惑星だった僕が異世界転生して人として生きるときに語ること

来麦さよのすけ

文字の大きさ
50 / 52
4

第50話 贈り物(2)

しおりを挟む
 リーシアさんたちも村のみんなも、きょとんとした顔になった。

 あれ? この世界には車いすがない?
 ええと、どうだったっけ……。僕は記憶を呼び起こす。
 僕の惑星で車いすが誕生したのは……椅子に車がついただけの単純なやつは割と早かったんだけど……。
 それなりに普及したのは、かなり時間がたってからだし……。
 それからみんなが当たり前に使うようになるのは……中世、近世、近代、いやそれよりもっとあとのことだっけ?
 あれ? 思ったより技術が発展してからだったな。もしかしてこの世界ではオーバーテクノロジーの範疇はんちゅうに入るのかも!?

「その……ってのはどんなやつなんだい? たとえば車つきの台の上にイスが乗っかってて、馬で引くとかかねえ……」

 大工さんが考え考え言っているけど、たぶん彼が思い浮かべているのは、平べったい台の四ヵ所に車輪をつけて、その上に椅子を置いて、それを馬で引くという図じゃないかな。

「それじゃあ、ただの馬車じゃないかい?」
 と宿のおばちゃんがすかさず突っこんで笑いがおきた。うーん、どう言えば伝わるかな。

「ええと、車いすというのは——背もたれと肘掛けのある椅子の横に車輪がついていて、それで後ろから押してもらったり、一人でも移動できるという乗り物……です」

「「「???」」」
 みんな要領を得ない顔だ。

 口で言っても伝わらないようだったので、おばちゃんから書くものをかしてもらった。宿の台帳の裏紙と羽根ペンとインク。僕の人生、はじめてのお絵かきだ。ドキドキ……。
 何度かインクをつけたしながら下手な図を描いて、わかりにくそうなところは口頭でも説明。大型の後輪には手で操作するためのハンドリムをつける。前を支える前輪のキャスターは、できれば三六〇度回転してほしい。足置きのフットサポートも必須。介助者が後ろで握るハンドルもほしいかな。

「ほほぅ……。んで、座面と背もたれは布張り——折りたたみもできるってのか。へぇ、こいつはたまげた!」
 大工さんが感嘆の声をあげた。

「どうでしょう。……できそうですか?」
 この世界の技術水準がまだわからない。

「ふぅむむむ……」
 と大工さんはしばらくうなっていたけど、
「縦に平べったく折りたたみたいっていうのは、かさばらないようにってことなんだろうが……ただそれだと、もし道が悪いところで持ち運ぶとなると、ちと不便かもだなぁ」

 なるほど……! 道がずっと整備されているとは限らないわけか。もしかしたら山道で崖を上ったり、橋のない川を渡ることもあるかもしれない。すると、

「じゃあたたみ方を変えればいいんじゃないかな?」
 と話に加わってきたのはアシュリンちゃんのパパだ。
「ちょっと考えたんだけど……あ、紙、いいかな?」

 もちろんです、と渡す。アシュリンパパは、僕のへたくそな絵の横に、新しい図をさらさらと描いていった。めちゃくちゃ見やすい。

「コンパクトにすればいいんだから、背もたれを座面に倒せるようにして……車輪は着脱できるように。それで椅子本体を背負えれば持ち運びもラクだから……。たとえば、このたたんだ状態を背嚢はいのうユニットに見立てて、荷物などをセットできるようにすれば、どうかな? つまり、下になる車いすの足置き部分がストッパーとして荷物を支えて、ずり落ち防止になる——ほら、こんな感じでどうだい?」

 おおお……。アシュリンパパの提案は、背もたれを前に倒して平べったく省スペース化し、荷物を積めるフレームとして利用するという設計だ。すごい。こんなのを簡単に思いつくなんて。
 するとアシュリンパパの脇からアシュリンママものぞきこんできた。

「前輪のジョイント部分はくるくる回転すればいいのね? それならまかせて! 細かなところの加工は得意だから!」

 なんだか二人とも職人っぽい雰囲気! 
 ということでアシュリンパパママのアイディアも加わって、どんどん構想が具体的になっていく。完成図が想像できるようになると、大工さんも俄然がぜんにやる気になってきた。

「いよーしっ、いっちょやってやるかね! そうだな……確か村の倉庫にが残ってたろ? メインのフレームにはアレを使うぜ!」

「えっ……」
 それを聞いたリーシアさんが小さく息を呑み、

「えっ……」
 エミーさんの声も震え、

「えっ……」
 もう一人、大工さんの発言にうろたえたのはスヴァン少年。僕が「露出狂」とか「露出魔」とか言われ放題だったあのとき、アシュリンちゃんに「ダンジョン行き」を熱烈に誘っていた男の子だ。どうしたのかな?

 大工さんはいそいそと倉庫に向かいながら、まわりにも声をかけはじめた。

「それと車輪には……こつぎょの骨が使えるか。さーて忙しくなってきたぞ! おい、手伝えるやつは手伝ってくれよ!」

 けれどしばらくすると——

「こぉらあぁぁっ! ガキども! ドラゴンの骨を勝手に持っていったの、おまえらだろーがっ!」
 と倉庫から大工さんの怒号が聞こえてきた。

「ひぃぃぃぃぃっ」
 すると僕らの近くでスヴァン少年がおびえているじゃないか……。

 話を総合すると——なんといっても「ドラゴンの骨」だ。子どもたちの冒険心をくすぐらないわけがない。それでこっそり〈ダンジョン〉こと〈洞窟の秘密基地〉に運びこんで、遊び道具に使っていたらしい。うーん、スヴァンくんたちの気持ちがよくわかってしまう……。
 こんな感じでひと騒動あったけれど、ともあれ材料が無事にそろった。するとあれよあれよと形ができあがっていく。

「ほぉぉ……」
「これは……ですわ」
 彼らの手際のよさに、リーシアさんとエミーさんも二の句が継げない。

「へへっ。家具・工芸・細工物の加工技術は、この村の自慢だからな!」
 彼らの様子が誇らしげだ。

 先ほど大工さんが言っていたとおり、竜の骨がふんだんに使われていた。やや透け感のある白い骨。シースルーなスケルトン・フレームで、やたらとかっこいい。
 車輪のホイール部分は木製。ずいぶん変わっているのはタイヤ部分で、きれいな半透明のキャタピラ? みたいなのが巻きつけてある。

なが湖骨魚の背骨の表面を平らに削って、はずれないように繋げたやつだな。硬度も充分だし、適度に弾力もあって、いい感じにクッションになる。もちろん耐久性も抜群だぜ」

 なるほど、タイヤの代用か。パンクの心配もなさそうだし、それならチューブが必要なタイヤよりも優秀かもしれない。

「そしてさらにだ。こいつの最大のポイントはな……」
 もったいぶりながら大工さんが明かしてくれた最大の秘密は——

「めちゃくちゃ軽いことだ! ほれこのとおり!」
 と言って、片手で軽々と持ち上げている。大工さんのたくましい腕を勘案しても、とても軽いことがわかった。
 それから作業のときどきで呼ばれ、座ったときのサイズ感の微調整などをする。
 そして完成したのは、僕が思っていた以上の車いすだった。

「……」
 リーシアさんは無言で立ち尽くしている。そして顔に血の気が……ない?
 そしてエミーさんも同じく青ざめた顔だ。そしておそるおそるたずねたのは、
「……あ、あのぅ、お値段は……いかほどで?」
 あー……高いのかぁ。そりゃそうだよね。ドラゴンだしね。

「へ? お代なんていらねえよ! この村の命の恩人たちからお代をとったら、バチがあたるってもんよ!」
 大工さんがからからと笑った。


   ◇


 そして何はともあれ——試乗会になった。
 新しい乗り物が発明されると人類はなぜかわくわくするらしい、ということは惑星のときに理解していたつもりだったけど、実感するのは初めてだ。
 なるほどこういうことかぁ。すごくわくわくする。

 まず一番手。座るのは僕。後ろの取っ手を握るのはリーシアさんだ。

「ごくり……。よ、よし、ではいきます……いくぞ、アスト殿」
 緊張のせいか、ちょっと口調が素に戻りかけているのがかわいいなあ、と思っていると、そろそろと車が動きはじめた。

「おおっ」
 いい感じだ。重さのない軽やかな走り。
 車輪から伝わる振動に硬さはなく、むしろ柔らか。高級車……には乗ったことないけど、たぶんこんな余裕のある感じだろうな、と思える乗り心地だ。
 リーシアさんはしばらく感触を確かめ、

「アスト殿、曲がってみます」
 どうぞどうぞ。
 くいっ。からからからっ。
 おぉっ!? 方向転換も自由自在だ。
 そしてもう一点重要なのは、自走の確認だ。車輪の外側にひとまわり小さく作られたハンドリムを手に取ってまわしてみる。もちろんこちらも良好。方向転換もバッチリだ。

「よーしよし。よさそうだな」
 大工のおっちゃんは満足げな笑顔を見せた。

「これは……なんと言ったらいいのか……かさねがさね……」
 リーシアさんたちが恐縮しきり。

 そのあと、新しいおもちゃに興味津々の子どもたちにも順々に乗ってもらったり押してもらったりして、しばらく遊びの時間となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...