惑星だった僕が異世界転生して人として生きるときに語ること

来麦さよのすけ

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第32話 戦闘

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 ——ガリリッ!

 リーシアは自らの唇を噛み、その痛みで自我を取り戻した。

「ラアァァァァァッ!」
 叫ぶ。身体に力をこめ、気迫を噴きあげる。それによって、盾持ちの発動したスキルの呪縛を完全に跳ね飛ばした。

 雨矢の着弾間際に横跳びに回避。
 余勢をかって速度をあげる。
 狭い道幅ながら曲線的にまわりこむ。
 スペースを最大限に活用して、集団の横腹から攻勢をしかける算段だ。

「げっ、マジかよっ」
 と盾持ちはあきれた声をあげているが、すぐに次の対策を講じた。
「〈防盾複製マルチシールド〉!」

 リーシアの目前にいくつもの魔力盾が生成された。
 だがそれらを彼女の拳は次々と砕き、蹴り破って進む。

「〈直線弓撃射抜け〉!」
 弓の連続攻撃も、あるものはかわし、あるものは拳で叩き落とす。

「なんなのこいつ!? ありえない!」
 弓持ちが困惑した声をあげた。自身の弓矢を素手であしらわれるなど、初めての経験だ。

 リーシアはパーティの頭とみなした大剣持ちに照準をあわせていた。それをめがけ——

「そらッ、せいッ」
 しかしその視界の外から槍男が襲いかかってきた。すばやい槍先が空を切り裂く。
 が、リーシアは切っ先をかわして槍男のふところに飛びこんだ。入りこんでしまえば彼女が優位に——

「おおっと、なッ」
 すると槍が自ら折れ、わかれた。
 そこには二槍が生まれている。
 回避不能の速度で、今度は二つの鋭鋒が左右から迫る。

「ハァァアアアアアッ!」
 叫びとともに、リーシアの迷いのない強拳が槍を上回る速度で繰り出された。

「ッ!? ガハァ!」
 一瞬で槍男の胸が砕かれた。
 衝撃で背後に吹きとばされ、そのまま崖の壁面に叩きつけられる。

 本来ならば確実に致命傷。

「や、やべぇ……。あぶなかった」
 しかし槍男はかろうじて生きていた。肝を冷やしつつも、ホッとしたような声をあげている。事前のオートヒールによる連続自動小回復が、彼をこの場に踏みとどまらせたのだ。

(けれどしばらくは戦闘不能のはず……今ならっ)

 リーシアは集団の連携が乱れているうちに追撃をかけようとしたが……。

 ——ザンッ。

 黒い鎧で全身を固めた大剣持ちが前に出てきたのを見て、気を引き締めなおした。
 
「そういえばこの地域に獣人族……? 村の用心棒とかでしょうか? それにしては妙な気が……」
 と僧侶が後方でつぶやいている。

「戦い方もありえないよ。なんで手がつぶれてないの!? いくら拳闘士ストライカーだとしても、こんな簡単に盾壊したり、矢を弾いたりとかできるはずない!」
 盾持ちも同意の表情だ。

「もう一撃……」
 弓持ちが矢をつがえるが、大剣持ちが制した。

「俺がやる。みなは散開」
「「「了解」」」

 大剣持ち以外が距離をとった。見ようによっては囲まれたともとれる。

「こんなところでこれほどの強敵とは。名のある戦士と見たが、いかに?」
「……」
 大剣持ちが問いかけたが、リーシアは答えない。黙ったまま攻撃の体勢に入る。

「まあ、そうだろうな」
 男も大剣を構えた。ゆっくりと、剣が上がっていく。
 まるで空が持ち上がっていくかのような力強さだ。
 片手持ちの上段である。

(あの重量を片手で? しかも胴をガラ空きにして——スキをつくっている?)

 罠か、とリーシアは考えた。飛びこんだところをねらわれて動きをとめられ、全員から集中攻撃を受ける可能性もある。

 周囲をうかがう。
 だがまわりの者たちは手を出す気配はない。

(なら、あれは一人で勝てる自信と確信があるということ……)

 しばらく膠着こうちゃく状態が続いた。

 じり……、じり……。
 二人は徐々に間合いをつめていく。

 一歩一歩近づくたびに、ヒリヒリとした緊張感がいや増していく。

 じり、じりと、緊張の頂点に向かって。

 通常、攻撃とはストレスだ。
 危険をおかすことへの迷い、ためらい。
 切迫。
 恐怖。
 行動をにぶらせる心理的障壁の膜が、内心をいくつも覆っている。
 そんな薄いベールのかせを、間合いのあいだに一枚一枚剥ぎ取っていく。

 一枚取りのぞくごとに、視界がクリアになっていく。
 はっきりと、相手が見えてくる。
 ギリギリまで近づいて、タイミングをはかる。

 そしてこれが最後、というのがはっきりと感ぜられ——ほら見える。たたくべき敵の急所はすぐそこ! 目の前だ!

 ——ザッ。

 砂利の音。

 対峙した二人が同時に動いた。
 リーシアは拳を最速で前に繰り出し、大剣持ちは上から下へと振り下ろす。

 ところが男の剣は奇妙な動きをしていた。
 遅いのである。
 のろいのである。
 まっすぐ振り下ろされるのでもなく、ぐにゃぐにゃと曲がって見える。
 蛇行して。
 蛇がうごめくように。力なく。ゆるやかに。そして、なめらかに。
 だが——

(かわせない!?)

 リーシアには、なぜかそれがはっきりとわかった。この攻撃は

「ぐっ!」

 方針転換である。リーシアは超速で突き出していた拳を、頭上に向け直した。

 ——ガッ!!

 拳と大剣が交わった。

「〈踏みつけ、つぶす。おまえは蟻だ〉」

 男の詠唱によって強烈な下降圧力が起こった。
 体を、骨を、つぶすような圧力がリーシアに襲いかかる。
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