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馬車の内部は、走行のたびに微かな揺れを生んでいた。
ユリウスは腕で抱えたその身体が揺れないよう調整する。
角は外套の下でも隠しきれず、布を押し上げて形を示している。
尾も力なく延びており、人間でないことは誰が見ても明らかだった。
――だが、それでも。
ユリウスの手つきは、どこまでも慎重だった。
触れるたびに割れてしまう硝子工芸品を扱うように、腕にわずかな力すら入れることができない。
「……」
ユリウスは魔物を恐れない。敵対するなら斬るだけの話だ。
だが目の前の存在は、斬るとか、脅威だとか、そういった判断が一切入り込む余地がなかった。
本能が、むしろ“手放すな”と静かに命じてくる。
揺れる馬車の中、美しい顔がわずかに歪む。
痛むのか――。
「あ……」
途切れ途切れの吐息が漏れる。
ユリウスは顔を寄せた。
「聞こえるか。無理に喋るな」
その瞬間、わずかに濁った白金の瞳が細く開いた。
焦点を結ばないまま、彼の姿を追うように揺れる。
「……ここ、は……?」
「安全だ。もう少しでアーデルベルク家の屋敷に着く」
「……アーデ……?」
理解が追いつかないのか、眉がひそめられる。
だが、状況を問いただす体力はもう無いらしい。
ユリウスはそっと外套を掛け直し、耳元で低く告げた。
「大丈夫だ。お前は……今、俺が連れている」
意味は通じたのか、白金の瞳が静かに閉じた。
安心ではなく、力尽きたような、けれど抵抗のない沈み方。
ユリウスは息を吐いた。
――離す気はない。
自覚した瞬間、喉奥の温度がわずかに上がった。
馬車が屋敷へ到着した。
護衛たちが慌てて駆け寄ろうとするが、ユリウスは短く言った。
「触るな。俺が運ぶ」
ユリウスはそのまま自室へ向かい、その生物を寝台にそっと降ろした。
布を絞り、額に触れると、少し熱があるようだった。
、、しばらくして、寝台の上の存在がうっすら眉を寄せた。
意識が再び浮上してきたようだ。
白い睫毛が震え、ゆっくりと瞼が上がった。
「……ここは、、どこだ?」
、、その声に思わず息を呑む。
言葉一つ一つが、奏でられる旋律のようだった。
「、、アーデルベルク伯爵家の屋敷だ。お前は森で倒れていた。俺が運んだ」
白金の瞳がじっとユリウスを見つめる。
怯えではなく、観察するような静かな眼差し。
「……そなたは……?」
ユリウスは立ち上がり、胸に手を当てた。
「ユリウス・アーデルベルクだ。お前は?」
「……わたしはアウルティス」
ユリウスは腕で抱えたその身体が揺れないよう調整する。
角は外套の下でも隠しきれず、布を押し上げて形を示している。
尾も力なく延びており、人間でないことは誰が見ても明らかだった。
――だが、それでも。
ユリウスの手つきは、どこまでも慎重だった。
触れるたびに割れてしまう硝子工芸品を扱うように、腕にわずかな力すら入れることができない。
「……」
ユリウスは魔物を恐れない。敵対するなら斬るだけの話だ。
だが目の前の存在は、斬るとか、脅威だとか、そういった判断が一切入り込む余地がなかった。
本能が、むしろ“手放すな”と静かに命じてくる。
揺れる馬車の中、美しい顔がわずかに歪む。
痛むのか――。
「あ……」
途切れ途切れの吐息が漏れる。
ユリウスは顔を寄せた。
「聞こえるか。無理に喋るな」
その瞬間、わずかに濁った白金の瞳が細く開いた。
焦点を結ばないまま、彼の姿を追うように揺れる。
「……ここ、は……?」
「安全だ。もう少しでアーデルベルク家の屋敷に着く」
「……アーデ……?」
理解が追いつかないのか、眉がひそめられる。
だが、状況を問いただす体力はもう無いらしい。
ユリウスはそっと外套を掛け直し、耳元で低く告げた。
「大丈夫だ。お前は……今、俺が連れている」
意味は通じたのか、白金の瞳が静かに閉じた。
安心ではなく、力尽きたような、けれど抵抗のない沈み方。
ユリウスは息を吐いた。
――離す気はない。
自覚した瞬間、喉奥の温度がわずかに上がった。
馬車が屋敷へ到着した。
護衛たちが慌てて駆け寄ろうとするが、ユリウスは短く言った。
「触るな。俺が運ぶ」
ユリウスはそのまま自室へ向かい、その生物を寝台にそっと降ろした。
布を絞り、額に触れると、少し熱があるようだった。
、、しばらくして、寝台の上の存在がうっすら眉を寄せた。
意識が再び浮上してきたようだ。
白い睫毛が震え、ゆっくりと瞼が上がった。
「……ここは、、どこだ?」
、、その声に思わず息を呑む。
言葉一つ一つが、奏でられる旋律のようだった。
「、、アーデルベルク伯爵家の屋敷だ。お前は森で倒れていた。俺が運んだ」
白金の瞳がじっとユリウスを見つめる。
怯えではなく、観察するような静かな眼差し。
「……そなたは……?」
ユリウスは立ち上がり、胸に手を当てた。
「ユリウス・アーデルベルクだ。お前は?」
「……わたしはアウルティス」
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