悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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最終章

リリーと私 (其の五)

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私はパシッと彼女の手を振り払うと、その笑みを睨みつけた。

「母の事は許せない、だけどあなたは間違っているわ。あなたのやっていることは復讐じゃない、只の八つ当たりよ。そんなことをしても、憎しみは消えない。彼らを陥れても何も変わらない。だって彼らはあなたの知る彼らではないのだから。トレイシーの死を知ってスッキリした?ざまぁみろ思えたの?思えてないでしょう?だからノア王子を狙い続ける。あなたの友人だったノア王子、トレイシーはこの世界にはいない!」

強い口調で言い切ると、リリーはスッと笑みを消し、冷めた瞳で私を見下ろした。

「もう少し利口だと思っていたのに残念だわ。これ以上話をしても無駄ね」

彼女は興味をなくしたように私から離れると、また玉座の方へ向かう。
待って、と手をのばすが空を切りとどかなかった。

クレアの話をすれば、全て解決すると思っていた。
なのに……こんな……彼女を救うことは出来ないの?
私は熱くなった感情を必死に落ち着けると、彼女の背を追いかけ腕をとった。

「待ちなさい、話はまだ終わっていないわ。私は真実を知りたいの。ノア王子の母の件、盗賊を利用した誘拐未遂、トレイシーの殺害、ガブリエル伯爵の事件、そして誕生祭での殺人未遂、全てあなたが計画したことなの?」

彼女はおもむろに振り返ると、冷めた目で私を見下ろしながら不気味に口角を上げた。

「そうよ、それが何か?さっきから真実、真実としつこく喚いているけれど、真実ってなに?私がやってきたことを知りたいの?それなら全て教えてあげるわ。私がこの世界へ来た日のことをね。冥途の土産にちょうどいいでしょう」

彼女は冷たい瞳でニッコリほほ笑むと、ゆっくりと語り始めたのだった。

★おまけ(サイモン教官とダニエル士官)★

時は少しさかのぼる。
ノア王子の作戦を決行する前夜。
サイモン教官は届けられた書状を手に、ダニエル士官の元を訪れていた。

「やぁやぁ、夜分遅くにごめんね」

軽く口調で部屋へ入るサイモン。
ダニエルはため息をつくが、咎める気配はない。
いつもの事だと諦めている様子だ。

「こんな夜分になんの用だ?」

「わかっているでしょう。ノア王子の書状の件だよ、君の意見を聞きたくてね」

サイモンはダニエルの前に紙を置くと、ダニエルの眉間に皺が寄った。

「あぁ目は通したが、それだけだ。これ以上関わるつもりはない」

「冷たいねぇ、リリーの一大事だって言うのに。だからノア王子の元へ行かなかったのかい?」

開かれた書状には、リリーの異変について書かれていた。
心当たりがあるものはノア王子の元へ来いと。

「……可笑しいとは思うが、婚約し令嬢が変わることはよくあることだろう」

「いやいやいや、あれは変わりすぎでしょう」

サイモンは窘めると、ダニエルは疲れた様子で顔を上げた。

「何が言いたい?」

サイモンはニヤリと口角を上げると、ダニエルの瞳を覗き込む。

「ノア王子に協力してやってくれない?君の元騎士団団長という輝かしい経歴が必要なんだ」

「……お前はノア王子の元へ行ったのか?」

サイモンは頷くと、ダニエルはおもむろに立ちあがった。

「あぁ、とても面白い話だったよ。面倒ごとになるのは、間違いないけれどね。信用できる内容かと言われると、答えられない。だけどね、今のリリーは正直好きじゃない。どんな理由であれ、元に戻るのならどうもいいと思ったんだよ。だから君も協力してほしい。純粋で剣にひたむきで、少しお転婆すぎるところもあるけれど、そんなリリーを君も気に入っていただろう?」

ダニエルは黙り込むと、棚に置いてある剣を手に取った。

「何をさせたいんだ?」

「そうこなくっちゃ。まずは騎士団長へ会いに行ってほしい。王座の間の監視を解いてほしいんだ」

「正気なのか?」

ダニエルは剣を腰に差すと、眉を寄せ探る様にサイモンを見る。

「あぁ、少しの間でいい。理由は適当にまかせるよ。じゃよろしくね」

サイモンはそれだけ話すと、そそくさと部屋を出ていったのだった。
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