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14.孤独な彼女(杏奈視点)

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頭が真っ白になり何も考えられない。
私は彼の何だったのだろうか……。
悄然としたまま家に着くと、両親の手には消費者金融の催促状。
居間に呼ばれ正座させられどういうことかと問いただされる。
何も答えず俯いていると、夫婦喧嘩が始まった。

「お前がしっかり教育出来ていないから、こんなバカな子供に育ったんだ。こんなところで金を借りるなんて正気じゃない。しかも額を見てみろ、どうするつもりなんだ!」

「なによ、休日になればゴルフ接待、いつも家にいないあなたに言うしかくはないでしょう。こっちはあなたの少ない収入で生活出来ないから、パートで働いて家の事もやっていたのよ」

激しい言い争いが目の前で始まるが、なぜか現実味がない。
頭の中には先ほど女と歩いていた彼の姿が何度も過る。
彼にとって私はいい金蔓だったのだろうか。
そこに愛はなかったのかな……。

茫然と両親の言い争う姿を眺めていると、様々な想いが溢れ出す。
喧嘩はいつものことで、喧嘩の発端はいつも私だった。
馬鹿な男に騙されて、借金までして……親の期待に答えられない娘。
私は両親のお荷物で、自分の情けなさと馬鹿さ加減に泣きそうになってくる。

「もういい、俺は出て行く」

突然の父の言葉にハッと我に返る。
父はどこからか離婚届を取り出すと、机に叩きつけそのまま家を出て行った。
今までの喧嘩とは違う雰囲気に戸惑う中、残された母は離婚届を握りしめると、憎しみのこもった瞳で私を睨みつけた。

「もう18歳、十分育ててあげたでしょう。お荷物はいらないの、さっさと出て行って。もう帰って来なくていいわ」

母の言葉に目の前が真っ暗になる。
茫然とする私を家から引きずり出すと、そこからは覚えていない。
気が付けば私は大学の屋上にいた。

フェンス越しに真下を見つめると、もう全てがどうでもよくなった。
金網を掴み足を掛け上ると、突然後ろへ引っ張られた。
尻餅をつき倒れ込み顔を上げると、そこには里咲さんの姿。
その姿に涙が溢れだす。

惨めで弱い自分が恥ずかしくて、いなくなってしまいたくて、当たるように言葉を吐き出した。
私はあなたのような人間になりたかった。
だけどなれなくて、全てを失って、結局私はダメなやつなのだと。
さすがにこんな私を見れば、笑いかけてくれなくなるだろう。
そう思ったけれど、里咲さんは笑いかけてくれた。
そして彼女に抱きしめられて、気が付けば私は知らない場所にいた。

異世界へ転生、非現実的過ぎて受け入れられなかった。
戸惑ってオロオロするだけの私に、里咲さんは聖女という居場所を作ってくれた。
クリストファーと名乗る男についていくと、お姫様が暮らすような部屋に案内され、好きにしていいと、優しく笑いかけてくれた。

そこから私の異世界での生活が始まった。
聖女の存在とは何かと教えられ、この世界の知識やマナーを身に着ける毎日。
どんくさくて覚えも悪い私を怒ることなく、メイドや執事はとても親切に優しく接してくれる。
それが本当に申し訳なくて……だって私は本当の聖女ではないのに――――――。

次第に冷静になり、私は里咲さんに会って話をしたいとお願いをした。
お城に居ないのは知ってた。
気が付くのが遅いかもしれないけれど、どんな生活をしてるか不安で、里咲さんはちゃんと暮らしているのか知りたかった。
それに……あの聖堂に現れたときの言葉を確認しておきたかった。

クリストファー王子はすぐに場を設けてくれて、そこで元気そうな里咲さんの姿を見てほっとした。
彼女から話を聞くと、なんとこの世界の記憶を持っているとそういった。
王子と騎士であるリックと幼馴染だと……。
それならなおさら、里咲さんが聖女になるべきなんじゃないかって。
私が聖女になるのはダメなんじゃないとそう思った。

けれど里咲さんは聖女になりたくないのだとそう言った。
心配しなくても大丈夫だと言ってくれた。
私に遠慮しているのかどうか、それはわからない。
だけど里咲さんの笑顔を見ると、何も言えなかった。

里咲さんが用意してくれた場所。
必死に身に着けて、彼女の負担にならないように頑張った。
私のようなお荷物でも必要だと言ってくれる彼女に応えたかった。
聖女ではないけれど、皆に認めてもらえるような聖女にならなければと。
マナーが終わればダンスの授業、毎日が目まぐるしく過ぎていく。
彼女がどうなっているの気に掛ける余裕すらなくなっていったのだった。
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