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第7話 牙(2)
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僕は、死ぬよりも生きることを選択した。
横木がわりに自分の片腕をヤツの口にぶっこむ。
死ぬよりマシだ。
片腕くらいくれてやる!
——ガブジュッ!
牙が食いこみ、僕の血とヤツのよだれがまじって、よくわからない色の液体が飛び散った。
けどそのまま全力でヤツを押す!
よし! これで片方の腕が自由になった!
手をすべらせ腰のあたりを探る。
急げ! 急げ!
固いものがふれた。剣の柄だ。
刃を抜く! 抜き去る!
「ぜりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッ!!」
全力でもって、横からヤツの喉元に突き立てる!
「ガ? グガ、ギャ? グォフ……、ガフ……、コフ……」
狼は一瞬何が起こったのかわからなかったようだった。このまま食えると思っていた弱いのから、思わぬ反撃を食らってたじろいでいるはず——
「グ愚ガァァァァァラら羅ラアァァァァッァァッッ!!」
たじろがなかった。
さらに力を増して、よだれを撒き散らして迫りくる。
しばらく押し引きが続いた。
僕は突っ込んだナイフを、ヤツの深いところへ押しこむ。
ヤツの方は僕を噛み殺そうと、ものすごい力で押し下げてくる。
そうこうしているうちに、ガギッ……と嫌な音がして、僕の手元で何かがずれた。
ハッと確かめる。
僕が握っているのはナイフを握るところだけ……?
刃が根元から折れてしまった!
まずい、と僕が思う。
それと同時に狼が勢いづく。
「ググ狗ラァァァァァッ!!」
再度の劣勢。あせる。
けれど何か手はないかと考える。何とかしなければ……。何とかしなければ!
するとふと目についたのが、ナイフだった。
中途半端にヤツの喉に突き刺さっている、あのナイフの刃だ。
何をやるべきか、僕はとっさに理解した。
「う、おりゃあぁぁぁぁっ!!」
ガンガンガンッ!
もっと深く刺されと、ナイフの折れたところを何度も叩く!
無我夢中で叩く!
何回もやっているうちに、ズブ、と入りこんでいく音と、ガギッと何か硬いものを砕く手応えがあった。
よし、これで——
「グ苦ルルルル褸ロ……アアアアァァァッ……!!」
しかし狼は最後の力を振り絞るようなとんでもない力で食いついてきて、僕の顔に噛みついてきて——ガクリと首をうなだれ、脱力した。
そしてその姿のまま、ついに息絶えた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
僕の息も絶え絶えだ。
けれどなんとかやった。やりとげた……。
達成感で力が抜けかけたけれど、安堵するのはまだだ。
ゆるめるとこいつの体重にそのまま押し潰される。
なんとか押しやらないと。
「せ……。くっ……。この……」
重い。
同じ重みでも、生きているときと死んでいるときでは全然違う。
死体になった今の方が、ずっと重い。
押そうとしても、力と張りをなくした獣の体が、ぐにゃりとまとわりつくように動き、ピッタリとくっついてくる。
この「動かない死体のはずなのに動く」というのがめちゃくちゃ気持ち悪い。
真上に押すのは無理だとわかったので、今度は押しながら横にずらしていくことにした。少しずつ押しやっていく。ヤツの頭が離れた。よし、次は前足。続いて上体を力を振り絞ってグイと押す。
狼の体半分がドサッと地面にへばりついた。
まだ僕の足に乗っかっているようだけど、それ以上何かする体力が残っていない。
ぜい……ぜい……と息をつきながら仰向けに横たわり、青い空を見上げる。
額あたりも噛まれて出血しているらしく、流れてきた血で視界が赤い。
いや、妙な色だ。紫——視界は鈍い紫の色。そんな紫の空を、紫黒い鳥が飛んでいく。けれど、もう不思議と痛みを感じない。痛覚がマヒしたのだろうか。
たぶん僕の体からは血が大量に抜けたのだろう。今も抜けているのだろう。
さっきから、足裏あたりからじわじわと絶え間なく何かが流れている。これは生命にかかわる何かだ。それが失われていくのがわかる。
そしてそれとは別に、何かよくないものが僕の体の中に入ってしまったのもわかっていた。
よくないものが体内の血管の中をめぐり、じわじわと広がっていく。
たぶん毒だ。毒持ちのモンスターだったのかな……。
冒険の最初で手合違いの強モンスター、それも有毒のやつに遭遇する確率ってどれくらいなんだろ……。
最初は……もっと簡単な……一撃で倒せる……チュートリアル的な……。
そんなことを思いながら僕は死んでいく。
もうまもなく僕は死ぬだろう。
最強無双も、うはうはハーレムも、まったりスローライフも、どれ一つ経験することなく、僕の異世界ライフは終わりを告げ——
そして僕の視界は、紫から黒へと暗転した。
横木がわりに自分の片腕をヤツの口にぶっこむ。
死ぬよりマシだ。
片腕くらいくれてやる!
——ガブジュッ!
牙が食いこみ、僕の血とヤツのよだれがまじって、よくわからない色の液体が飛び散った。
けどそのまま全力でヤツを押す!
よし! これで片方の腕が自由になった!
手をすべらせ腰のあたりを探る。
急げ! 急げ!
固いものがふれた。剣の柄だ。
刃を抜く! 抜き去る!
「ぜりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッ!!」
全力でもって、横からヤツの喉元に突き立てる!
「ガ? グガ、ギャ? グォフ……、ガフ……、コフ……」
狼は一瞬何が起こったのかわからなかったようだった。このまま食えると思っていた弱いのから、思わぬ反撃を食らってたじろいでいるはず——
「グ愚ガァァァァァラら羅ラアァァァァッァァッッ!!」
たじろがなかった。
さらに力を増して、よだれを撒き散らして迫りくる。
しばらく押し引きが続いた。
僕は突っ込んだナイフを、ヤツの深いところへ押しこむ。
ヤツの方は僕を噛み殺そうと、ものすごい力で押し下げてくる。
そうこうしているうちに、ガギッ……と嫌な音がして、僕の手元で何かがずれた。
ハッと確かめる。
僕が握っているのはナイフを握るところだけ……?
刃が根元から折れてしまった!
まずい、と僕が思う。
それと同時に狼が勢いづく。
「ググ狗ラァァァァァッ!!」
再度の劣勢。あせる。
けれど何か手はないかと考える。何とかしなければ……。何とかしなければ!
するとふと目についたのが、ナイフだった。
中途半端にヤツの喉に突き刺さっている、あのナイフの刃だ。
何をやるべきか、僕はとっさに理解した。
「う、おりゃあぁぁぁぁっ!!」
ガンガンガンッ!
もっと深く刺されと、ナイフの折れたところを何度も叩く!
無我夢中で叩く!
何回もやっているうちに、ズブ、と入りこんでいく音と、ガギッと何か硬いものを砕く手応えがあった。
よし、これで——
「グ苦ルルルル褸ロ……アアアアァァァッ……!!」
しかし狼は最後の力を振り絞るようなとんでもない力で食いついてきて、僕の顔に噛みついてきて——ガクリと首をうなだれ、脱力した。
そしてその姿のまま、ついに息絶えた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
僕の息も絶え絶えだ。
けれどなんとかやった。やりとげた……。
達成感で力が抜けかけたけれど、安堵するのはまだだ。
ゆるめるとこいつの体重にそのまま押し潰される。
なんとか押しやらないと。
「せ……。くっ……。この……」
重い。
同じ重みでも、生きているときと死んでいるときでは全然違う。
死体になった今の方が、ずっと重い。
押そうとしても、力と張りをなくした獣の体が、ぐにゃりとまとわりつくように動き、ピッタリとくっついてくる。
この「動かない死体のはずなのに動く」というのがめちゃくちゃ気持ち悪い。
真上に押すのは無理だとわかったので、今度は押しながら横にずらしていくことにした。少しずつ押しやっていく。ヤツの頭が離れた。よし、次は前足。続いて上体を力を振り絞ってグイと押す。
狼の体半分がドサッと地面にへばりついた。
まだ僕の足に乗っかっているようだけど、それ以上何かする体力が残っていない。
ぜい……ぜい……と息をつきながら仰向けに横たわり、青い空を見上げる。
額あたりも噛まれて出血しているらしく、流れてきた血で視界が赤い。
いや、妙な色だ。紫——視界は鈍い紫の色。そんな紫の空を、紫黒い鳥が飛んでいく。けれど、もう不思議と痛みを感じない。痛覚がマヒしたのだろうか。
たぶん僕の体からは血が大量に抜けたのだろう。今も抜けているのだろう。
さっきから、足裏あたりからじわじわと絶え間なく何かが流れている。これは生命にかかわる何かだ。それが失われていくのがわかる。
そしてそれとは別に、何かよくないものが僕の体の中に入ってしまったのもわかっていた。
よくないものが体内の血管の中をめぐり、じわじわと広がっていく。
たぶん毒だ。毒持ちのモンスターだったのかな……。
冒険の最初で手合違いの強モンスター、それも有毒のやつに遭遇する確率ってどれくらいなんだろ……。
最初は……もっと簡単な……一撃で倒せる……チュートリアル的な……。
そんなことを思いながら僕は死んでいく。
もうまもなく僕は死ぬだろう。
最強無双も、うはうはハーレムも、まったりスローライフも、どれ一つ経験することなく、僕の異世界ライフは終わりを告げ——
そして僕の視界は、紫から黒へと暗転した。
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