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第49話 贈り物(1)
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それからの数日間を、僕らは村で過ごした。
その期間のことをざっと振り返ると——まず村長さんが大きな街に代理の使者を送ることになった。現状の説明と注意喚起、および防衛のための増援を要請するという。
ここからいちばん近いところがリルバーン市というところらしく、それを聞いたエミーさんが「あら、そこは私たちも訪れようと思っていたところで——」と口にしたので、流れ的に使いの人を護衛する感じで僕らも出発するのかな、と思っていたら、そうはならなかった。
まず負傷者のケア。
応急的な治癒をほどこしたあと、症状をみながら追加の術をかけると、効果が上がるらしい。とくにエミーさんの治癒術は抜群に改善する(ように見える)ので、ほとんど聖女扱いされていた。
「えへへ、それほどでも……」
とエミーさんは無難な微笑み顔で謙遜しているけれど、実は凹んでいるのに僕は気づいていた。治癒魔法の実態は……まあ、リーシアさんが主体になってやっているっぽいしなあ。
それからアシュリンちゃんのこと。
彼女はあいかわらず僕の股間で……じゃなかった、膝の上でこんこんと眠り続けていた。リーシアさんたちによれば、それが回復にはいちばんいいらしいという主張だったし、村の薬師クィン先生も理由はわからないけどそれが最善だと納得したようだった。アシュリンパパは、ちょっとうろんな視線を僕に送ってきていたけど……。
やがてアシュリンちゃんは「ふにゃ……」と目を覚ます時間が多くなり、だんだん体力も回復していって、もうそこそこ元気に走りまわれるようになってからも、すぐに「えへへ、つかれちゃった!」と、にこにこしながら僕のいるベンチにやってきて、隣に座って、僕に寄りかかって、寝たふりをしちゃったりしていた。
それでも数日がたつと、リーシアさんとエミーさんは、「だいぶ村の状況も落ち着いてきましたし、もうそろそろ……」と出立したい気配を漂わせはじめた。
けれど宿屋のおかみさんはじめ村の人たちは、もうしばらく僕らにいてほしそうな顔だった。
それはそうだろう。あんな襲撃があったあとだ。「またあるんじゃないか」と思うと、おちおち寝てもいられない。頼りになる戦力が今ここにいるわけで、それを確保しておきたい気持ちもわかる。
しかし村長さんは現状を的確に分析していた。「通常ならばルバローたちが短期間で連続して襲ってくる例はほとんどない。あまり考えたくはないが、かりに再襲撃があるとしても、時間的余裕はまだまだあるはずだ。もちろん警戒は強化する。しかし増援なり救援が来るまでは、我々は待つほかない」というもので、それを聞いて村の人たちも冷静になった。
それと「旅人にも先の予定がある。それを無理に留め置くことはできない」との言葉に、「それもそうだよなぁ」と僕らの出発にしぶしぶながらも納得したようだった。
それならばと、村の人たちからいくつか申し出があった。
宿のおかみさんは、「お礼といっちゃなんだがねえ」と言いつつ宿代は全部タダという太っ腹ぶり。
これにはエミーさん大歓喜。「これでしばらくは安泰ですね……ウヒヒ……」と変な笑い声をあげていた。
もう一つは——
「ぼうず一人を毎回担いでいくんじゃ動きにくいし、とっさの行動もとれないだろ? そこでだ。手押し車とか荷車みたいなのなら作れるからな。それにぼうずを乗せていったらと思うんだが、どうだ?」
と村の大工さんから提案があった。
確かにそうだ。この世界には危険がたくさんある。
道を歩くとモンスターに遭遇する可能性があるし、ルバローみたいにパーティを組んで超人的な力で襲撃してくる輩もいる。
この世界の制度や仕組み、法律体系がどうなっているのかまだわからないけれど、ちょっと出歩くだけで生死に関わる出来事に巻きこまれる可能性が高い。実際僕は、ここにたどり着くまでに瀕死の重傷を負ったわけだし、これからの道中も危険と隣りあわせであろうことは想像に難くない。
リーシアさんも、なるほどという顔になった。
「ふむ。それは確かにありがたい。荷物なんかも置けるなら楽になるかもだな……」
ところがエミーさんは、ちょっと渋い顔をしている。
「けれどとっさの機動力が落ちませんか? 私たちの荷物はそれほど多くありませんし。それに道はずっと平坦に整備されているわけでもないですし……」
好意は嬉しいけど……という感じかな。
「うーん……」
と僕は考える。同じ運ばれ方でも、車みたいなのがあれば、そちらの方がいいと思う。ずっとリーシアさんに背負われっぱなしというのも気が引ける。彼女の体力的に問題がないっぽいとはいえ、だ。
それにできれば僕一人でも動かせるものがいい。たとえば戦闘に巻きこまれたとき自力で退避できれば、リーシアさんたちの負担も減らすことができるはずだ。
自動車……は技術的にムリっぽいのはわかる。
ほかに車……車か……。
あ、そうだ! と急にひらめきがきた!
「じゃあ、車いすはどうでしょう」
ところが僕の提案に、みんな首をかしげた。
「「「くるまいす?」」」
その期間のことをざっと振り返ると——まず村長さんが大きな街に代理の使者を送ることになった。現状の説明と注意喚起、および防衛のための増援を要請するという。
ここからいちばん近いところがリルバーン市というところらしく、それを聞いたエミーさんが「あら、そこは私たちも訪れようと思っていたところで——」と口にしたので、流れ的に使いの人を護衛する感じで僕らも出発するのかな、と思っていたら、そうはならなかった。
まず負傷者のケア。
応急的な治癒をほどこしたあと、症状をみながら追加の術をかけると、効果が上がるらしい。とくにエミーさんの治癒術は抜群に改善する(ように見える)ので、ほとんど聖女扱いされていた。
「えへへ、それほどでも……」
とエミーさんは無難な微笑み顔で謙遜しているけれど、実は凹んでいるのに僕は気づいていた。治癒魔法の実態は……まあ、リーシアさんが主体になってやっているっぽいしなあ。
それからアシュリンちゃんのこと。
彼女はあいかわらず僕の股間で……じゃなかった、膝の上でこんこんと眠り続けていた。リーシアさんたちによれば、それが回復にはいちばんいいらしいという主張だったし、村の薬師クィン先生も理由はわからないけどそれが最善だと納得したようだった。アシュリンパパは、ちょっとうろんな視線を僕に送ってきていたけど……。
やがてアシュリンちゃんは「ふにゃ……」と目を覚ます時間が多くなり、だんだん体力も回復していって、もうそこそこ元気に走りまわれるようになってからも、すぐに「えへへ、つかれちゃった!」と、にこにこしながら僕のいるベンチにやってきて、隣に座って、僕に寄りかかって、寝たふりをしちゃったりしていた。
それでも数日がたつと、リーシアさんとエミーさんは、「だいぶ村の状況も落ち着いてきましたし、もうそろそろ……」と出立したい気配を漂わせはじめた。
けれど宿屋のおかみさんはじめ村の人たちは、もうしばらく僕らにいてほしそうな顔だった。
それはそうだろう。あんな襲撃があったあとだ。「またあるんじゃないか」と思うと、おちおち寝てもいられない。頼りになる戦力が今ここにいるわけで、それを確保しておきたい気持ちもわかる。
しかし村長さんは現状を的確に分析していた。「通常ならばルバローたちが短期間で連続して襲ってくる例はほとんどない。あまり考えたくはないが、かりに再襲撃があるとしても、時間的余裕はまだまだあるはずだ。もちろん警戒は強化する。しかし増援なり救援が来るまでは、我々は待つほかない」というもので、それを聞いて村の人たちも冷静になった。
それと「旅人にも先の予定がある。それを無理に留め置くことはできない」との言葉に、「それもそうだよなぁ」と僕らの出発にしぶしぶながらも納得したようだった。
それならばと、村の人たちからいくつか申し出があった。
宿のおかみさんは、「お礼といっちゃなんだがねえ」と言いつつ宿代は全部タダという太っ腹ぶり。
これにはエミーさん大歓喜。「これでしばらくは安泰ですね……ウヒヒ……」と変な笑い声をあげていた。
もう一つは——
「ぼうず一人を毎回担いでいくんじゃ動きにくいし、とっさの行動もとれないだろ? そこでだ。手押し車とか荷車みたいなのなら作れるからな。それにぼうずを乗せていったらと思うんだが、どうだ?」
と村の大工さんから提案があった。
確かにそうだ。この世界には危険がたくさんある。
道を歩くとモンスターに遭遇する可能性があるし、ルバローみたいにパーティを組んで超人的な力で襲撃してくる輩もいる。
この世界の制度や仕組み、法律体系がどうなっているのかまだわからないけれど、ちょっと出歩くだけで生死に関わる出来事に巻きこまれる可能性が高い。実際僕は、ここにたどり着くまでに瀕死の重傷を負ったわけだし、これからの道中も危険と隣りあわせであろうことは想像に難くない。
リーシアさんも、なるほどという顔になった。
「ふむ。それは確かにありがたい。荷物なんかも置けるなら楽になるかもだな……」
ところがエミーさんは、ちょっと渋い顔をしている。
「けれどとっさの機動力が落ちませんか? 私たちの荷物はそれほど多くありませんし。それに道はずっと平坦に整備されているわけでもないですし……」
好意は嬉しいけど……という感じかな。
「うーん……」
と僕は考える。同じ運ばれ方でも、車みたいなのがあれば、そちらの方がいいと思う。ずっとリーシアさんに背負われっぱなしというのも気が引ける。彼女の体力的に問題がないっぽいとはいえ、だ。
それにできれば僕一人でも動かせるものがいい。たとえば戦闘に巻きこまれたとき自力で退避できれば、リーシアさんたちの負担も減らすことができるはずだ。
自動車……は技術的にムリっぽいのはわかる。
ほかに車……車か……。
あ、そうだ! と急にひらめきがきた!
「じゃあ、車いすはどうでしょう」
ところが僕の提案に、みんな首をかしげた。
「「「くるまいす?」」」
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