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第33話 決着
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——ドンッ!
下方向への猛烈な圧力。
二人を中心点に、衝撃波が広がった。
「ぐ……、うぅぅぅぅ……っ!」
リーシアの足元の地面が衝撃に耐えきれず、砕け、へこむ。
そのまま彼女は押しつぶされそうになった。
先だっての斧男との衝突のときとはまるで比較にならない。
まるで、自分のような小さな存在など大きな存在にとっては取るに足りず、なすすべもなくぺしゃんこにされるイメージが浮かんでしまう。
(けれど……。けれど今なら! 今のわたくしならば! 撃てる!)
リーシアのもう一方の拳が光に輝く。
誰がみても明らかな、巨大魔法が編まれていることのわかる、強靭な光。
「げっ」
「まずいぜ……」
「防御して……」
「ハイ・ヒール……」
周囲の面々が行動に移ろうとしたが、もう遅かった。
「ラアァァァァァァァアアアアアアァァァァッッ!!」
気迫に満ち満ちて、リーシアが咆吼した。
叫びとともに拳から強烈な光の矢刃が放たれる。
「〈極大耀聖雷神箭〉!!」
周囲一帯が一度、白色に染まった。
あまりのまぶしさに、誰も目を開けていられない。
攻撃の衝撃で後方の崖の一部がとばされ、谷底に崩れ落ちていく。
周囲は、もうもうと土ぼこりが舞い、今度は視界が悪くなった。
「どうなった?」
「リーダーは?」
「無事?」
パーティのメンバーが口々に言いあいながら、衝撃の中心点、二人がいるはずの場所をうかがう。そこには——
「なっ!?」
「まさか……」
「なんてこと……」
大剣持ちは立っていた。
しかし胴の横を穿たれて。
否、胴の横という表現では、あまりに不正確すぎた。
大剣持ちの胴体には大穴があき、腹部はいうにおよばず、腰の大半、胸部の大部分を失い、肩腕などほとんど皮一枚でつながっているありさま。
その穴を通して、道や崖などの向こうの風景が容易に確認できるほどだ。
「……」
リーシアは無言で大剣持ちを見ている。
通常ならば、これで彼女の勝ち。
通常ならば、これで大剣持ちは消失する。
ところがここで通常でない、奇妙な現象が起こった。
胴を穿たれた大剣持ちの体がぐにゃりとゆがみ、身体の中心部にむかって、しゅるしゅると収束していく。
同時にガチャン、と大剣が地面に落ちる。
そしてそれを拾う人影。
それは、鎧の装備をといた大剣持ちだった。
体はどこも傷ついておらず、もちろん大穴もあいていない。標準的なよくある防具を身につけている、冒険者ふうの姿。ただし、体格は先程よりひと回り小さくなっていた。
男は、ひょいと大剣を持ち上げて無造作に肩の上に置くと、リーシアを眺めた。いくぶん呆れたような顔。今まででいちばん表情が出ている。
「まさか鎧を壊されるとは……」
「……」
リーシアは応じず、目をすえ、構えをくずさない。
「やはり名のある戦士とみた。名を聞いておこうか?」
「……」
問いかけにリーシアは答えない。
「まあ、そうだろうな」
男がため息をついていると——
「報告! 先鋒、全員がロストです!」
僧侶が伝達する。
「全員!?」
「まさか……」
「まじかよ……」
他の面々が動揺した様子をみせはじめていた。
大剣の男は、リーシアを見たまま、じっとしていたが、
「——引き潮。撤退する」
「ええー……」
「まさか……」
「まじかよ……」
「まあ、この損害ですものね」
メンバーは様々な反応をみせた。状況的に戦闘は終わりの雰囲気だ。しかしリーシアだけがまだ緊張をといていない。
その様子を眺めながら、男が鷹揚に問いかけた。
「今の光魔法……ヘルブラストか。ならば聖属性で僧侶や聖職者のクラス——そのうえ拳闘士となればマスターモンク、それも相当高位の——もしかしたら聖人クラスかもしれんが、どうだ?」
「……」
「と仮定すれば、その拳での戦い方にも一応の説明がつく。回復と打撃、両方を同時使用しているな? こちらの武器と打ちあっているというよりは、本来ならば傷つくはずの手を瞬時に回復し、豊富な魔力で押し返す。その結果、見た目には攻撃と拮抗しているように見えるのだろう」
「……」
やはりリーシアは返答しない。
「まじか……」
「まさか……」
「ありえない……」
他の面々はあぜんとしていた。
「では強き獣人よ、またどこかで相まみえようぞ」
「ボクは会いたくないけどね」
「同感……」
「あー、あの槍、高かったのによぉ……」
「しかし……妙ですね。村には別の誰かがいると?」
軽口をたたくようなやりとりをかわしながら、襲撃者たちのパーティは霧のようにかき消えていった。
——戦闘は終わった。
くずれた崖、ひびわれた崖壁、陥没した道、転がる大小の石。
あちこちに激しい戦いのあとがある。
そこに立っているのは、リーシアただ一人だ。
リーシアは生きるか死ぬかの戦いを挑んでいた。
けれど彼らはそうではない。彼らは生死に関する認識がおそろしく軽い。そして、いつもいきなりやってきて、いきなり消えていく。
とまれ、戦いは終わった。終わったのだ。
ここでようやくリーシアの緊張がとけた。
「はぁぁぁ~っ……」
深いため息が、体の底から長く長く流れ出ていく。
「こちらはなんとか切りぬけました。死ぬかと思いましたけど……。あとは——」
村の方をかえりみる。
「みなさん、どうか無事でいて……」
下方向への猛烈な圧力。
二人を中心点に、衝撃波が広がった。
「ぐ……、うぅぅぅぅ……っ!」
リーシアの足元の地面が衝撃に耐えきれず、砕け、へこむ。
そのまま彼女は押しつぶされそうになった。
先だっての斧男との衝突のときとはまるで比較にならない。
まるで、自分のような小さな存在など大きな存在にとっては取るに足りず、なすすべもなくぺしゃんこにされるイメージが浮かんでしまう。
(けれど……。けれど今なら! 今のわたくしならば! 撃てる!)
リーシアのもう一方の拳が光に輝く。
誰がみても明らかな、巨大魔法が編まれていることのわかる、強靭な光。
「げっ」
「まずいぜ……」
「防御して……」
「ハイ・ヒール……」
周囲の面々が行動に移ろうとしたが、もう遅かった。
「ラアァァァァァァァアアアアアアァァァァッッ!!」
気迫に満ち満ちて、リーシアが咆吼した。
叫びとともに拳から強烈な光の矢刃が放たれる。
「〈極大耀聖雷神箭〉!!」
周囲一帯が一度、白色に染まった。
あまりのまぶしさに、誰も目を開けていられない。
攻撃の衝撃で後方の崖の一部がとばされ、谷底に崩れ落ちていく。
周囲は、もうもうと土ぼこりが舞い、今度は視界が悪くなった。
「どうなった?」
「リーダーは?」
「無事?」
パーティのメンバーが口々に言いあいながら、衝撃の中心点、二人がいるはずの場所をうかがう。そこには——
「なっ!?」
「まさか……」
「なんてこと……」
大剣持ちは立っていた。
しかし胴の横を穿たれて。
否、胴の横という表現では、あまりに不正確すぎた。
大剣持ちの胴体には大穴があき、腹部はいうにおよばず、腰の大半、胸部の大部分を失い、肩腕などほとんど皮一枚でつながっているありさま。
その穴を通して、道や崖などの向こうの風景が容易に確認できるほどだ。
「……」
リーシアは無言で大剣持ちを見ている。
通常ならば、これで彼女の勝ち。
通常ならば、これで大剣持ちは消失する。
ところがここで通常でない、奇妙な現象が起こった。
胴を穿たれた大剣持ちの体がぐにゃりとゆがみ、身体の中心部にむかって、しゅるしゅると収束していく。
同時にガチャン、と大剣が地面に落ちる。
そしてそれを拾う人影。
それは、鎧の装備をといた大剣持ちだった。
体はどこも傷ついておらず、もちろん大穴もあいていない。標準的なよくある防具を身につけている、冒険者ふうの姿。ただし、体格は先程よりひと回り小さくなっていた。
男は、ひょいと大剣を持ち上げて無造作に肩の上に置くと、リーシアを眺めた。いくぶん呆れたような顔。今まででいちばん表情が出ている。
「まさか鎧を壊されるとは……」
「……」
リーシアは応じず、目をすえ、構えをくずさない。
「やはり名のある戦士とみた。名を聞いておこうか?」
「……」
問いかけにリーシアは答えない。
「まあ、そうだろうな」
男がため息をついていると——
「報告! 先鋒、全員がロストです!」
僧侶が伝達する。
「全員!?」
「まさか……」
「まじかよ……」
他の面々が動揺した様子をみせはじめていた。
大剣の男は、リーシアを見たまま、じっとしていたが、
「——引き潮。撤退する」
「ええー……」
「まさか……」
「まじかよ……」
「まあ、この損害ですものね」
メンバーは様々な反応をみせた。状況的に戦闘は終わりの雰囲気だ。しかしリーシアだけがまだ緊張をといていない。
その様子を眺めながら、男が鷹揚に問いかけた。
「今の光魔法……ヘルブラストか。ならば聖属性で僧侶や聖職者のクラス——そのうえ拳闘士となればマスターモンク、それも相当高位の——もしかしたら聖人クラスかもしれんが、どうだ?」
「……」
「と仮定すれば、その拳での戦い方にも一応の説明がつく。回復と打撃、両方を同時使用しているな? こちらの武器と打ちあっているというよりは、本来ならば傷つくはずの手を瞬時に回復し、豊富な魔力で押し返す。その結果、見た目には攻撃と拮抗しているように見えるのだろう」
「……」
やはりリーシアは返答しない。
「まじか……」
「まさか……」
「ありえない……」
他の面々はあぜんとしていた。
「では強き獣人よ、またどこかで相まみえようぞ」
「ボクは会いたくないけどね」
「同感……」
「あー、あの槍、高かったのによぉ……」
「しかし……妙ですね。村には別の誰かがいると?」
軽口をたたくようなやりとりをかわしながら、襲撃者たちのパーティは霧のようにかき消えていった。
——戦闘は終わった。
くずれた崖、ひびわれた崖壁、陥没した道、転がる大小の石。
あちこちに激しい戦いのあとがある。
そこに立っているのは、リーシアただ一人だ。
リーシアは生きるか死ぬかの戦いを挑んでいた。
けれど彼らはそうではない。彼らは生死に関する認識がおそろしく軽い。そして、いつもいきなりやってきて、いきなり消えていく。
とまれ、戦いは終わった。終わったのだ。
ここでようやくリーシアの緊張がとけた。
「はぁぁぁ~っ……」
深いため息が、体の底から長く長く流れ出ていく。
「こちらはなんとか切りぬけました。死ぬかと思いましたけど……。あとは——」
村の方をかえりみる。
「みなさん、どうか無事でいて……」
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