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6 アウルティス視点
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瞼を開けた時、最初に感じたのは、
あのいつもの空気ではなかった。
二百年、塔の中で同じ空気しか知らなかったわたしにとって、それはあまりに異質だった。
そばにいる男が、静かにこちらを見下ろしている。
ヒトだ。
角や尾を晒したまま眠ってしまっていたというのに、彼は武器を取らず、怯えもしない。
、、本で読んだのと違う。
「……ここは、どこだ」
声が思ったよりも掠れてしまた。
男が椅子から静かに立ち上がる。
「アーデルベルク伯爵家の屋敷だ。お前は森で倒れていた。俺が運んだ」
「……わたしが……倒れていた?」
「ああ、相当消耗していた」
消耗。
今までそのような感覚は味わったことがなかった。
疲れなどは感じる前に神々が先に察してどうにかしてくれていたのだから。
「そなた……ユリウス、と言ったな」
「ああ」
「そなたは、なぜ……わたしを助けた? わたしは人間ではない。そなたらから見れば、魔物と呼ぶ類いのものだろう」
ユリウスが短く息を吐く。
嘲りでも、困惑でもない、
何かを押し込める時の呼気だった。
「人間か魔物か。どうであれ――お前を斬る理由はなかった」
?どうしてだろうか
魔物のように見えるはずだが、、?
「ユリウス……そなたの世界は、こうなのか」
「こう、とは?」
わたしは寝台の上から視線を巡らせる。
壁には複雑な装飾。木材の匂い。
外から聞こえる馬の蹄。
塔のどこにも無かった、無数の音。
知らない世界の密度に、胸が高鳴る。
「……人が、これほど……多く息づく場。ただ本で読んだだけで……実際に見るのは、初めてだ」
ユリウスが目を細めた。
「本で、か。誰が教えた?」
「神だ」
彼がわずかに姿勢を固める。
「神、だと?」
「塔の外へ出ぬよう、書物と声だけが与えられた。そなたら人間がどう生きるのかも……言葉では学んだが、今日まで見たことはなかった」
恥は感じてはいなかった。
だが、ユリウスがほんの一瞬だけ表情を動かす。
「……閉じ込められていたのか」
「、、そうかもな。監禁と呼ぶのだろう、そなたらは。わたしは……外へ出たいと、ずっと……」
言いかけて、胸の奥がひりついた。
塔では、口にするたび神々の声が遮った言葉。
わたしは続ける。
「……外を、知りたい。人間の世界も、すべて」
ユリウスの喉がわずかに動いた。
何かを決意するような形。
その時――
廊下の向こうで侍従の声がした。
「ユリウス様、1ヶ月後に学院へ戻られる日程でよろしいのですか?」
……学院?
知らない語だ。
わたしは寝台の上で身を起こしかけ、ユリウスを見た。
「……学院、とは?」
「学問と魔法、政治、軍事……すべてを学ぶ場だ。リヒトタール王立学院、俺はそこに通っている」
「学ぶ……外のことを?」
「そうだ」
胸が熱くなる。
塔で欲してやまなかったもの。
知識ではなく、“実際”の世界。
「……わたしも、そこへ行きたい」
ユリウスの瞳が揺れた。
拒む気配ではない。
ただ、予想外すぎて言葉が追いつかない、そんな揺らぎ。
「……しかし―」
「角なら魔法で隠す。……そなたら人間の世界では、そうするのだろう?」
それは、塔で学んだ知識の断片。
異形を隠す術。
ユリウスは黙ったまま、しばらくこちらを見つめた。
その視線は鋭く、奥底に妙な熱を帯びている。
「……お前が望むなら、、」
「望むなら?」
「俺が連れていく。、、すべて俺が手配する」
「…本当か?信じてよいのだな、それを…!」
あのいつもの空気ではなかった。
二百年、塔の中で同じ空気しか知らなかったわたしにとって、それはあまりに異質だった。
そばにいる男が、静かにこちらを見下ろしている。
ヒトだ。
角や尾を晒したまま眠ってしまっていたというのに、彼は武器を取らず、怯えもしない。
、、本で読んだのと違う。
「……ここは、どこだ」
声が思ったよりも掠れてしまた。
男が椅子から静かに立ち上がる。
「アーデルベルク伯爵家の屋敷だ。お前は森で倒れていた。俺が運んだ」
「……わたしが……倒れていた?」
「ああ、相当消耗していた」
消耗。
今までそのような感覚は味わったことがなかった。
疲れなどは感じる前に神々が先に察してどうにかしてくれていたのだから。
「そなた……ユリウス、と言ったな」
「ああ」
「そなたは、なぜ……わたしを助けた? わたしは人間ではない。そなたらから見れば、魔物と呼ぶ類いのものだろう」
ユリウスが短く息を吐く。
嘲りでも、困惑でもない、
何かを押し込める時の呼気だった。
「人間か魔物か。どうであれ――お前を斬る理由はなかった」
?どうしてだろうか
魔物のように見えるはずだが、、?
「ユリウス……そなたの世界は、こうなのか」
「こう、とは?」
わたしは寝台の上から視線を巡らせる。
壁には複雑な装飾。木材の匂い。
外から聞こえる馬の蹄。
塔のどこにも無かった、無数の音。
知らない世界の密度に、胸が高鳴る。
「……人が、これほど……多く息づく場。ただ本で読んだだけで……実際に見るのは、初めてだ」
ユリウスが目を細めた。
「本で、か。誰が教えた?」
「神だ」
彼がわずかに姿勢を固める。
「神、だと?」
「塔の外へ出ぬよう、書物と声だけが与えられた。そなたら人間がどう生きるのかも……言葉では学んだが、今日まで見たことはなかった」
恥は感じてはいなかった。
だが、ユリウスがほんの一瞬だけ表情を動かす。
「……閉じ込められていたのか」
「、、そうかもな。監禁と呼ぶのだろう、そなたらは。わたしは……外へ出たいと、ずっと……」
言いかけて、胸の奥がひりついた。
塔では、口にするたび神々の声が遮った言葉。
わたしは続ける。
「……外を、知りたい。人間の世界も、すべて」
ユリウスの喉がわずかに動いた。
何かを決意するような形。
その時――
廊下の向こうで侍従の声がした。
「ユリウス様、1ヶ月後に学院へ戻られる日程でよろしいのですか?」
……学院?
知らない語だ。
わたしは寝台の上で身を起こしかけ、ユリウスを見た。
「……学院、とは?」
「学問と魔法、政治、軍事……すべてを学ぶ場だ。リヒトタール王立学院、俺はそこに通っている」
「学ぶ……外のことを?」
「そうだ」
胸が熱くなる。
塔で欲してやまなかったもの。
知識ではなく、“実際”の世界。
「……わたしも、そこへ行きたい」
ユリウスの瞳が揺れた。
拒む気配ではない。
ただ、予想外すぎて言葉が追いつかない、そんな揺らぎ。
「……しかし―」
「角なら魔法で隠す。……そなたら人間の世界では、そうするのだろう?」
それは、塔で学んだ知識の断片。
異形を隠す術。
ユリウスは黙ったまま、しばらくこちらを見つめた。
その視線は鋭く、奥底に妙な熱を帯びている。
「……お前が望むなら、、」
「望むなら?」
「俺が連れていく。、、すべて俺が手配する」
「…本当か?信じてよいのだな、それを…!」
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