惑星だった僕が異世界転生して人として生きるときに語ること

来麦さよのすけ

文字の大きさ
7 / 52
1

第7話 牙(2)

しおりを挟む
 僕は、死ぬよりも生きることを選択した。
 横木がわりに自分の片腕をヤツの口にぶっこむ。

 死ぬよりマシだ。
 片腕くらいくれてやる!
 
 ——ガブジュッ!
 牙が食いこみ、僕の血とヤツのよだれがまじって、よくわからない色の液体が飛び散った。

 けどそのまま全力でヤツを押す!
 よし! これで片方の腕が自由になった!
 手をすべらせ腰のあたりを探る。
 急げ! 急げ!
 固いものがふれた。剣の柄だ。
 刃を抜く! 抜き去る!

「ぜりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッ!!」

 全力でもって、横からヤツの喉元に突き立てる!

「ガ? グガ、ギャ? グォフ……、ガフ……、コフ……」

 狼は一瞬何が起こったのかわからなかったようだった。このまま食えると思っていた弱いのから、思わぬ反撃を食らってたじろいでいるはず——

「グ愚ガァァァァァラら羅ラアァァァァッァァッッ!!」

 たじろがなかった。
 さらに力を増して、よだれを撒き散らして迫りくる。

 しばらく押し引きが続いた。

 僕は突っ込んだナイフを、ヤツの深いところへ押しこむ。
 ヤツの方は僕を噛み殺そうと、ものすごい力で押し下げてくる。

 そうこうしているうちに、ガギッ……と嫌な音がして、僕の手元で何かがずれた。
 ハッと確かめる。
 僕が握っているのはナイフを握るところだけ……?

 刃が根元から折れてしまった!

 まずい、と僕が思う。
 それと同時に狼が勢いづく。

「ググ狗ラァァァァァッ!!」

 再度の劣勢。あせる。
 けれど何か手はないかと考える。何とかしなければ……。何とかしなければ!

 するとふと目についたのが、ナイフだった。
 中途半端にヤツの喉に突き刺さっている、あのナイフの刃だ。
 何をやるべきか、僕はとっさに理解した。

「う、おりゃあぁぁぁぁっ!!」

 ガンガンガンッ!
 もっと深く刺されと、ナイフの折れたところを何度も叩く!
 無我夢中で叩く! 
 何回もやっているうちに、ズブ、と入りこんでいく音と、ガギッと何か硬いものを砕く手応えがあった。

 よし、これで——

「グ苦ルルルル褸ロ……アアアアァァァッ……!!」

 しかし狼は最後の力を振り絞るようなとんでもない力で食いついてきて、僕の顔に噛みついてきて——ガクリと首をうなだれ、脱力した。

 そしてその姿のまま、ついに息絶えた。

「ぜぇ……ぜぇ……」

 僕の息も絶え絶えだ。
 けれどなんとかやった。やりとげた……。

 達成感で力が抜けかけたけれど、安堵するのはまだだ。
 ゆるめるとこいつの体重にそのまま押し潰される。
 なんとか押しやらないと。

「せ……。くっ……。この……」

 重い。
 同じ重みでも、生きているときと死んでいるときでは全然違う。
 死体になった今の方が、ずっと重い。
 押そうとしても、力と張りをなくした獣の体が、ぐにゃりとまとわりつくように動き、ピッタリとくっついてくる。

 この「動かない死体のはずなのに動く」というのがめちゃくちゃ気持ち悪い。
 真上に押すのは無理だとわかったので、今度は押しながら横にずらしていくことにした。少しずつ押しやっていく。ヤツの頭が離れた。よし、次は前足。続いて上体を力を振り絞ってグイと押す。

 狼の体半分がドサッと地面にへばりついた。
 まだ僕の足に乗っかっているようだけど、それ以上何かする体力が残っていない。

 ぜい……ぜい……と息をつきながら仰向けに横たわり、青い空を見上げる。
 額あたりも噛まれて出血しているらしく、流れてきた血で視界が赤い。

 いや、妙な色だ。紫——視界は鈍い紫の色。そんな紫の空を、紫黒い鳥が飛んでいく。けれど、もう不思議と痛みを感じない。痛覚がマヒしたのだろうか。

 たぶん僕の体からは血が大量に抜けたのだろう。今も抜けているのだろう。
 さっきから、足裏あたりからじわじわと絶え間なく何かが流れている。これは生命にかかわる何かだ。それが失われていくのがわかる。

 そしてそれとは別に、何かよくないものが僕の体の中に入ってしまったのもわかっていた。
 よくないものが体内の血管の中をめぐり、じわじわと広がっていく。

 たぶん毒だ。毒持ちのモンスターだったのかな……。
 冒険の最初で手合違いの強モンスター、それも有毒のやつに遭遇する確率ってどれくらいなんだろ……。

 最初は……もっと簡単な……一撃で倒せる……チュートリアル的な……。

 そんなことを思いながら僕は死んでいく。

 もうまもなく僕は死ぬだろう。
 最強無双も、うはうはハーレムも、まったりスローライフも、どれ一つ経験することなく、僕の異世界ライフは終わりを告げ——

 そして僕の視界は、紫から黒へと暗転した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...