭敏なものであればあるほど、その答えは明確になり、やがて自分が否定していた答えを探し出すことになるだろう。そしてそれを見つけた人は言う。

 ――そんなことはあり得ない、と。

「でしょうか?でもね。人間の生命力と言うのはその不思議を越えて数学的答えだけを持って来てはくれない。だからこそ、不思議なのです。そうつまり、あなたがた三人は三つ子、そして次にもう一つ双生児がいたとしたら?」
「そんなことは…あり得ん…ん」
 僕は老人の言葉を追う。
「そう。そう思うのが普通です。しかしですよ、猪子部銀造、田中竜二、竜一、そしてその下にもう一つ双子が居たら?まぁその双生児が互いに男女の双生児だとして」
「双子だと?」
「つまり、火野龍平ともうひとりの誰か…」
「お前ぇ、いや、オメェは一体何をどこまで知ってるんだ!!」
「つまり東珠子ですよ」
 この瞬間老人は卒倒したと言い。そうここで老人は奇声を発したのだ。まるで爆発するかのように発して言う。
「何だと、一体何が言いたい!!」
 僕は首筋を撫でながら囁く。
「…つまりですよ。これはですね。あなたが知らなくていいのです。勿論当然です。これはですね。全て根来動眼から出ているある意味悲劇なんだと僕は結論づけていて、猪子部さん、あなたはそうした責めを現代で一人受けなければならない、まるで時間が選んだ犠牲的供物のような存在と言えるのではないかと、僕は言いたいのです」




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