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第31話 反撃
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昨日アストたちがクリファムの村へとたどってきた道。切り立った崖の中腹あたり。うねうねとつづく道を、数人で構成された小集団が歩を進めていた。
「あーあ。ボクらがつくころには何も残ってないんじゃないかなー」
腕に小さな盾をつけた小柄な少女が「お宝……お宝」とつぶやいている。
「しょうがないんじゃない? 小さなところだし。でも意外だったね。ひそかに古代竜の骨を隠匿してて、それを悪事に転用しようとしている悪徳の村。こんなところがあったなんて」
弓持ちの少女が言葉をかえした。面立ちが盾の少女とよく似ている。
「ま、俺たちのメインは都市攻略だからな。ここはついでみたいなもんさ」
槍の穂先だけを手にして、それをクルクルともてあそんでいた細身の男が、気の抜けた様子でつぶやいた。そしてつけくわえて、
「先発隊まで出す必要あったんかね? あんな小っせえところだ。てきとうにワーッて行って、ワーッてやりゃあよかったんじゃね? リーダー?」
「……」
リーダーと呼ばれた、黒い鎧で大剣を背負っている男は沈黙したままだ。
「油断は禁物ですよ? 軽くみていると足元をすくわれるかもしれません」
かわりに大剣男のすぐそばを歩いている女性がこたえた。僧侶のローブに身を包んでいる。
「そうはいってもなー……」
と盾持ちの少女はなおも不満顔。
「正直いうと、私もちょっと、うずうず……」
弓持ちの少女もやや不満顔。
「ま、久々だしな。腕がなるってもんよ」
槍男も血気盛んな表情をみせていた。
「みなさん、落ち着いて……」
僧侶がなだめていたが——
「あら? 反応が……ロスト?」
「どうしたの?」
盾持ちの問いに、僧侶が答える。
「門にむかった二人が……。んー?」
「索敵」
大剣持ちの指示に、僧侶が目を閉じた。
「ッ! 一体接近! これは……谷を……移動!?」
「どういうこと? ここすっごい高さだよ? 飛んできてるってこと?」
と前に出た弓持ちが谷底をのぞきこみながら、
「何も見えないけど……」
とつぶやいていると、
「戦闘陣形。前方展開」
「「「了解」」」
大剣持ちの指示の声に、他のメンバーが陣形を整えようとした刹那——
崖下からふわっと浮きあがるように人影があらわれ、彼らの道を塞いだ。
女獣人である。
そして彼女は間髪入れず、集団にむかって突き進んでいく。
まず狙いをつけたのは、いちばん手近にいた弓持ちだ。
「な!? こいつ!」
弓持ちは不意をつかれ、矢をつがえるひまもない。
一瞬で間合いをつめた獣人の強烈な拳が炸裂——
ガギィッ! と鈍い音が響いた。
盾持ちの少女があいだに入り、獣人の攻撃を防いでいる。だが、
「げっ。こわれた!?」
盾が粉々にはじける。
続いて獣人の二の拳。
「やばっ!?」
青ざめる盾持ちの顔に獣人の一撃が——
「なろーッ! せいッ」
瞬間、滑りこんだ槍持ちが低い姿勢から、その長い槍で一気に切りあげてきた。
槍の切っ先が獣人のあごを削ぎ切ろうかというギリギリのところで、獣人は身をひるがえして後方に跳躍。一度距離をとり、間合いをはかる。
そして獣人が態勢をととのえたとき、集団側も陣形を整備し終えていた。
しばしの睨みあい。
「お嬢、大丈夫か?」
槍持ちの問いかけに、
「サンキュ、助かった。……けど何こいつ? ボクの盾を一発で壊すなんて」
盾持ちはこたえながら、腕に魔力をこめる。すると、構える彼女の腕に第二の盾があらわれた。一見してさきほどの盾よりも質が高いとわかる。
獣人は鋭い目つきで攻めどころを探っているが、相手は戦闘に慣れた手練の様子、なかなかスキを見せない。
一度両者の動きが止まった。
◇
しばらく、じり……とした時間がすぎていった。
お互いがお互いを、じっ……と観察する。相手の呼吸、気迫、身構え、視線の動き——その一挙手一投足を情報源に、相手の力量を割り出していく。
その時間は、実際にはほんの数秒程度のものだったが、その場にいるものにとっては、ずいぶんと長く感じられた。
永遠にも思える、刹那の時間。
その圧縮された密度の高い時間の中で、獣人リーシアは集団の構成を分析していた。
(盾、弓、槍、僧侶。……おそらくあの大剣持ちがリーダー格とみました。ならば、頭を最優先で潰す!)
「……オートヒール」
「はい。〈オートヒール〉!」
大剣持ちの指示に、僧侶がパーティ全体に自動回復をかけた。
——ジャリッ!
リーシアの足裏で砂利が砕ける。足を踏みしめ、気迫に満ち、もう一度攻め込む気配がありありとしている。
そして彼女の足が大地を蹴ったところで、
「よっしゃ、いつもどおりいくよ!」
前に出ていた盾持ちが構え、ポーズをとって、
「はい、〈目線くださーい〉!」
するとリーシアの注意が否応にも盾持ちに惹きつけられていく。
(これは……意識を操作された!?)
同時に周囲への注意が散漫になった。見えてはいるのだが、視界の外側がぼやけた感じになる。
彼女が見ているのは、盾持ちだけ。
いや、盾持ちの持っている盾だけ。
それだけ見えて、ほかには何も見えない。
「よし、きいてる! きかないヤバいヤツじゃなくてよかった!」
「いくよ! 〈我が矢よ、雨と降りそそげ〉!」
弓持ちが矢を一本、空にむけて放った。それは見る間に幾本の矢になり、雨となってリーシアに降りそそぐ。
……ガリッ!
すると肉を噛み切る音がした。
「あーあ。ボクらがつくころには何も残ってないんじゃないかなー」
腕に小さな盾をつけた小柄な少女が「お宝……お宝」とつぶやいている。
「しょうがないんじゃない? 小さなところだし。でも意外だったね。ひそかに古代竜の骨を隠匿してて、それを悪事に転用しようとしている悪徳の村。こんなところがあったなんて」
弓持ちの少女が言葉をかえした。面立ちが盾の少女とよく似ている。
「ま、俺たちのメインは都市攻略だからな。ここはついでみたいなもんさ」
槍の穂先だけを手にして、それをクルクルともてあそんでいた細身の男が、気の抜けた様子でつぶやいた。そしてつけくわえて、
「先発隊まで出す必要あったんかね? あんな小っせえところだ。てきとうにワーッて行って、ワーッてやりゃあよかったんじゃね? リーダー?」
「……」
リーダーと呼ばれた、黒い鎧で大剣を背負っている男は沈黙したままだ。
「油断は禁物ですよ? 軽くみていると足元をすくわれるかもしれません」
かわりに大剣男のすぐそばを歩いている女性がこたえた。僧侶のローブに身を包んでいる。
「そうはいってもなー……」
と盾持ちの少女はなおも不満顔。
「正直いうと、私もちょっと、うずうず……」
弓持ちの少女もやや不満顔。
「ま、久々だしな。腕がなるってもんよ」
槍男も血気盛んな表情をみせていた。
「みなさん、落ち着いて……」
僧侶がなだめていたが——
「あら? 反応が……ロスト?」
「どうしたの?」
盾持ちの問いに、僧侶が答える。
「門にむかった二人が……。んー?」
「索敵」
大剣持ちの指示に、僧侶が目を閉じた。
「ッ! 一体接近! これは……谷を……移動!?」
「どういうこと? ここすっごい高さだよ? 飛んできてるってこと?」
と前に出た弓持ちが谷底をのぞきこみながら、
「何も見えないけど……」
とつぶやいていると、
「戦闘陣形。前方展開」
「「「了解」」」
大剣持ちの指示の声に、他のメンバーが陣形を整えようとした刹那——
崖下からふわっと浮きあがるように人影があらわれ、彼らの道を塞いだ。
女獣人である。
そして彼女は間髪入れず、集団にむかって突き進んでいく。
まず狙いをつけたのは、いちばん手近にいた弓持ちだ。
「な!? こいつ!」
弓持ちは不意をつかれ、矢をつがえるひまもない。
一瞬で間合いをつめた獣人の強烈な拳が炸裂——
ガギィッ! と鈍い音が響いた。
盾持ちの少女があいだに入り、獣人の攻撃を防いでいる。だが、
「げっ。こわれた!?」
盾が粉々にはじける。
続いて獣人の二の拳。
「やばっ!?」
青ざめる盾持ちの顔に獣人の一撃が——
「なろーッ! せいッ」
瞬間、滑りこんだ槍持ちが低い姿勢から、その長い槍で一気に切りあげてきた。
槍の切っ先が獣人のあごを削ぎ切ろうかというギリギリのところで、獣人は身をひるがえして後方に跳躍。一度距離をとり、間合いをはかる。
そして獣人が態勢をととのえたとき、集団側も陣形を整備し終えていた。
しばしの睨みあい。
「お嬢、大丈夫か?」
槍持ちの問いかけに、
「サンキュ、助かった。……けど何こいつ? ボクの盾を一発で壊すなんて」
盾持ちはこたえながら、腕に魔力をこめる。すると、構える彼女の腕に第二の盾があらわれた。一見してさきほどの盾よりも質が高いとわかる。
獣人は鋭い目つきで攻めどころを探っているが、相手は戦闘に慣れた手練の様子、なかなかスキを見せない。
一度両者の動きが止まった。
◇
しばらく、じり……とした時間がすぎていった。
お互いがお互いを、じっ……と観察する。相手の呼吸、気迫、身構え、視線の動き——その一挙手一投足を情報源に、相手の力量を割り出していく。
その時間は、実際にはほんの数秒程度のものだったが、その場にいるものにとっては、ずいぶんと長く感じられた。
永遠にも思える、刹那の時間。
その圧縮された密度の高い時間の中で、獣人リーシアは集団の構成を分析していた。
(盾、弓、槍、僧侶。……おそらくあの大剣持ちがリーダー格とみました。ならば、頭を最優先で潰す!)
「……オートヒール」
「はい。〈オートヒール〉!」
大剣持ちの指示に、僧侶がパーティ全体に自動回復をかけた。
——ジャリッ!
リーシアの足裏で砂利が砕ける。足を踏みしめ、気迫に満ち、もう一度攻め込む気配がありありとしている。
そして彼女の足が大地を蹴ったところで、
「よっしゃ、いつもどおりいくよ!」
前に出ていた盾持ちが構え、ポーズをとって、
「はい、〈目線くださーい〉!」
するとリーシアの注意が否応にも盾持ちに惹きつけられていく。
(これは……意識を操作された!?)
同時に周囲への注意が散漫になった。見えてはいるのだが、視界の外側がぼやけた感じになる。
彼女が見ているのは、盾持ちだけ。
いや、盾持ちの持っている盾だけ。
それだけ見えて、ほかには何も見えない。
「よし、きいてる! きかないヤバいヤツじゃなくてよかった!」
「いくよ! 〈我が矢よ、雨と降りそそげ〉!」
弓持ちが矢を一本、空にむけて放った。それは見る間に幾本の矢になり、雨となってリーシアに降りそそぐ。
……ガリッ!
すると肉を噛み切る音がした。
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