悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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第二章

混沌の中で

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「リリーッッ」

意識を失い倒れこむ私の体を、エドウィンが鼻さきで支えた。
悲し気に唸ると、私の唇をなめ人型へと変わっていく。
私の体を軽々と抱き上げると、前髪を上げ冷たい手が額に触れた。

「主様、主様、目を開けて、お願い、……ッッ、体が熱い、大変だ」

駆け寄ってきたピーターも私の額に触れると、焦った表情を浮かべる。

「医者だ、すぐに医者に診せろ」

エドウィンは頷くと、私を抱きかかえたまま、村の方へと走っていった。

ピーターは頭領を拘束し、人狼を捕らえていた柵へ放り込む。
出血だけ止め、生かす為だけの最低限の治療。
柵には頭領のみ、他の仲間はいない。
皆人狼に殺されたのか、それとも早々に逃げ出したのか……それはわからなかった。

人狼に案内され、ピーターは小さなテントへやってきた。

「君が彼女の友人かい?村を救ってくれて本当にありがとう。彼女なんだが……かなり深刻な状態だ。腕の骨が折れ一部砕けている。それに背中を強く圧迫され、胸の骨も折れているんだ。そこから無理をして動いたようでね……折れた骨が臓器に刺さり肺を損傷している。この状態で戦っていられたことが信じられないよ。これほど重症では、ここでの治療は難しい……すまない」

重い沈黙が流れ、医者は深く頭を下げる。
ピーターは医者の顔を上げさせると、詰め寄るように迫った。

「先生、何か手はないのか?リリーをこのまま死なせるわけにはいかないんだ」

「それはわかる、僕も同じ気持ちだ。君たちが居なければ僕たちは盗賊相手にどうすることも出来なかった。だが……これ以上本当に手の施しようがないんだ。もちろん応急処置はしているよ。けれどこれ以上の治療となると、薬も設備もないからね。だから彼女を助ける方法は一つしかない、彼女の気力と……君たち次第になるが」

「何か出来ることがあるのなら教えてくれ。こいつは俺の大事な……友人なんだ」

「主様を助けるためなら、俺何でもする」

先生はピーターとエドウィンを交互に見つめると、続きを話し始める。

「さっきも言ったが、ここで彼女の治療は出来ない。骨が砕けている以上動かす事も困難だ。治療するには、街医者をここへ呼ぶしかないだろう。私が書いた診断書を渡せば、必要な薬と道具がわかるだろう。だが彼女の容体を見る限り、もって1~2日程度……時間がない」

「それなら俺が行く。半日あれば余裕だ」

エドウィンは話を遮り診断書を奪うと、勢いよく立ち上がる。

「待ちなさい、エディ。私達なら半日で十分到着できるが、壁の中へは入れないだろう。ここからだと王都が一番近いが……入街審査が厳しいと有名だ。手続きも多く、商人ですら数日待たされる。自由に出入りできる通行札の発行はなく、壁の外の住人は簡単に入れない。そこで君、えーと、失礼。私はグレッグ、君の名前は?」

「俺はピーター、グレッグ先生、俺がエドウィンと街へ行き、中へ入り診断書を渡せってことでいいのか?」

「理解が早くて助かるよ。ピーターさんの言った通り、人間の脚では街まで1日半はかかるだろう。だがエドウィンの背中へ乗り、森を駆け抜ければ半日と少し。それならギリギリ間に合うだろう。後は彼女の気力次第だ」

ピーターは私の姿を見ると、傍に駆け寄り手を握る。

「リリー、絶対に助けてやるからな。だからそれまで頑張れよ!死んだら許さねぇ……」

虚ろな意識の中で、ピーターの温もりを感じた。
祈るように両手で私の手を包みこむ彼。
私は応えるように指先を二度動かすと、大丈夫だと声にならない声で伝えたのだった。
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