惑星だった僕が異世界転生して人として生きるときに語ること

来麦さよのすけ

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第37話 少女(1)

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 意外な場所からの意外なひと声に、僕らの目はいっせいにそちらにむかう。
 エミーさんと男が対峙している通りの端とは反対側、小さな路地のかげにいたのは——

「アシュリン! あぶない! すぐ逃げなっ!」
 おかみさんが叫ぶ。

 昨日の昼間、小さなかわいい火の玉を披露してくれたアシュリンちゃんだった。そして夕食のときには、僕が露出魔なことを村中に知らしめてしまったアシュリンちゃんでもある。

 確かにアシュリンちゃんは魔法が使える。攻撃魔法が使える。
 けれどそれはほんの小さなもので。ふわふわした、かわいい火の玉ファイヤーボールで。
 今の生死をかけた戦いに割って入るには、明らかに実力が不足していることくらいは、僕でもわかる。

 けれどアシュリンちゃんは逃げない。
 両足がガクガク震えてるのがこちらからも見てとれる。けれど彼女は逃げるつもりはない。
 片手で自分の手首をがっちりと握り、しっかりと手のひらを男に向けている。

「〈ファイヤー……ボール〉!!」
 放たれた火の玉は、ふよふよと通りを横切っていって——いや、横切りかけて、蝋燭の火がそよ風に消えるように、途中でフッと消えてしまった。

「「「ああー……っ」」」
 僕らのまわりで、いくつものため息がもれる。

「んんー? なんだ? チビガキぃ!?」
「ひっ……!?」
 ギロリと男ににらまれてアシュリンちゃんの身がすくむ。それでも、

「お、おねえちゃんに、てっ、てっ、手を……出すな!」
 彼女はもう一度身構えて、

「たっ……、〈大気にあまねくおわしまし……ましましまますマナよ、しばしわ……わ、わ、わたっ……、我! 我に力をおわ貸しわたしもうたもぅえ……〉!」

 カミカミだけどアシュリンちゃんの詠唱が始まった。

「へえ……」
 ひょいと片手を腰にあて、にやりと笑って男が待ちの姿勢になった。ただし視界の端でエミーさんをとらえたままだ。注意は決してそらさない。ここにいる人々の中で誰がいちばん強く、誰がいちばん脅威になるかということを、男はよくわかっているみたいだった。

「〈巻き上がる風、一陣の風、流れる雲、まみえる陽射し、その光のやいば!
 あるいは入り日、山の端に沈む一瞬、我の目を射る最後の光!
 夜の闇にまたたく赫星あかぼし、宝玉のように燃えさかる炎の星!
 それらよ、熾火おきび、火の粉となって舞い上がれ、夜に散れ、夜闇に輝け、昼間も輝く星となれ、その星の力の一片でも我が手のひらに来たれ——ファイヤーボール〉!」

 ヒュッと強い音をたてて、今度は一直線に火の弾が飛んでいく。それはあやまたず男に命中し——

「ぐはぁッ、やーらーれーたー!」
 男の大げさなリアクションを見なくてもすぐわかった。アシュリンちゃんのファイヤーボールは、男になんらダメージを与えていない……。

「お嬢ちゃん、すごいじゃんか。そんなに俺にむかってくるなんて。へへっ、そんなに死にたいか。そうかそうか……」

 じり、と男の殺気がアシュリンちゃんの方へと移動していく。
 まずい!

「く……、その子には……手を出すな……っ」
 エミーさんがなんとかしようと身じろぎすると、

「うるせえ!」
 ドドッと小型の黒刃がいくつも彼女に突き刺さる。

「ガッ!? ぐあぁぁっーー!! ————ッ。…………」
 エミーさんが苦痛にもがき苦しんで——ああ、なんてことだ。がくりとうなだれ、完全に力が抜けてしまった。

 意識を失った!? 
 いや、まさか……失っただけじゃなくて……。
 いやいや、そんなことがあるはずがないっ!

「おまえはしばらく黙ってろ。こっちのガキが何をやるのか見てみたい。こういうのも嫌いじゃないしな」
 ざり……ッ。男がアシュリンちゃんに向き直った。

「ほれ? もう終わりか? もっとなんかしてみろよ?」
 ひらひらとナイフをひらめかせながら男は煽る。

「…………うぅ」
 アシュリンちゃんはおびえた様子だ。でも一歩も引かない。

 けれど昨日火の玉を一発打っただけでふらついていた彼女だ。これ以上何かできるとも思えない。

「わ……ゎ……、わた……し……」
もう言葉も満足に出せないほどだ。

 たのむ、アシュリンちゃん、逃げてくれ……。僕は祈ることしかできないのか……。

「なーんだ? もう終わりか? タマなしか?」
男が、あてが外れたという顔になった。

「わ……わた……わたし……、の……!」
アシュリンちゃんは、あえぐように息をついている。何か言いたそうだけど……。何を言いたいんだ?

「……じゃあ、しょうがねえな」
 男の顔がすっと冷たくなった。

「死ね」
 黒刃の切っ先が男の指先でズルッとずれた。すると男の手持ちが二本になっている。
 そしてそのうちの一本だけを器用に構え、手を上げ、振り下ろそうと——

「わたし、の……! 〈私の生命いのちを持っていけ……〉!」

 アシュリンちゃん!?
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