惑星だった僕が異世界転生して人として生きるときに語ること

来麦さよのすけ

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第6話 牙(1)

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 さて。
 何はともあれ、だ。

 いざ、異世界へ——
 それすなわち最強、そして無双。

 その世界の理に対して規格外の知識・知能・才能・体力・能力・スキルを有し、絶大かつ万能の力をもつ絶対強者。

 ときには美少女たちと仕方なく(?)ハーレムにゃんにゃんし、ときには空から落ちてくる女の子と運命の出会いをはたし、ときには朝起きたらぽよよん、揉み揉み、ん? 手のひらに何か柔らかいものが? っ! あぁぁぁぁ!? というハレンチイベントも頻繁に起こって、それらを楽しみながら自分の好きなように生きていく——

 そう。
 僕が一つの星だったときも、そんなふうな異世界ライフを満喫する転生者や転移者たちがいた時代もあった。そんな姿を見て、ちょっとおもしろそうだなあ、とか内心思っていた。もし自分が異世界に行けたら、あんなことやそんなことをしたいなあ……と、もわんもわんと想像もしていた。

 うん。想像、していた。
 していた……。
 していたはずなのに……。
 なのに今は——

「グルるッ! グゥるるガ牙ァァァァぁぁぁぁアアアァァァァッッッ!!」

 僕の目の前にいるのは、狼のような姿の獰猛なモンスター。
 目の前に広がっているのは、そいつの口。
 そいつの牙、牙、ひたすら牙。
 それらがずらりと鋭利にならぶ。

 赤く肉々しい口の中は、よだれにまみれ。
 獣が叫ぶたびに、欲にまみれたヤツの舌が、「はやく食わせろ」とビリビリ動く。
 獣が叫ぶたびに、びちゃびちゃと、ひどい臭いのよだれが僕の顔に飛び散る。
 喉の奥から放たれるのは、こちらの胸をムカつかせるひどい臭気。
 耐え難い。
 吐き気がこみあがってきて、たまらない。

 まず状況がよくのみこめない。
 けれどとにかく今、僕の命が危険にさらされている、ということは確かだ。
 なんとかしなければ。

 けど体は動かなかった。
 獣に覆いかぶさられて、ヤツの全体重をかけられて、僕はガッシと押さえつけられている。
 鋭い爪がざっくりと僕の肉に食いこんでいる。
 身動きしようものなら肉を裂かれるような痛みがはしる。実際裂けてるんだろうけど……。

 背中の骨にゴツゴツとあたる地面の感触。
 身じろぎすると、突き出た石のカドがあたってすごく痛い。
 体にかかってくるヤツの全体重。
 というか胃だ。おなかを押し潰される圧迫感で内臓が破裂しそうだ。
 肩や首元に前足の爪が食いこんでいて、杭で地面に打ちつけられたみたいだった。

 どうにかならないか?
 そうだ、ここは一発、こういう展開のときによくある魔法とか規格外の腕力とかでエイヤッと……。

 ——あれ? 何もない。何もできない?
 というか、何もないのがわかる。

 魔法? わからない。
 腕力? ふつうに今が精一杯。

 耳元で、ドクッドクッと血が鳴り渡る。
 脇腹あたりからもドク、ドク、ジュク、ジュク……痛みというか、熱い。たぶんかなり深手を負っている。
 そして、足の方でも何かが流れ出しているのが感じられる。

 すると今度はキーン……という耳鳴りがした。
 こめかみ、耳元、あごあたりから、すうっと血の気が引いていく。

 血が足りない?
 体がこきざみに震えてきた。

 寒い。
 まわりの空気の感じからすると、今は寒くはないはず。
 でも寒い。

 そして、足腰にどうにも力が入らない。
 抑えられて動けないから、ではなくて、根本的なところで思うように動いてくれない。やはり足が変だ。足先、もしくは足の裏から……僕の中の何かが……流れていく? 足裏にもケガしているのか? いや、うまくいえないけど、それは物理的な血ではなくて——命そのものが流れていくような……?

 視界を覆うのは獰猛なモンスターの朱肉色。
 その周囲に見えているのは、おだやかな空の青。のんびりと漂う白い雲……。

 ——あれ? これってかなりまずい? このままだと死ぬ?
 異世界に来たばっかりなのに、これから異世界ライフを満喫するはずなのに、ここであっさり僕は死ぬんだろうか?

 でも妙な感じだった。
 僕は「生きたい」と思っている。なんとか生きのびる方法を探したい、と思っている。そして「生きるんだ」とも思っている。
 なんだろうこれは。「生きる」? 不思議とそういう思いが湧きあがってくる。これが、生命が「生きようとすること」なの……かな?

 背中、腰のあたりに、石とは違うゴリッとした異物感があった。
 細長く固いもの。たぶんこれナイフ。いわゆる最低限の装備品ってやつだ。これを使えれば、どうにかなるかもしれない。

 けど今は手がふさがっている。両手の全力でヤツの口を押し返すのが精一杯だ。
 どうすれば——

「ぐるルル褸ルルあ荒らアァァァァァッ!!」

 狼がさらに迫ってきた。
 僕の顔は、もうほとんどヤツの口の中に入らんばかりだった。
 このままだと押し負ける。
 負けたら食われる。
 死ぬ。

「よしっ!」
 僕は決心した。
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