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第30話 対峙
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——村の入口。
「けっ。しょぼいなあ」
戦斧をもった大男が、いかにもあてが外れて残念、という声をあげた。指先につまんでいるのは、先だって手のひらに移動してきた小さな結晶だ。
「まあ、こんな小さな村じゃ、しょうがありませんわね」
杖をもった小柄な魔法使いの女が応じる。ときおり杖の先から生まれた炎が空に放たれ、放物線を描いて落下していく。だが、特定の村人や家を狙うというよりも、気まぐれに打っている雰囲気だ。
「わりにあわねえしな。もっと奥にいきゃあ手応えのあるのがいるんかね」
「そうですわね。でも油断は禁物——ほら、目の前」
魔法使いがちょいと杖の先で指し示す。
「あん?」
斧男が見やると、近づいてくる人影が一つ。
獣人の女が一人、ゆっくりとした足どりでこちらにむかってくる。
「へえ……」
斧男がニヤリと笑った。
「少しは骨がありそうじゃねえか」
「んー……でも不可解ですわ? どうしてこんなところに獣人族が?」
魔法使いはやや不審げだが、斧男は意に介しない様子だ。
「じゃあ、一つお手あわせ願いますかねっと」
「サポートいるかしら?」
魔法使いの杖先が獣人に向かうが、
「へっ、いらねえよ。俺たちを前にして堂々としてるだけでもたいしたもんだ」
◇
リーシアは目前の二人を注視しつつ、周囲にも警戒の気を張っていた。陰から伏兵に狙われる可能性も考慮していたわけだが——
(認めず……。ならば、まずはこの二人に集中……ですね)
歩を進めながら、小さく唇を動かす。
ここで、リーシアの身体の一部に変化があらわれていた。
特に目につくのは——尻尾。まるで急に生えてきたかのように、銀毛のふさふさした見事な尻尾がゆらゆらと動いている。
そして、手にも変化があった。
今まではすらりとした人の手だったが、もこもこの銀毛に覆われ、するどい爪と肉球を有するようになっている。
つまり獣人的な姿が、より強く表出していた。
リーシアは小さな詠唱をいくつも重ねながら、徐々に襲撃者たちに近づいていく。
そして両者が対峙した。
小柄な獣人と戦斧の男。お互いがお互いを正確に認識していた。倒すべき敵として。
大男が、ザッと土埃を払うようにしてリーシアの目の前に立ちふさがった。
「さて、ちったぁ楽しませてくれよっ——と!」
斧の柄をクッと握りをなおすと、ゆっくりと腕を引き、足を広げ、攻撃体勢に入る。
口調は軽いが、まなじりは気迫に満ち、腕や足には力が満ち満ちて、油断はまったくない。
先ほどの門扉破壊、門番殴殺の状況をみれば、この斧男がそれをやったのは明らかだった。
しかしリーシアは臆する様子もみせず、さらにたんたんと歩を進めてきた。
彼女の平然とした態度に斧男はわずかに驚きの表情をみせたが、すぐに不敵な笑みをたたえ、構え、待ち受ける。
そしてリーシアの足が斧男の間合いに入った刹那、
「フンヌッ!!」
ゴォッ! という風切り音とともに、豪腕にまかせた巨戦斧が振り下ろされた。
それは一直線にリーシアに直撃し——
「なッ!?」
「まさか、ありえないですわ!?」
斧男と魔法使いから、あっけにとられた声が上がった。
そう。
ありえないことが起こっていた。
リーシアは、繰り出された重攻撃を片手の拳一つで受け止めていた。いや、受け止めるというよりも、規格外の巨斧と、少女の小さな拳が、その接触地点で拮抗している。
「なんだこいつ!? 高位の防御魔法か?」
「素手で? そんなことは……」
襲撃者たちがとまどった声を上げるうちに、リーシアは拳を開き、指の背で刃先を弾く。
すると戦斧は、いともたやすく弾かれてしまった。反動で斧男の懐がガラ空きになる。
「だめッ、離れて——」
魔法使いの声が終わる前に、一閃がひらめいた。
リーシアの拳が、斧男の腹部を直撃。
「ぐ、アァァァァァァッッ!?」
またたく間に斧男の身体がもやに包まれ、風に煙がゆらいだようにぐにゃりと揺れて、小さな粒となり、失せるようにその体が消えてしまった。
あとには小さな結晶が転がって——この時点で、もうすでにリーシアは次の動作に移行している。
次の標的は魔法使いの女。
「……くっ、この!」
距離をとろうと魔法使いが背後に跳躍。杖を構えながら、
「〈魔防壁〉!」
するとリーシアの足がしなやかに大地を蹴った。
まるで空間を切り取ったかのように一瞬で間合いがつまり、リーシアの一撃が魔法使いの防御魔法を破りさる。
そのまま拳は魔法使いの左胸を直撃。
「な……そんな、こと——」
堅固なはずの魔法の盾を薄氷のように簡単に破られ、魔法使いは愕然とした表情になった。
「こんな、ところで……。こんな、ことが……。ありえない——」
弱々しい言葉が空中に霧散していく。
そして魔法使いの存在していたところには、人の痕跡などもう何も残っていなかった。
かわりにやはり、小さな結晶が転がっているだけ。
「……」
リーシアが手をさしだすと、結晶が浮き上がり、手元に移動してきた。
手のひらにある結晶二つ。それは斧男と魔法使いだったもので、先ほど事切れた門番から出てきた結晶ではない。
「こんなもの……っ」
結晶を握りしめたまま、腕を振りあげた。叩きつけようというのだろうか。しかし彼女はそのままの姿勢で止まってしまった。そしてゆっくりと手を戻すと、結晶を腰のポーチにしまう。
前方を見る。
無残に破壊された門の跡がある。
後方を見やる。
通りのあちこちに散らばる、木切れ、布切れ、鉢植え、帽子、靴の片方、いろいろな生活雑貨。
村人たちが逃げる途中に落としたり、あわててぶつかったりして転がったものだろう。
壊された屋根の破片。
折れた軒柱。
割れた板。
瓦礫。
ところどころで煙が上がっている。
周囲に人影はなかった。
「二人とも……村のみなさんも、どうかご無事で」
小さくつぶやくと、リーシアは前方に向き直った。
いまだ土煙の舞う村の出入り口へと歩いていく。
静かに。
だが決然と。
そして彼女の姿は、土埃の中に消えていった。
「けっ。しょぼいなあ」
戦斧をもった大男が、いかにもあてが外れて残念、という声をあげた。指先につまんでいるのは、先だって手のひらに移動してきた小さな結晶だ。
「まあ、こんな小さな村じゃ、しょうがありませんわね」
杖をもった小柄な魔法使いの女が応じる。ときおり杖の先から生まれた炎が空に放たれ、放物線を描いて落下していく。だが、特定の村人や家を狙うというよりも、気まぐれに打っている雰囲気だ。
「わりにあわねえしな。もっと奥にいきゃあ手応えのあるのがいるんかね」
「そうですわね。でも油断は禁物——ほら、目の前」
魔法使いがちょいと杖の先で指し示す。
「あん?」
斧男が見やると、近づいてくる人影が一つ。
獣人の女が一人、ゆっくりとした足どりでこちらにむかってくる。
「へえ……」
斧男がニヤリと笑った。
「少しは骨がありそうじゃねえか」
「んー……でも不可解ですわ? どうしてこんなところに獣人族が?」
魔法使いはやや不審げだが、斧男は意に介しない様子だ。
「じゃあ、一つお手あわせ願いますかねっと」
「サポートいるかしら?」
魔法使いの杖先が獣人に向かうが、
「へっ、いらねえよ。俺たちを前にして堂々としてるだけでもたいしたもんだ」
◇
リーシアは目前の二人を注視しつつ、周囲にも警戒の気を張っていた。陰から伏兵に狙われる可能性も考慮していたわけだが——
(認めず……。ならば、まずはこの二人に集中……ですね)
歩を進めながら、小さく唇を動かす。
ここで、リーシアの身体の一部に変化があらわれていた。
特に目につくのは——尻尾。まるで急に生えてきたかのように、銀毛のふさふさした見事な尻尾がゆらゆらと動いている。
そして、手にも変化があった。
今まではすらりとした人の手だったが、もこもこの銀毛に覆われ、するどい爪と肉球を有するようになっている。
つまり獣人的な姿が、より強く表出していた。
リーシアは小さな詠唱をいくつも重ねながら、徐々に襲撃者たちに近づいていく。
そして両者が対峙した。
小柄な獣人と戦斧の男。お互いがお互いを正確に認識していた。倒すべき敵として。
大男が、ザッと土埃を払うようにしてリーシアの目の前に立ちふさがった。
「さて、ちったぁ楽しませてくれよっ——と!」
斧の柄をクッと握りをなおすと、ゆっくりと腕を引き、足を広げ、攻撃体勢に入る。
口調は軽いが、まなじりは気迫に満ち、腕や足には力が満ち満ちて、油断はまったくない。
先ほどの門扉破壊、門番殴殺の状況をみれば、この斧男がそれをやったのは明らかだった。
しかしリーシアは臆する様子もみせず、さらにたんたんと歩を進めてきた。
彼女の平然とした態度に斧男はわずかに驚きの表情をみせたが、すぐに不敵な笑みをたたえ、構え、待ち受ける。
そしてリーシアの足が斧男の間合いに入った刹那、
「フンヌッ!!」
ゴォッ! という風切り音とともに、豪腕にまかせた巨戦斧が振り下ろされた。
それは一直線にリーシアに直撃し——
「なッ!?」
「まさか、ありえないですわ!?」
斧男と魔法使いから、あっけにとられた声が上がった。
そう。
ありえないことが起こっていた。
リーシアは、繰り出された重攻撃を片手の拳一つで受け止めていた。いや、受け止めるというよりも、規格外の巨斧と、少女の小さな拳が、その接触地点で拮抗している。
「なんだこいつ!? 高位の防御魔法か?」
「素手で? そんなことは……」
襲撃者たちがとまどった声を上げるうちに、リーシアは拳を開き、指の背で刃先を弾く。
すると戦斧は、いともたやすく弾かれてしまった。反動で斧男の懐がガラ空きになる。
「だめッ、離れて——」
魔法使いの声が終わる前に、一閃がひらめいた。
リーシアの拳が、斧男の腹部を直撃。
「ぐ、アァァァァァァッッ!?」
またたく間に斧男の身体がもやに包まれ、風に煙がゆらいだようにぐにゃりと揺れて、小さな粒となり、失せるようにその体が消えてしまった。
あとには小さな結晶が転がって——この時点で、もうすでにリーシアは次の動作に移行している。
次の標的は魔法使いの女。
「……くっ、この!」
距離をとろうと魔法使いが背後に跳躍。杖を構えながら、
「〈魔防壁〉!」
するとリーシアの足がしなやかに大地を蹴った。
まるで空間を切り取ったかのように一瞬で間合いがつまり、リーシアの一撃が魔法使いの防御魔法を破りさる。
そのまま拳は魔法使いの左胸を直撃。
「な……そんな、こと——」
堅固なはずの魔法の盾を薄氷のように簡単に破られ、魔法使いは愕然とした表情になった。
「こんな、ところで……。こんな、ことが……。ありえない——」
弱々しい言葉が空中に霧散していく。
そして魔法使いの存在していたところには、人の痕跡などもう何も残っていなかった。
かわりにやはり、小さな結晶が転がっているだけ。
「……」
リーシアが手をさしだすと、結晶が浮き上がり、手元に移動してきた。
手のひらにある結晶二つ。それは斧男と魔法使いだったもので、先ほど事切れた門番から出てきた結晶ではない。
「こんなもの……っ」
結晶を握りしめたまま、腕を振りあげた。叩きつけようというのだろうか。しかし彼女はそのままの姿勢で止まってしまった。そしてゆっくりと手を戻すと、結晶を腰のポーチにしまう。
前方を見る。
無残に破壊された門の跡がある。
後方を見やる。
通りのあちこちに散らばる、木切れ、布切れ、鉢植え、帽子、靴の片方、いろいろな生活雑貨。
村人たちが逃げる途中に落としたり、あわててぶつかったりして転がったものだろう。
壊された屋根の破片。
折れた軒柱。
割れた板。
瓦礫。
ところどころで煙が上がっている。
周囲に人影はなかった。
「二人とも……村のみなさんも、どうかご無事で」
小さくつぶやくと、リーシアは前方に向き直った。
いまだ土煙の舞う村の出入り口へと歩いていく。
静かに。
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